vol.87
Z世代が考える、多様性の時代のビジュアルコミュニケーション
企業のあらゆるコミュニケーション課題に向き合い、その解決方法を探る、アマナ主催のイベント「amana LIVE 2022 Autumn」が2022年10月27日に開催されました。7つのテーマを切り口に、先進企業の方々をゲストに迎え、マーケットの今と未来をとらえたセミナーを実施。今回は、テーマ「Z世代が考える、多様性の時代のビジュアルコミュニケーション」の回を紹介します。
世界人口の約3割を占めるZ世代は、デジタルネイティブ、ソーシャルネイティブともいわれ、情報感度が高く、何かを選択する際に、共感できるかどうかを重視する傾向があるといいます。今後、消費と労働力の中心を担い経済の主役となっていく世代に、企業はどのようなコミュニケーションをはかればよいのでしょうか。MELTedMEADOWの柳瀬正義さん、吉野真央さんを迎え、当事者世代であるクリエイターが、Z世代の考えるZ世代に響くこれからのビジュアルコミュニケーションについて語り合います。アマナからはアソシエイトプランナーの日色菜々子がファシリテーターを務め、グラフィック・ムービー共に経験をつむ、アシスタントフォトグラファーの松本頼が登壇しました。
※本イベントはアマナの『deepLIVE™️』スタジオから配信を行いました。
日色菜々子(アマナ/以下、日色):「Z世代」というワードが社会に浸透して久しい昨今、この世代をターゲットにした商品やサービス、イベントは日毎に増えている状況があります。では、そんななかで当のZ世代は何を考え、どう行動しているのでしょうか? このセッションではリアルなZ世代の声を通して、世代の内面をひもといていきます。
日色:そもそもZ世代とは、1990年台後半から2010年までに生まれた10代、20代前半の若者を指します。世界では人口の32%を占めており、今後経済を回していく中心世代として注目を集めています。似た言葉でミレニアル世代があります。こちらは1988年から1996年までに生まれた世代を指します。インターネット黎明期に生まれ、デジタルテクノロジーの発展とともに成長した世代だと言えます。一方、Z世代は生まれた時から身近にデジタルがある、いわゆるデジタルネイティブとして成長しているという特徴があります。
(左から)アマナの日色菜々子、松本頼、MELTedMEADOW柳瀬正義さん、吉野真央さん。
日色:Z世代には他にもいくつかの特徴があると言われています。例えば「アナログ/レトロへの興味」「社会問題/環境問題への関心が高い」「自分の”好き”に忠実」「多様性/ダイバーシティへの意識が高い」「パーソナライズされたモノを好む」といったものが挙げられます。
日色:本日の登壇者は私も含め全員25歳前後で、おおむねZ世代にあたります。みなさんは一般的に言われているこれらの特徴について、どう思いますか? 私自身は「アナログ/レトロへの興味」が自分によく当てはまっていると思います。スマートフォンに接している時間がかなり長いので、普段から情報のシャワーを浴びているわけじゃないですか。そういう環境にいるとアナログのよさを実感することがたくさんあります。例えばレコードやフィルムがそうで、音楽を聴くとか、写真を撮るという行為を丁寧に行うことで、見えている景色にある種の実感を持って接することができます。そういうところによさを感じるのですが、みなさんはいかがですか?
松本頼(アマナ/以下、松本):Z世代から見ると、アナログなツールって新しいツールと同じくらい新鮮に見えると思うんですよね。カメラマンとしてよく思うのですが、自分たちの世代がフィルムを見るのと、上の世代がフィルムを見るのとでは、印象がまるで違うんだろうなと。フィルムからデジタルという変化を経てそれでもフィルムを使う人たちと、最初からデジタルに接していてあえてフィルムに向かう人たちでは、動機や感覚も当然変わってくると思います。しかし、だからこそ、Z世代がフィルムを使うことで新しいものが生まれたりする可能性は決して低くないと思いますね。
(左から)松本頼、柳瀬正義さん。
日色:たしかに。デジタルネイティブだからアナログに惹かれるという側面はありますよね。
柳瀬正義(MELTedMEADOW /以下、柳瀬):僕は絵を描くんですけど、紙に水彩や油彩で絵を描くのってすごく気持ちいいんですよ。脳内に快楽物質が溢れるというか。でも、デジタルツールで絵を描いていてもその感覚はないんですよ。脳全体というよりは、一部しか使えてないんじゃないかという不能感の方が強くて。テクノロジーの進化で、デジタルドローイングと手書きの差をなくすことも可能にはなっているんですが、それは見た目上の差がなくなるだけで、描いている当の本人としては全く別の体験なんですよね。
会場となった『deepLIVE™️』配信スタジオにて。(左から)松本頼、柳瀬正義さん、吉野真央さん。
日色:私も企画を練るときは必ず紙にペンで書きます。自分がやっていることの実感は、デジタルよりアナログのほうがより強いですよね。
柳瀬:そうですね。創作のワクワク感はアナログの方が強い。
日色:デジタルの方が便利で効率的な側面もあるわけですが、こういうアナログのよさも取り入れつつ「いいとこ取り」でやっていくのがZ世代の特徴なのかもしれませんね。他に気になるトピックはありましたか?
松本:Z世代にしかない特徴というのはあまりない気がしています。ミレニアル世代にもここに挙げた特徴を備えた人は一定数いるでしょうし。一方で、先行世代とZ世代の違いって何なのかと考えると、それは「感度」だと思うんですよね。ミレニアル世代はアナログからデジタルに移行していくという経験をたくさんしてきたと思うんですが、Z世代はほとんどそういった経験をしていません。生まれて初めて持つ携帯電話がスマホだったり、タブレットで本を読むのが普通だったり。感度の高い低いというよりは、感覚を培う土壌が全く違うので、当然デジタル/アナログに対する感度も先行世代とは違ってくると思います。
あと個人的に気になったのは「多様性/ダイバーシティへの意識が高い」という項目です。SNSを見ると顕著ですよね。Facebook、Twitter、Instagram、TikTokとある中で、Z世代が後の2つを重視するのは「共感」を表現するのに適したメディアだからだと思います。共感をハブにしたコミュニティの広がりというのもZ世代の特徴かなと。
日色:ここからは少し話題を変えて、Z世代に響くビジュアルとはどのようなものなのか、おふたりが挙げる事例をもとにお話していきたいと思います。では、最近響いたビジュアルについて、まずは松本さん、いかがですか?
会場となった『deepLIVE™️』配信スタジオにて。日色菜々子。
松本:まず真っ先に思い浮かんだのはナイキさんの広告ですね。決して新しい事例ではないのですが。人種差別や人権問題、環境問題などに真正面から取り組む姿勢が素晴らしいなと思ってここで取り上げました。もちろん、こうした広告は反感も買いますし、炎上は覚悟しなければならない。しかし、Z世代をはじめとした若い世代は、自らの価値観や考え方を真摯に発信している企業やブランドに強く共感します。ただ商品を見ているのではなく、例えば「多様性を重んじている」と意思表明する企業かどうかをZ世代は見ています。企業のバックグラウンドを見て、自分が思う社会正義に適っているかどうかを購買の要因にしている傾向はあると思いますね。
松本:仮に不買運動が起きたとしても、ナイキを必要とする人々や理念に共感してくれるユーザーに商品が届けばいいという潔さがありますよね。
日色:みんなに愛されたい、ではなく、まずは自社の存在意義を明確にして表明していくことが重要ですよね。そこに人が集まってくる。
柳瀬:勇気がありますよね。自分のブランドのことだけじゃなくて、全体のことを考えている。そういうブランドは、やっぱり好きになっちゃいますよね。ブランドもアイドル的なものだと思っていて、ちゃんと「推し」になれるって大事だと思うんです。
日色:柳瀬さんの「最近響いたビジュアル」は何ですか?
柳瀬:これです。みうらじゅんさん。彼が小学生の時から作り溜めているスクラップブックの上に立っている写真です。僕はこれに本当に感銘を受けたんです。というのも、いまって本当に情報が溢れていて、一つのことに集中できないと思うんですよ。対して、みうらさんは1トピックを突き詰めて分厚いスクラップブックを作ってしまう。いまの僕たちが見習うべき姿勢がここにあると思ったんです。一つの物事に対する深く偏った愛というものが、散漫な現代にこそ必要なんじゃないかと。
日色:私たちは日々スマホをスワイプし続け、延々と情報を処理し続けていますよね。一つ一つに情報に接する時間は短くなっていますし、情報にコミットする深度がどんどん浅くなっているような気がします。そんななかで、いま「刺さるビジュアル」ってどんなものだと思いますか?
柳瀬:最近はグラフィックデザインもアートも、単純で平明なビジュアルが受け入れられている印象があります。
日色:一瞬で見て判断できるような。それは音楽も同じですね。キャッチーなサビがまず最初にくるような曲の構成とか。しかし、そういうものが巷に溢れていて一定の人気を得ている一方で、少なからずそれに不満を持っている人たちもいますよね。
松本:昨今のビジュアルは情報伝達が効率化された結果だと思います。裏を返せば、形式が変化しただけで、刺さるビジュアルの本質は変わっていないのかもしれません。クリエイターやアーティストが強度のあるビジュアルの訴求力はこれからも変わらず必要とされると思いますね。そこで差になってくるのは、やはりブランディングを長期的に考えるか、短期的に考えるかという企業の姿勢だと思います。
日色:そうですね。1枚のビジュアルのクオリティにもこだわりつつ、そこに違和感というか、何かを考えさせるフックを仕込んでおくのが大事なのかなと。それと先ほどの松本さんの話にもあったように、企業やブランドのストーリーや理念が伝わるビジュアルになると、特に若い世代には共感できるものになるのかもしれません。ビジュアルコミュニケーションのいちばんの要点は、やはり「企業やブランドがどのようなメッセージ・信念を持つか」だと思います。何を問い、何を解決しようとしているのか、そういった社会性にZ世代は惹かれるのではないかと思います。
deepLIVE
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deepLIVEは、リアルタイムCGと最新鋭のバーチャル・プロダクションシステムを備えた自社スタジオの活⽤により、 企業やブランド固有のニーズに即した企画立案〜リアルとバーチャルの垣根を超え共感を生む深い(ディープな)体験構築が可能、新たな体験創出でデジタルコミュニケーションにおける様々な企業課題の解決をサポートします。