ペルソナを広告配信に活用?消費者理解を促すクッキーレス時代の新たな選択肢

vol.148

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Text by 徳尾厚

SPEAKER スピーカー

近年、サードパーティCookieの規制の動きがある一方で、GoogleはChromeでのサードパーティCookie廃止を取り下げる発表を2024年7月22日に行うなど、デジタル広告を取り巻く環境が大きく揺れ動いています。このような状況下で、企業やブランドが効果的かつ適切なデジタル広告をターゲットに届けるために注目したいのが、ペルソナを活用した新たな広告配信の手法です。

今回のウェビナーでは、アマナのストラテジックプランナー・コミュニケーションプランナーの成田洋と、Ogury Japan株式会社のコマーシャルダイレクターである山口武さんが登壇。我々が直面する「デジタル広告過渡期」を分析し、ペルソナを活用したデジタル広告の効果的な手法について解説しました。

今、デジタル広告を取り巻く環境は過渡期に

Webサイトやアプリなどインターネット経由でユーザーに表示される「デジタル広告」はインターネット回線の高速化やスマートフォンの普及により近年大幅に成長しています。日本でも大手広告代理店の電通が、2021年にインターネット広告費が、新聞・雑誌・ラジオ・テレビの「マスコミ4媒体」の広告費を上回ったと報告しています。

デジタル広告が成長する一方で、ユーザーに不快感を与える粗悪な広告が増えてきました。2022年第1四半期(1-3月期間)に広告費用の40%が効果なく消化されたというデータもあり、毎年1,000億円以上の広告費が無駄になっているといいます。なぜ、このような現象が起きているのでしょうか。成田は、主な理由として以下の2つを挙げました。

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成田洋(アマナ/ストラテジックプランナー・コミュニケーションプランナー)

広がるサードパーティCookie規制

現在、デジタル広告で多く用いられている手法のひとつとして、サードパーティCookieを用いたリターゲティング広告などの追跡型広告が挙げられます。これは、Cookie(クッキー)と呼ばれる小さなファイルにユーザーの検索履歴やWebサイトの閲覧状況を保存し、新しいWebサイトを訪れた際にも、Cookie情報からユーザーの履歴に基づいた適切な広告を表示する手法です。

サードパーティCookieの活用によりデジタル広告の市場が発展していく一方で、Cookieがユーザーの動向を追跡することは個人情報の侵害ではないかという声があがるようになりました。このような声を受けて、EU(欧州連合)では、2018年にGDPR(一般データ保護規則)を適用。日本でも同様に、2022年4月に改正個人情報保護法が、2023年6月には改正電気通信事業法が施行され、サードパーティCookieへの対応が求められるようになりました。

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スマートフォンとタブレットのブラウザは、GoogleのChromeとAppleのSafariが大きなシェアを占めています。AppleはEUの規制に合わせて2017年9月にSafariでサードパーティCookieの制限を開始し、2020年3月にはユーザーが自主的に設定しない限りサードパーティCookieを利用できないようにしました。Googleも2020年1月にChromeでサードパーティCookieを廃止する方針を示しました。計画は何度か延期しましたが、2024年7月22日にはサードパーティCookieの廃止を撤回。Cookieの仕組みを維持しながら、ユーザーのプライバシーに配慮した代替技術の導入方針を発表しました。

粗悪な広告の拡大

Cookie規制に伴って商品購買につながりそうなユーザーを追跡することが不可能になると、インプレッション数を増やすことで成果を上げようとするデジタル広告が増えてきました。中には、とにかくユーザーを別サイトに導こうと著名人の画像を無断で使用したり、実態とは異なる商品を表示するような悪質な手法も見られます。

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例えばテレビCMや屋外広告は不特定多数が目にするため、広告内容を審査する仕組みが確立されていますが、デジタル広告には明確な審査機関がありません。粗悪な広告があふれることで、一部のWebサイトは治安の悪い繁華街のようになってしまいます。そのため、ユーザーはデジタル広告全般に不信感や嫌悪感を抱くようになり、広告の効果が薄れてきました。

こうした、ユーザーのことを考えていない広告を出さないためにも、各企業・ブランドの宣伝担当者やWeb事業・デジタル事業の担当者は高いデジタルリテラシーを求められる時代であるといえるでしょう。

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揺れ動くCookie規制を前に行うべき「ペルソナ」ターゲティング

サードパーティCookieが規制されることで、デジタル広告はどのように変化していくのでしょうか。ユーザーの動向を追跡できなくなる中で注目したいのが「ペルソナ」の活用です。

商品開発や販売、広告の方向性を考えるにあたって「20代女性」のような大まかな属性だけでなく、「28歳、独身。IT関連企業に勤務し、年収380万円。賃貸マンションに一人暮らし」と細かく人物像を設定します。よく見るSNSや休日の過ごし方まで、顧客像を具体化することで関係者の間でイメージを統一でき、適切な広告戦略の策定や、効果測定、改善ができるようになります。

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200以上のペルソナと4つのデータを掛け合わせた広告配信設計

山口さんが所属するOguryは2017年にイギリスで誕生し、数年でペルソナターゲティング広告の世界的な旗手に成長しました。2022年には日本に進出しOgury Japanを設立。サードパーティCookieが規制される「Cookieレス時代」を迎えつつある中で、その動向が注目されています。

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山口武さん(Ogury Japan株式会社/コマーシャルダイレクター)

Oguryは200以上の豊富なペルソナリストのほか、以下の4つのデータソースを有しています。

・独自調査データ:さまざまなWebサイトで調査したユーザーのデモグラフィックや消費行動
・コンテキスト+セマンティックデータ:Web上の言葉の文脈や意味を分析
・アドネットワークデータ:配信した広告がいつどこで見られているか
・キャンペーンデータ:過去に行ったキャンペーンの実績

4つのデータソースを組み合わせながら、顧客の業種や広告施策に該当するペルソナを用意します。山口さんは、「ニッチな要望に対しても複数のペルソナを掛け合わせて、より一層キャンペーンのターゲティングに合ったペルソナターゲティングを可能にしている」と強みを解説します。

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例えば、ビジネスの意思決定者を対象にキャンペーンを展開するなら、どのようなWebサイト・Webアプリに、どのようなタイミングで、どのような形の広告を配信するか。ガジェット愛好家や高価なアクセサリーを好む人の場合はどうするか。「ペルソナと豊富なデータを組み合わせることで、最適な広告配信の答えが見えてくる」と山口さんは話します。

「もったいない広告出稿」を避ける3つのポイントとは?

では、毎年1,000億円もの広告費が無駄になっているという現状で「もったいない広告」を避けるにはどうすればよいのでしょうか?成田は、「ターゲットの選定」「広告のビジュアル」「ユーザーが広告に触れるタイミング」の3点が重要であると述べます。

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ペルソナのニーズやトレンドを把握する「0次分析」

費用に対して効果が上がらない「もったいない広告」を避けるために、ペルソナの設定と合わせて重要になるのが「0次分析」です。

仮説を立てて計画を実行し、その結果を分析することを「1次分析」と言います。対して「0次分析」は、計画の出発点である仮説を立てる前に、ブランドや訴求対象となるペルソナを特定し、そのペルソナが持っているであろうニーズやトレンドを把握するものです。

0次分析を十分に行うことで、「誰に情報を届けるのか」というターゲットが明確になり、より効果的な広告出稿の計画を立てることができるようになります。広告出稿後にも、ターゲットに情報が届いていたか、購買意欲を喚起できたかといった効果検証がしやすくなるというメリットが得られます。

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広告の見え方を考えるための指標「アテンション」に注目

デジタル広告がユーザーにマイナスイメージを持たれる要因のひとつに、広告の表示方法が挙げられます。スマホでWebサイトを開いた時に画面の大部分を覆うように表示される広告はインプレッション数を増やせる一方で、ユーザーにとっては本来見たい情報を妨げる不快なものです。広告費をかけて表示数を増やしてもユーザーが広告の内容を認知しなくては意味がありません。

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ユーザーが広告をどのように認知しているのかを推測する指標として、山口さんは「アテンション」を挙げます。アテンションは、実際にユーザーが広告を見ている時間や回数を示すものです。ユーザーの協力を得てWebサイトを表示した時の視線の動きを計測し、広告がユーザーの目に止まっているのかどうかを調査するなどして、アテンションデータを収集します。

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例えば、YouTubeの動画広告は、「数秒間の広告が完全視聴されたか/数秒でスキップされたか」で効果を推測するしかありませんでした。しかし、YouTubeユーザーの中には、何か別のことをしながらBGMがわりにYouTubeを連続再生させる人たちもいます。この場合、データ上は動画広告が完全視聴されていますが、ユーザーに広告は認識されていません。このような状態を「果たして完全視聴と言えるのか懐疑的だった」と山口さんは指摘し、「アテンションという指標ができたことで、ちゃんと見られていたかどうかを計測できるようになる」と説きます。

Oguryではアテンションを意識しながら多種多様なデザインの広告を用意し、Webサイトの表示を阻害しない適切な広告配信を顧客に提案しています。

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サイトのヘッダーやフッターに小サイズの広告を表示し、ユーザーが興味を持ってタップすればフルスクリーンになるような広告配信も可能。山口さんは「ユーザーエクスペリエンスとしてもいいですし、広告のメッセージを届けるという意味でも、2つを両立できるようなフォーマットで広告を配信しています」とリッチクリエイティブのメリットを説明しました。

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モーメントを逃さない配信設計

広告費を無駄にしないために必要な3つ目のポイントが「モーメント」です。モーメントとは、「購買へと意欲が高まるタイミング」を指します。

ユーザーの生活習慣の中で、どのデバイスで広告を表示すれば効果的にモーメントを得られるかを考えてみましょう。デジタル広告の対象となるユーザーが使用するデバイスの中で、最もユーザー数が多いのはスマートフォン(モバイル)です。モバイルで使用されるWebアプリへの広告配信が、認知モーメントを獲得する主軸だといえます。

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Oguryでは、前述した4つのデータソースとペルソナを組み合わせ、ターゲットとなるペルソナが利用すると想定したアプリに広告を配信。サイズやデザインも複数の中から最適と思われるものを選び、アテンションやモーメントを見ながらリアルタイムで広告の調整を行います。また、広告掲載後にはパフォーマンス調査や第三者によるアテンション計測などPDCAに必要なデータを集め、顧客のブランドリフト貢献に努めています。

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Webアプリの0次分析を行い、ペルソナのトレンドを把握した上で、審査を通過した良質な広告を、適切な「見え方」になるよう配信していくことができれば、ブランドイメージを損なうことなく効果的な広告出稿が可能になります。

データとビジュアルの力でデジタル広告の最適化を

サードパーティCookie規制の動きや粗悪なデジタル広告の拡大などを受け、デジタル広告のあり方が変わろうとしています。デジタル広告過渡期の今、適切で効果的なデジタル広告を配信するためのひとつの解決策として、ペルソナを用いたデジタル広告配信は新たなスタンダードとなり得るでしょう。

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そのためには、0次分析やデータを組み合わせた最適な広告計画を策定すること、そして、ユーザーに不快感を与えず、ブランドの価値向上に寄与するビジュアルを作ることが欠かせません。

どのような優れた戦略があっても、実際にユーザーが広告をクリックするかどうかは、広告のビジュアルに大きく関わります。アマナは「顧客を動かすのは戦略あるビジュアル」という考えのもとで、ビジュアルを通したユーザーとのコミュニケーションを重視しています。ビジュアルによってユーザーを引き付け、ユーザーの期待を裏切らない結果を示すことができれば、ブランドの価値向上や売上改善に繋がります。

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データに基づいた広告戦略と、ユーザーの心を捉えるビジュアルが一つになることで、デジタル広告はより最適化されていきます。Cookieレス時代の新しいデジタル広告のスタイルになっていくでしょう。

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