2008年の登場以来、ファッションコンシャスな人々の足元を彩ってきた、「CONVERSE ADDICT(コンバース アディクト)」。コンバースを代表するこのハイエンドラインから、2025年春に「CHUCK TAYLOR CANVAS HI(チャックテイラー キャンバス HI)」「ALL STAR TRAININGSHOES(オールスター トレーニングシューズ)」の2つのモデルが発売されました。
双方のグラフィック用ビジュアル制作をアマナが担当。プロデューサーの菱田陽子と埋金祐馬、フォトグラファーの高橋草元、クリエイティブディレクター&プランナーの鈴木陸に聞きました。
制作の動き出しは、2024年のこと。クライアント側は当初からアマナのクリエイティブ力に期待を寄せており、「CONVERSE ADDICT」の新しい表現にトライしたいとの相談がありました。商品そのものはこれまでの人気や実績もあり、一定の反響があるだろうと見込まれていましたが、購買層により刺さるキャッチーなキービジュアルを作ってほしいとの話があったそうです。
「『CONVERSE ADDICT』は、ADDICT(=依存する、中毒)の意味を持つ、コンバースの中でもハイエンドなライン。その新製品を表現するのにふさわしいフォトグラファーを提案してほしいとのことでした。スポーティなイメージだけでなく繊細な表現も必要で、重厚感がありスモーキーな表現が得意な高橋が選ばれました」(菱田)
では、どのようなイメージでキービジュアルを撮ればいいのでしょうか? 2つのモデルそれぞれにコンセプトをプランニングし、ゴールイメージを描いたのが鈴木です。これまでのビジュアルをチェックし、「CONVERSE ADDICT」がどう表現されてきたかを徹底的にリサーチ。コンバースの他ラインとも差別化し、ADDICTらしさを保ちつつも今までにない新しさを目指すコンセプトを立て、制作を進めていきました。
「CHUCK TAYLOR」はコンバースを代表するモデルであり、今回は王道の仕様と言えるハイカット・ブラックカラーのキービジュアル制作をすることになりました。
拠り所として見出したのが「『CONVERSE ADDICT』そのもののコンセプトである『進化するヴィンテージ』。今回のシューズは、コンバースが誇るハイエンドラインから登場する、ファンのみならず誰もが知る象徴的なモデル・仕様です。今までのイメージはどちらかといえば静的・具体的なものでしたが、アプローチを変えて動的・抽象的な表現に挑戦する余地があると考えました。そこで、『進化するヴィンテージ』から着想を得た『止まらない進化』をコンセプトに。事前にテスト撮影を行い、そのビジュアルと共に提案しました」(鈴木)
印象的な黄色いヴィブラムロゴ、三ツ星のヒールラベル、ソールの糊がはみ出たような部分など、ポイントとなるディテールをきちんと見せつつも、あえて「ブレた」表現に。商品をブレて撮るのはあまりないことで、おそらくクライアントも懸念することを考慮してテスト撮影を実施しました。
「私も高橋もADDICTのユーザー。商品への愛情を込めつつ、『ブレた表現がなぜあり得るのか』を考えて事前にテスト撮影をしました。全体がブレていても、見せたいディテールはちゃんと見えている。その確証が得られたせいか、ブレて撮ることについては問題なく進めることができました」(鈴木)
「CHUCK TAYLOR CANVAS HI」のキービジュアル。
ディテールを表現しつつ、どういうアングルでどう見せたら動き出しているかのようなイメージになるのか。布を使ったり、もう一方のシューズを手前ボケにしたりと、試行錯誤の末にこのアングルにたどり着きました。
「シューズがジャンプして動き出した瞬間に見えるシーンを捉えることができました。これは、コンバースでは今まであまりなかった表現だと思います。私自身、『CHUCK TAYLOR』は学生時代から履いているシューズなので、愛情を持って撮影できたのはよかったかなと。シューズの左足と右足で違うブレ方をさせたかったので、カメラを揺らすよりもシューズそのものを動かした方が狙っていた動きが出るなと感じました。見せたい部分にスポットを当てるようにライティングし、ニュアンスっぽい光を作りながら撮りました」(高橋)
「ALL STAR TRAININGSHOES」は、1975年に発売されたランニングシューズをモチーフに、履き心地を進化させたアイテム。ヴィンテージでありながらモダンという世界観をどう描くか、アートディレクターの山本裕也(アマナ)に加わってもらい、アイデアを検討しつつ撮影イメージを膨らませました。
いくつか提案した中で、スタジオの白ホリに陸上レーンを描いた空間を作り、その中にモデルを配置するビジュアルに決定しました。オリンピックの開会式のようなセレブレーション感を加味し、枠にとらわれないファッションの多様性を表現しながらスタイリングを現代風に再構築するイメージです」(鈴木)
モデルやスタイリング、ADDICTオリジナルのフラッグ、レーンに入れる数字、商品撮影のための競技場ベンチなど、細々としたプロップも含め、イメージに沿って決めていきました。
「ALL STAR TRAININGSHOES」のキービジュアル。
大変だったのは、スタジオのセッティング。撮影当日は、スタッフ総出でテープを貼り、陸上レーンを作り上げます。ラインの幅や奥行き、本数、黒テープの光沢などに悩みつつ、3時間ほどかけて完成させました。
「空間を広く見せたく、直線を生かしつつパース感を付けるようにしました。ヴィンテージだけどモダンなシューズなので、レトロというよりは未来感を打ち出したいなと。そのために、ラインが無限に続いていて、奥からから光が差してきているようなライティングを意識しました」(高橋)
商品は、競技場にあるようなベンチをスタジオに運び込み、その上で撮影。シューズが自然にフォーカスされるよう、ここにも細かい工夫が光ります。
「椅子の脚が目立たないよう、コンクリートに見えるようなシールで隠しました。また、赤いシューズは素材がスエードで、白い方はレザー。その素材感がわかるよう、細かい素材撮りなどもしてレタッチで調整しています」(埋金)
ベンチの青を背景にして、シューズの赤と白と合わせてトリコロールな色の組み合わせを演出。印象的なビジュアルに仕上げました。
その場でクリエイティブ・ディレクター、アートディレクター、フォトグラファーがアイデアを出し、ラフスケッチを描いて置き方を検討したりと、柔軟かつスピーディーに撮り下ろしたティザーカット。ホワイト、レッド、ブルーの色が引き立って、ハッとするような構図とトリミングに。
公開されたビジュアルは、クライアントからは「今までにないアングルでの撮影や、表現力がよかった」と好評でした。また現在、SNS用の別のビジュアル撮影が始動しています。
「アマナならではのポイントは、社内にクリエイティブディレクター、アートディレクター、フォトグラファー、レタッチャーがそろっていることで、彼らとすぐにチームを組むことができるうえに一気通貫で進められることが、クライアントへの安心感とクリエイティブ力を提供できたと思います」(菱田)
スピード感とクオリティの実現、ビジュアル制作には不可欠な要素が今回も発揮されました。
<スタッフクレジット>(すべてアマナ)
プロデューサー:菱田陽子
クリエイティブディレクター:鈴木陸
アートディレクター:山本裕也
フォトグラファー:高橋草元
レタッチャー:首藤智恵
アソシエイトプロデューサー:埋金祐馬
取材・文:大橋智子
こちらの記事も読まれています
ロッテ|SNSで自然と話題にしたくなる企画とクリエイティブ
2025年大阪・関西万博に見るブランドコミュニケーション最前線
アパレルCGでリアルな質感表現を実現。高品質なビジュアルでブランド力を強化する方法
株式会社アマナ
菱田 陽子
株式会社アマナ
菱田 陽子
ビジネスプロデューサー。出版社や事業会社などでビジュアルディレクターとして撮影制作に従事したのち、アマナに入社。雑誌やwebでの豊富なファッション撮影の経験をもち、現在は企業の課題に応じた統合コミュニケーション企画を担当。編集視点を基軸としたプロジェクト設計と多様なクリエイターとの協業に強みを持ち、コンテンツを通じた企業価値の最大化に取り組んでいる。
株式会社アマナ
埋金 祐馬
株式会社アマナ
埋金 祐馬
立命館大学政策科学部卒業後、2023年にアマナに入社。BtoCのクライアントをメインに担当。
スチール/ムービーの制作を中心にしながら、デジタル(webやSNS)やブランディングなどのプロデュース業務にも携わる。
株式会社アマナ
鈴木 陸
株式会社アマナ
鈴木 陸
プランナー・ディレクター。BtoB / BtoC企業の社内コミュニケーション施策から、ブランドコンセプト開発、企画・制作ディレクションまで手がける。どんなモノ・コトにも背景には必ず人の想いがある。そうした本質を見いだして、ストーリーを紡ぐことを大切にしている。
株式会社アマナ
高橋 草元
株式会社アマナ
高橋 草元
フォトグラファー。大学ではデザイン工学を学ぶ。プログラミングを軸にデザイン的な思考を学ぶ一方で、フィルムカメラを毎日持ち歩きながらスナップを撮影、暗室の中でモノづくりに触れる。実験にも似たアナログ的なアプローチを加えながら、現実の中にある、刹那的で美しい一瞬を捉えてきた。スタジオの中でもスナップ撮影で出会ってきた、自分の心が動く瞬間を緻密に再現し、人物撮影や物撮りなど被写体を隔てることなく活動している。
amana visual
amana visual
amana visualでは、フォトグラファー、レタッチャー、CGクリエイター、ムービーディレクターをはじめとしたビジュアル制作に携わるクリエイターのポートフォリオや、個性にフィーチャーしたコンテンツを発信中。最新事例等も更新していきます。