シズル感は、ビジュアルコミュニケーションにおいて瞬時に心を掴む要素として不可欠です。これまでの記事でシズルの基礎を学んだ皆さんへ、今回はフォトディレクションについて紹介します。シズルディレクター兼フォトグラファーの大手仁志が、30年の経験を基に、より魅力的なビジュアルを作り上げる撮影方法を解説します。
vol.1:シズルで企業の課題解決!シズルのすべてをお伝えするシズルチャンネル
vol.2:シズル撮影で瞬殺!ビジュアルで心をつかむプロの秘訣
vol.3: シズル感で魅力倍増!プロが教える撮影テクニック
「見た瞬間に、商品の魅力が伝わる写真」とは、どのようなものなのでしょうか。それを実現するのが、フォトディレクションの力です。今回は、商品の“らしさ”を視覚で表現するための考え方と、その実践方法についてご紹介します。
フォトディレクションとは、商品の魅力や伝えたい価値を、“写真”という手段で視覚的に伝える表現監督のような役割です。単に写真を撮るだけでなく、そこに込める「インフォメーション=情報」と「エモーション=感情」のバランスを設計し、ターゲットの心に届くビジュアルをつくり出すことを目的としています。
たとえば、ある商品の「こだわり」や「らしさ」を伝えるには、適切なスタイリング、ライティング、構図の選定が欠かせません。その基盤となるのが、「感性言語」と「スケール」を用いた考え方です。
「らしさ」とは、商品が持つ空気感や世界観のこと。たとえば、「親しみや素朴さを感じる」「高級で特別な印象」など、消費者に抱かせたい感覚を、言葉で整理することから始まります。このような感覚を可視化するために有効なのが「感性言語」です。
さらに、それを具体化するために「スケール」の活用が役立ちます。たとえば、「カジュアル⇔プレミアム」「ソフト⇔ハード」 といった感覚の軸を定めることで、商品のポジショニングが明確になり、ビジュアルの方向性が見えてきます。
実際に、被写体を同じにしたうえで、感性言語とスケールを活用して撮影した事例をご紹介しましょう。ここでは、すべて同じ具材を使った「うどん」を被写体に、異なる“らしさ”を表現しています。
カメラアングルは、食卓に座った人の目線に近い45度から。広く柔らかな面光源を用いることで、薄曇りの窓から射し込むような、穏やかで親しみのある雰囲気を演出しています。
器や敷物をブルー系で統一し、天板はツヤのある素材を選定。夏の日差しをイメージしたライティングにより、画面内に美しい陰影を加え、清涼感を際立たせています。
器、卵、七味入れといった円形の要素を配置し、端正な構成に仕上げました。余白を活かしつつ、最小限の要素に絞り、ディテールにまで配慮することで、画面全体に静かな緊張感と美しさを与えています。
スタイリングには黒を基調とし、赤や金の差し色をアクセントに。うどんの具材も控えめにし、器とのバランスを重視することで、余裕と気品のある“特別感”を引き出しました。
写真には「感情」と「情報」が共存しています。その両方をバランスよく伝えるためには、撮影の前に「何を感じてもらいたいか」「どんな情報を届けたいか」を明確にする必要があります。
商品のポジション、ターゲットのイメージ、そして“らしさ”のスケールーーそれらを丁寧に紐解き、写真というビジュアルに落とし込む。フォトディレクションとは、その全体を見渡す、まさに「表現の監督」なのです。
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文・撮影:大手仁志 (アマナ)
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