広告、マーケティング、メディア、テクノロジーの専門家が一堂に会し、最新のトレンドについて議論する場として「Advertising Week Asia 2024」が、2024年9月17日から4日間にわたり開催されました。これは、DX、消費者行動の変化、持続可能なマーケティング戦略、AIとデータ分析の活用など、100を超えるセッションで構成された国際的なイベントです。本レポートでは4つの切り口から、クリエイティブなコンテンツの今後についてご紹介します。
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コネクテッドTVに関するセッション数は特に多く、「コネクテッドTVの未来を語る 事業会社とプラットフォーマーによる最先端の事例と最新データのアップデート」、「USのCTV最新事情をアップデート」、「中国のCTV:スクリーンからエコロジーへの躍進」、「TVerが描くテレビの開放と未来」など、幅広いテーマで活発な議論が行われました。
コネクテッドTV(以下、CTV)とは、インターネット回線に接続されたデジタルテレビ端末を意味し、リニアテレビ(従来型のテレビ)と比較して、アドレッサビリティ(ターゲティング精度)やトラッキング(視聴データの分析)に優れていることから、特にマーケティングや広告業界から注目されている情報チャネルです。以下に、上記のセッションから得られたインサイトをまとめました。
CTVの視聴時間は日本で急増しており、テレビ視聴全体の24%を占めるまで拡大しています(2年前は12%)。しかし視聴シェアに対して、CTV向けの広告費は全体のわずか4%にとどまっているため、大きな成長の余地があるといえるでしょう。米国ではCTV広告のシェアがすでに30%に達しており、日本でも今後の広告投資の増加が期待されます。
TVerでは、コンテンツ再生の約35%がCTVを通じて行われており、長時間視聴や複数人での視聴が特に増加しています。従来の個人デバイスを使った視聴スタイルから、友人同士や家庭全体で共有される視聴体験への回帰が見られることは興味深いといえるでしょう。同じくTVerの事例では、ユーザーがスポーツコンテンツをきっかけにサービスを利用し始め、その後に、ドラマやバラエティなどの他のコンテンツを視聴するようになる傾向が確認されています。
スポーツコンテンツはアメリカでも強い存在感を示し、CTVでも多くのメジャーリーグやアメリカンフットボールの試合がストリーミング配信され、視聴者を引き付けてきました。シーズン制が多いスポーツコンテンツは、視聴者の定着率を高める意味からも効果的です。
CTVでは視聴者がより集中してコンテンツを視聴する傾向が見られ、地上波テレビよりもCTVのプラットフォーム上での注視率が高いこともわかっています。特に若い世代では、地上波とNetflixやTVerなどOTT(オーバー・ザ・トップ)サービスの視聴習慣が異なるため、これまでに増してターゲティングの重要性が高まりました。ちなみに「オーバー・ザ・トップ」という呼称は、「ネット配信されるコンテンツプラットフォームが、従来のテレビやラジオ、ケーブルテレビ、衛星放送などの既存の通信インフラの上に位置付けられる」という意味で名付けられています。
日本では、従来のテレビ広告が持つリーチ力やブランドセーフティに加えて、CTVのデジタル的な強みであるアドレッサビリティやトラッキング特性を活かした広告展開が進んでいます。しかし、現時点ではCTV広告に対する十分な戦略が確立されていないとの意見もあり、今後は従来のテレビKPIとは異なる、CTVに適した指標の確立が求められているとも指摘されました。
スバルの事例では、リニアテレビとCTVでは異なるメッセージング戦略を採用しており、前者では安全性を強調することで、特にファミリー層にアピールする一方、CTVでは車両の走行性能やインテリアの質感など、車種ごとの特性を伝えるコンテンツを配信しています。これにより、異なるターゲット層に適したメッセージを届け、効率的なマーケティングを実現しているのです。加えて、TVer上のキャンペーンにおける視聴完了率は95%以上と非常に高く、CTVが視覚的にインパクトのあるメディアとして機能していることが証明されました。
視聴者の広告に対する意識も変わってきており、特にデジタルネイティブ世代では従来型のインストリーム広告への抵抗感が強まっています。そのため、新しい広告フォーマットの必要性が高まっており、ブランドメッセージを視聴者に自然に届ける手法が今後の重要な要素となってくるとされました。
AbemaTVは、番組内にスポンサー製品を取り込むプロダクトプレースメントや、コンテクシャルオーバーレイ(視聴しているコンテンツに関連した情報や広告を、画面上に重ねて表示する)、スプリットスクリーン(広告要素を画面内にL字型などで表示する)など新しい形式の広告を導入しており、視聴体験を損なわずに広告を表示する取り組みが進められています。
ケーブルテレビ契約率が55%まで低下した一方で、89%の世帯がストリーミングサービスを利用するアメリカでは、CTVに特化した新しい広告フォーマットとして、視聴者が番組を一時停止した際に広告を表示する「ポーズアド」や、上記のコンテクシャルオーバーレイに相当する「フレームアド」なども試されています。特に「ポーズアド」は、番組を一時停止したときにユーザーは必ず画面を見ているという想定に基づいており、視聴者のアテンションを最大限に活用した広告配信が可能です。
新しい試みに積極的なアメリカでは、視聴データを活用して広告枠の購入や広告のターゲティングを自動的かつリアルタイムで行う、サーバーサイド・アド・インサーション(SSAI)技術を使ったプログラマティック広告も注目されています。現在はパブリッシャーダイレクトやPMP(プレミアムマーケットプレース)を介した広告枠の取引が主流の日本でも、そうしたリアルタイムのターゲティング広告が試用されるようになってきました。
さらに、全世帯の80%以上にインターネット接続が可能な大画面端末が普及している中国では、動画の前に挿入されるプレロール広告や、動画コンテンツ以外に配信されるアプリ内でのインタラクティブな広告が発展しており、その効果の高さから広告のプレミアム価格が約30%上昇。フィットネスや出前の注文もCTVのアプリから可能なほか、就寝時やリラックスしたいときなどの雰囲気作りのアプリも人気となっており、そのような領域での新たなコンテンツビジネスのチャンスも増えているそうです。
このように、CTVは成長が著しい分野で、特に若年層を中心に新しい広告機会を提供しています。日本、中国、アメリカの市場で共通しているのは、CTV広告の効果測定とターゲティングの重要性ですが、これからのマーケティング戦略においてはCTVの成長を踏まえたコンテンツのあり方を念頭に置く必要があることは間違いありません。
クリエイティブの方向性としても、視聴者に不快感を与えずに注視や態度変容を促すフォーマットの模索が求められ、それが新たなマーケティング戦略の一部として重要な役割を果たすときが来ようとしているのです。
このテーマでは、「カンヌ広告賞2024 – B2B Creative Awardから見えるインサイトとトレンド」、「韓国コンテンツの成功から読み解くソーシャル起点のグローバルマーケティング」、「クリエイティビティの可能性~若手クリエイティブ・アワード『ACC YOUNG CREATIVITY COMPETITION』と『U35 Creative & Communication Award』の各受賞者がそれぞれの視点で語る~」といった注目のセッションが行われ、それらから得られたインサイトを以下にまとめました。
フランス・カンヌで開催される、世界最大規模の広告・クリエイティブ業界の国際的なフェスティバル「カンヌライオンズ」では、これまで機能性や実用性重視で語られることが多かったB2Bマーケティングにおけるクリエイティブコンテンツのあり方に変化が起こっています。特に、近年創設された「クリエイティブB2Bライオンズ」には、今年371件の応募があり、その中で13件が受賞し、グランプリ受賞作品「Meet Marina Prieto」は、シンプルなアイデアながらも、感情に訴えかけ、成果を上げたキャンペーンの好例として紹介されました 。
B2Bマーケティングのコンテンツにおける「感情へのアピール」は、購買担当者が抱く「失敗への恐れ」を和らげ、ブランド選定において大きな役割を果たすことから、重要度が増しています。たとえば、ブロンズ賞を取ったHeinzの「ケチャップ詐欺」キャンペーンでは、少なからぬレストランが、ハインツのケチャップの瓶に安価な代替製品を詰め替えているという事実を踏まえ、その詰め替えを目撃した人から現場の動画を募集するというユーザー参加型の取り組みが注目されました。「そうしたレストランのケチャップ偽装の対象がハインツなのは、生活者がハインツブランドを求めているからだ」というメッセージを、B2B顧客に対してユーモラスに伝える手法が効果を発揮して受賞につながったのです。
今後は、パーパスドリブンなマーケティングや社会貢献を強調したメッセージがB2Bマーケティングでも主流になると考えられ、企業が提供する製品やサービスが社会に与える影響を明確にすることで、ブランドの価値が高まり、購買者とのエンゲージメントが深まるとされています。
B2Bマーケティングにおけるクリエイティビティの役割もますます重要になり、企業がバイヤーグループとの感情的なつながりを重視してユニークなアプローチを取り入れることで、より強力なビジネス成果を生むことが期待されているのです。
読者の皆さんもご存知のように、韓国のエンタメコンテンツやブランドは、グローバル市場で大きな成功を収めています。その背景には、ソーシャルメディアを活用したファンダム(熱心なファン層)の形成が大きく寄与してきました。SNSは、エンターテインメントとインターネットの伝播性の高さを密接に結びつけ、今や政治や経済をも飲み込む影響力を持つようになっています。ソーシャルメディアがファンダムを支える構図を維持するうえでも、多彩でアイデアに富むコンテンツが継続的に発信されていくことが重要です。
K-popグループに限らず、韓国のコスメブランドやアイウェアブランドなども、ソーシャルメディアでの発信を前提に消費者の共感を得られるようなブランドストーリーや個性を緻密に設計し、グローバルなブランドの露出とファンダムの形成を進めています。
ポップアップストアなどのオフラインでの体験をオンラインのソーシャルメディアと連携させていることも韓国ブランドの大きな特徴で、成功の要因は、体験価値の高いコンテンツやイベントがブランドのアイデンティティと直結していることにあるのです。
これからのクリエイティブコンテンツを担う若手クリエイターが実際の企業課題に挑戦し、創造性を発揮できる場を提供しているのが、30歳以下が対象のACC Young Creative Competitionや35歳以下を対象とするU35 Creative & Communication Awardです。このようなコンペティションは、若いクリエーターたちが自己成長の機会を与えられて実力を試す場となっており、自ら課題を解決し、アイデアを形にする過程で、通常の業務とは異なる視点での学びを得られることが大きな特徴となっています。
ACC Young Creative Competitionの受賞作である「社長になれる転職サービス ふるさと社長」(株式会社博報堂クリエイティブ局/コピーライターの堀池駿介氏と同社 クリエイティブ局/アクティベーションプラナーの倉嶋崇氏による)は、福島の地元離れと離職を防ぐコンテンツとして企画され、若者のキャリアアップ志向と地域の後継者不足の課題をつなぐソリューションとして高く評価されました。担当した若手クリエイターたちは、実際に現地を訪れてリアルな声を聞くなど、課題に対する徹底したリサーチに基づいた提案を行い、地域社会に根ざしたクリエイティブを実現しています。
また、U35 Creative & Communication Awardを受賞した「スリープアートミュージアム」(株式会社パズル ディレクター/プロデューサーの高井佑輔氏と同社 ディレクター/デザイナーの中村はづき氏による)は、AIを使った睡眠計測アプリのプロモーションとして企画され、技術とクリエイティブが融合する新しい可能性が示されました。具体的には、睡眠計測アプリのデータをユーザーが見た夢の内容と組み合わせて、生成AIに「睡眠絵画」と呼ばれるイメージを生成させ、その日の夜に作品がアプリ内のミュージアムに展示されるというものです。話題の生成AIを巧みに利用し、また、展示された作品を見ることが就寝前にアプリを開くきっかけにもなる点が評価され、受賞につながりました。
クリエイティブ業界においては、クリエーターたちが、広告だけでなくビジネス課題の解決や社会的課題に取り組むことが求められるようになってきています。AIやテクノロジーの進化により、従来の専門職が分業化される中、マルチプレイヤーとして幅広いスキルを持つことが重要視されているといえるでしょう。そのような変化の中で、これらのコンペティションは、若手クリエイターが技術革新や新たな課題に柔軟に対応し、クリエイティブの力で業界をリードしていく可能性を持っていることを示しているのです。
「Advertising Week Asia 2024」では、現在の消費者人口の中心的存在であるZ世代と、2025年に15歳を迎え、今後社会や消費市場での存在感が高まるα世代について、「Z世代の心を鷲掴み!注目を集める秘策とは」と「α世代に見える未来の衝撃 -これから起こるマーケティングと広告の変容-」という2つのセッションで行われました。そこから得られた主なインサイトをご紹介します。
Z世代はスマートフォンやデジタルプラットフォームに非常に親和性が高く、TikTokやInstagramといったソーシャルメディアを通じて日々の生活や文化に影響を受けています。特に、TikTokでのトレンドやフォーマットがZ世代の間で強く浸透しており、ブランドがエンゲージメントを高めるためには、これらのプラットフォームを効果的に活用することが不可欠です。
アメリカに拠点を置くDay One Agencyは、Z世代向けに独自のアプローチを展開しており、NikeやConverseなどの大手ブランドとも協力しています。彼らは、従来の広告やPR手法とは異なり、Z世代の文化やデジタルネイティブな特徴を活かしたストーリーテリングに力を入れています。なぜなら、感情に訴えるストーリーテリングがZ世代との繋がりを深めるために重要な要素だからです。
Z世代は、ブランドが提供する広告に対して非常に敏感で、オーセンティックかつ透明性のあるメッセージを求める傾向があります。従来の広告手法から離れて、本物の体験や信念に基づいたコミュニケーションを重視すべきであり、押し付けがましいプロモーションは逆効果となりがちなため、注意が必要です。一方で、有名アスリートやインフルエンサーが自発的に商品を紹介するようなキャンペーンは、Z世代からの信頼を得やすいといえるでしょう 。
アメリカと日本のZ世代には文化的な違いがあるものの、デジタル中心のライフスタイルは共通しています。日本市場では、Z世代が使用するアプリや消費行動がアメリカとは異なるため、グローバルな視点を持ちつつもローカル市場に適応した戦略が求められます。
Z世代向けのクリエイティブやマーケティングは、短期間で変わるトレンドに適応する柔軟性が必要です。たとえば、Day One Agencyでは、年に数回、自社のアプローチを見直し、トレンドに迅速に対応することを心がけているといいます。ブランドも同様に、柔軟なキャンペーン設計や新しい技術の導入を積極的に進め、Z世代の関心を維持し続けることが重要です。
いかに最新のデジタルコンテンツを活用できるか、そして、真摯なストーリーテリングによってエンゲージメントを強化できるかが、Z世代攻略の鍵となります。
α世代に目を向けると、Z世代とはいくつかの重要な違いがあることに気づくでしょう。Z世代はリアルとバーチャルを区別する意識があり、テクノロジーの発展に対して懐疑的になることもあるのが特徴です。α世代は、リアルとバーチャルの境界が曖昧で、AIや新しいテクノロジーをツールとして自然に活用し、問題解決や日常生活に役立てる傾向が見られます。
α世代にとってゲームは単なる娯楽ではなく、コミュニケーションツールとしての役割を果たす存在です。マインクラフトやフォートナイトのようなゲームは、α世代にとって友達とつながるための「場」として機能しており、オンラインゲーム内での待ち合わせや交流が日常的に行われています。これにより、彼らの社会的なつながりはデジタル空間で構築されることが多く、メタバース的な体験を日常の一部としているともいえるでしょう。
さらに、α世代はメタ認知も得意です。メタ認知とは、自分自身の認知活動(思考や学習のプロセス)を客観的に理解し、管理する能力のことを指します。つまり、「自分がどう考えているのか」「どのように学んでいるのか」を認識し、意識的にコントロールできる能力のことです。これは、単に知識を持っているだけでなく、その知識をどう使うか、どう改善するかを理解するプロセスを意味しており、α世代はそういう面に優れた特質を持っています。
α世代はマルチデバイス環境で育ち、複数のデバイスを同時に使用することが日常的です。テレビをBGM代わりにしながら、スマートフォンやタブレットでゲームや動画を楽しむなど、異なるメディアを同時に操作することが当たり前の習慣となっています。このため、α世代向けのマーケティングは、一貫性のあるメッセージを異なるプラットフォームで統合的に提供することが必要です。
ただし、α世代は「消費」という行為に対してネガティブな側面を感じる傾向がある点には注意してください。無駄な消費を避け、持続可能性や社会貢献に価値を置くエシカル消費が、Z世代以上に強まっているためです。実際のところ、α世代の若者は「エシカル」という言葉自体には馴染みが薄い傾向が見られるものの、無意識的にエシカルな選択をすることが多く、ブランドは彼らのそうした価値観に寄り添うことが求められます 。
α世代は、ブランドに対して過去の世代とは異なるアプローチを持っています。ブランドを記号的なものとして捉える傾向が強く、ブランド名に固執することはありません。そして、具体的な製品やサービスの価値に基づいて選択を行います。そのこともあって、ブランド側はα世代に対して「信頼」や「透明性」を重視したメッセージを発信し、彼らの価値観に見合うコンテンツを提供することが重要なのです 。
今後、α世代が消費の中心となるにつれ、従来のマーケティング手法は見直されていくことでしょう。個人のニーズや価値観に合わせたターゲティングや、リアルタイムでのフィードバックを反映したプロダクト/クリエイティブ/コンテンツの開発も、一層重要になっていきます。
昨今のトレンドを反映して、生成AIに関するセッションも多く見られました。ここでは、「ドコモとインテージの挑戦!データとAIが創る未来」、「博報堂DYグループにおけるAI活用の『3つの地平線』と『人間中心のAI』」、「生成AIが引き起こす真のGame changerとはなにか? トップランナー達の視点」、「AIとビッグデータが変革するDOOH広告の“今”と“未来”」、「AIで中国マーケティングの新時代を切り拓く」といったセッションからのインサイトをまとめています。
AIをデータ分析に利用するという方向性では、AIとビッグデータを活用することで屋外広告、看板広告、交通広告などのOOH(アウト・オブ・ホーム)広告が大きく進化しつつあります。たとえば、ドコモの位置情報データを活用し、広告を見た人の数をリアルタイムで把握したり、その後の行動を追跡することが可能です。これにより、広告の効果検証が詳細に行われ、PDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを効果的に回すことができるという強みが生まれます。また、このことがターゲットのパーソナライズやクリエイティブの最適化にも貢献し、効率的かつ効果的な広告配信が実現されるようになる見込みです。
こうした可能性を追求するために、ドコモは電通、および博報堂DYメディアパートナーズと共にLive Boardという新会社を組織し、DOOH(デジタル・アウト・オブ・ホーム)広告市場の拡大を目指しています。そして、AIをDOOHの企画と体験の両方に活用するという切り口で、クリエイティブへの応用を行ってきました。
たとえば、古いビルの壁面に、窓を目や口に見立てた動画を表示するディスプレイを配置して、ビルの歴史をインタラクティブ語らせる「話すビル」や、生成AIで人格設定を行った「AIペルソナ」に質問をしてクリエイティブに対する反応を事前に探るなどの試みが行われています。
博報堂DYグループは「人間中心のAI」を掲げ、AIの活用を単なる生産性向上のツールとして捉えるのではなく、人間のクリエイティビティをさらに進化させ、拡張するものとして取り組んでいます。このビジョンに基づいて、2023年4月に「ヒューマンセンタードAIインスティテュート」を立ち上げ、生活者と社会に役立つAI技術の研究・実践を進めるようになりました。
同社のAI活用には、「社内でのAI活用」、「顧客価値創出」、「ビジネスエコシステムの構築」の3つの柱があり、エンジニアの負担軽減のために、非エンジニアでもAIアプリケーションを開発できる環境を整備し、現場での柔軟な対応を可能にしています。
例えば、顧客向けの生成Ai活用としてホンダと協力した「Honda Dream Loop」というクリエイティブ生成キャンペーンを実施しました。これは、来場者が自分の夢の車をプロンプトで入力すると、それに基づいた設計図が生成され、現場でステッカーとして持ち帰ることができるというもので、AIが企業と生活者を結びつけて、新しい形のクリエイティブ体験を提供する事例になっています。
さらに、7000ものペルソナを生成し、生活者の嗜好や行動をAIでシミュレーションする「バーチャル生活者調査」というAIソリューションも提供しており、商品の市場投入前に仮想的なインタビューを実施することを可能にしました。これは、製品やサービスの企画段階での意思決定を効率化するものです。
海外でも生成AIを利用した広告クリエイティブが進化しています。 例えば、ドッグフードブランドのペディグリーが保護犬の里親を探すキャンペーンを行う際に、実際の保護犬の写真から生成AIでリアルなアバターを作り出し、さまざまな告知ポスターのフォーマットに合わせてポーズを作り出すというクリエイティブが目を引きました。
また、広告用の自動車のイメージなどを生成させると、リアルでありながらどこかに嘘の要素が混ざってしまう生成AIの難点を補うために、CADデータに基づくCGIと生成AIによる背景を組み合わせることが、現時点では最良の利用法であるとの提言もありました。この手法は、実際にBMWグループによって採用されているものです。
特に中国では、生成AIによるAIGC(AI-generated content)が広く認知されており、48%のブランドがAIGCを導入しているとのことです。
中国のトップ広告代理店であるDNSメディアは、AIを基盤にした「フルチェーン・マーケティングエコシステム」を構築しており、このシステムはマーケティングのプロセス全体をAIがサポートすることが大きな特徴となっています。中でも、AIを用いたビデオ生成やデータ分析機能は、従来よりも短時間で大規模なコンテンツ制作が可能となり、生産性と品質が向上しているとの報告がありました。
「Advertising Week Asia 2024」で披露されたこれらのインサイトは、今後のクリエイティブなコンテンツのあり方や方向性を明確に示しているといえます。読者の皆様が、明日のクリエイティブを共に作り出していくための参考にしていただければ幸いです。
※本文中の図版は、すべて「Advertising Week Asia 2024」のセッションからのものです。
取材・文:大谷和利
プロフィール:テクノロジーライター、AssistOn取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツ、スティーブ・ウォズニアックのインタビュー記事をはじめ、コンピュータ、カメラ、写真、デザイン、自転車分野の文筆活動を行うかたわら、製品開発のアドバイスなども行う。主な著書・監修書に『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社)、『ICTことば辞典:250の重要キーワード』(共著。三省堂)、『ビジュアルシフト』(監修。宣伝会議)、『インテル中興の祖 アンディ・グローブの世界』(同文館出版)。主な訳書に『Apple Design日本語版』(AXIS)、『スティーブ・ジョブズの再臨』(毎日コミュニケーションズ)。最新刊「ルンバを作った男 コリン・アングル『共創力』」(小学館)
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共感や信頼を通して顧客にとっての価値を高めていく「企業ブランディング」、時代に合わせてブランドを見直していく「リブランディング」、組織力をあげるための「インナーブランディング」、ブランドの魅力をショップや展示会で演出する「空間ブランディング」、地域の魅力を引き出し継続的に成長をサポートする「地域ブランディング」など、幅広いブランディングに対応しています。