モビリティ関連の映像制作において、「実写合成」と「フルCG」は、それぞれ異なる強みと可能性を持つ重要な表現手段です。
プロジェクトの目的や予算、演出意図に応じて最適な選択を行うことが、映像の品質と効果を最大化する鍵となります。
本記事では、それぞれの手法の特徴、モビリティ案件における使い分け、そしてクオリティーを引き上げるためにはどうするかを制作側から考えてみました。
実写合成の画像(背景は実写、車はCG制作)。
フルCGの画像。
実写合成
・現実の都市やリアルなシチュエーションを重視したい場合
・リアルにこだわり、実在の質感や空気感を重視したい場合
・十分な撮影予算がある場合フルCG
・未来都市や空想上の都市を描きたい場合
・リアリティの追求よりも、演出の自由度が重視される場合
・撮影が困難または予算が限られている場合
上に挙げた以外にも、映像表現を使い分ける判断基準には、さまざまな要素があると思います。しかし現実には、予算やスケジュール、技術的な制約などにより、当初の想定とは異なり、やむを得ずフルCGになったり、実写合成に切り替わることも多々あると思います。
それでも、限られた条件の中でできるだけクオリティーを高め、最終的に納得のいく仕上がりにするために、現場では多くの努力が重ねてられています。
実制作の現場からの視点で、「もう少しこうであればよかった」「別の形もあり得たのではないか」といった観点で、少しだけ考えてみました。
最初から実写合成で車の巻き替えなどを行うことが決まっている場合は、HDRIデータなどを撮影しておくことが一般的だと思います。
しかし、当初はCGを使用する予定がなかったにもかかわらず、急遽CGが必要になるケースもあります。たとえば、車のパーツを変更したい場合や、背景に建物や植物を追加したくなった場合などです。そういった場面で、あらかじめHDRIデータや3Dスキャンのデータが用意されていると、非常に役立つことがあります。
そのため、保険として、撮影現場でシータ(ワンショットで360度画像・動画を撮影できるRICOHのカメラ)などを使ってHDRIを撮影しておくと、後々の対応がしやすくなる可能性があります(あくまでも可能性ではありますが)。
時間が限られている中で、フルCGでフォトリアルな表現を追求するのは、決して簡単なことではありません。大人数で取り組めば解決するという単純な話ではなく、制作上の工夫や判断が求められます。
そのため、多少の制約があったとしても、演出に大きな支障がなければ、3Dで表現しやすいシチュエーションに変更するという判断も一つの選択肢です。
たとえば、過去に使用したデータの中に適したものがあれば、それを修正・再利用する。あるいは、フォトリアルに仕上げやすい天候や明るさへ設定を変更するといった工夫も考えられます。
時間が限られている中で、無理にトライ&エラーを繰り返すよりも、思い切って表現の方向性を調整することで、結果的により良い仕上がりにつながる場合もあります。
もしかすると、ここが一番重要なポイントかもしれません。
企画内容や演出の意図を制作側に伝えるタイミングは、企画の決定や会社の選定など、さまざまな事情で遅れることがあるのは十分理解しています。しかし、たとえ断片的な情報でも、早い段階で共有していただけると、制作側としては非常に助かる場面が多くあります。
たとえば、
「ヨーロッパの街並みを走るシーンを予定している」
「海が見えるワインディングロードのイメージ」
「朝靄のような霧の演出を加えたい」
など、ほんのわずかな情報でも、それを手がかりにテスト制作を始めることが可能です。
少しずつでも早い段階からテスト制作を進めておくことで、最終的なクオリティやスケジュールに大きな好影響を与えることは間違いありません。
モビリティ案件において、「実写合成」と「フルCG」をどう使い分けるかは、演出意図や予算、スケジュールなどさまざまな要因によって柔軟に判断されていると思います。その中で、限られた条件下でもより良い映像を生み出すためには、
・早期の情報共有
・適切な技術の活用
・柔軟な演出の工夫
が非常に重要だと思います。
制作側としては、できるだけ早く企画の方向性を知ることで、テスト制作や素材の準備を進めることができ、結果としてクオリティや制作効率の大きな向上につながります。小さな工夫や判断の積み重ねが、最終的な映像の完成度を左右する──その意識を共有しながら、よりよいモビリティ映像制作を目指していければと考えています。
文:羽田貴尚(アマナ)
フルCG画像:齊藤優一(アマナ)
実写合成画像:徳永功(アマナ)
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