CESレポートから見るメタバース最新動向と今後の展望

vol.98

今年はどうなる? CESレポートから見るメタバース最新動向と今後の展望

Text by Mitsuhiro Wakayama
Photo by Rai Matsumoto

毎年、年始にアメリカ・ラスベガスで開催される、世界最大規模のテクノロジーイベント「CES(Consumer Electronic Show)」。2023年は1月5日~8日に開催されました。

1月26日にオンライン配信で開催した本イベントでは、2023年のCES開催内容から、国内でも注目を集めるメタバース関連の情報をまとめていち早くレポート。世界中のマーケット潮流をリサーチ・レポートするイノベーションアドバイザリー「STYLUS」の秋元陸氏をゲストに迎え、未来予測や企業参入におけるポイントも交えて解説しました。ファシリテーターはアマナのメタバース関連事業を担当している岡本崇志が務めました。
※本イベントはアマナの『deepLIVE™️』スタジオからリアルタイムで配信を行いました。

着々と進化するXRデバイス

秋元陸(スタイラスジャパン/以下、秋元):CESのレポートも含めたメタバースの最新動向と展望についてお話ししていきたいと思います。さて、今年のCESも昨年に引き続きリアルプレイスでの開催となります。さらに今年の規模は動員・ブース数ともにコロナ禍以前に戻ったということで、かなり盛り上がりを見せたと言われています。CESというと家電の見本市というイメージが強いかもしれませんが、今回はいつもあまり人気のない自動車の部門に人が集まっていました。なぜなら、SONYが夏にコンセプトカーを発表したことで、自動車産業への本格的な参入が話題になったからです。また、SalesforceやGoogle、amazonといった企業が、自動車産業に自社の保有するデータやプロダクトを活かしていくという方針を発表したことも注目の要因になりました。その他、今回のCESでは省エネや節電といったキーワードにも注目が集まりました。

20230126report_1.jpg

配信の様子。スタイラス ジャパンの秋元陸さん。

20230126report_2.jpg

秋元:そんななか、進化が著しいメタバースの領域にも注目が集まっていました。画像の男性が装着しているのは新しいARグラスです。これはオールアビリティ、つまり身体的なハンデキャップを持った人々のためにメタバースの技術を活用する事例だと言えます。このARグラスは、左側のレンズで目の前の人の読唇を行い、右側のレンズにその結果を文字で表示するというものです。リアルタイムで情報を検知して目の前に表示するのがAR技術の特徴ですが、会場で体験した方々はみんな非常に驚いていました。

20230126report_3.jpg

配信の様子。左から、アマナの岡本崇志、スタイラス ジャパンの秋元さん。

秋元:一方、こちらの画像ではVRヘッドギアにアダプターが装着されています。これは香りを放出するもので、これまで視覚と聴覚をトリガーにしていた仮想空間上での新しい“感覚のハック”ということになります。香りは人の記憶を想起させたり、気分を変えるトリガーになると言われています。一説にはそうした行動の7割は香りによって引き起こされるそうです。VRにおける香りの活用は、食をめぐるコンテンツはもちろん、例えば京都の街で出会ったお香の香りとか、海外の空港に降り立った時の独特の匂いとか、そういった旅と記憶をめぐって没入感を演出できる可能性もあります。

秋元:CESで紹介されたXR関連のデバイスのなかでは、こちらに最も注目が集まったのではないかと思っています。中国のスタートアップが作っているARグラスです。目の前の景色に映像を重ねることもできますし、VRヘッドギアとしても使用することができます。従来のヘッドセットは重く、値段も4〜5万円と決して安くはないものです。こうした条件が普及のハードルになるかと思われましたが、すでにそれに代わる選択肢は出てきているということですね。

ハイブランドのメタバース進出に注目集まる

秋元:メタバースに関する情報をリサーチしていると、こと日本のマーケットにおいては「メタバースって大丈夫なのか、もうキツいんじゃないか」という論調がしばしば見られます。その根拠となっているのが、ガートナー社が公開しているハイプ・サイクルです。これは要するにコンテンツの”寿命”を表したダイアグラムです。日本国内を対象にしたハイプ・サイクルにおいて、メタバースは「過度な期待値のピーク期」に位置付けられています。
メタバースは成熟までに10年以上かかるコンテンツだと言われていて、当然そのテクノロジーはまだ黎明期あるいは成長途上にありますが、市場の期待値はものすごく高い状態にあります。一方、同社によるグローバル市場におけるハイプ・サイクルは日本のそれとは異なる様相を呈しています。グローバルマーケットではメタバースの期待値はそれほど高くはなく、黎明期ということを加味して適当な期待を寄せるというのが常識になっているようです。ですので、メタバースが今後「来るのか、来ないのか」と聞かれれば、何かしらの波は確実に来ると言えそうです。しかし、日本ではメタバースに過度な期待が寄せられている状況ですので、企業はメタバースでできること/できないことを明確に理解し、何がアウトカムとして得られるのか冷静に分析してから、この領域に進出することが望ましいでしょう。

20230126report_4.jpg

秋元:メタバースに進出しているハイブランドの取り組みをいくつかご紹介しておきます。まずはメタバースの先駆者的プラットフォーム「Minecraft(マインクラフト)」とバーバリーのコラボレーションです。バンコク、ロンドン、ニューヨーク、深圳のバーバリー各店舗でコラボイベントが計画されていて、ゲーム内のスキン(コスチューム)と同様のデザインの商品が店頭でも販売されます。マインクラフトを好きな人はもちろん、マイクラユーザーで初めてバーバリーを利用するという人も含めて大きなイベントになるだろうと言われています。ここでは、まず仮想空間上でバーバリーの世界観を見せて、そこへの没入感からリアルでの購買へと繋げるというビジネス体験が目指されています。

秋元:また、メタバースの古参というところだとグッチが挙げられます。グッチは以前から「Roblox(ロブロックス)」、「Drest (ドレスト)」など複数のプラットフォームでさまざまなイベントを展開してZ世代とのコミュニケーションを図っています。従来のグッチの購買層に加え、新たにZ世代とのコミュニケーションのチャンネルが増えたという印象ですね。その最新の取り組みが「The Sandbox(サンドボックス)」とコラボした「Gucci Vault Land(グッチヴォルトランド)」です。

もともとグッチはブランドの世界観を表現する場として、2021年にロブロックスの中にグッチガーデンというバーチャル空間を発表していました。今回のヴォルトランドはグッチガーデンの後継ということになります。グッチはさまざまなプラットホーム上に「ガーデン」を作り上げ、自分たちの世界観を伝えつつ、そのゲームの特徴を活かしたかたちでユーザーとのコミュニケーションを試みています。

秋元:ラグジュアリーブランド以外にも、サービスを提供する企業にもいろいろな動きが見られます。その中の一例として、SONYの「mocopi」をご紹介します。これはモーションキャプチャーを手軽に行うためのモバイルデバイスで、CES以前から発表されていたものです。アバターのスムーズな動きは没入感を強めると言われているので、こうしたデバイスは今後、Vtuberをはじめ一定規模のマーケットを形成していくと思われます。YouTubeやInstagramがそうであるように、クリエイターの増加はコンテンツの増加・多様化につながります。ですから、手軽なモーションキャプチャーの実現によってクリエイターが増えることで、アバターを使ったコンテンツにもさらなる多様化が起こる可能性が考えられます。

20230126report_5.jpg

会場となった『deepLIVE™️』配信スタジオにて。

テクノロジーがクリエイションの常識を変える

秋元:次にご紹介するのは、ナイキの「.SWOOSH」という取り組みです。これはクリエイティブエコノミーとメタバース、Web3.0を複合的に活用した新たな取り組みとしてCESでもアナウンスされていました。日本のメタバースに対する懸念と同じように、ブロックチェーンやWeb3.0のテクノロジーにもセキュリティの問題や資産価値の低下から「本当に大丈夫か」という視線が向けられてきました。特にアメリカでは昨今の暗号通貨市場の低調をクリプトの冬と表現したりします。ただ、こうした問題はあくまでテクノロジーの今後の課題であり、技術を誰がどう使いこなすかによって未来は変わってくるというのがマーケットの共通理解になっているようです。

ナイキがオリエンを出すと、デジタルクリエイターたちがそれをもとにデジタルアセットを作ります。それがロブロックスやマインクラフト、サンドボックスにドロップされていく、というのがこの取り組みの構造です。ここでのポイントは、NFTやブロックチェーンの技術を活用することでクリエイターに利益が還元され、著作権等の権利が保護されるということです。この取り組みによって世界中のデジタルクリエイターがナイキのもとに集い、自分たちのセンスや感性、表現力を用いて新しいデジタルアセットをナイキとともに生み出していくことになります。物理法則すら超えたアイデアもできてしまうので、これまでのプロダクトの常識を覆すような“スニーカー”も生まれるでしょう。メタバース上にドロップされたアイデアが好評ならば、例えばロブロックスコラボというかたちでリアルなプロダクトとして販売されることも考えられます。そんなふうにして、ナイキは自分たちの可能性を広げようとしています。

20230126report_6.jpg

秋元:CESを含むメタバースの動向をまとめます。まず1つ目に、着々とデバイスは進化しています。かさばるヘッドセットからメガネサイズにまでデバイスが縮小され、他方、SONYのmocopiやさまざまなセンサリング技術によるXRにおける感覚の拡張が進められています。2023年現在、これが一般に普及するかと言えばそれはないと思いますが、今後もこうしたデバイスの進化は続いていくと思われます。
2つ目に、ハイブランドがメタバースで存在感を高めているということが挙げられます。メタバースによる経済効果は公表されていません。しかしながら、グッチやバーバリーをはじめさまざまなブランドがこれだけ時間とお金のかかる取り組みを続けているということは、相応のリターンや恩恵があるからだと思われます。
3つ目のクリエイターエコノミーのモデルケースは、ナイキの事例を思い出していただければと思います。これまでナイキが1つのオリエンに対して世界中からクリエイターを募り、一斉に制作を始めることはさまざまな理由から難しかったと思います。しかし今、メタバースやWeb3.0、ブロックチェーンといったテクノロジーを活用することで、それが実現しようとしています。クリエイターエコノミーにもメタバースは大きな影響を与えていくと思われます。

20230126report_7.jpg

岡本崇志(アマナ):秋元さん、ありがとうございました。メタバースは進展の著しい領域ではありますが、まだまだ黎明期ということもあり、ビジネス利用には中長期的な視点が必要です。メタバースをビジネスに活用していく場合は、この技術を活用することで実現したいビジョンを明確化し、ロードマップをあらかじめ描いていくことが重要になります。そして自らが体験しメタバースの可能性を体感していくこと、さらには情報収集と定期的な認識のアップデートが不可欠です。また、秋元さんのお話にもハイブランドの事例がありましたが、現時点で利用可能な技術によってブランドの「世界観」を発信していくことがメタバースのビジネスにおいては重要な意味を持つと思います。
弊社はこうしたビジネスプランニングもちろん、メタバースの実装もサポートしています。また、時々刻々とアップデートされていく情報のインプットという点ではスタイラスのサービスを活用していただくのも有効だと思います。メタバースをめぐる動向は日々変わっていますし、テクノロジーの進歩も著しいのは本日ご覧いただいた通りです。メタバースのビジネス活用を検討されている企業にとって、今回のレポートがご参考になれば幸いです。

KEYWORD キーワード

KEYWORDキーワード

本サイトではユーザーの利便性向上のためCookieを使用してサービスを提供しています。詳しくはCookieポリシーをご覧ください。

閉じる