vol.130
これも3DCG!? 超現実世界にリアリティを与える、 CGアーティストの感性
ウェビナー「これも3DCG!? 超現実世界にリアリティを与えるCGアーティストの感性」は、2024年2月7日(火)に開催されました。目に見えない効果や効能を、リアリティを持って描き、目に見える製品を現実と違和感なくCG化する。そこにはクリエイターの感性が発揮されます。このウェビナーでは、アマナのクリエイターらがCGの表現力にフォーカスした制作事例を発表しました。
堀口高士(以下、堀口):ファシリテーターを務めるアマナの堀口です。最初にイントロダクションとして「CGとは何か」をアマナのCG統括マネジャー・坂本から話します。
坂本直樹(以下、坂本):CGとは、要約するとコンピューターで制作された静止画や動画などのさまざまなビジュアルです。日本では一般的に3DCGを指す場合が多いと思います。現在では映画、テレビCMなどの広告分野だけではなく、近年話題になったVR/ARやメタバースといった分野にも必要な技術です。
坂本:CGのワークフローは、モデリングから始まり、最後はレンダリング、コンポジットで終わることが一般的です。実写の撮影における工程と同様に、CGでは仮想空間で被写体を撮影します。これがCGの基本的な考え方です。実写の世界でよい映像を作るためには、演出、カメラマン、照明、美術など、人の力が非常に重要です。同様に、CGの世界でも高品質なビジュアルを制作するためには、CGアーティストや彼らを率いるチームのスキルや存在が極めて重要であると考えています。
本日のウェビナーは、CGの表現力にフォーカスして、制作事例2つをご紹介します。CGディレクターの羽田、アシスタントCGディレクターの竹本から発表します。
・チーム「croobi(クロオビ)」について
羽田貴尚(以下、羽田):croobiは、国内では珍しいモビリティに特化したCG制作チームです。これまで多くのテレビCMや映像広告、モビリティショーで使われる展示映像やグラフィックなどのビジュアルを制作してきました。弊社の特色としては、背景データベースを活用したワークフローの効率化、背景の世界観を作り上げる提案と構築、そして高品質なビジュアルアウトプットが挙げられます。
・CG制作パート
羽田:SUZUKI S-CROSSのCMは、CGと撮影の両方の手法を組み合わせて制作してます。すべてCGで制作されたカット、CGと撮影を組み合わせたカット、そして撮影のみのカットが含まれています。
羽田:CGのみで制作したカットは、自動車、背景、エフェクトです。これらのカットをCGで制作した理由は、撮影予定日には商品である車がまだ用意されていなかったことがあります。次に、演出効果として、バリヤーのような幕を越えるとヨーロッパ風の街並みから自然の山道へと変化する表現がありました。これを現実の撮影で実現するのは困難です。つまり、CGを使うメリットとしては、発売前や持ち込めない車両の映像化、撮影困難な場所の映像化、そして撮影では実現できないカメラワークや演出の映像化が挙げられます。
次にCGと撮影の両方の手法を組み合わせたカットでは、背景が撮影で、車がCGで合成しています。「CG+撮影」のメリットとしては、やはり撮影でしか得られない実写ならではの生っぽさやノイズ感など、これらを組み合わせることで映像としてのリアリティを高めることができる点です。
最後に、撮影のみのカットは、人物と車内です。最近の映画ではCGで人間を制作することがありますが、撮影がベストで、低コストです。車の場合、CADをCG用に変換しますが、柔らかい素材のモデリングには時間とコストがかかります。車内をCGで制作しても、人物の動作は後の合成作業が複雑になるため、全て撮影した方が効率的。また、ぬいぐるみや折り畳み自転車など一度しか登場しない小道具も撮影が合理的です。
・プレビズ
羽田:案件発注時に絵コンテを受け取り、その情報を基にプレビズ(Pre Visualization、映像の下書き)を制作しました。CG制作パートのみのプレビズで、撮影カットやCGと組み合わせたカットには絵コンテのイメージを使用しました。絵コンテを元にCGを使用して動画を作成し、クライアントと細部のコンセンサスを確認します。今回は、カットの尺やレイアウト、カメラや車のアニメーションを決定しました。一方、他の案件では、撮影の検証のためにCGを使用したプレビズを制作することもあります。
・撮影+CGについて
羽田:撮影とCGを組み合わせて制作されたカットでは、ダミーカーを使って撮影し、後でCGの車に置き換えました。CGを撮影素材に合成するためには、マッチムーブと呼ばれる作業が必要で、これは撮影時のカメラの挙動をCG上で再現するものです。マッチムーブのためには、撮影時に車にトラッカーを貼り付けて撮影します。これにより、3次元情報を抽出し、実写と同じ動きを再現します。
さらに、リアルに合成するためにはライティングや環境も再現する必要があります。ただし、車が走る環境まで再現するには膨大な作業が必要なので、今回は360度撮影できるカメラを車に設置して、環境を撮影しました。その素材を加工し、ライティングと環境を再現することで、CGがリアルなビジュアルに仕上がります。
・背景制作
竹本英正(以下、竹本):今回の案件では、絵コンテとは別に背景のイメージをまとめた資料を受け取りました。これを基に、我々、CGクリエイターはイメージを膨らませ、背景の効率的な制作手法も考えます。背景制作は作業量が多く、街並みなどでは道路や建物だけでなく、街灯や看板、木、建物の内装なども再現します。弊社ではフルCGでの背景制作に力を入れており、データベースから適切なアセットを選択して制作することでワークフローを効率化しています。例えば、ヨーロッパの街の場合は、データベースから建物や小物を選定し、レイアウトに集中することで短期間での制作が可能です。データベースだけでは足りない場合は、ワンオフ(オーダーメイド)で制作します。
背景制作においてはライティングも重要。すべてのカットにおいて、ライティングや小物の配置にこだわりながら、4つのシチュエーションの背景を制作しました。
・アニメーション
竹本:動画制作においてアニメーションは特に重要です。モビリティの案件では走行シーンが主要であり、車の動きやカメラワークに高い精度が求められます。CG空間では、道路の微妙な起伏を再現し、車の動きにリアリティを与えています。カメラのアニメーションも、CG上で地面の起伏を拾ったカメラカーを再現。また、トリッキーな表現も可能で、後半のハイウェイのカットでは、4台の車に見えるように工夫しました。
堀口:この事例から、制作者の感性が、リアルな環境を再現する際に重要であることを再認識しました。
次に、効果・効能の表現の事例を、CGスーパーバイザーの花輪と福井が発表します。
DECORTÉ AQ Skincare Seriesの動画はこちらからご覧ください。
・CG制作パート
花輪幸輝(以下、花輪):ご紹介するのは「DECORTÉ AQ Skincare Series」のWeb動画です。この事例もCGのみのカット、CGと撮影を組み合わせて制作されたカット、そして撮影のみのカットがあります。
花輪:人物周りはすべて撮影です。商品の効果・効能を訴求するカットや液体の表現についてはCGで制作。右上エリアのカットは撮影とCGのハイブリッドで制作しました。
・キンコウボク
花輪:キンコウボク(金香木)という花が多くのカットで登場しますが、これはすべてCGで制作しました。理由は、中国にある花で入手が困難であり、制作時期が開花の季節ではなかったためです。仮に入手できたとしても、形や色味を映像に合わせる必要があったため、CGで制作することになりました。キンコウボクはグラフィック広告の制作で方向性を決定した後、写真をベースにフォトレタッチで制作しています。
花の質感については、特殊な設定が必要です。花びらの質感には、CG用語でいうサブサーフェス・スキャタリング(光が半透明な物体の表面を透過して、内部で拡散した後に表面から出ていくメカニズム)で、繊細な設定が求められます。今回も何度も試行錯誤を繰り返し、質感を設定しました。
・シナプス
花輪:今回の映像で重要な要素の一つがシナプスのカットです。シナプスとは、神経細胞間で情報伝達が行われる部位のことで、「幸福因子・幸せシグナル」の伝達を表現しています。このシナプスカットの制作には、Houdiniというソフトウェアを使用しました。
Houdiniはノードベースでプロシージャルな制作フローで構築されたソフトウェアで、他のCGソフトウェアとは異なる制作フローを持っています。それは、プログラミングしながら制作を行い、各機能を組み合わせて目的の形状に近づけていくことができます。Houdiniの最大の利点はプロシージャルであることで、基本の構造を作成すると、パラメーターを変化させることで修正が容易になります。
シナプスの形状が完成したら、レイアウトとカメラアニメーションを設定し、最後にカラーコレクションと各種エフェクトを加えて最終調整を行い、完成させます。
・液体表現について
福井雅也(以下、福井):液体や煙などのアニメーションは複雑な動きをするため、手動で設定するのは不可能です。そこで、CGでのシミュレーションを行います。シミュレーションとは、現実世界と同じように物理現象を計算し、アニメーションを生成する方法です。
CGならではの利点として、重力の方向や無重力空間、風の強さなどを自由に制御できることが挙げられます。液体の粘度も自由に設定できるため、さまざまな表現が可能。このようなシミュレーション作業には時間がかかりますが、CGならではの表現を実現できます。
具体的な作業手順は、点群によるシミュレーションを行い、点と点の引き合う力や摩擦、重力の影響を考慮して液体の動きを計算。次に、点群を面やポリゴンに変換し、液体表面の滑らかさを設定。最後に、ポリゴンに質感とライティングを施してレンダリングし、完成させます。この作業は非常に時間がかかり、数秒の現実世界のできごとがシミュレーションするのに何時間も要します。液体のシミュレーションは、特に難易度が高いです。
今回の案件では、乳液は柔らかすぎず硬すぎない質感を求められ、化粧水は自然な水の動きと波の表現が重要でした。液体の種類に応じて細かな設定や調整をしています。
・スパチュラ
福井:スパチュラカットの制作過程を紹介します。スパチュラとは商品のクリームについてくるヘラです。このカットはクリームをヘラでなぞるシーンを表現するもの。単純になぞるだけではなく、花びらを模したクリームをなぞるというお客様の要望がありました。我々は、CGを制作する仕事をしていますが、案件ごとに撮影だけでいいのか、撮影+CGがいいのか、フルCGが適切かを判断し、最適な方法を提案しています。このスパチュラカットでは、コストや時間、クオリティの観点から、撮影とCGを組み合わせた表現を選択しました。なぞるクリームの動きが複雑であり、CGで再現すると時間がかかるためです。その後、CGで花びらを作成し、実写のクリームと組み合わせます。これにより、実写ならではの生っぽさやノイズ感を取り込んだ説得力のあるCG表現が可能となりました。
堀口:花のように繊細なものが、こんなにリアルで非現実的な演出ができると、普段から近くで見ている私でも毎回驚きます。AIによるクリエイティブな変革が進んでいますが、最終的な方向性や判断は人の感性に委ねられます。アマナには日々感性を磨き続けるクリエイターがたくさん在籍しています。
モビリティやコスメ、美容関連の広告制作には、通常のCG制作以外のスキルや経験が必要で、我々は、このような分野に精通しています。お気軽にご相談ください。
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amana cgxサイトでは、amanaのCG制作チームが手がけたTV-CMやグラフィック、リアルタイムCGを使ったWEBコンテンツなど、CGを活用する事で、クライアント課題を解決に導いた様々な事例を掲載。
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