「SDGs」「プラスチック削減」「脱炭素社会への移行」…。
これらのワードをよく耳にする昨今において、多くの企業は、自社の事業を通した環境問題への対策を迫られています。しかし、逆を言えば、環境・エネルギー商材・サービスを取り扱う事業者にとって、大きなチャンスが到来しているとも捉えられるでしょう。
企業が大きな事業転換を求められていますが、“何を・どのようにして”解決していくべきか、将来のビジョンを描くことができていません。そこで、その大きな画を一緒に描いてくれて、アクションにまで落とし込んでくれるパートナー企業を探しているからです。
自社がパートナーとしてふさわしいことを理解してもらうためには、自社の思いやアピールポイントをさまざまなコンテンツによって発信していくことが、有効な手段となります。
今回のセミナーでは、「コンテンツで効率的に新規顧客を獲得する方法」をテーマに、前半は「環境ビジネス」編集長の白田範史さんが環境商材を取り巻く現状を、後半では株式会社アマナデザイン取締役の釜田によるデータ分析で成果をもたらす活用法を解説しました。
この記事では、本セッションのポイントをまとめたレポートをお送りします。
はじめに登壇いただいたのは、「環境ビジネス」編集長の白田範史さんです。「環境ビジネス」とは、新しい環境ビジネスを作るためのヒントを発信しているメディアで、Web・雑誌を展開しています。
白田さんは、環境商材を取り扱う事業者はチャンスの局面にいると言います。
「コスト削減だけでは達成できないようなSDGsの目標が設定されたいま、環境商材事業者には大きなビジネスチャンスがあります。ただ、必要なことは『発信』です。
みなさんのクライアント企業の事業を包括的に考えてビジネスチャンスに変換できることを、アピールするための発信が大事なのです」。
そこで、参加者に「どのくらいSDGsのことを知っていますか」と質問した白田さん。説明ができると手を挙げた参加者は、35名中10名ほどでした。
「今、みなさんのクライアント企業の経営者が考えていることは、どのような手段でSDGsへの取り組みを事業化できるか、さらに、どうすればSDGsを広報的に使うことができるかということです。環境商材事業者として、これまでは『省エネ』や『コスト削減』などの直線的な提案をすれば受注できたものが、これからはSDGsの状況を踏まえ、ビジネス的&広報的に考えてくれるパートナーにならなければならないのです」。
つまり、環境商材事業者の商材が直線的にどのようなメリットをもたらすかだけでなく、SDGsなどのトレンドと合わせ、クライアント企業にとってビジネスチャンスになり得るということを伝えていかなければならないということです。
「SDGsの新規目標は水準が高くなり、日本の民間セクターも力を入れていかなければ達成できない数字になりました。民間企業はイノベーションを起こして価値創出をしなければ、という焦りを持っているのが現状ではないでしょうか」。
いま発信していくべきことは、商材単体ではなく、企業と一緒に考えていくというスタンスだと、白田さんは繰り返し述べていました。
コンテンツマーケティングプラットフォーム「NewsCred」で、数多くのデータ・ドリブンのコンテンツマーケティングを実践してきたアマナデザイン。後半のセッションでは、株式会社アマナデザイン取締役の釜田から環境商材の事業者がNewsCredを導入した事例の紹介とデータの活用法を解説しました。
「近年、顧客が購入に至るまでのコンテンツの質が変わってきた」と口火を切ります。
「購入に至るまでに、B2Bユーザーは11.4個のコンテンツに触れると言われています。以前まではマス媒体が多く、プッシュ型でブランド中心の広告やキャンペーンが王道なスタイルでした。しかしこれからは、コンテンツ中心・プル型・企業よりも顧客中心・always on(常時発信型)が主流になっていくでしょう。
コンテンツを置く場所、発信する場所も変化しています。これまではトラディショナルなメディアが信頼を得ていましたが、最近では口コミの次に『ブランドのWebサイト』が信頼を獲得しているのです」。
そして、ブランドのWebサイトは現在、データ・ドリブンなコンテンツマーケティングの実践によって成果をあげることができると言います。
「現在、NewsCredを導入いただいている大手企業では、データを活用したコンテンツマーケティングを進めています。そこで私たちが重要視している運用のポイントは3つ。1つは、オーディエンス中心であること。2つめが、魅力的なコンテンツであること。最後に、計測可能な設計にするということです」。
コンテンツ戦略に有効なコンテンツは、オーディエンスとの有益なつながりをもたらします。しかし、企業が本能的に作ってしまうコンテンツと、オーディエンスが求めているコンテンツには乖離があり、前者のコンテンツだけでは、有益なつながりを作ることができません。本来は、2つの円が重なっている部分こそ、有益なつながりコンテンツになるのです。
2つの円の重なった部分を見つけるためにはまず、オーディエンスが誰なのかというペルソナを立てる必要があります。
この表は、宇宙系の素材メーカーのペルソナを表したものです。一時期までは現場の技術者向けにコンテンツを発信していましたが、意思決定のレイヤーが上部に変わっていったことで、責任者レベルが欲しい情報を届ける必要が出てきました。届ける相手が変われば、当然、発信するコンテンツも変えていかなくてはなりません。
また、キーワードにブレイクダウンすることも効果的です。ブランドが発信したいキーワードと、オーディエンスが欲しいキーワードマッピングすることで、発信すべき内容が見えてきます。
そして最後に、コンテンツヒエラルキーを作ります。コンセプト、記事テーマ、主要キーワードを整理し、それぞれのコンテンツをどのように制作するかのプランニングをします。
コンテンツ制作には、「3つのC」と言われるパターンがあります。
ブランドの視点で1から内製する「Creation」、外部専門家がブランドの目線も交えて作るタイアップ記事などの「Collaboration」、外部出版社などからキュレーションされたライセンスドコンテンツの「Curation」です。マーケティングのファネルに配置すると、「Creation」はファン層、「Collaboration」は見込顧客、検討層、「Curation」は潜在顧客に届けたいコンテンツということになります。
「2019年のトレンドは、『ビジュアルコミュニケーション』と『ストーリー』です。右脳を刺激するビジュアルは、人々からポジティブに受け止められる傾向にあり、良質なビジュアルを含む記事はオーディエンスからの反応も増えます。
つまり、どんな事業体でも“Visual story telling”が、必要とされているということです。ドイツのe・onは、BtoBのエネルギー会社にも関わらず、非常にcuttingedgeなビジュアルを発信しています」。
ビジュアルでコンテンツの良し悪しが判断されると言っても過言では無い時代。トレンドに合わせ、読者が魅力を感じるコンテンツを作っていく必要性を感じます。
3つ目の要素に挙がったのは計測可能な設計ですが、コンテンツを作って発信するだけではなぜ足りないのでしょうか。
「『このコンテンツが有効だろう』という想像の範囲内での仮説は、たいてい失策します。だからこそ、仮説を計測できるフレームワークとコンテンツマッピングに落とし込み、トラフィックなのか、エンゲージメントなのか、どこに貢献しているのかを明確にすべきです。
コンテンツマーケティングをデータ・ドリブンで進めていくと、仮説を検証しながら、よりクオリティの高いコンテンツを作り上げていくことができます。
たとえば、Panasonic USAのオウンドメディア。同メディアは分析を重ねることで、洗練されてきています。各コンテンツのコンバージョン数を計測し、それらのデータを蓄積してコンテンツの傾向を調査しているので、かなりの確度で予測することができるのです」。
コンテンツの作り方に加え、いかにデータを活用し、クオリティを向上させる設計を構築するか。それが成果に結び付く重要な3つの要素と言えるでしょう。
最後に、よくある質問について話を深めていきました。
Q: BtoBは、Webマーケティングより展示会が有効ではないでしょうか?
たしかに、そう思われる方も多いかもしれません。弊社も2年ほどイベントを開催していますが、イベントの成果はデータ・ドリブンにしづらく、可視化できていません。Marketoが公表している平均値でみると、費用対効果が高いのは、口コミやパートナーが10.9%、次にオウンドメディアが3.8%。イベントは1.48%です。
クライアント企業のなかでも、リアルな体験とデジタルやマイクロコンテンツでコミュニケーション頻度を高めている事例もあるので、組みあわせが効果的と言えるかもしれません。
Q: Webは即時性があると思われがちですが、結果はすぐに現れるのでしょうか?
釜田: BtoBのオウンドメディアの場合、半年ほど経ってからやっと費用対効果という意味での結果が見えてきます。ここまでの半年は、仮説を立ててデータや結果を積み上げていくこと。そうすれば、ユーザーの流入経路からどのようなアクションを起こしているのかを理解したり、有効なコンテンツが可視化できたりしますので、自ずと費用対効果が上がっていきます。
1つのコンテンツでコンバージョンを獲得することは難しいため、複数のコンテンツで中長期的にアクションを促すことに注力した方がいいでしょう。
Q: :とはいえ、結果がなかなか出なくて心が折れないようにするには?
釜田: 仮説を立てて、計測できるようにすることだと思います。
多くの場合、サイトを作り上げた後に、気が抜けてしまいます。しっかり計測可能な状態にして、内省し、PDCAを回すことが、モチベーションを維持するためにも大切です。また、担当者が1人で運用するのではなく、チームで運用する体制をつくることも心が折れないようにするポイントです。
「5年前の広告からはコンバージョンしませんが、5年前のコンテンツからは問い合わせがくる。そういうコンテンツは、エバーグリーンコンテンツと呼ばれます。これこそがまさに、持続可能なマーケティングと言えるのではないでしょうか」。
釜田の最後の締めくくりからも、データ・ドリブンなマーケティングは、これから10年20年と続いていく企業にとって、持続可能な施策と言えそうです。
●Text : 森野 日菜子
●Photos : 劉 怡嘉