地方公務員と中央省庁で働く官僚らを繋げる『よんなな会』を個人の活動として主宰する総務省の脇雅昭さん。
一体何をきっかけにして立ち上がったのか。そして、『よんなな会』という日本全国の公務員を巻き込んだコミュニティはどんな仕組みで成り立っているのかをお聞きしました。
ー総務省の官僚である脇さんが地方公務員と官僚を繋げる『よんなな会』を立ち上げたきっかけは何だったんですか?
もともとは2010年に同期と、地方から出向している人たちを集めて飲み会を開いたことがきっかけでした。理由は3つあります。まず、総務省の人は、最初に地方に出向するのですが、僕は熊本県に赴いたとき、本当にたくさんの人たちと繋げてもらったので、その恩返しがしたかったからです。
次に、総務省に戻ったとき、行政だけじゃ世の中は良く出来なくて、実際に政策を使う人が何を考えているのか腹を割って話すことと、民間の人たちを含めていろんな人とコラボすることが大切なのだと、強く感じたから。
そして、地方から総務省に来ている20〜30代の人たちが、みんな頑張って働きすぎて、4月は元気だったのに、徐々にテンションが下がっていってしまうのを側で見ていて、職場に閉じこもるのではなく、外と繋がっていくことが大事だと感じたからです。
それに、組織を動かすのは難しいけれど、個人ならいくらでも動けるな、と思いました。当時は4年目くらいの職員だったので、「仕組みを作りましょう!」と言ったところでなかなか動かせないですよね。
でも、今の自分に何ができるか、と考えるのはすごく大事で、結局「偉くなったらやろう」ということは、偉くなってもやらないんですよ。だから、とりあえずやってみるしかないな、と思いました。
ただ、一時期僕が仕事で疲れて開催しなかったときがあったんです。すると、何事もなかったかのようにそのまま終わってしまって。
そのとき、僕が「やらない」と言ったら動かないようなものに価値はあるのかなぁ、と思い、自分がいなくても開催されるような仕組みを考え始めたところから、徐々に大規模化していきました。
ーなるほど。コミュニティを自走させるための仕組み作りを始めたんですね。
ー自走させるために、具体的にどんなことに取り組まれたんですか?
まず、もともと殺風景な会議室でやっていたのを、ワクワクするような企業のレセプションルームを借りて開催したり、かっこいいオープニングムービーを作って流したりして、入り口のハードルをどんどん下げていきました。
あとは、マスに呼びかけるのではなく、「個人」で呼ぶことを徹底しました。
みんなどうして『よんなな会』に来るかと言うと、信頼している知り合いからの「口コミ」から来ているんですよ。今は情報で溢れていて、不特定多数の人に発信できるからこそ「あなたに来てほしい」と言うメッセージが響くんですよね。そこに「◯◯さんが言うなら面白いんだろうな」という信頼の連鎖が生まれるんです。
そして、僕がコミュニティ作りで大事にしているのは、いかに自分が予期しないものを作るか、というところだと思っているので、最近では「わかりにくさ」を追求しています。まず、僕がよくわかっていないですからね(笑)。
実は、前回開催したときにアンケートを取ってみたら、「よくわからずに来た」という人が6割いたんですけど、「わかりにくいもの」に来るって無限の可能性だと思いませんか?
僕はそれがすごい価値だと思っているので、毎回あえて特定のテーマを設定せずに、いろんな人たちが出会うような場を作ることを意識しています。
ー「予期しないもの」を作るうえで、工夫されていることはあるんですか?
個人にスポットライトを当てること、新しいチャレンジをしていく、そしてゆるく在ることですね。
僕はここを、みんなで作る場にしたいと思っているので、会の途中で必ず「1分ピッチ」の場を設けています。そこで、自分がやりたいことなどをステージ上で1分間のプレゼンをしてもらうことで、同じ志を持った知らない人たちと仲間関係ができるんですよ。
あとは、ごはんもケータリングを頼むのではなく、ひとり一品ずつ地元のものを持ってきてもらうようにしています。そうすると、自分が持ってきたものだからみんなに食べてほしい、と呼びかけるようになるし、それぞれが故郷への思いを出せるから、みんなが主役になれるんですよね。
他にも、小規模の会では、個人の良さを伝えるために「他己紹介」をしたりします。たとえば、参加者のなかに世界2位のスイマーがいたとしても、自己紹介でそれを言うと、どうしてもドヤ感が出ちゃうじゃないですか。でも、それを第三者が言うことでナチュラルにその人の良さを伝えることができる。
僕は、コミュニティにはそんな「お節介」が大事だと思っています。
みんな誰かと仲良くなりたいという気持ちはあるけれど、恥ずかしくて話しかけられなかったり、ひとりぼっちの人に気付いても見て見ぬ振りをしたりしてしまいますよね。
そこを一歩踏み出せるようになるには、そんな、個人がやさしくゆるく繋がれる「お節介」な「仕組み」づくりが必要だと思っています。
また、『よんなな会』では、毎回何かしら新しいチャレンジをするようにしています。
最近では、パブリックビューイングを始めました。今までは東京と大阪でやってきて、今まで47都道府県から5000人くらいの公務員には会えたけど、これって公務員全体の1%にも満たないんですよね。
でも、この物理的・地理的制約を超えることで、『よんなな会』というコミュニティを理由に、地方でコミュニティが生まれるし、ひとつのコミュニティを媒介として330万人が繋がる方向性が見えたんですよ。
そうやって毎回「実験」をしながら進化し続けることは意識しています。
そして、自分が前に出ず、ゆるく在ることです。
『よんなな会』には代表も会員もいないんですよ。メンバーも毎回バラバラだし、「2年ぶりに来ました!」という人もいる。それは、「組織」というのは作った瞬間から古くなっていくものだと思っているからです。
だから、ゆるく繋がりやすい場所であってほしいし、もっと自分以外の人が立つ環境を作っていこうと思っています。
ーちなみに、今まで『よんなな会』ではどのような地域課題に取り組んできたんですか?
実は、地域課題を解決した事例はたくさんあるんですけど、ある日僕が興味をなくしちゃって。成果を記録することにそんなに価値はないな、と思ってやめてしまったんです。
それよりも僕が一番嬉しかったのは、下水道局の3年目の職員が『よんなな会』に参加して、「明日から、目の前にある仕事をもっと頑張ってみたいと思いました」と言ってくれたことなんです。それまで、下水道というのはあって当たり前で、誰からも感謝されない仕事で、まわりからは安定だね、なんて言われて悔しかったと言っていた職員が、この会をきっかけに変わった。
それを聞いたとき、「ああ、俺がやりたいのはこれだ!」 と思ったんです。
たしかに、華々しくて素敵な事例はあるけれど、それは「花火」のようなものだな、って。新しいものを生み出すんじゃなくて、今ある目の前の仕事をより頑張れるようになることのほうが、実ははるかに価値なんじゃないかと思ったんですよ。
公務員の人って、本当にスキルもあるし、価値のある仕事をやっている。だから、僕は『よんなな会』 を通じて、47都道府県の公務員みんなが仲間になって、目の前の仕事を頑張れるようになったら、それだけで日本はすごく良くなると思っています。
ー最後に、これから新しくコミュニティを作る人にメッセージをお願いします。
とりあえず、コミュニティを作ってみてから相談してほしいです(笑)。みんな、作る前に相談してくるんですけどやめてほしいですね。(笑)
どうしてかというと、頭のなかで考えている課題は起きるかどうかもわからないし、僕も長い間やっているけど未だに想像できないことが起きます。だって人は、全知全能じゃないじゃないから。
それに、やってみて行き詰まった課題は、みんなにとっても価値のあるものになるはず。まずはあれこれ考える前に、とりあえずやってみてください。