人々の共感が「東川らしさ」を創造し続ける
「写真の町」東川町のまちづくり・ひとづくりにおけるブランドコミュニケーション

vol.91

人々の共感が「東川らしさ」を創造し続ける「写真の町」東川町のまちづくり・ひとづくりにおけるブランドコミュニケーション

Text by Mitsuhiro Wakayama
Photo by Yushi Kaku

企業のあらゆるコミュニケーション課題に向き合い、その解決方法を探る、アマナ主催のイベント「amana LIVE 2022 Autumn」が2022年10月27日に開催されました。7つのテーマを切り口に、先進企業の方々をゲストに迎え、マーケットの今と未来をとらえたセミナーを実施。今回は、テーマ「人々の共感が『東川らしさ』を創造し続ける『写真の町』東川町のまちづくり・ひとづくりにおけるブランドコミュニケーション」の回を紹介します。


約30年にわたり人口を増やし続けている北海道「写真の町」東川町。そこには、風土や暮らしに根ざした、人づくり、まちづくりの一貫した姿勢があります。 町内外の人を魅了してやまない「東川町らしさ」はどのように生まれ、文化として根ざしていったのか。「写真の町宣言」から37年、独自の施策・事業に携わってきた町の担当者である矢ノ目俊之さんと、事業に関わるうちに自らも移住者となったフォトグラファーの安永ケンタウロスさんとともに、人々を引き付ける「東川らしさ」の本質に迫ります。ファシリテーターは、アマナにて地域活性案件に携わる手塚陽子が務めました。
※本イベントはアマナの『deepLIVE™️』スタジオから配信を行いました。

共感と賛同、寛容から始まるまちづくり

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(左から)アマナの手塚陽子、東川町役場の矢ノ目俊之さん、フォトグラファーの安永ケンタウロスさん。

手塚陽子(アマナ/以下、手塚):東川町は写真だけでなく、さまざまなまちづくりの取り組みで注目されていますよね。その背景について教えていただけますか?

矢ノ目俊之(東川町役場/以下、矢ノ目):東川町は1985年に全国でも珍しい「写真映りの良いまちづくり」「写真映りの良い人づくり」という目標を掲げ、「写真の町宣言」を皮切りに新しいまちづくりをスタートさせました。

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手塚:この宣言の目的はどのようなものだったのでしょうか?

矢ノ目:写真映りの良い町であるためには、自然景観を守り伝えていく必要があります。写真映りの良い人とは、笑顔で活動的な人であり、それは充実した教育と福祉によって作られます。そんな環境と人々の姿をめざして町を作っていこうという思いが、この宣言の根幹にあります。

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手塚:私どもアマナも写真に深く関わる企業ですが、研修のときに「撮ることだけでなく、撮られることも意識しなさい」と言われたのを思い出しました。東川町は、「写真の町宣言」に込められた思いから、さまざまなターニングポイントを乗り越えて多岐にわたるチャレンジを続けてこられました。そういったチャレンジが可能になった要因とは、どのようなものだったのでしょうか?

矢ノ目:東川に住む人の気質や風土は、一言で言えばとても寛容なんです。じつは私も移住者なんですが、行政の方や商店・農家の方々に至るまで、移住者の受け入れ態勢が本当に万全だったなと今でも思います。元々住んでいた人たちが移住者に寛容で、コミュニケーションが円滑にできるので一緒にイベントやプロジェクトを進めることができます。それがまた新しい出会いと活動を生み、今日の東川町を作っていると言えますね。移住者の数は年々増え続けています。他の自治体でよく聞かれる「予算がない」「前例がない」という言葉は、東川では一切聞かれないですね。

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手塚:安永さんは東川町に移住されてさまざまな活動を展開されていますが、移住の決め手になったのは何だったんですか?

安永ケンタウロス(フォトグラファー/以下、安永):やはり東川に住む人たちの寛容さ、シェアするのが大好きな人たちが集まっている風土に魅力を感じたからですね。北海道ですので自然は厳しいですが、その反面、恵みをみんなで喜び、分かち合っている。だからこそ、優しさと寛容さにあふれているのかもしれませんね。

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東川FOCUS:安永さんが撮りためた地域の事業者(飲食店など)の姿を、「東川FOCUS」と題し、動画にして配信。

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Compath:デンマークの学び舎・フォルケホイスコーレを参考にして生まれた「人生の学校」。さまざまな人々の人生から学び、考える場になっている。安永さんも講師として登壇。写真について語り合うことで、東川の人々と交流し共に学ぶ機会になっているそう。

手塚:東川町のまちづくりの根幹には、共感して賛同するというコミュニケーションがあるわけですね。それが活かされた取り組みにはどのような事例がありますか?

矢ノ目:私たち行政マンは住民福祉のための施策を行うのが役目です。ここで大事にしてきたのは「誰のためにやるのか」という問いです。「誰のために」がたくさん集まれば、それは「みんなのため」につながります。コミュニケーションによって環境が作られていった代表的な事例は、宅地造成地「東川グリーンヴィレッジ」です。この目的は単に分譲地を造るということではなく、地域の新しい「結」を創出するということでした。

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矢ノ目俊之さん。

矢ノ目:移住者が増え、数世代前から住んでいる人々が減っていく中で、暮らしを共に作っていくためには新しいつながりが必要です。そこで、この地域に住むにあたって共有すべきトーン&マナーを設けました。例えば、環境や景観に配慮した住宅の仕様などですね。すると、その目指すところに共感した人々が集まってくる。価値観が近い人同士ですから自ずと連携も取れます。そうやって新しい集落・グリーンヴィレッジが育まれていったという経緯があります。

手塚:マナーやエチケット、倫理観に共感した人々が集まるからこそ、コミュニケーションが円滑で、なおかつ東川町の個性も明確になっていったわけですね。

安永:東川には「町のために」という気持ちがあるんですよね。本来その気持ちは、みんなで同じ場所に暮らす以上、当たり前に持たないといけないものです。しかし、それはなかなか難しい。自然環境をみんなが尊び、資源を分かち合っているからこそ、そういう気持ちが湧いてくるんでしょうか。

「写真でまちづくり」ではなく「町の仕組みづくり」でもない

手塚:単に写真でまちづくりを行うのではなく「写真映りのいいまちづくり」を掲げることで明確な目的が共有され、町民のみなさんが仕組みを理解し共感できることが大きなポイントですね。

矢ノ目:東川町はちょっと変わっていて、仕組みづくりから始めるということをしなかったんですね。代わりに、商店街の人たちや農家の人たち、行政職員がそれぞれの立場で「写真の町」のあり方について考えたんです。そうした過程で得られた最初の成功体験を足がかりに、次のチャレンジ、また次のチャレンジへと新しいことを推進してきました。

手塚:そうしたチャレンジに弊社が関わり始めたのは2007年からでした。主に事業のアウトプットを積極的にサポートしています。例えば、ロゴやVI・CIの開発であったり、広報物やアプリケーションのデザインなどもお手伝いしています。10年20年後を見据え、また町内外のみなさまに共感していただけるような設計を常に心がけて、東川町の取り組みに伴走してきました。アウトプットに統一性が生まれることで、取り組みの主体となる人々の意識も自然と統一されていきますよね。

矢ノ目:デザインして終わりではなく、その後の持続的・継続的なサポートやアドバイスにも大変助けられています。

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会場となった『deepLIVE™️』配信スタジオにて。

手塚:先ほどのお話にもあったように、まず人々の思いや気質があって、そこに仕組みがともなうことで、写真の町のまちづくり・ひとづくりにつながっていったということですね。やはり「仕組みづくりから入らなかったこと」が東川らしさの形成にとって重要だったのでしょうか?

矢ノ目:そうかもしれませんね。仕組みを変に作り込まないというか、何をするにもみんなで作り上げていくのが東川らしさなのかなと思います。その過程で生まれた共感が奏功しているのではないかと思いますね。

手塚:写真の町宣言から37年が経った現在でも、メディアで見ない日はないくらい東川町は注目を浴びていますよね。東川らしさ、東川町のブランドを守り続けていくには、どのようなことが大切だと思われますか?

矢ノ目:東川らしさやブランドを守り続けるのではなく、そういったものを「創り続ける」ことが大切なんじゃないかなと思います。いままでのまちづくりを次代も踏襲するのではなくて、それをリスペクトしつつ発展させていくことが大事です。これまで東川町では人とのつながりを重んじてきましたので、今後も誰のための施策かを常に問いながらまちづくりを進めていきたいと思っています。そして世代やプレイヤーが代わっていくことは、新しいことが生まれる可能性でもあるので、そのあたりも楽しみにしていきたいですね。

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手塚:東川町には写真の町宣言という核があって、常に新しいことに取り組んでいこうとする気質や風土があります。「写真映りの良い町」を意識し続けることで、目的意識を持って東川らしさを「創り続ける」ことに価値が生まれ、ブランディングにつながっているのだと思います。安永さんは今後、東川町で取り組んでいきたいことなどはありますか?

安永:東川の教育に携わることですね。移住してからそう思うようになりました。東川の子どもたちを見ていて、この子たちのために自分に何かできることはないかと。一人一人の顔が見える環境だからこそできることがあるだろうし、大家族のようにやっていけたらいいですよね。

手塚:矢ノ目さんはいかがでしょうか?

矢ノ目:何かするっていうよりも、どれだけ多くの人と出会えるのかが大事です。その出会いからさまざまな物事が生まれてくる。だからこそ、町として、個人として、これからも出会いを大切にしていきたいですね。東川の未来を創るのは、出会いだと思っています。

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deepLIVEは、リアルタイムCGと最新鋭のバーチャル・プロダクションシステムを備えた自社スタジオの活⽤により、 企業やブランド固有のニーズに即した企画立案〜リアルとバーチャルの垣根を超え共感を生む深い(ディープな)体験構築が可能、新たな体験創出でデジタルコミュニケーションにおける様々な企業課題の解決をサポートします。

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