多様化する顧客ニーズに応える”コンシェルジュ”UX戦略

▼登壇者

株式会社日立製作所|ブランド・コミュニケーション本部 デジタルコミュニケーション部 担当部長
米山 卓美さま

アドビ システムズ株式会社|執行役員 マルケト事業担当 マーケティング本部
小関 貴志さま

株式会社アマナデザイン|取締役
佐藤 勇太(ファシリテーター)

 

本レポートは、株式会社日立製作所 ブランド・コミュニケーション本部 デジタルコミュニケーション部 担当部長の米山卓美氏とアドビ システムズ株式会社 執行役員 マルケト事業担当 マーケティング本部の小関貴志氏によるセッションです。

「多様化する顧客ニーズに応える”コンシェルジュ”UX戦略」と題して、日立製作所が2019年に行ったコーポレートサイトのリニューアルを例に、ブランド価値を高め、事業にも貢献するコーポレートサイトとはいったいどのように作るべきか、その取り組みの一端を紹介していただきました。前半は米山氏によるレポート、後半は小関氏も交えた質疑応答形式でお届けします。

 

◆ ◆ ◆

 

サイトリニューアルの目的とゴール

 

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株式会社日立製作所|ブランド・コミュニケーション本部デジタルコミュニケーション部 担当部長

米山 卓美氏

 

日立製作所のイメージといえば、多くの方が家電を思い浮かべるのではないでしょうか。しかし、日立には家電以外にもさまざまな事業体があり、各事業に対してお客様からお問い合わせを数多くいただいております。この多様な顧客ニーズを、どのように振り分けて、適切な事業部門にご案内するか。問い合わせから案内までの導線をスムーズにすることが、今回のコーポレートサイトのリニューアルの大きな軸になりました。

そこでまずはサイトリニューアルの準備として、2017年度に調査会社に依頼して、現状のトップページに関する問題点を洗い出し、それをもとに、サイトリニューアルの目的とゴールを、Vision、Mission、Goalの3つに分けて定めました。

 

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Visionに掲げたのは「デジタルを活用した日立グループのコンシェルジュになる」こと。従来のサイトでは、お客様を適切にご案内できていなかったので、スムーズかつ的確なご案内ができることを目指しました。

Missionは、「事業貢献できるサイトにすること」です。ただ見た目ばかりが美しいサイトを作っても、お客様に使いづらいと思われてしまっては意味がありません。事業貢献してこそ、ブランド価値の向上につながるという視点こそが重要だと思います。この視点は、長らく、事業部門、営業部門で広報・IRや事業企画、マーケティングを担当してきた私の経験も大きく影響しています。

Goalに設定した3点は、日立に少しでも興味を持っていただいたお客様に、日立が伝えたい情報をしっかり届けられるようにすると同時に、日立の認知度を上げ、ブランド価値向上させることを盛り込みました。

 

サイトリニューアルのポイント

はじめに、コーポレートサイトを訪問するのはどのような人たちかを把握するために、弊社のファーストパーティデータを分析しました。その結果、企業情報よりも、製品・サービスを探す人のほうが多いと分かったため、「製品・サービス」をメインページに置く、「企業情報」を別ページに分ける、その他アクセスが多かった項目をグローバルナビゲーションに置くといった具合に、サイトの全体構造を固めていきました。

 

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ブランディングエリアでは、MarketoのWebパーソナライズツールを活用し、お客様の属性やデバイスによって、情報の出し分けを行っています。

 

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サイト内検索は、検索の性能をチューニング。同時に製品・サービス一覧も、ただ事業ドメインを並べるだけではなく、課題やキーワード別に分類することで、どのようなお客様を集めてどこに送客するかを意識して設計しました。

 

サイトリニューアルの成果

現時点での成果は以下のとおりです。検索する方も増えましたが、さらにその検索によって表示された結果をクリックして、サイト内を回遊する方も相当数増えました。

  リニューアル前 リニューアル後
直帰率の改善 40~50% 33.3%
表示速度の改善(平均秒数) 2秒 1.11秒
月間平均サーチ数の増加 13万回 16万回
検索ページのクリック数の増加 +7000

次のスライドは、日立のコーポレートサイトが、事業に貢献するといったことはどういうことか、という顧客コミュニケーションの全体像です。

 

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コーポレートサイトが果たす役割は、「日立に興味をもって集まった新規顧客を、事業部門へ送る」ことです。そのためには、トリプルメディアを活用して、あらゆる方向からお客様を呼び込まなくてはいけません。集客した顧客情報はMarketoに集約して事業部門に活用してもらい、そのフィードバックを得ることでコーポレートサイトの改善にも反映できます。さらにSFA(営業支援システム)と連携することでオフラインの情報も集約。コーポレートサイトをリニューアルしたことで、この流れがうまく回るようになりました。

 

リニューアルに関する社内の反応

佐藤:ここからは、Marketoの小関さんにもご参加いただき、今回のリニューアルについてさらに詳しいお話を伺っていきます。まずは米山さん、今回の取り組みについて、社内の反応はいかがでしたか?

米山:きれいになりましたねと言われましたが、今回のリニューアルで一番のポイントとなるWebパーソナライゼーションの機能は、自社の人間では気づきにくかったみたいで。取引先のお客様に反応いただいて、それが営業を通じて社内にも伝わりました。そして、その反応が各部門にも伝わり、「うちの部門もWebサイトを見直すべきではないか」と意識が伝播しています。

 

MAツール導入時の苦労

 

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アドビ システムズ株式会社|執行役員 マルケト事業担当 マーケティング本部

小関 貴志 氏

 

佐藤:小関さんに伺います。御社から見て、MAツールを導入する際に、組織やブランドの人たちが一番苦労するポイントは何でしょうか?

小関:MAツールの導入はさまざまな部門にまたがる話ですので、導入に際しての根回し、説得に苦労されているようです。しかし、日立さんの場合は2018年7月にお話をいただいて、2カ月後の9月には導入させていただきましたので、予算獲得も含めた導入のスピード感には相当驚かされましたね。米山さんのパーソナリティと、長らく事業部側に在籍した後に本社へ来たという経歴、それによって得られたお客様目線による説得が、社内の理解を勝ち得たのだろうと思っています。

米山:ツールの導入に際しては、事業部側の人たちがいいねと思ってくれる提案をしなくてはなりませんでした。ですので、あたかもラブレターを書くかのように、「あなたの仕事に貢献したい。あなたにも大きなメリットがある話ですよ」と熱意を持って伝えたのです。そうすることで、聞く方もきちんと耳を傾けてくれますし、どこへ話しに行くときも、この姿勢が基本だと思っています。

 

PDCAを推進するために意識すること

 

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株式会社アマナデザイン|取締役

佐藤 勇太

 

佐藤:コーポレートサイトと、その裏にあるMA、SFAを含めたPDCAサイクルをスムーズに回すために、どういった点に留意していますか?

米山:スピード感でしょうか。2019年6月のリニューアル以来、月次で行っていたログ収集とコンテンツの更新を週次に変更しました。間隔を狭めることでより多くのデータが収集できますし、Marketoを導入したことで従来よりも細かな情報が取れるようになりました。将来的には、この作業を日次で回したいと考えています。

佐藤:とくに着目している指標はありますか?

米山:CTRですね。反応していただかないと意味がありませんから。

 

PDCAを構築する際に陥りがちな罠

佐藤:小関さんは、多くの企業でPDCAの構築に携わっておられますが、陥りがちな罠というのは何かありますか?

小関:最初から完璧を求めないことです。最初に私どもは、BtoBのお客様とBtoCのお客様の、2種類の出し分けからスタートしましょうとご提案しています。それができたら、今度はBtoBのお客様を、製造業のお客様、ITのお客様と分けていくように、徐々にステップを踏んで進めることが大事だと思います。また、コンテンツの制作も自社だけで完結せずに、NewsCredのようなサービスや、社外のパートナーを活用しながら、質の高いコンテンツを作っていく。とにかく最初から全部を自社でやろうとしない姿勢が大事だと思います。

佐藤:コーポレートサイトのリニューアル施策では、組織の横断が大きなキーワードになると思います。その点において今回、もっとも気をつけたポイントを教えてください。

 

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米山:事業部門側にメリットがあるとわかりやすく提示したこと、本社側と事業部側にある距離感を狭めるために努力をしたこと、そしてお互いの役割をしっかり分けて、分業させる仕組みを作ったことです。たとえば、Marketoの運営は営業部のデジタルマーケティング担当に任せて、私たちは集客した顧客データをつなぐ役割に徹する。お互いの業務内容をきちんと理解したうえで連携しています。

佐藤:まだ始まったばかりの取り組みとのことですが、最後に、今後の展望などありましたら、お聞かせください。

米山:先ほど、ログ収集とコンテンツの更新間隔を日次にしていくと言いましたが、これはコンテンツマーケティングの実践にも繋がることです。BtoBの領域でも、コンテンツマーケティングによって事業貢献したいと考えています。それらは2019年度中には行いたいと思っています。

佐藤:御社のスピード感だったらきっとできると思います。ありがとうございました。

 

●Text :内藤 貴志
●Photos : 劉 怡嘉

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