2021年9月29日~10月1日に開催された、世界最大級のコンテンツマーケティングカンファレンス“Content Marketing World 2021”で語られた内容から、来年のトレンドをうらなう本企画。前編に続き、ITジャーナリスト・大谷和利さんのレポートでお届けします。後編は、「BtoBにおけるコンテンツマーケティング」にフォーカスし、取り組むべき施策のポイントを解説していきます。
まず初めに紹介したいのは、“The Art of Storytelling : Telling True Stories Well”(ストーリーテリングのアート:真実のストーリーをうまく伝えるには)というキーノートセッション。スピーカーは、マーケティング人材育成を行うMarketingProfsのコンテンツ責任者であるアン・ハンドレイ氏だ。
コンテンツマーケティングのエキスパートとしてアメリカでは知名度の高い人物の1人だが、ステージに登場するなり巧みな話術で聴衆を惹きつけ、意外な切り口から、誰でも再現できるストーリーテリング構築法を説いた。
すでにご存知の方も多いとは思うが、この場合のストーリーテリングとは、企業のDNAや価値観、ポリシーなどを具体的なエピソードとして消費者と共有することを指し、自社のビジネスのあり方や製品、サービスの背景にある考え方に共感してもらううえで有効な手法である。しかし、ストーリーテリングの重要性を認識していても、効果的なストーリーの構成や組み立て方がわからないというマーケターも少なからず存在することをハンドレイ氏も認識している。
そこで、ストーリーテリングのテンプレートになりうる物語例として、「ルドルフ 赤鼻のトナカイ」(原題:Rudolph the Red-Nosed Reindeer)の例を採り上げた。日本でも知られたこの児童書は、作者のロバート・L・メイが自分の娘のために書いた詩が元になっている。彼の勤め先でもあったシカゴの通販会社Montgomery Wardが自社の宣伝用に書籍として制作販売したところ、250万部(再発行分を含めると、さらに350万部)のベストセラーとなったのだ。同社は、物語の主人公であるルドルフというキャラクターのおかげで記録的なクリスマスシーズンの売り上げを記録することができた。
ハンドレイ氏は、1939年発行のこの本こそがコンテンツマーケティングの元祖的存在なのだと指摘する。そして、そのストーリーを以下8つの要素に分け、マーケターが自らのプロジェクトに当てはめることで、誰もが水準以上のストーリーテラーになれると説いた。
「ルドルフ 赤鼻のトナカイ」の物語の骨子は、このようなものである。ルドルフは素晴らしい特徴を持ちながらも周囲に受け入れらずにいたが、吹雪がきっかけとなって能力が理解され、皆をハッピーにしたという流れが見えてくる。
そして、ハンドレイ氏は、この物語の骨子が、コンテンツマーケティングのストーリーテリングにも当てはまるという。つまり、ルドルフが製品(サービス)、サンタがその顧客であると捉えて、以下のように置き換えるのである。
赤鼻のトナカイが、小さな子どもでも知っているほどキャラクターとして浸透し、世界中で親しまれる歌にまでなったことは、取りも直さず、そのキャンペーンがコンテンツマーケティングとして大成功を収めた証といえる。このように身近な児童書が、実は宣伝用に制作されたものであったこと自体も驚きだが、逆に、そのくらい大胆な発想でコンテンツマーケティングを捉え、顧客の共感を得てコンバージョンに結びつけることが、今も求められているのである。
「BtoBの顧客は、必要な機材や製品、技術を調達する際に、できれば自分たちの力だけで行いたいと思っている」。
そう話すのは“Building B2B Buyer-Driven Digital Experiences”(BtoB向け顧客主導型デジタル体験を作り上げるには)というテーマでセッションを行なった、BtoBマーケティングコンサルティング企業Marketing InteractionsのCEO兼BtoBマーケティング・ストラテジストのアーダス・アルビー氏だ。
BtoB企業としては顧客に対してより優れた取引条件を提示できる可能性があるにもかかわらず、相手のほうは自分たちの側に購買の主導権があると思いたいがために、両者の思惑のギャップを埋めなければ理想的なBtoBビジネスは成立しない。そこでキーとなるものが、顧客主導型のデジタル体験であると、アルビー氏は説く。
既存の顧客主導型デジタル体験としては、SNSや検索エンジンを利用した情報収集、オンラインのレビュー記事を通じた情報取得、1対1またはコミュニティ内での対話などがある。そこに、マーケターが次のような項目をコンテンツマーケティングの一環として組み込むことで、顧客主導というスタイルを崩さずに、メッセージやアドバイスを届けることができる。
そして、次に挙げるような、購入前のプロセスを推し進めるための情報を提供したり、ウェビナーの開催などによって合意形成を加速させることで、コンバージョンを促すことができる。
・調達の理由となる現状の問題について、改善するに値することを示す。
・自社内では、その問題を解決できないことを示す。
・すべての関係者が参加して、問題解決に向けた合意を形成する。
・問題の放置が、問題を解決するよりコストがかかるとの共通認識を持つ。
最終的に、BtoBの購入判断の過半数は、製品やサービスの供給側企業の自信と、それに対する顧客企業からの信頼感によって下されるという調査結果もあり、コンテンツマーケティングを活用した信用の醸成が、より高いビジネス成果に結びつくとアルビー氏は結論づけた。
BtoCのみならずBtoBのコンテンツマーケティングにおいても、動画利用が効果的であると語るのは、デジタル・セールス・マーケティングのコンサルティング企業Vengreso共同設立者のビベカ・ボン・ローゼン氏だ。
ローゼン氏は、別名「LinkedInエキスパート」と呼ばれるほど、プロフェッショナル向けSNSのLinkedInを利用したマーケティング戦術の専門家でもある。そのため、セッションタイトルも“How B2B Sales Teams Can Use Synchronous and Asynchronous Video to Build Their Pipeline on LinkedIn”(BtoB企業の販売チームがLinkedInでセールスパイプラインを構築するための同期/非同期動画の利用法)というものであった。
この場合の同期動画とは、ウェビナーなどによるライブ動画配信を指し、非同期動画とは、オンデマンド再生できるアーカイブビデオなどを意味する。ローゼン氏のセッション内容は、次の3点に集約される。
これらの手法はLinkedIn以外のSNSでも可能な場合があるが、BtoBの場合にはプロフェッショナル同士のコミュニケーションとなるため、ローゼン氏は、LinkedInが最も適していると考えている。また、BtoB企業の社員がLinkedInにアカウントを作って自己紹介や専門領域を紹介することにより、組織の全体像が見込み顧客に伝わりやすく、信頼感も得やすくなるというメリットもある。
後編の最後は、BtoBマーケティングコンサルティング企業でブランディングやWebデザインも手がけるVelocity共同設立者のダグ・ケスラー氏と、同社開発部門の責任者であるデイブ・ウェルチ氏のセッション“Ask A Dev: Why Your Content Team Needs Developers!”(デベロッパーに訊け:コンテンツチームが外部リソースを必要とするわけ)の話題で締めくくりたい。
ケスラー氏は、現在のコンテンツマーケティングが、活版印刷を発明したグーテンベルクの時代からさほど進化していないと指摘する。それが意味するのは、今も、文字と図や写真の静的なレイアウトが主流で、情報を効果的に伝えるには不十分であるということだ。
一方で、ペーパーメディアとして長い歴史を持ち、保守的と思われてきた新聞業界でも、脱グーテンベルク時代への試みが行われている。たとえば、ニューヨークタイムズ紙のオンライン版でも、見せ方を工夫し、ビジュアル重視のストーリーテリングを採り入れることで、よりわかりやすく、印象に残る誌面作りを推進している。
人々がこのような新しい情報提示に慣れていくと、企業のコンテンツページが古臭く感じられてしまう懸念があるとケスラー氏は考えており、事実、現在のマーケティングコンテンツの99%は、1980年時点の技術でも制作可能なものばかりだと主張する。
しかし、最先端のデジタル技術を投入することで、コンテンツはよりインタラクティブなものとなり、見た目が魅力的になるだけでなく、エンゲージメントも一層深いものにしていくことが可能となる。ウェルチ氏は、以下6つの要素を備えたインタラクティブなコンテンツは、優れたコンバージョン率につながると解説した。
1. 没入感あるコンテンツ:
アニメーションや動画、インフォグラフィックス、埋め込み型のスライドショー、3Dなどを用いることで、より優れたユーザー体験がもたらされ、閲覧者のコンテンツへの没入感が高まり、アクションを促すことができる。
2. ユーザー中心のコンテンツ:
デバイスに応じてレイアウトが最適化されるレスポンシブデザインや、閲覧者の属性に応じて内容や見せ方をカスタマイズすることで、ユーザーに寄り添うコンテンツの実現が可能となる。
3. データドリブンなコンテンツ:
Webサイト内でのユーザーの行動や、入力した内容や滞留時間に基づいてナビゲーションを変化させることで、リードナーチャリング等の効果があがりやすくなる。
4.データが取得できるコンテンツ:
3とも関係するが、価値のあるコンテンツを提供する際には、それと引き換えに、閲覧者の同意の下にメールアドレスや属性につながる情報を得るための入力フォームを設定することにより、2のユーザー中心のコンテンツを実現しやすくなる。
5. SEOメリットのあるコンテンツ:
インタラクティブな要素をHTMLやCSS、JavaScriptなどの標準的なWeb技術で実現することで、Googleは一般的なWebページと同じように検索結果に反映し、特にエンゲージメントの強い要素が高く評価される。また、Google検索時の質問に対する回答となるページにも高評価が与えられるため、的確で使いやすいFAQページなどの整備も有効である。
6.更新や再利用がしやすいコンテンツ:
プロフェッショナルによって制作されたインタラクティブなコンテンツは、更新しやすく、構成の似たWebページを作る際にも再利用がしやすいメリットがある。
このように、コンテンツマーケティングには、デジタル時代に相応しいインタラクティブなコンテンツが求められているが、インハウスのコンテンツチームだけでは6つの要素をバランスよく満たすことが難しい面もある。そこで、外部のプロフェッショナルのノウハウや技術も利用しながら、自社に最適なコンテンツマーケティングを実現することが現実的であるというのが、ケスラー氏とウェルチ氏の結論であった。
アーダス・アルビー氏のセッションでも言及されていたように、BtoBビジネスはBtoCと比較しても、企業やブランドへの信頼感がより購入判断に結びついているところがある。その信頼感を得るために、デジタル技術を活用してコンテンツマーケティングを推進することがBtoB企業にとって有効であり、競合の中で自社を差別化し、見込み顧客に選んでもらううえで強力な味方となるのだ。
今回のレポートが、読者の方々の来年のコンテンツマーケティング施策に関して、少しでも参考になれば幸いである。
画像提供:Wetzler Photography
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編集:高橋 沙織(amana)
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