時代の一歩先を見据えた、これからのブランドコミュニケーション

vol.107

時代の一歩先を見据えた、これからのブランドコミュニケーション

Text by Mitsuhiro Wakayama
Photo by Mizuki Hino

企業のあらゆるコミュニケーション課題に向き合い、その解決方法を探る、アマナ主催のイベント「amana Brand Communication Day 2023 Spring」が2023年5月24日、25日と2日間にわたり開催されました。8つのテーマを切り口に、先進企業の方々をゲストに迎えたトークセッションや講演、マーケットの今と未来をとらえたセミナーを実施。今回は、テーマ「時代の一歩先を見据えた、これからのブランドコミュニケーション」の回を紹介します。


リアル、デジタルの全ての顧客接点において、顧客体験をどう設計し、どのようにブランドを伝えていくべきか。また、今後デジタルネイティブ世代が購買行動の主軸となっていく中、企業はそれにどう対応すべきなのか。
パナソニックの執行役員である臼井重雄さんを迎え、スタイラスジャパンの秋元陸さんと、世界のブランドコミュニケーションの潮流を紹介しながら、ハイブリッド時代のブランドコミュニケーションについてディスカッション形式で語りました。ファシリテーターは、アマナのビジネスプロデューサーとして企業向けのブランディングも手がける谷野弘知が務めました。
※本イベントはアマナの『deepLIVE™️』スタジオから配信を行いました。

ブランドコミュニケーションの現在地

臼井重雄(パナソニック/以下、臼井):私はもともと弊社のプロダクトデザイン部門出身なんですが、現在はブランドコミュニケーションを担当しています。これまで国内外でプロダクトデザイン・ものづくりに携わってきましたが、その中で「この商品の良さは、ちゃんとお客様に伝わっているのかな?」と思うことはしばしばあります。いい商品を作っていたら必ず売れる、というわけではありません。いい商品をお客様に届けるには、まず「伝えること」の重要性について考えることが不可欠だと思います。今日は、そんな自分の課題感をみなさんと共有できれば嬉しいです。

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パナソニックの臼井重雄さん。

秋元陸(スタイラス ジャパン/以下、秋元):よろしくお願いします。では、セッションの前段として、昨今のブランドコミュニケーションにおける主なテーマについてお話ししたいと思います。まず「サステナビリティ/環境」「ウェルネス」「デジタル」。このあたりは、すでに王道と言ってもいいでしょう。加えて、日本でこれから議論が深まっていくテーマとしては「ダイバーシティ」「シビックコマース」「クリエイターズエコノミー」といったものが挙げられます。さらに、こうしたテーマに「ジェネレーション/ライフステージ」という視点を掛け合わせることで、ブランドコミュニケーションは非常に多様性を帯びてきています。

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(左から)アマナの谷野弘知、パナソニックの臼井重雄さん、スタイラス ジャパンの秋元陸さん。

秋元:「クリエイティブエコノミー」は聞き慣れない方も多いかもしれません。生活者を単に「モノを買ってくれる人」と見るのではなく、クリエイターとして見た方が彼らのニーズがわかる可能性があります。彼らはただモノを買って楽しむだけでなく、それを写真に撮ってSNSにアップしたり、口コミやコメントを書いてくれたりします。もしかすると、彼らは自分たちのサービスやプロダクトの「布教者」になってくれるかもしれない。もはや誰でも情報発信が可能になった現代の事情を踏まえると、昨今は「一億総クリエイターズ社会」といっても過言ではないのかもしれません。

「シビックコマース」は、最近アメリカや中国で広まりつつある考え方です。これは、企業の事業成長が社会の健全化につながるような動きを指します。とはいえ、植林とか寄附の話ではありません。例えば、高度経済成長期にパナソニックが家電を社会に行き渡らせたことで、人々の生活水準は劇的に上がりました。このように、ビジネスの延長にある社会改善を重視するのが、シビックコマースの特徴です。こうした観点を持つ生活者は「自分たちがこのブランドを応援することで社会に何が起こっていくのか」を重視します。自社ビジネスとソーシャルグッドの関係をうまく生活者に伝えられるか否かが、利用や購買を大きく左右します。ブランドと生活者が一つのビジョンを共有することが、今後のブランドコミュニケーションにおける重要な要素の一つになります。

臼井:今、世の中の価値観が急激に変化しているじゃないですか。そこを確実に捉えておかないと、作るものや発信の仕方を間違える危険性があるなと常々感じています。

秋元:臼井さんが冒頭でおっしゃったように、もう「いいものを作れば売れる時代」ではないんですよね。いいものであることは前提で、それが「買ってくれる人たちの生活にどんな影響を与えるか」が意識される時代になってきました。

「製販分離」に生じるマーケティングのギャップ

臼井:パナソニックは、長らく開発製造と販売を分離していました。例えば、冷蔵庫や洗濯機のような耐久消費財の場合、開発側は商品を長く使ってもらうことを前提にしています。その上でユーザーの体験を考え、プロダクトをデザインするわけです。しかし、販売側は「今、この時期」に買ってほしい。だから、そのプロダクトの新しい機能や特徴を紹介します。そして一方のお客様は、自宅の冷蔵庫や洗濯機が壊れたのを機に、およそ10年ぶりにそれらを買い換えようというわけです。

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臼井:まずみなさん、冷蔵庫や洗濯機を新製品が出るたびに買い換えますか? 買い換えませんよね。今、使っているものの調子が悪くなってきたから買い換える、という人が大多数だと思います。10年ぶりに家電を買うお客様にとって、いちばん知りたい情報は果たして「この商品についている最新機能」なんでしょうか?

製販分離の問題はここにあります。販売はお客様が知りたいことを言えていないし、開発は10年ぶりに家電を買い替える人の目線でものを作っていない。開発側も販売側も、自分たちの考えていることがお客様のそれと乖離しているんですよね。ギャップができてしまっている。

ギャップを埋めるコミュニケーションデザイン

臼井:ただ、このギャップは、考え方次第で埋まると思うんですよ。例えば、日本人の美意識の一つに「長くものを使う」というのがありますよね。だからと言って「耐久性があります」と謳って短期的な売り上げを伸ばすのではなく、ものを買った後の修理やメンテナンスのサービスを充実させることで「長く使える」ことを謳ったっていいわけです。

長期的に見たコストや環境負荷の低さをお客様に伝えられたら、コスパやサステナビリティに配慮する昨今の価値観に響くかもしれない。販売した後にもブランドとお客様の接点をいくつも作ることで、これまでとは違ったコミュニケーションが可能になると思うんですよね。

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秋元:一方で、情報の受信の仕方も多様化が進んでいます。テレビCMを打てば全世代に届いた時代とは違って、モバイル端末しか使わない人たちも増えています。自分たちがコミュニケーションしたい人々の「知りたい内容」と「知り方」を両方心得ていないと、ブランドと顧客のやり取りが成立しないのが今の時代です。

顧客の興味関心に合わせた最適なコミュニケーション

臼井:よく「引き算の商品企画」と言ったりしますが、プロダクトの機能を充実させたら逆に使いづらくなったという話はしばしばあります。プロダクトに限らず、広告にも、加えることばかりに意識がいき過ぎているものが多い気がしますね。お客様の目線に立って、どれくらいの量の情報が、どのタイミングで見えているのか理解することは、昨今のコミュニケーションにおいて重要だと思います。

秋元:タイミングは特に大切ですね。受け手側が準備できていない状態で情報を送っても届きません。逆に、先ほどの消費財の買い替えの話で言うと「お客様が買い換えを検討するのはものが壊れた時だけなのか?」と問うことも必要かもしれません。もしかしたら、お客様は「引越しの時」にも商品の情報を欲しているかもしれない。

臼井:開発に携わるなかで、コミュニケーションを担当するメンバーによく言うのが「もっと開発担当にフィードバックしてほしい」ということです。彼らはメディアやお客様と普段から接しています。そこで気づいたことやお客様の声は、もちろんデータとしては上がってきますが、そのニュアンスまで含めてわかった時に面白いアイデアが生まれたりするんですよね。そうやって製販のあいだで情報交換ができると、さっき話したようなギャップが埋まってくるんですよ。

秋元:これはまだ仮説ですが、「誰に何を伝えるか」ではなく「他者から見てわかりやすいブランド像」こそ必要なんじゃないかと思うんです。パナソニックというブランドはこういうものだ、と浸透することの方が大事で、そのほうが人が集まってきやすいんじゃないかと。

臼井:とてもよくわかります。これだけ多様化が進んだ世の中ですから、誰かにピンポイントで情報を届けるのはとても難しい。だからこそ、状況に即応するよりも、発信する側の立ち位置やフィロソフィ、志を明確に打ち出していくことが必要だと思います。ただ、そこで言っていることとやっていることが違うのは論外です。とくに今の若い世代は、そういう不誠実さに敏感ですから。

ブランドと顧客の間の「循環」をデザインする

臼井:コミュニケーションについて議論する時、私たちは「何をどう伝えるか」というワンウェイの話に陥りがちです。でも、そもそもコミュニケーションは双方向的なものですよね。コミュニケーションの不全は、ブランドと生活者のあいだに何らかのギャップがあって、双方向的なやりとりが成り立たない状態を指すんだと思うんです。

僕の関心はクリエイティブ/伝え方によって、そのギャップをどう埋めていくかという点にあります。ブランドが伝えたことを、お客様が自分なりに処理して、またブランドに返してくれる。そういう「循環」が、ブランドと顧客のコミュニケーションだと僕は思います。そのうえで「こう伝えたら、こう返してくれるかな」と循環のプロセスを想像して、デザインしていくことが大切だと考えています。

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秋元:ブランドとは何か、という議論は以前からあります。ブランドとは「世界観」であり「信頼」であり「消費者との約束」であり——と色々な考えがありますが、つまるところ、その企業のポジショニングがしっかりしていれば、どれも正解だと言ってよいと思います。

一つ、調査会社の立場から言わせてもらうと、近年ブランドというものへの期待値が上がっています。ブランドという価値が企業にもたらすインパクトや、企業にとってのブランドの重要性が日ごとに大きくなっているということです。だからこそ、ブランドは消費者にとって明確でわかりやすい「形」を持っていることが大切です。言い換えれば「このブランドはどんなブランドですか?」という問いに対して、企業自身が明確な解答を持っている必要があり、同時にそれが顧客の解答と一致していることが重要だということです。

SOLUTION

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deepLIVEは、リアルタイムCGと最新鋭のバーチャル・プロダクションシステムを備えた自社スタジオの活⽤により、 企業やブランド固有のニーズに即した企画立案〜リアルとバーチャルの垣根を超え共感を生む深い(ディープな)体験構築が可能、新たな体験創出でデジタルコミュニケーションにおける様々な企業課題の解決をサポートします。

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