BtoBこそ取り組むべき、デジタルツインによる顧客体験変革と業務プロセス改善

vol.93

BtoBこそ取り組むべき、デジタルツインによる顧客体験変革と業務プロセス改善

Text by Kazutoshi Otani
Photo by Ayumu Sadasue

現実世界に存在するモノや環境を、仮想空間にリアルに再現する「デジタルツイン」技術が注目される中、そのBtoBマーケティングへの応用にも期待が高まっています。リアルとバーチャルが融け合う時代において、デジタルツインの活用は顧客体験向上や業務プロセス改善にどう作用するのでしょうか? 本セミナーでは、アマナで3DCG制作やコンテンツ管理において深い専門知識と豊かな経験を持つ岡本崇志、宮下広臣、田北裕一が登壇し、BtoB企業が取り組むべきデジタルツインのマーケティング活用について、具体的な手法を交えながら解説しました。
※本イベントはアマナの『deepLIVE™️』スタジオからリアルタイムで配信を行いました。


社会の変化に即した顧客体験とは?

岡本崇志(アマナ/以下、岡本):本日は、まず私から「顧客体験の創出における世の中の変化の流れ」、宮下から「3D-CADデータから始めるDX推進/CX向上」、そして田北から「3D-CADデータと製品モデルデータの一元管理アセットマネジメント」についてお話しします。

最初に、デジタルツインというのは「現実の世界から収集したさまざまなデータを、まるで双子(ツイン)であるかのように、コンピュータ上で再現する技術」を指すIT用語です。加えて「仮想空間でさまざまなシミュレーションや将来予測を行うための技術」でもあります。

最近ではDXの加速と共に、ウェビナーやオンライン展示会、商談会、バーチャルショールームなど、バーチャル体験が拡張し、時間や空間、地理の制限を超える新しい顧客体験の取り組みも進んできました。バズワード化した「メタバース」もそうですし、オンライン上のバーチャル空間における顧客体験の価値向上を目的とする戦略の構築などの動きも目立っています。そこで、このような顧客体験の変化の事例を2つご紹介しましょう。

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岡本:1つ目はナイキ様の例です。「Roblox」というメタバースプラットフォーム上で、鬼ごっこやドッジボールなどのゲームが楽しめる「NIKELAND」を開設し、2022年前半で195カ国から670万人が来訪したことがニュースになりました。「NIKELAND」では、「Roblox」とのコラボによるウェアやシューズなどのバーチャル製品を購入して自分のアバターに着用させることが可能です。ナイキ様はNike Virtual Studioを立ち上げて、こうしたバーチャル製品を含むデジタルアイテム制作など、メタバースに向けた体制構築に注力しています。

2つ目は、トヨタ自動車様が、2023年の3月を目処に紙のカタログを廃止してスマートカタログに移行するという発表をしました。スマートカタログは、店頭のタブレット端末で閲覧しながら商談を進めるためのもので、既に導入されて好評を得ている店舗もあり、より密度の濃い情報をわかりやすくユーザーに伝えていくために活用されています。コスト削減はもちろん、脱炭素の側面からもメリットが大きな取り組みです。

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岡本:このような動きと関連して、顧客体験をアップデートするCX 3.0という概念も出てきました。実は顧客の欲求の本質というのは、氷山のようなものです。生活者の意思決定において直接的に答えを得られるのは、水面から見える「意識」の部分に過ぎません。しかし、顧客の行動データをすべて把握可能なバーチャル環境も活用することで、水面下の潜在意識にあたる本質的な欲求まで理解できるようになります。ヒューマンセントリックな分析を行って、マーケティングや商品開発に生かせるのです。

その意味で、CX 3.0のキーとなるのは、行動ログを取得する仕組みを用意して、顧客の本質的な欲求を満たすPDCAの循環を生み出すことにあるといえます。この基盤作りのためにも、より動的で強化されたインタラクション性を持ち、時間や空間の制約に縛られずに新たな顧客体験の価値創造をできる場が求められます。そこに、メタバースのようなオンラインのチャネルを持つ意味が生まれてきたのです。

顧客の行動データ取得でパーソナルなブランド体験を実現

岡本:CX 3.0の実現は、マーケティングのDXにもなるわけですが、そこに欠かせない3つの要素として「リアルタイム性」、「深みのあるブランドの世界観」、「インタラクション性」が挙げられます。こうしたポイントを押さえながら、リッチな顧客体験を作っていくためのキードライバーとなるのが、バーチャル空間内にある企業の3Dホームページや、バーチャルのカンファレンス、セミナー、製品発表会といったCX 3.0の活用オプションです。これまでリアル環境で展開していたものをバーチャル化していくことが、新しいインクルーシブなブランド体験につながるといえます。

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岡本:それと関連して、参加者の方々に「顧客行動の変化に応じたオンラインイベント実施の有無」についてお聞きしたところ、半数以上の方が、既に実施もしくは予定しているとの結果になりました。そこで、実際に実施する場合にバーチャル空間ではどのようなことができるかを、ビジネス展示会を例にご紹介しましょう。

たとえば、ブース内の要素をクリックをするとモーダルウィンドウ内に説明が表示され、WebGL*という3Dイメージの表示技術を活用して製品をさまざまな角度から見られるような仕組みを構築できます。こうすることで、離脱を回避しながら、行動データを取得できるわけです。このような3DCGの空間でもブランドの世界観をきちんと再現して、製品紹介やオンライン商談の機会を作れるということがおわかりいただけるかと思いますし、今後のメタバースも視野に入れると、商品説明や商談もアバターを介して行えるようになります。
*WebGL:互換性のある任意のWebブラウザ上で、プラグインを使用せずにインタラクティブな2次元および3次元のコンピュータグラフィックをレンダリングするためのJavaScript API。

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会場となった『deepLIVE™️』配信スタジオにて。アマナの岡本崇志。

岡本:また、弊社がYKK様と共に取り組んでいる事例として、ファスナー製品を扱うファスニング事業部のデジタルショールームがあります。世界中どこからでも24時間アクセス可能なデジタルショールームによって、新たなブランドの体験価値創出のプラットフォームを構築する取り組みです。このデジタルショールームは、テーマごとにフロアが分かれており、来訪者の行動データを基にコンテンツを最適化することで、パーソナライズされたブランド体験を実現できます。

私たちは、こうしたリッチなブランド体験が顧客との深いエンゲージメントに直結すると考えており、3D-CADを活用した製品情報の3DCG化を1つのDXとして捉え、それをCXの向上につなげていくことをメソドロジー(方法論)として提供して参ります。

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3D-CADデータ活用がDXを加速しCX向上につながる

宮下広臣(アマナ/以下、宮下):さて、以上のようなCX向上のためのコンテンツ制作には、製品の3 Dモデル化が必須となります。そのためには、まず3D-CADによる設計データから、製品の形状、アウトラインデータを読み取り、効率的に3DCGを作成できるかどうかが、1つの重要なポイントです。この工程を2 D図面から行おうとすると、時間がかかるうえに精密さも劣りがちになります。そのため、コストパフォーマンスの観点からも、3D-CADデータから効率的に正確な3Dモデルデータを作成することがベストです。

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宮下:細かい面で構成され、立体物を精密に表現できるものをハイポリゴンデータ、逆に大きな面で構成され、立体表現が厳密ではないが軽量でリアルタイム表示に向くものをローポリゴンデータと呼びます。両者はデータ容量だけでなく、それによってもたらされる顧客体験も異なるため、既存メディア向けの高画質の広告と、バーチャル空間のためのデジタルコンテンツを両方制作する場合には、両方のポリゴンデータが必要です。

ところが、実はハイポリゴンデータからローポリゴンデータを作成するのは非常に難しいため、この2種類のポリゴンデータを3D-CADデータから一括して作っておくと、幅広いコンテンツに対応しやすくなります。今回の参加者からのアンケート結果では、3D-CADデータを活用して3DCG制作をしている方が約5割、していない方も約5割ぐらいで、検討中が5%ほどですが、顧客価値向上のためには、この3DCG化が重要なステップだと認識していただければと思います。

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宮下:ハイポリゴンデータはカタログ用の静止画や商品パッケージ、テレビCMなど、リッチな表現を必要とするビジュアル制作向きです。個別に発注が必要な実写コンテンツとは異なり、一度ポリゴンデータを作っておけば、多様な販促コンテンツの制作が可能となるので、DX推進につながるとお考えください。

一方、ローポリゴンデータは容量が少ないため、バーチャルシーンにおけるリアルタイムコンテンツに対して優位性があります。こちらは、その場で色やオプションを変更して確認するためのコンフィグレーターや、顧客自身が好きなアングルで自由に製品を見られるVR/ARのコンテンツに応用でき、CXの向上を図れるわけです。

さらに、今、シンガポールでは、国を丸ごとデジタル化をしたバーチャルシンガポールというものも作られています。これは、バーチャル空間に国土や社会インフラを再現し、人の流れのデータなどを入力して、都市開発や渋滞緩和のシミュレーションを行うためのものです。

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会場となった『deepLIVE™️』配信スタジオにて。(左から)アマナの岡本崇志、宮下広臣、田北裕一。

業務プロセス改善にも活用できる3D-CADデータ

宮下:新製品発売の準備作業を例にとると、以前には、まず3D-CADデータを用意し、その後に1〜2ヶ月かけてモックアップを作っていたかと思います。それから撮影になりますが、グラフィックやムービーといったコンテンツごとに発注が必要で、撮影回数も増えがちでした。

ところが、3DCG化を行うとモックアップ製作の時間が省かれ、その分を広告用CGや販促用グラフィックの制作など、既存メディア向けのコンテンツ、およびCX向上のためのコンテンツ制作に充てられます。そして、このように拡充されたマーケティングアセットを、商品の発表会や発売時のノベルティ制作などにも応用でき、全体としてDX推進につながっていくわけです。まさに、ワンソース・マルチユースによる業務プロセスの改善といえるでしょう。

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宮下:以上の3D-CADデータ活用のポイントを6点にまとめますと、3DCGの効率的な制作、統一されたビジュアルアセットによるブランド管理、デジタル業務プロセス導入によるDX推進、バリエーション対応による制作コスト削減、新しい顧客体験の提供によるCX向上、新製品や製造ライン新設時のシミュレーションによる課題発見と効率的な解決が可能になるということです。

WebGLで実現される顧客体験価値の向上

宮下:続いて、WebGLを活用した顧客体験価値向上コンテンツについてお話しします。WebGLとは、Webブラウザ上で3DCGを高速表示するための標準的な技術仕様で、スマートフォンを含む多くのWebブラウザ上で動作し、3Dモデルを利用した高度なグラフィカル表現が可能です。WebGLの制作フローの例としては、3D-CADデータからローポリゴンによる製品の3DCGが作られ、それに対してリアルタイムレンダラーでカラー、ライティング、アニメーション設定を行い、その後にWebGLを利用して、コンフィグレーターやシミュレーター、360度コンテンツに落とし込むという流れが考えられます。

WebGLを活用したCX 3.0の実例として、ホンダ様が活用されている自動車の360度ビューをご覧ください。ローポリゴンでも非常にクオリティが高く、動きも滑らかで見やすいものになっています。これによって、車の購入者が事前に内外装の色や形状をご自身で確認できるわけです。

20221115_report_10.jpgこちらからご覧いただけます。

宮下:また、フジテック様のエレベーターの事例では、これまで担当者がカタログを使って営業活動を行っていましたが、WebGLのリッチコンテンツを使ってクライアントの方が受けるイメージを一層想起させることに成功しました。WebGLのコンテンツとVRを融合させることで、クライアントが、エレベーター内の色や雰囲気、広さなどを体感できるようになったのです。

さらに、この場を借りてバーチャル商品発表会の使用例を実演してみましょう。画面内で別の空間に移動し、岡本と私の間に、スタジオには入らないくらい大きなジェットエンジンのモデルを表示します。このようなものも、ローポリゴンのコンテンツを使って、より魅力的な商品発表が可能になるわけです。外観だけでなく、内部のブレード、さらにはそれが回転するアニメーションまで、正確に再現できます。逆に、カメラのようにコンパクトなものでも扱うことができ、拡大や回転をさせて、細部まで見ていただくことも可能です。

デジタルツインの鍵は3D-CADと製品モデル両データの一元管理

田北裕一(アマナ/以下、田北):このような3D-CADデータを活用した3DCG制作では、データの一元管理が非常に重要になります。というのは、一般的な製品開発の流れでは、デザインモデル、モックアップ、金型製作、そして量産品向けと、それぞれにCADデータが存在し、しかも、製品に関するさまざまな情報が、各部署や各担当者に点在している状況ではないでしょうか。いわゆる情報のサイロ化ですが、これによって大変困っている方も多いと思われます。

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田北:3DCG制作に必要な情報も同様で、マーケットリサーチや商品企画段階におけるコンセプトや訴求ポイント、あるいは金型やモックアップを作るときのデザイン仕様書ですとかロゴ・印字・ラベル、最終的には量産前の3D-CADデータにいたるまでバラバラに管理されていて、担当者の負担が非常に大きい状況です。そして、これが作業効率の低下や人的コストの増加につながっています。

したがって、商品情報のデータベース化は非常に重要なのですが、いきなりすべてを集約することは難しいので、まずは3DCG制作に必要なデータを集めて管理することから始めましょうというのが、私たちからの提案です。アナマが考える商品情報のアセットマネジメントで扱うデータとしては、以下のようなものがあります。

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会場となった『deepLIVE™️』配信スタジオにて。アマナの田北裕一。

田北:1番目は、製品の情報です。この中にはブランド、カテゴリ、製品名、品番、開発コード、製品スペック、その製品のWebサイトのURLなどが含まれます。また、実機やモックアップの写真などを求められるケースも多いので、そうした情報や、過去と現行の機種情報、発売日の情報も必要です。2番目としては当然ながら3D-CADデータがあり、仕様書、質感、色、印字のデータが続きます。

そして、最も重要なものが7番目の3DCGのモデルデータ、つまりハイポリゴンデータとローポリゴンデータです。データベースにここまで格納することで、CG制作を非常に効率的に行えることになります。

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データの一元管理によるベネフィット

田北:次は、製品・企画/開発・設計部門と広報/宣伝・マーケティング営業支援部門に分けて、データの一元管理のベネフィットについて説明します。

前者については、3DCG制作にあたって、広報や宣伝部から製品情報の提供を求められることがありますが、データの一元管理によって、情報の管理担当者の負担軽減が図られます。もう1つには、部門間で情報が共有されると、他部門の製品に関する理解が向上するため、業務の効率や満足度が上がることも考えられるでしょう。後者については、社内からの製品情報収集の時間の削減や、私たちのような制作会社とのスムーズなコミュニケーションの実現などが可能となります。また、全社的には、プロモーションにおけるDX推進や、情報漏えいリスクの低減、コスト削減にもつながるでしょう。

特にコスト削減ができる点は重要で、製品情報を一元管理しない場合には3D-CADデータを用途別に変換するたびに変換料がかかるわけです。各制作会社とのやりとりで人的コストもかさみますし、さらにそれぞれの制作費が上乗せされるため、コスト高は避けられません。社内の関連部署から、毎回、製品の情報の収集して回るだけでも大変でしょう。しかし、モデルデータを一元管理して提供すれば、これらのコストを減らせるのです。

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最後に、3D-CADデータの活用に関する課題を5つ挙げてみます。3D-CADデータの内容を確認できずに制作会社に送っている、3D-CADデータと3DCG制作に必要な情報を社内から集めるのに手がかかる、CG制作費を抑えたい、情報漏洩リスクを低減したい、製品の3Dモデルをデータベース化して一元管理運用をしたいといった課題ですね。

こうした課題にお応えして、アマナでは今、仮称ですが「3DCG商品情報管理システム」というものを企画検討中です。このシステムは3D-CADデータも扱うことができ、そのビューワーも含まれますので、CADデータを可視化して確認することが可能になります。そして、制作会社側でのハイポリゴン化や社内利用向けのローポリゴン化もスムーズに行え、各種シミュレーションでの活用も容易になるということです。

こちらに関しては、お客様にとって使いやすいシステム設計を行いたいと考えており、ご協力いただける企業様を募集しております。ご興味のある企業様は、ぜひご連絡くださるようにお願いして、本セミナーを終わることにいたします。

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