トランプ元大統領の「奇跡の一枚」と言われる銃撃写真についての考察

※本記事の内容は、政治的、宗教的な意図や主張を含むものではありません。意見や解釈は個人のものであり、特定の団体や思想を支持するものではありません。

ペンシルベニア州で起きたドナルド・トランプ氏の暗殺未遂事件は、ステージと観客の間に配置された数名のフォトグラファーによって撮影されました。この事件を最も広く流布した写真は、ピューリッツァー賞受賞のフォトジャーナリストでAP通信社のエヴァン・ヴッチによる一枚。

ヴッチの写真は構図や色彩、フレーミングの点において象徴的で、歴史に残る瞬間を捉えた写真であると数多くの専門家の議論の的となっています。

ヴッチの写真が注目されるポイント

トランプ氏が空に振り上げた拳やアメリカ国旗といった象徴的なモチーフが、いわゆる「三分の一の法則」に従ってフレーム内にまとめられている点など、ヴッチの写真の秀逸さが世界中のメディアで話題になっています。

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Image:Evan Vucci/AP/アフロ

「三分の一の法則」とは、構図を決める際に、画面を上下左右で三等分してデザイン要素を配置する方法です。ヴッチの写真では、人物や国旗が4つの交点に配置されており、法則に則った構図であることがうかがえます。ヴッチの写真が注目される点をさらに深掘りしてみましょう。

・絶妙な構図

ヴッチは、トランプ氏を囲むエージェントたちを見上げる角度から撮影し、トランプ氏が高みにいるように見せています。トランプ氏の右には、サングラスをしたエージェントがヴッチのレンズ(つまり私たち)を直視しています。このエージェントは視線を集める役割を担い、私たちの視線をトランプ氏の振り上げた拳へと導いています。

さらに注視すべき点は、この写真は色彩のバランスが絶妙であるということ。青空を背景に、写真全体は赤、白、ネイビーで構成されています。トランプ氏の顔を伝う血の色が、後ろにそびえ立つアメリカ国旗の赤いストライプと連動し、画像左下の共和党の赤と一致しています。これらすべての要素を一瞬でフレーム内に収めたヴッチのカメラワークは、まさに偉業とも言えるでしょう。

決定的瞬間の捉え方

ヴッチはインタビューの中で、決定的瞬間を捉えるためには常に冷静さを保つことが重要であり、広い視野で状況を把握することが必要不可欠であると語っています。

“I was present, and I did my job.”(訳:私はその場に居合わせて、自分の仕事をしたまで。)

出典元:FOX NEWS

銃撃後フォトグラファーたちがステージを撮影する様子。

混乱の中でも、冷静にカメラの設定を行うヴッチの姿が映し出されている(動画1分20秒〜)。

アマナによるヴッチの写真の分析

1979年に広告写真の制作会社として設立し、45年の撮影の歴史を持つアマナは、この写真は静止画の歴史に残る一枚だと考えています。アマナでプランナー・ディレクターを務める鈴木陸が、ヴッチの写真を分析します。

鈴木は、この写真が広く話題になっている背景として、トランプ氏の「勝利」「強さ」「未来」を強調する要素で構成された、完璧な一枚であるといいます。秀でている点をこのようにコメントしました。

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Image:Evan Vucci/AP/アフロ

さらに、SNSなどで引き合いに出されているウジェーヌ・ドラクロワの「民衆を導く自由の女神」について。女神は特定の人物ではなく、自由そして祖国への愛の象徴として描かれており、実在するトランプ氏とは意図が異なるが三角構図の共通点があると鈴木は指摘します。

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Image:ウジェーヌ・ドラクロワ「民衆を導く自由の女神」(publicdomainq

ピラミッドやプロビデンスの目(1ドル紙幣に描かれる)などに代表されるように、三角形は神秘性やエネルギー、三位一体、神の導きなどの意味を持っています。西洋東洋を問わず三角形は神聖な図形であり、安定や力の象徴として用いられてきました。

銃撃から数センチの差でトランプ氏が生き延びたこと自体の奇跡、一瞬の出来事の中で撮影したにもかかわらず完璧なイメージとなった奇跡。三角形の構図がこれらふたつの奇跡をより神秘的に強調し、偶然が必然であるかのように、人々の感情を大きく動かしたのではないか、と鈴木は語りました。

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ダグ・ミルズが偶然捉えた驚異的な一枚

出典元:The New York Times (@nytimes)

もう一点、話題の写真を見てみましょう。New York Timesのフォトグラファーであるダグ・ミルズが弾丸の軌跡を捉えた写真です。現場からわずか数フィートの距離に立って撮影したとされ、ミルズはそのショットについて言及しました。

「たまたまシャッターに指を置いたところ、ポンという音が聞こえたので、そのまま撮影を続けました。何を撮影したのか分かりませんでしたが、パソコンでファイルを開くと、彼の頭の後ろを飛んでいく弾丸が見えました。弾丸が写っているのはその1枚だけで、前後の写真にはまったく写っていません。私は 1/8000 秒で撮影していました。」

New York Timesによると、写真のExif情報から、ミルズがソニーの主力ミラーレスカメラであソニーのα1を使用し、1/8000秒のシャッタースピードで撮影したことがわかりました。

しかし、最速のシャッタースピードとバーストモードを使用しても、このような1枚を撮ることは非常にまれであることもわかっているといいます。飛行中の弾丸を捉えるには通常、高速カメラが必要であり、横方向の軌道にある弾丸を捉えることは、100万分の1の確率だといいます。飛行中の弾丸を静止画で撮るには、詳細な設定が必要ですが、ミルズによるこのショットはまさに異例でした。


ここまでヴッチ、ミルズによる二枚の写真を考察してきました。

特にヴッチが残した一枚は、三角形の構図や、歴史を通して芸術家たちによって黄金比とされてきた三分の一の法則が成立しているなど、見る人を魅了するポイントが巧みに盛り込まれていました。写真が持つパワーを再認識し、静止画の奥深さを突きつけられた今、視覚的なコミュニケーションの力について、改めて考える機会になりました。

※本記事の内容は、政治的、宗教的な意図や主張を含むものではありません。意見や解釈は個人のものであり、特定の団体や思想を支持するものではありません。

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