どうなる? 脱消費主義時代のマーケティング「2023年CXトレンドウェビナー」

vol.97

どうなる? 脱消費主義時代のマーケティング「2023年CXトレンドウェビナー」

Text by Mitsuhiro Wakayama
Photo by Ayumi Okubo

スタイラスはイギリスに本社を置くアドバイザリーファームです。プロダクトからマーケティング、ビジネスコンセプトまで、世界中のさまざまなジャンルにおけるイノベーションやトレンドをクライアントに紹介しています。本セミナーでは、スタイラス ジャパンのカントリーマネージャーである秋元陸氏をゲストに迎え、2023年のキーワードとして挙げている「脱消費主義」をテーマに、クリエイティブのトレンドも交えお話いただきました。

価格競争に巻き込まれないために、いまブランドに必要なもの

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さて、私たちは毎年『Look Ahead』というレポートをクライアントにお届けしています。その中で、その年を象徴するキャッチコピーを紹介しているんですが、2023年には「Post-Consumerism(脱消費主義)」というキーワードが挙げられています。消費を加速させてマーケットを拡大することを目指す消費主義に、脱という接頭語がついていますね。ただ、これはモノを買うのをやめましょうとか、作るのをやめましょうという意味ではありません。経済の仕組みが変わってきている中で、これまでの供給や消費のあり方を少しずつ変えてみようという考え方が脱消費主義です。2023年はこの脱消費主義が進むとされていますが、本日はその背景とともに、さまざまな企業がどんな取り組みを始めているのかご紹介していきたいと思います。

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世界的に見て、インフレーションが非常に大きなテーマになっています。定量的な調査結果をいくつかご紹介すると、2021年時点で78%の人々が「お金」が悩みの種だと言っていたり、2022年には11の先進国において4家庭に1家庭がインフレのネガティブな影響を受けているとされています。2023年に入ってからもインフレーションは長期的に続くとされていて、その要因は3つあります。まずはウクライナとロシアの情勢に起因するエネルギー危機。もう1つはコロナ禍以降のサプライチェーンの滞り。そして人件費や材料費など生産コストの増加です。これら複数の要素が絡み合って物価高を引き起こしているということですね。ですので、仮に明日戦争が終わっても、明後日から直ちにインフレが解消するわけではないということはお察しいただけるかと思います。欧米では半数以上の人々が食料や光熱費などの高騰を肌で感じていて、少なくとも向こう半年は同様の状態が続くことを覚悟しているという調査結果も出ています。

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このような状況から予測されることの1つに「一時的な購買決定要因の順位変動」が挙げられます。ある調査では世界中の41%の人々が、購買決定要因における「価格」の順位を一時的に上げると回答しています。また、2021年から22年にかけてGoogleの検索ワードにおいて「安くて良いモノ」「今週の特売品」といった言葉が増加していることも、消費者が価格を気にしていることを裏付けるデータだと言えるでしょう。こうした動向の結果として、ブランドスイッチが進むと言われています。

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ブランドスイッチとともに起こると予想されているのが、サブスクリプションサービス離れです。これには動画配信サービスをはじめジムの会員やサプリメントの定期購入など、さまざまなサービスが当てはまります。1つ1つは少額でも、その合計額は意外とばかになりません。したがって、物価高が叫ばれる昨今、こうしたサービスへの加入状況を見直す動きが加速していくことが予想されます。顧客離れという点においては、今回のウェビナーを試聴されている企業のみなさんにとっても他人事ではないと思います。いままで信頼関係を築いてきた消費者が「ブランド」よりも「価格」を優先する傾向があるので、自社のサービスからエンドユーザーが離れていくことを危惧する方々は多いのではないでしょうか。しかし、だからと言って価格競争に巻き込まれるのも本意ではないでしょう。これもいわばジリ貧で、一時的に競争に勝って顧客を繋ぎ止めたとしても、低価格を維持したままビジネスを続けていくには限界があるからです。事実、いま多くの企業が値上げに踏み切っています。

2023年のCXトレンドとは

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ここまでご説明した状況を踏まえ、私たちが提供する次年度予測では「価格以外のところでブランドを選んでもらうトリガー」をいくつかご紹介しています。人々がブランドに求める付加価値とは何なのか。この点を把握していただけると、自社が価格競争に巻き込まれずに済むかもしれません。2023年の『Look Ahead』では10の切り口を用意しているのですが、本日はそのうち6つをご紹介したいと思います。

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1つ目のテーマは「社会不信」です。端的に言えば、消費者は信頼できる企業からモノを買うのではないか、ということです。性別や所得、人種、国際経済、あらゆる物事に存在する格差を埋めていける企業やサービスであれば、生き残っていく可能性は高くなると言えるでしょう。あるグローバルな調査によれば、「ジャーナリストは嘘をついている」と感じている人々は全体の67%だとされています。実際どうであるかはさておき、この「感じている」というのが重要です。特に日本は、世界的に見て政府やメディアへの不信感が強い国だとされています。翻って、日本の企業は消費者からいかに信頼してもらえるかが生き残りの鍵になってくるということです。

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2つ目のテーマは「社会課題への対応」です。最近欧米では「Civic-Centered Commerce」という言葉がトレンドになっています。この元々の起こりはパタゴニアの創業者イヴォン・シュイナード氏です。イヴォン氏は自身が所有するパタゴニア社の株などを全て売却して多額のキャッシュを得た後、その全てを慈善事業団体に寄付しました。また、カナダの企業「Faith in Nature」は自社の取締役会のボードメンバーに「自然環境」を加えたことで知られています。自社事業のすべてに環境への配慮がなされているかチェックするという意志表示ですね。要するに「Civic-Centered Commerce」とは、ある企業のプロダクトやサービスを消費することが第三者のためになる商業活動を言います。

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3つ目のテーマは「減速のためのデザイン(Design for Deceleration)」です。コロナ禍以降、多くの企業が停滞したビジネスを復調させるために「モノを買ってくれ」「旅行してくれ」と喧伝して消費者を焚き付けてきました。しかし、当の消費者はパンデミックにインフレと抑圧され続けて疲れています。世の中の急激な変化から距離を置き、ゆっくりしたいと思っている人々は増えているとされています。これに伴うリアクションとして、他者とのコミュニケーションの頻度を減少させたり、外出して消費するよりは家の中や公園のような場所で過ごして節約するという行動傾向がみられるようです。

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逆に、落ち着きよりも非日常を感じたいという行動傾向もあります。日々抑圧を感じている人々に「今日くらいイイじゃない!」思わせるような、ストレス発散のためのサービスを提供するのもブランドのアプローチとして有効だとされています。そこにどういう消費者のニーズがあるかというと、例えばファッション系のSNSをご覧になる方はお気づきかもしれませんが、近年原色を使ったカラフルな装いがトレンドになっています。ファッショントレンドの定説として、派手な色や奇抜なパターンを取り入れて華やかに過ごすのは強い抑圧から脱しようとする時代の特徴だそうです。一方、チームラボが上海の高級ホテル・ベネチアンに設置した常設のインスタレーションのように、没入感のある非日常的な空間も見られます。いずれも鬱屈とした日常のストレスのはけ口になるという意味で、消費における付加価値になっています。

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非日常的な空間にはメタバースも含まれます。この「Zero 10」というショップはブティックですが、服は1枚も置いていません。ここで販売されるのはデジタルファッションのアイテムで、ユーザーは写真右側の「試着室」でモニターに映った自身の映像にアイテムを合成します。もちろん、試着体験自体は自宅のPCでできるんですが、このようなサイバーメトリックな店舗でいつもとは違った試着体験をするということに人々の関心が集まっています。そして言うまでもなく、ここでの体験をSNSでシェアすることも大きな目的になっています。あるいは「Bakeup Beauty」のように、SNS上のエフェクトをリアルなファッションアイテムのデザインに転用するブランドも増えています。今後、バーチャルワールド自体が1つのエコシステムになっていくと言われています。リアリティチャンネルとも言われるように、リアルにデジタルをオーバラッピング/融合させていくUXが大きなテーマになっていくでしょう。

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配信の様子。

そして最後、6つ目に紹介するテーマは「ダイバーシティ」です。女性差別、人種差別、セクシャルマイノリティへの差別など、社会のあらゆる差別はいまだ根絶されませんが、昨今徐々に是正されつつあります。その中でも最近注目を集めているのが、身体的なハンデキャップを持つ人々へのサービス提供です。世界人口の約15%が何かしらのハンデキャップを抱えていると言われています。億単位の人々が悩みを抱えているにもかかわらず、例えばアメリカではハンデキャップを扱った映像コンテンツは全体の4.2%に止まっているという統計もあります。また、イギリスではハンデキャップを持つ人々の65%が購入できる商品の選択肢が少ないと感じています。さらに、そのうち43%が「自分たちが使えるものか否か商品パッケージから伝わってこない」と供給する側に努力を求めています。さまざまな企業やブランドがハンデキャップに悩む人々に向けてプロダクトやサービスを提供していくことで、今後のダイバーシティのあり方はさらに変化していくとされています。

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これで本日のセッションは以上になります。消費のトレンドに関しては各国間であまり差がありません。その端緒になるのは欧米であることが多いとはいえ、経済が緊密に結びついている以上、日本もその影響を受けることになります。本日紹介したテーマは2023年のトレンドのほんの一部ですので、ご興味のある方はぜひ弊社にアプローチしていただければ幸いです。

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