デザイン界の新動向:イベントを通じて学ぶ現代トレンド

vol.158

paper collage

Text by 徳尾厚

SPEAKER スピーカー
  • 秋元 陸 (スタイラス ジャパン株式会社)

ヨーロッパの各国で毎年開かれるさまざまなデザインイベントから、デザイントレンドの「今」や「これから」を知ることができます。デンマークで2024年6月に開催された「3days of design」は、年々規模を拡大し、世界的にも注目を集めるデザインイベントです。

今回のウェビナーでは「STYLUS」の秋元陸氏が登壇し、「3days of design」で特に注目を集めたデザインを挙げながら、トレンドを予測しました。

北欧デザインから世界のトレンドを知る「3days of design」

ヨーロッパでは、イタリアの「ミラノデザインウィーク」やフランスの「メゾン・エ・オブジェ」、ドイツの「イスポ」など有名なデザイン系のフェスティバルがありますが、近年注目が高まっているのが、デンマークのコペンハーゲンで毎年6月に開かれる「3days of design」です

 
 
 
 
 
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3daysofdesign

2024年は400以上の出展者が集い、大会場のほか街中のアパートメントの一室などコンパクトな空間も利用し、コペンハーゲン内の複数地区で展示が行われました。

北欧系の家具や空間デザインは日本でも人気があるため「日本人の肌感覚には合っている」と秋元氏。3days of designから、日本の企業にとっても多くの面白い発見やインサイトを見つけることができます。

移り変わるライフスタイルに順応できる可変式デザイン

今回の3days of designで目立ったのが、可変式の家具です。

従来、家族が増えたり仕事の都合で引っ越すなどライフスタイルの変化に合わせて家具を買い替えることが一般的でした。しかし、最近は環境不可軽減やサステナビリティへの意識、インフレの影響もあって、人々は同じものを長く使おうとする傾向にあります。そのため、生活様式の変化に合わせてユーザー自身がレイアウトを自由に変えられる家具が多く見られました。

・組み合わせ自由なモジュール式ソファ

vitra.のソファは座面や背もたれなど複数のモジュール(部品)を自由に組み替えることができます。

テレビがリビングルームの主役であった従来、ソファはテレビ前が定位置でしたが、スマホやタブレットの普及に加え、コロナ禍を経て在宅勤務が増える中でリビングでの過ごし方も変わりつつあります。そうした変化に合わせてレイアウトを自由に組み替えられるソファは、vitra.をはじめとしたいくつかのブランドから提案されていました。

 
 
 
 
 
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vitra./Soft Modular Sofa

・ランプシェードの方向で雰囲気を演出する照明

Midgard Lichtによる照明「LOJA」は、丸みを帯びた、帽子のつばのようなランプシェードが特徴的。シェードの向きや方向を調整すると、室内の光の当たり方が変わります。シェードを可変式にし、光の濃淡を生じさせる柔軟性と遊び心が評価されています。

 
 
 
 
 
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Midgard Licht/LOJA

・自由なカスタムを楽しめる家具

収納家具にも可変式が増えています。Desaltoのブックシェルフは、スチール製でマグネットによってモジュールを組み換えられます。磁力は強力で本を何冊か入れたくらいではモジュールが分離することはありません。フィルムを貼ることで色も自分好みに変えられます。

 
 
 
 
 
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Desalto/Rebus

Stringの収納棚は一定間隔に空いた穴をネジでつなぐことで、モジュール同士を縦にも横にも自由に組み合わせることができます。機能性を重視した棚としてつなぎ合わせたり、デザインアイテムとして置いたりと、ユーザーは自由にレイアウトを変えられます。

 
 
 
 
 
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String Furniture/Center Center

昨今、経済成長に伴う大量生産・大量消費の時代が終わり、持ち物を最小限に留めるミニマリズムや、消費を最小限に抑えるアンダーコンサンプションといった考え方が生まれています。特に北欧では、持ち物をメンテナンスし長く使い続け自分に合うものにしていく方が、環境にやさしく格好いいライフスタイルだと捉える風潮が高まっています。

可変式のプロダクトは、このようなアンダーコンサンプションの考え方からも注目されているといえるでしょう。

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疲れた現代人に癒しや遊び心を提供する

インテリアデザインのトレンドに影響を与える要素のひとつに、ユーザーの「心」があります。3days of designでは、時間に追われる現代人のストレスを軽減するような遊び心をくすぐるアイテムが多く見られました。見た目が可愛く、面白みがあるだけでなく、機能性も合わせ持ったものです。

・動きを感じさせるシーリングライト

Ladies & Gentlemen Studioのシーリングライトは、布を組み合わせたデザインが特徴的。窓から入る風やエアコンの風によって布が動くことで、涼し気な雰囲気や神秘的な光を演出し、見る者の好奇心を刺激します。

 
 
 
 
 
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Ladies & Gentlemen Studio

照明だけでなく、椅子などの家具にも「癒し」の質感を持ったものが多く見られました。秋元氏は、いくつかのブランドの椅子を挙げながら、「見るからに柔らかそうで、肌触りが良さそう。木材は丁寧にやすりがけされ滑らかな触り心地」と分析します。

消費者は今、 日々の生活の中で、癒やしやリフレッシュを求めています。ソファやベッドのような大きな家具だけでなく「ちょっとした小型家具にも癒やしのコンセプトが詰められているのは北欧らしさもあり、世の中の時流がうまく込められている印象がある」と秋元氏は解説します。

今後の注目トレンドとなり得る北欧×レトロ

2年ほど前から、色々なデザインイベントで「レトロ」がひとつのコンセプトになっています。1960年代後半から80年代頃までの時代を意識したデザインを北欧家具の持つ機能性やスタイリッシュさ、シンプルさに落とし込んだ「北欧×レトロ」が多く見られました。

 
 
 
 
 
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&Tradition/Daystak Desk

&Traditionによるブナ無垢材を使用したデスクとチェアは、デスク下に蟻継ぎが見える引き出しを配置した古典的で美しいデザインと、現代的なシンプルさを兼ね備えています。

北欧家具にはもともとレトロ的な要素があったものの、昨今はさらに重厚感を持たせながら、より機能的でスタイリッシュなデザインが重視される傾向にあります。秋元氏は「来年以降、直近のレトロブームに牽引されて『北欧×レトロ』というアプローチも徐々に増えてくるだろう」と予測しました。

企業レベルでサーキュラーデザインを追求

デンマークを含む北欧は、環境への意識も非常に高いことで知られています。リサイクルを前提に製品の生産を進めるサーキュラーエコノミー(循環型経済)や、それを実現するために耐久力が強く修理もしやすい製品設計するサーキュラーデザイン(循環型デザイン)も、多く取り上げられていました。

「木製家具の生産拠点を森の中に置いて、自然環境にプラスとなる生産活動を模索している」と秋元氏は説明します。原料調達から加工、消費者に届けるまでのサプライチェーン全体をデザインしたり、環境に配慮した新素材を取り入れるなど、大きなインパクトを生み出そうとしています。

・廃材から新しい素材を生み出す

例えば、アウトドア用の椅子であっても、梱包材や端材など業務上発生する廃棄素材をプレッサーで押し固めたものを材料にするなど、サステナブルなプロダクトも多数見られました。

これらのプロダクトは、ただ廃材を利用するだけではなく、デザイナーとともに、どのようにデザイン性と効率性を落とし込むかまで熟考されています。

こうした廃材を利用した素材は木材などに比べて重量が軽いのも特徴です。秋元氏は「重さを抑えることは、配送・物流における二酸化炭素排出量を減少させることにもつながる」と指摘し、軽量化も環境に対する大きなテーマだと言います。デザイン性があり、軽くて丈夫な家具を作成することは、環境にとって大きな価値を持つため、北欧家具メーカーが積極的に取り組んでいます。

例えばSMALLrevolutionは、廃材を利用した花瓶を、廃材の提供元である企業にも販売。企業は自社の製造過程から生まれたと言える花瓶を購入し、社内に置いたり社員にプレゼントすることで、自社の価値も高められます。

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SMALLrevolution/Wangari

こうした動きは「環境への意識が高い北欧の人たちに、すごく相性が良いコンセプト」だと秋元氏は解説しました。

透明度をプラスした北欧カラー

ウェビナーでは、北欧らしい「色味」に新たなニュアンスが登場していることにも言及されました。従来、北欧カラーといえば水色やピンクといったパステルカラーなどの色合いメインでした。しかし、今回の3days of designでは、パステルカラーにさらに透明度がプラスされたカラーが多く見られたと秋元氏は話します。

 
 
 
 
 
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Helle Mardahl Studio

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Reflections Copenhagen

台やコップといったテーブルウェアや、照明などに多く見られます。これらの小物に透過性を持たせることで、北欧家具らしい色の華やかさや明るさ、ポップさはそのままに「癒し」を与えられる北欧ならではの遊び心だといえるでしょう。同時に、青や黄色、赤などの強い色を柔らかくする効果もあり、透明度をプラスするだけで従来の北欧家具に神秘的なイメージが追加されるなど、新しい表情を見せてくれます。

ウェビナーでは、多くの製品を紹介とともに、消費者の生活変化に対応する可変式家具や、遊び心と柔らかな質感でユーザーの心を癒やす家具、サーキュラーエコノミーを実現する環境配慮型の家具など、北欧家具のトレンドが紹介されました。

多くの日本人が好む北欧家具のトレンドをキャッチしておくことは、日本で好まれるデザインの最先端を知ることにもつながります。これからの北欧家具デザインの動向にもアンテナを貼りつつ、自社の製品やサービスに活かせる新たな視点がないかを検討してみましょう。

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STYLUS

ロンドンを拠点に活動するSTYLUSは、様々な業界のトレンドを分析し、未来の変化を予測するイノベーションアドバイザリーサービスです。
独自のアプローチで、データと経験を基にしたインサイトを提供し、企業がイノベーションを推進し、市場の変動に対応できるよう支援しています。

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