世界と日本の潮流から見る、企業のパーパスやサステナビリティを描く「広告」の可能性

vol.86

世界と日本の潮流から見る、企業のパーパスやサステイナビリティを描く「広告」の可能性

Text by Mitsuhiro Wakayama
Photo by Yushi Kaku

企業のあらゆるコミュニケーション課題に向き合い、その解決方法を探る、アマナ主催のイベント「amana LIVE 2022 Autumn」が2022年10月27日に開催されました。7つのテーマを切り口に、先進企業の方々をゲストに迎え、マーケットの今と未来をとらえたセミナーを実施。今回は、テーマ「世界と日本の潮流から見る、企業のパーパスやサステナビリティを描く『広告』の可能性」の回を紹介します。


パラダイムシフトが進むなか、より多くの製品を売ること以上に、社会に変化や行動をもたらす意義あるメッセージの発信が広告にも求められています。世界的なトレンドを見ても、企業のパーパスや持続可能性の訴求が存在感を増している今、CC INC.代表の戸田宏一郎さん、スタイラス ジャパンのカントリーマネージャー秋元陸さんを迎え、プランナーとして数々のブランディングを手がけてきたアマナの村上英司とともに、これからの日本の広告コミュニケーションのあるべき姿やその発信方法について語り合いました。
※本イベントはアマナの『deepLIVE™️』スタジオから配信を行いました。

村上英司(アマナ/以下、村上):モノが売れない時代と言われて久しい昨今、企業が自らのパーパスを明らかにし、消費者とその価値を共有していくことが重要になってきています。企業やブランドの価値を発信、共有するツールとしての「広告」の可能性について、今日はお二人とともに考えていきたいと思います。まず最初に世界と日本のマーケットの潮流について秋元さんからお話を伺い、続いてこれからの広告のあり方について戸田さんに伺っていきたいと思います。

20221027report_1_1.jpg(左から)アマナの村上英司、CC INC.の戸田宏一郎さん、スタイラス ジャパンの秋元陸さん。

これから起こるマーケットの変化

秋元陸(スタイラス ジャパン/以下、秋元):最初にご紹介する世界の潮流は「インフレ」です。冒頭からネガティブな話かと思われるかもしれませんが、広告の世界では必ずしもネガティブではないと思っています。昨今、11の先進国で行われた調査によると、全家庭の4分の1くらいが何らかのかたちでインフレの影響を受けていると言われています。日本では旅行促進キャンペーンの影響で消費に関心が向いてはいますが、食費やガソリン代などの生活費がじりじりと上がってきている実感があると思います。ロシア・ウクライナ戦争の影響を受けているヨーロッパなどでは、インフレの影響は特に顕著です。例えばイギリスでは前月比1.8倍という驚異的なインフレが起きていますし、ヨーロッパ全体の半数の家庭が光熱費・交通費・食費の値上がりを覚悟しているという調査結果も出ています。

20221027report_1_2.jpg秋元陸さん。

このような情勢の変化を踏まえて、主に to C 領域では次の3つの変化が起きるだろうと言われています。1つ目は「ブランドスイッチ」です。2021年から2022年にかけて、Googleで「Special this week(特売)」といったワードの検索数が増えています。つまり「安いけど良いもの」を探すという傾向が消費行動に見られるわけです。これにともない、欧米や東南アジアを中心にブランドスイッチが起こるのではないかと言われています。最近はプライベートブランドの売り上げが上がっています。「この企業がこんなものを作っていたんだ」という驚くような商品が検索によって消費者の選択肢にのぼるようになってきたんですね。安かろう悪かろうという価値観はどこの国にもあるのですが、メジャーブランドが出している商品であれば安いことにも一定の説得力があるわけです。大手ならではのコストの下げ方があるんだろうと納得ができる。ゆえにプライベートブランドへの移行が起こっているというわけです。

2つ目は「購買決定要因の変化」です。41%の人々が購買決定要因に “コストパフォーマンス”を持ち込むと言われています。これはつまり、レガシーサービス(昔から愛用しているサービスや商品)があるんだけど、いったんそれを見直す人が増えてくるということを意味しています。そして3つ目は「サブスクサービスの解約」です。アメリカの家庭で3軒に2軒が契約中のサブスクサービスの見直しを検討しているというデータがあります。これは動画配信サービスに限らず、定期購読メディアやウォーターサーバーなんかも該当します。たかが月々1000円、2000円と考える人もいるでしょうけど、意外とこれがチリツモでばかにならかったりする。そこで消費者は「解約しよう」と考えるわけです。しかし、ブランド側としてはいったん離れた顧客を取り戻すのは難しい。「案外なくても生活できるものだな」とユーザーに思われてしまう確率は決して低くないからです。

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選び続けてもらう理由

秋元:さて、ここからが本日の本題、広告の話です。インフレでいま話したような変化があるからといって、消費者がモノを買わなくなるという単純な話ではありません。大事なのは、この状況下でブランドコミュニケーション、あるいはブランドのストラテジーやパーパスを見直していくことです。コスパだけで測れない価値というのは必ずあるわけですが、その価値がちゃんと消費者に認知されなければ切り捨てられてしまいます。「選び続けてもらう理由」を持ってもらうことが、これからさらに重要になってくるわけです。他の企業やブランドとの差別化を図るならば、この点を意識するのが良いと思います。日本でも年明けくらいからインフレの影響が顕著に現れてくると思われますので、企業やブランドは何かしらの対策を講じた方がいいかもしれませんね。

村上:今後、ブランドがどのような価値を作っていくべきなのか。これからの広告の可能性について、第一線で活躍される戸田さんからお話を伺いたいと思います。

20221027report_1_5.jpgCC INC.の戸田宏一郎さん。

戸田宏一郎:(CC INC./以下、戸田):モノが売れない時代になったからこそ「選ばれたい」「購買を増やしたい」という欲求が強くなるのはわかります。しかし、だからといって値段や流通量の話ばかりに傾くのは非常に危ういと僕は思いますね。広告はモノをたくさん売って届ける手段だと思われがちですが、必ずしもそうではありません。本来、広告は「メッセージを強く投げかける方法」であるはずなんです。言い換えれば「ブランドをどう好きになってもらうか」という課題に広告はもっと取り組んでいけるし、ブランドが上手に広告を活用することでその可能性は飛躍的に開かれていくと思っています。では「広告がメッセージを伝える」とは、どういうことなのか。私たちが取り組んだ事例をもとにお話ししていきます。

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戸田:まず最初にご紹介するのは、本田技研工業さんと一緒に手がけた「HondaJet」の広告です。私たちクリエイティブチームとホンダエアクラフトカンパニーの藤野道格社長のディスカッションから生まれたものです。オリエンテーションの段階から、モノを売りたいという話題は皆無でした。それよりも主題になったのは「社会インフラのあり方」です。昨今の人口減によって、鉄道を使って一気に右から左へ人やモノを大量輸送する時代が終わりを迎えようとしています。あまねく全ての人を対象にした巨大なインフラは、もはや非効率ともいえる。そんな時代の移動や輸送においては、必要な人に、必要に応じた手段を届けることが重要になる。であればこそ、よりプライベートな移動手段、ジェット機をカジュアルに使う時代もありえるのではないかと。この一連のビジュアルは、そうしたホンダの「思想」を伝えようとしたトライアルでした。いわば新しい社会像、新しい移動手段の提案だったわけです。

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次にご紹介するのはタクシーアプリ『GO』のブランディングです。テレビCMの効果でかなり周知されるようになってきましたが、重要なのは「その前」の段階です。メディアを細分化し、ターゲティングして情報を伝えていくという作業の前に、メディアのあり方をどう捉えるかが重要になってきます。言い換えれば、メディア自体が「プロダクト」になる可能性、プロダクトが「メディア」として機能する可能性はもっと考慮されて良いはずなんです。

ブランドが伝えたいことを、モノの中にちゃんと埋め込んでいく。商品の中に理念が体現されていることは価値に繋がります。UX的な観点から言えば、体験する価値をデザインできているということになる。このブランディングは、リアルベースでそのトライアルをした、私自身とても面白いチャレンジだったと思っています。一方、CMを打つタイミングには気を使いました。商品の顔つきも出来上がっていない段階で広告するのは時期尚早だなと。結果として、商品のあり方をきちんと整えてから広告を打ったことで、その効果はかなり大きくなったと思いますね。要するに、広告を打つ前に、まず商品やサービスを最大限ブラッシュアップしておくことが大切だということです。ここは差別化のポイント、チャンスだと思います

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何を売るかではなく、どんな価値を発信できるか

秋元:生活者視点で言うと、商品の質や価格だけでなく「それを使っている自分が周りからどう見られるのか」を購買決定要因にする傾向が見られます。特に若い世代にこの傾向は顕著です。つまり、個人のセルフブランディングにおいて何を買うかは非常に重要だし、彼らにとっては「ブランドのイメージ」こそ購買の動機になるということなんですね。裏を返せばブランドのことを消費者に知ってもらわないと、そもそも選ばれないとも言えるわけです。

戸田:広告の本来の機能って、自分自身を好きになってもらったり、自分はこんなことが好きなんだと知ってもらうことだと思うんですよね。秋元さんのお話にもあったように、消費者のセルフブランディングにおいては商品やサービスの性質が非常に重要な意味を持ちます。ですから、自分はこういう人間です、こういうものが好きなんですと発信して仲間をつくる作業がそれ1つで完遂できるような商品であることが望ましいと言えます。

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戸田:ここでご紹介するのは、ウエルシア(ウエルシア薬局、以下ウエルシア) さんと手がけているプライベートブランド(PB)のブランディングです。昨今はドラッグストアのPB激戦の時代です。しかし一昔前の安かろう悪かろうではなく、ちゃんと作られたものを、届けるべき人に届ける必要があるとウエルシアは考えたわけです。そこで僕たちとしては「お店に行くべき理由をつくるために、PBには”顔”をつくるべきだ」と提案しました。PBのパッケージにはウエルシアの意思が書かれています。ベネフィットではなく、意思であることが重要です。「この商品はこういう意思を持って作られているんだな」と伝わることを第一に考える。一つ一つの商品にウエルシアのパーパスを練り込みながら、他ならぬウエルシアの商品だからこそ言えることを伝えています。さらに今後こういった商品を200、300、400と増やしていく。小さな取り組みですが、やがてこの顔つきを見て「あ、ウエルシアがいるな」と思ってもらえる、他社の商品と差別化できるまで続けていこうと思っています。先ほどもお話しした、メディアのプロダクト化/プロダクトのメディア化をリアルベースでトライした事例ですね。もちろん、時期が来たら大々的に広告を打つという展開もありえます。

20221027report_1_12.jpg会場となった『deepLIVE™️』配信スタジオにて。

村上:とても興味深い事例でした。ブランドをどう好きになってもらうか、ブランドの意思をいかに顧客に示していくか。そういった部分は今後ますます重要になってきますね。

戸田:広告は価値あるメッセージを発信する良いツールなので、これをぜひ上手に活用していただきたいと思いますね。もちろん周知を重視した昔ながらの大きな広告もチャレンジのしがいはありますが、ストラテジーを練り込んだ広告を打つことにもより新しい価値があります。両方の広告の可能性をみなさんとトライアルしていきたいですね。

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deepLIVEは、リアルタイムCGと最新鋭のバーチャル・プロダクションシステムを備えた自社スタジオの活⽤により、 企業やブランド固有のニーズに即した企画立案〜リアルとバーチャルの垣根を超え共感を生む深い(ディープな)体験構築が可能、新たな体験創出でデジタルコミュニケーションにおける様々な企業課題の解決をサポートします。

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