NTTデータとアマナの協業により、「パーソナル化したビジュアルコミュニケーションの実現に向けたプロジェクト」がスタートしました。これは、NTTデータが開発したデジタル技術とアマナのビジュアライゼーションが融合したもの。
このプロジェクトを推進している両社の担当者が集合。NTTデータの有定倫晶さん、宮村和志さん、宇麼谷(うまや)則子さんと、アマナの油谷信亮、山本章夫、張替誠が、本取組みが生まれた背景や今後の展望について語りました。
※参考:NTTデータとアマナの新プロジェクト「パーソナライズド・ビジュアルコミュニケーション」で新たな顧客体験の実現へ
――「パーソナル化したビジュアルコミュニケーションの実現に向けたプロジェクト」が生まれた背景について教えてください。
有定倫晶さん(NTTデータ/以下、有定):近年のデジタル化によって、私たちは多種多様な情報に簡単にアクセスできるようになりました。特にSNSの発展は、マスメディアから情報を一方的に受け取る従来の形から、自分から能動的に情報を取りにいくという、人々の行動を大きく変化させています。こうした時代において、消費者は自身の個性や好みに近い情報を閲覧する機会が増え、同時にそうした情報をより好むようになっており、従来のように画一的な情報をマスに向けて発信するのではなく、消費者1人1人の個性や好みに最適化された情報を企業が届ける、つまり、パーソナル化されたコミュニケーションが当たり前の社会・時代が来るだろうと考えました。
その中でも、ヒトの行動・選択において重要な因子となる視覚情報=ビジュアルコンテンツについては、従来手法でビジュアルコンテンツを多様化することは時間・コストの問題により難しい現状があったため、ならばデジタル技術を用いて、こうした時代の当たり前となるようなインフラを作りたいと考え、このプロジェクトが始まりました。
――プロジェクト推進にあたり、パートナー企業としてアマナを選んだ理由をお聞かせください。
宮村和志さん(NTTデータ/以下、宮村):3DCGなど、ビジュアルコンテンツ制作で専門性のある知識・経験が必要だったからです。我々が開発しているビジュアルコンテンツを自動的に作り出すシステムでは、3Dデータをインプットデータとして活用しているのですが、テストで作成したビジュアルコンテンツのクオリティをいいか悪いか判断して、お客様の要望に応えられるものを作るには、当社の知見だけでは不十分であると痛感し、クリエイティブのプロフェッショナルであるアマナさんのサポートが必要だと考えました。
山本章夫(アマナ/以下、山本):2021年に協業がスタートしたのですが、当時、アマナでは360度フォトスキャンを行っていました。アパレルCGもやっていたので、そのクオリティや取り組みをご存知だったのですよね。
――「パーソナル化したビジュアルコミュニケーションの実現に向けたプロジェクト」において、NTTデータが開発するシステムとは具体的にどのようなものなのでしょうか?
宇麼谷則子さん(NTTデータ/以下、宇麼谷):3D衣服データとアマナで制作したAIモデル画像を自動合成処理して、ビジュアルコンテンツを作るものです。今までの撮影やCG制作では、実商品の必要性、また、その他の素材の手配など、時間・コストの壁が存在していましたが、本システムを用いることで、身長や体型、肌色、服の色や形など、個々のニーズに合う多様なバリエーションを制作することができるようになります。
下記の画像の量であれば1カット10分くらいで完了しており、実商品がなくても素早くビジュアルコンテンツを生成できるのが画期的です。
張替誠(アマナ/以下、張替):以前であれば1カット制作するのに丸一日かかっていたんですけどね。
有定:機械的にビジュアルコンテンツを作る技術は他にもありますが、我々は3D衣服データを1つひとつシミュレーションすることによってサイズ感や体系に合わせたシワ感を表現できるように日々改善を続けています。
こうした表現に拘る細部については、技術的な難易度が非常に高いのですが、宮村や宇麼谷がトライ&エラーを繰り返して、より品質の高いビジュアルコンテンツができるものへと進化し続けていると思います。
宮村:3Dデータはその加工が非常に難しく、ヒトの手であっても重ね着などを行うことは難しいのですが、アマナ様と一緒に検証を重ねることで難易度が高かった重ね着、たとえばTシャツの上にジャケットを重ねるといったことも自動化できるようになりました。
張替:アマナでも、CGチーム全体で取り組みました。服だけに限らず、ライティング環境やカメラの位置にこだわるフォトリアルなCGにチャレンジしていたので、その技術が生きたんだと思います。
宇麼谷:他にも、服にはいろいろな生地や素材があって、それらを自然に見せられたらいいなと思っていました。色だけじゃなく、素材感を出すのは本当に大変で。
宮村:そうなんですよね、光沢感とか難しくて。どのパラメータを調整すればいいのかを張替さんに設定を教えてもらいながら作っていきました。影の出し方なども。
山本:アマナが培ったCGの技術やノウハウがこのソリューションの開発に役に立っているということで、開発へのモチベーションが高かったですね。アパレルCADデータを提供してくれたデジタルクロージングさんと共に、3社が同じゴールを目指してプロジェクトを進めていけたという実感がありますね。
――本システムを活用するメリットについて教えてください。
宇麼谷:アパレル業界においては、ビジュアルコンテンツを作る際には、モデル、服、カメラマン、スタイリスト、ヘアメイク、とさまざまな準備が必要ですが、本システムでは3D衣服データさえあれば多様なビジュアルコンテンツが制作できます。
事業者が一人ひとりの消費者の個性や好みに合わせたビジュアルコンテンツを作るとした場合、従来の撮影やCG制作では経済合理性が失われてしまいますが、本システムを活用することで経済合理性を失うことなく、パーソナル化したビジュアルコミュニケーションを実現できるようになると思います。
今後は、3D衣服データをもっと活用して、カスタマイズされた服が提供されるようなシステムを目指したいですね。
――今後の広告制作が変わっていきそうですね。
有定:そうですね。確かにこうしたビジュアルコンテンツの制作が機械化されていますし、広告制作にもこうした流れは広がっていくでしょう。
しかし、我々の取組みは、従来のビジュアルコンテンツ制作の手法の代替になるものではないと思っています。
企業には、自社のブランドアイデンティティを表現する究極のコンテンツが、認知や理解を深めるうえで必要かと思いますが、機械的にこうした究極のコンテンツは作り出すことは難しいのです。そこには、モデルさんのような繊細な表現力や、クリエイターさんの独創性が欠かせませんから。
我々のシステムでできることは、企業の意向を踏まえつつ消費者寄りのコンテンツを多様に生み出せるということ。企業のイメージを伝えるためのコンテンツと消費者にとってメリットがあるコンテンツの使い分けなので、両者がうまく共存していく形を取れるようにしていきたいです。
油谷信亮(アマナ/以下、油谷):その通りですね。キービジュアルは企業のブランドを表すアイコンとして存在して、それを補足するコミュニケーションツールとして我々の取組みが広まっていくのが理想に近いかなと捉えています。
山本:世の中のDX化が進んでいく中でアパレル業界はまだまだ、という印象があります。DXを取り入れるのにこういう切り口があると我々から発信していけばいいし、業界のコミュニケーションのスタイルを変えていけるソリューションになるかもと期待しています。
油谷:サプライチェーン全体の改革にもつながるかもしれません。世界では服の廃棄による環境破壊が問題になっていますが、パーソナライゼーションが進めば余分な服を作らなくてもよくなるはず。大量生産をしなくて済めば、アパレル業界におけるSDGsにも貢献できそうです。
――「パーソナル化したビジュアルコミュニケーション」は、どのような分野で活用されそうでしょうか?
有定:現段階では、消費者の行動や選択において視覚情報の影響力が強いファッション業界での活用を中心にこの取組みを広めていく方針です。
一方で、我々が生み出すことのできるビジュアルコンテンツは「人」「服」「シーン」の3要素で構成されたものですので、極端なことを言えばすべての業界で活用することが可能だと思います。
今後、消費者と事業者の間におけるコミュニケーションにおいて、パーソナル化したビジュアルコンテンツを提供することが、お客様の事業に貢献できると道筋が立証できれば、自ずと他の分野でも使っていただけるだろうと予想しています。
――課題はありますか?
宮村:技術的には、ポケットに手を入れるポーズを作るのが難しいなどまだビジュアルコンテンツの表現に拘る制約は多いです。重ね着は2枚まで、チューブトップも表現がまだ難しいですね。
靴に関しては、今はスニーカーや革靴などローカットのものばかりなので、ヒールがある靴も今後作れたらいいなと思います。他には、バッグのような小物を持たせられるようにしたいです。
もちろん自動化という点では限界が見えてくることもあるかと思いますが、こうした課題をどんどん解決していきたいです。
張替:ファッション写真では、モデルがポケットに手を入れていたりバッグを持っていたりするシーンが多いので、その表現ができるようになったらもっと自由なポーズをいろいろ作れると思います。ウエディングドレスも今後のチャレンジですね。
――課題はありつつも、顧客体験のパーソナル化は、企業としてどのような意義があるとお考えですか?
有定:いちばんは、消費者とのつながりが深くなる、つまり、消費者のブランドロイヤリティやエンゲージメントを上げることができることだと考えています。
ビジュアルという視覚情報は、ヒトの行動や選択において非常に重要な因子です。
また、既にパーソナライゼーションという手法は、消費者エンゲージメントやロイヤリティを高めることに有効な手段と言われていますが、ヒトの行動・選択に強い影響力を持つ視覚情報がパーソナル化された場合、事業者と消費者の間はさらに緊密なものになっていくのではないかと推測しています。
また、顧客体験がパーソナル化していくことにより、消費者の細かい情報が企業に入るようになります。
例えば、細分化された個人の好みや個性をサプライチェーンの上流である企画や販売計画に生かすことで量の最適化につながるかもしれません。
つまり、コミュニケーションをパーソナル化していくことで、消費者とのロイヤリティを高めていくだけでなく、そこで得られる情報・データをもとに今までのサプライチェーン・バリューチェーンをより効率性の高いもの、または、より利益性の高いものへとシフトしていくことができる可能性があるのではないでしょうか。
ビジュアルコミュニケーションのプロフェッショナルのアマナさんとは最適なコミュニケーション設計を目指したくて、店舗、EC、SNSとそれぞれのチャネルで企業にとって何がベネフィットがあり、かつ消費者にとってもメリットがある形になるか、その追求を一緒にやっていきたいですね。
油谷:ありがとうございます。アパレル業界各社が賛同して参加する形になればいいですし、将来的には他の業界にもより多く活用していただきたいですね。
山本:御社との出会いがなかったら、アパレル分野におけるCGの進化はスタックしていたかもしれません。コンサルティングからシステム構築に至るまで強みを持つNTTデータの技術とアマナというクリエイティブの会社の技術が融合したことで、より世の中の役に立つ展開になりそうだとワクワクしています。
今後は、御社のグローバルネットワークによるデータ活用に期待がかかりますし、我々のビジュアル制作にもまだまだポテンシャルがあるはずなので、この取り組みがまた違う社会課題の解決につながるのではと期待しています。
取材、文:大橋智子
撮影:カクユウシ(アマナ)
Top画像:中村圭佑