vol.187

生成AIは、クリエイティブ制作の生産性を飛躍的に高めました。大量に、速く、一定水準の表現を生み出せる環境が整う一方で、いま、企業は新たな問いに直面しています。AIでつくられたクリエイティブに、私たちは本当に「愛着」を持てるのか。生成と消費が加速するほど、ブランドの世界観が均質化していくリスクも無視できません。
本ウェビナーでは、アマナのDepartment Manager/Executive Producerを務める林宏介と、Department Manager/Creative Directorの堀口高士が登壇。AIの得意・不得意を整理したうえで、アマナの実践事例をもとに、人とAIの役割をどう設計するのかを議論しました。
「AIの進化を、美意識の進化へ。」そのための視点とワークフローを、具体的なプロジェクト事例とともに共有します。
林宏介(以下、林):AIと一口で言っても幅広く、いろんな機能やツールがあります。このセミナーにおけるAIの定義は「クリエイティブ」と定め、その中でも画像・動画生成というビジュアル表現の領域でどうAIをクリエイティブに役立てていくかという点に絞ってお話をしていきます。
クリエイティブ領域のAIは、以下の4つを得意とします。
林:まずは、アウトプットの圧倒的な量とスピードです。一つのプロンプトから100案、1,000案と、人間の手作業では到底不可能なスピード感と思考回数で、正解に近いビジュアルを生成することができるという点です。
二つ目は、異質なものとの結合です。人間の論理的思考ではなかなか辿り着けないような、突飛な組み合わせに出会える。これは、クリエイターにとって新たなインスピレーションになることもあります。
三つ目は、見えないものの可視化です。言語化しづらい味や香りなどの感覚や概念を、ビジュアルとして共有できる形にすることで、他者とのイメージのすり合わせや合意形成などにも活用できます。
堀口高士(以下、堀口):概念の中でも、「未来」はAIと相性がいいと思います。見えないものの可視化の中でも、「企業のブランドやビジョンがこの先どうなっていくのか」といったイメージ生成にも役立ちます。
林:最後は世界観の無限拡張です。一つのキービジュアルがあれば、背景を変えたり、商品の色味を変えたり人物の属性を変えたりといったことが、Googleの「Gemini 2.5 Flash Image(通称 Nano Banana)」をはじめ、最新のAIではやりやすくなってきました。
林:一方で、依然としてAIが不得意とする部分もあります。大きくは以下の4つです。
林:まずは、一貫性の欠如ですね。AIは大量の学習データに基づいて、その都度確率を計算しながら画像を生成しています。同じプロンプトを入力しても、生成のたびに顔の構造が少し変わったり、商品のディテールが変わったりします。そのため、実際の商品を100%AIだけで生成するのは、現状では難しいですね。
堀口:ロゴマークなども、完全な再現は難しいですね。クライアントの中には、自社製品の再現という点では使いづらいという判断をされる方も多いです。
林:使いどころですね。検証やディスカッションの段階では十分使えますが、広告やプロモーションでそのまま使うとなると、一貫性が重要なので難しいという判断になります。だからこそ人間は、AIの出力の仕組みを理解し、得意と不得意を把握したうえで使いこなす姿勢が重要だといえますね。
二つ目は、表現の均質化です。AIは膨大なデータの中から最大公約数的なパターンを優先して出力します。強いプロンプトがなければ、ありきたりな表現、つまり平均的なものになりがちです。
三つ目は、物理・論理の破綻です。AIは現実のルールを理解しているわけではありません。辻褄を合わせるために嘘をつく、いわゆるハルシネーションが起こります。画像や動画の出力では、指が6本に、ギターの弦が7本になるなど、細部で破綻することがあります。
堀口:文章などはそれっぽい内容が出てきてしまうことがあります。エビデンスがないのに本当のように見えることもある。自分の目で判断する力が必要だと感じます。
林:基本は疑ってかかるくらいがいいですね。
そして最後に、バイアスとステレオタイプの増幅です。学習データは過去の蓄積なので、時代錯誤な価値観が反映されることもあります。芸術家と入れると欧米の男性が出てきたり、看護師と入れると若い女性が出がちだったり。これをそのまま企業のメッセージとして発信せず、アウトプットに対して自分たちで考えることが大事です。
林:こうした得意・不得意を踏まえると、AIは「描く」のではなく「埋める」道具だと考えます。何を描くのか、その設計図や意志は人間が定める。AIはその枠の中を高速に埋め、可能性を広げる。そして最終的に人間が仕上げ、クオリティを判断する。人・AI・人というサンドイッチ構造が大事だといえます。
林:AIは嘘をつくこともある。信頼性という意味では、AIはそのまま信じられる存在ではありません。だからこそ、ブランドがどこまで信頼できるのかを、人間がきちんと発信していくことが第一だと思っています。
堀口:AIで生成するものは、どうしても均一化に陥りがちです。一方で、その均一化を超えてちゃんとブランドらしさが出ている、良いブランドもあります。「ブランドらしさ」によって生活者とのつながりを作れているかどうか、つまり、「愛着」がある状態かどうかです。
愛着とは、愛情や信頼に基づいた結びつきです。我々は、ブランディングを愛着の醸成だと考えています。
多くのブランドが発信する情報は、企業目線の技術的な話に寄りがちです。生活者にとっての価値と十分に結びついていないこともある。誇りや親しみ、快適さ、喜び、安心、高揚感、懐かしさといった情緒的価値を、生活者の目線で発信できているかどうかが重要です。
林:懐かしさも世代によって違いますからね。そこは人しかわからない領域です。
堀口:どのターゲットに、どんな感情を提供したいのかを、ブランドとして紐解いていかなければ、伝わる表現にはならないと思います。
堀口:AIで作られた無機質なものに、感情をまとわせる。そのためにはブランドの意思を込めることが重要です。そのアプローチとして、我々はプロンプトの作り方に起点を置いて考えています。
堀口:例えば上図の左側は、いわゆるありきたりなイメージのように 、「こういうシチュエーションにしたい」というプロンプトで生成したビジュアルです。
一方で右側は、キーワードの中に、ブランドらしい言語、ブランドがまとっている感情や世界観を表す言葉を入れ込んでいます。それをAIが理解できる構造に翻訳した構文で生成したため、世界観や雰囲気が統一されています。
このような手法が、プロンプトアーキテクトという考え方です。これからは、AI用のブランドガイドラインも必要になると考えています。
堀口:ブランドらしさをAIに翻訳するには、その前に「ブランドらしさとは何か」を紐解く必要があります。そのためには、まずブランドそのものをしっかり理解しなければいけません。ここでは、アマナが手がけた2つの事例を紹介します。
堀口:一つは、日光の天然氷の蔵元が手がけるメープルシロップのイメージビジュアルの制作です。本プロジェクトは、ブランド理解から始まりました。
堀口:時間とコストの制約があった案件だったため、AIを活用したいという視点で入りました。ですが、ネットの情報だけで得たブランドらしさをAIで出力しても、それが「本当に企業が発信したい情報なのか」という疑問がありました。
そこで、日光の現地に足を運び、生産者の話を聞きながら、現地の自然を肌で感じました。
四代目徳次郎は、氷づくりを生業にしています。氷づくりにはきれいな水が必要で、そのためには森を守らなければならない。森づくりを通じて地域が潤う循環をつくりたいという思いが背景にありました。
我々は企業の持つ思いを理解した上で、メープルシロップの味の特徴を言語化し、それをビジュアルに翻訳しました。味わいをどのように色や質感、素材で表現するのか。思いを言語化し、さらに視覚言語へと変換するプロセスを重視しました。
林:言語化は大事ですね。最終的にプロンプトで指示を出す以上、言葉にしなければAIは理解できません。
堀口:アートディレクターは、ステークホルダーの共通認識を得るために言語化する力に長けていると思いますが、これからはそのスキルがさらに重要になると思います。
プロジェクトでは、AIでムードボードを作成し、方向性の合意形成を行いました。現地で得た「水のきれいさ」を表現の軸に定め、背景はAIで生成し、製品は撮影して合成する手法を取りました。
製品のリアリティや写り込みは重要です。背景だけAIで生成し、製品は撮影し、さらにプロジェクターで背景を投影して撮影するなど、透明感や光の映り込みを丁寧に設計しました。
堀口:全てをAIで生成するのは難しいですが、背景として活用することで世界観を醸成できます。ストックフォトでは調整できないアングルやニュアンスも、AIならコントロールできます。
関連記事:生成AIとクリエイターの共存:プロ向けマインドセット【日光メープルシロップ制作事例】
堀口:もう一つは、アサヒグループジャパンさんの酵母からできた非動物性ミルク「LIKE MILK(ライクミルク)」 の事例です。乳を使用しない、アレルギー特定原材料不使用の製品です。世界観づくりからパッケージ、Webまで関わらせていただきました。
堀口:本プロジェクトでは、クリエイティブコンセプトとして「Everything Under the Sun」を掲げました。製品のアレルゲンフリーという特性に焦点をあて、「太陽の下ではみんな平等である、誰にでも届くものでありたい」という思いを込めています。
クライアントにもその思いに共感いただき、そこからビジュアルをどうしていくかという議論が始まりました。
いくつかのビジュアル案をAIで生成し、世界観やコンセプトとともに提示。ベースとなる思いの共感があったうえで、それをどう表現するか。洗練系がいいのか、親しみ系がいいのか、シズル感を強めるのか、キャラクターで親しみを持たせるのか。いくつかの軸を立てながら、複数のバリエーションを生成し、方向性をすり合わせていきました。
堀口:イメージを共有しやすくなるという点で、AIは有効だと感じましたね。結果として、合意形成の迅速化につながったと思います。
林:パッケージのデザインだけではなく、その空気感のようなものが全体のビジュアルから伝わりますよね。
堀口:パッケージ単体でバリエーションを出すだけでなく、世界観ごと複数案を提示し、市場テストやリサーチにかけられる点もメリットだというフィードバックもいただきました。早く市場で確かめたいという観点からも、AIで世界観を可視化できることは効果的だと感じています。
プロセスの中でもAIは活用しています。カンプ作りの段階ではAIで世界観を具体化しながら、最終的なビジュアルへと落とし込んでいきました。
その過程で、「この製品を使ったレシピを提案してはどうか」といったアイデアもプランナーから出てきました。パッケージだけで完結させるのではなく、レシピ開発やLP制作へと展開していった事例です。
堀口:上図のLPのキービジュアルも、背景はAIで生成しています。効率化の側面もありますが、それ以上に大きいのは、「清々しい太陽の下で」という世界観を、プロジェクトメンバー全員で共有できていたことです。その共通認識があったからこそ、LPやレシピ開発といった別のアウトプットにも、ブレずに展開することができたといえます。
関連記事:アサヒグループジャパン|企画段階の新商品の世界観をPoCで可視化
効率化だけにフォーカスすると、ブランドの世界観は十分に引き出せません。重要なのは、その世界観をどう言語化し、どう共通認識として持つか。愛着をどう醸成していくかという点です。
林:最初にAIありきになると掛け違いが起きてしまう。間にAIがあって、それを人の作業で挟み込む。
堀口:我々アマナのA³では、「AI Brand Design」というソリューションを開発しています。AI Brand Designは大きく3つのステップによって、「ブランドらしさ」を保ったビジュアルの生成ができるようにサポートします。
堀口:まず重要なのは、ブランドの「らしさ」をきちんと言語化することです。クライアントのブランドガイドラインをお預かりし、ワークショップを通じて、その背景にある思いや価値観まで含めて言語化していきます。
林:ワークショップはやはり大事ですか。
堀口:大事ですね。ブランドに込められた思いを汲み取れるかどうかが重要なので、工数はかかりますが、このステップは欠かせません。ブランドを最も理解し、愛着を持っているのは企業の皆さまです。我々はその力をお借りしながら、ノウハウを共有し、共に言語化していくプロセスを設計しています。
次に言語化されたブランドの「らしさ」を、AIが理解できる構造へと翻訳します。企業が利用するAIサービスに合わせて構文を設計することも大切です。例えば、権利面での安心感から導入が進んでいるAdobe Fireflyを使用する企業には、Adobe Firefly向けの構文開発を行います。より広いAI活用を行う企業に対しては、それぞれのAIに適した形で構造化します。
さらに、生成物が本当に「ブランドらしいかどうか」を評価するAIシステムも開発しています。単に良し悪しを判定するだけでなく、「どうすればよりブランドらしくなるか」という改善提案まで行う仕組みです。ただし、その前提として、らしさが正しく言語化されていることが不可欠です。
こうした取り組みを通じて、クライアントのブランドを守ることがA³の役割です。
堀口:AI導入後の活用支援として、AIリスクマネジメント、社内勉強会やワークショップ、POC支援なども実施しています。
AIを単なるツールにとどめず、ブランド価値を高めるための構造として組み込む。そのための伴走支援を行っていますので、何かご要望があれば、ぜひお気軽にお問い合わせください。
▶ プランニング&デザイン|A³ | amana AI Architects
ブランドの「らしさ」を軸に、生成AIを活用したクリエイティブ設計・制作プロセスを構築。
ブランド戦略から表現設計、PoCまで一貫して支援します。
A³ | amana AI Architects 資料ダウンロードはこちら
花王|AI活用を促すワークショップでブランド作りはどう変わる
ダイキン工業|デザイン×UI/UX×AIで、創造性と発想力を強化する
アサヒグループジャパン|企画段階の新商品の世界観をPoCで可視化
ブランド表現を強化する生成AI活用術:事例&実践ガイド[FREE DOWNLOAD]
AIだからこそ描ける、極端なペルソナで創る未来のブランド戦略
CGクリエイターが実践するAI活用術──AIとの融合で広がる表現の可能性
プロンプト時代の言葉と創造性 〜EVOKE書籍出版イベント ゲストセッションレポート
![]()

A³ | amana AI Architects
A³ | amana AI Architects
A³|amana AI Architectsは、「AIの進化を、美意識の進化へ」というビジョンのもと、生成AIを“ブランドに最適化する”ソリューション「AI Creative Architecture」を核に、企業のブランド表現を次世代の制作基準へアップデートするプロフェッショナル集団です。