2025年カンヌライオンズに見る、ブランド体験・社会課題・ビジネス変革の現在地

カンヌライオンズ2025

広告・マーケティングの最前線を象徴する国際的な祭典「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル(以下、カンヌライオンズ)」。毎年6月、世界中のブランド、広告会社、クリエイターたちが集い、創造力を競い合うこのイベントは、単なる広告賞の枠を超え、社会やビジネスの動向を映し出す鏡とも言えます。

2025年のカンヌライオンズでも、優れたアイデアや技術だけでなく、ブランド体験の設計、社会課題へのアプローチ、そしてビジネス領域における創造性の拡張といった視点から高く評価された作品が多数登場しました。本記事では、その中でも特に注目すべき7つの受賞キャンペーンを取り上げ、カンヌライオンズが示すクリエイティビティの「現在地」を紐解いていきます。

2025年カンヌライオンズ受賞作品の紹介

1.Chicago Hearing Society『Caption with Intention』
(Design部門・Digital Craft部門・Brand Experience部門グランプリ)

出典:Chicago Hearing Society – Caption With Intention、@LLLLITL

映像字幕の新たな可能性

聴覚障がい者が映画や映像コンテンツをより豊かに楽しめるよう、字幕の表現手法を刷新したプロジェクトです。従来の単なる文字起こしではなく、話者の感情や声のトーン、場の空気感なども伝える“感情豊かな字幕”を開発。アニメーションや色彩、フォントの変化などを組み合わせ、言葉だけでは伝わらない要素まで視覚的に補完します。

複数年にわたる開発を経て、アクセシビリティの新たな基準を提案した本プロジェクトは、デザイン性とインクルージョンの両立という点で高く評価され、複数部門でグランプリを受賞。さらに、2025年を象徴する革新として、最も名誉ある Titanium部門も受賞しています。

2.GoDaddy『Act Like You Know』
(Creative B2B部門グランプリ)

出典:GoDaddy – Act Like You Know、@LLLLITL 


小規模事業者を勇気づけるB2Bブランディング

ドメイン取得やWeb構築サービスを展開するGoDaddyが打ち出したのは、AIサービス「GoDaddy Airo」のローンチに合わせたスーパーボウルキャンペーン。人気俳優のウォルトン・ゴギンズがさまざまな役になりきって振る舞う姿を描いたCMで、「ビジネスのことは分からなくてもAiroがあれば大丈夫」というメッセージを軽快に伝えました。

中小ビジネスオーナーに向けに、「あなたもプロのように振る舞える」と訴えるストーリーテリングは、B2Bながらエンタメ性と共感を兼ね備えた表現として高く評価されました。1年を通じた統合キャンペーンでも一貫したトーンが保たれ、ブランドの立ち位置を“ツール提供者”から“伴走者”へと昇華させた点が際立ちます。

3.Renault『Un.Patent』
(Creative B2B部門のゴールド)

出典:Renault – UN PATENT、@DansTaPub


競合と共有する安全技術オープン化戦略

フランスの自動車メーカー・ルノーが展開した「Un.Patent」は、Creative B2B部門でゴールドを受賞し、さらにPR部門でもブロンズを獲得するなど、その社会的意義と革新性が高く評価された作品です。本施策は、電気自動車の普及に伴い業界全体で重要視されている安全性の向上という課題に真正面から取り組んだものです。ルノーは、EVバッテリー火災を数分で鎮火できる独自技術「Fireman Access」を、特許取得せずに公開し、他社にも無償で提供するという戦略を打ち出しました。

通常、競争力の源泉となる技術は知的財産として囲い込むのが一般的ですが、「Un.Patent」ではあえて技術を“共有財”として開放することで、企業の社会的責任を果たすとともに、業界全体の安全基準の底上げに貢献しています。このような倫理的かつ先進的な姿勢が、複数部門での受賞につながったと言えるでしょう。

4.PENNY『Price Packs』
(Print & Publishing部門グランプリ)

出典:Penny – Price Packs、@LLLLITL


パッケージそのものが価格保証メッセージ

ドイツのディスカウントスーパーPENNYが展開した「Price Packs」は、商品のパッケージに実際の価格を大胆にデザインとして印刷し、価格据え置きのメッセージを視覚的に表現したキャンペーンです。

物価高騰が続く中、「この価格は変わりません」というブランドの意思を、価格そのものを印刷して流通させることで訴求。ビジュアルの直感性とパッケージが広告メディアとして機能する点が高く評価されました。キャンペーンは4週間で140万個の販売実績を記録し、生活者との約束としての“価格保証”を体現した事例となりました。

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5.Unilever(Vaseline)『Vaseline Verified』
(Health & Wellness部門グランプリ)

出典:Vaseline – Vaseline Verified、@LLLLITL


ユーザーハックの科学検証でブランド信頼構築

Vaselineは、SNSで拡散される“裏技”利用法に向き合い、6,000件以上の使い方を科学的に検証。有効なものは「Vaseline Verified」、誤情報や危険な使い方には「Unverified」とラベルを付け、生活者との信頼構築を図るブランドキャンペーンを展開しました。

ブランドが発信するだけでなく、ユーザーの行動に誠実に向き合う姿勢が新鮮であり、特に科学的エビデンスとユーモアを融合させた表現が高く評価されました。ブランドの信頼性とエンゲージメントの両立を実現した好例として、多くの業界関係者にインパクトを与えました。

6.AXA『Three Words』
(Creative Business Transformation部門・Titanium部門・Direct部門グランプリ)

出典:AXA – Three Words、@LLLLITL

3語のアップデートが、保険を社会貢献に変えた

フランスの保険会社AXAは、住宅保険契約に「and domestic violence(および家庭内暴力)」というわずか3語の文言を加えることで、DV被害者が直ちに避難支援や一時住居、法的・心理的支援を受けられる仕組みを整備しました。

この制度変更自体が“キャンペーン”となり、現実世界での社会変革に直結した点が非常に革新的と評価されました。「広告で社会を動かす」というカンヌライオンズの理念を最も体現した事例として、 Creative Business Transformation部門と Titanium部門でグランプリを受賞しています。

7.HERALBONY『Unleashing Neurodiversity through Art』
(Glass部門 ゴールド受賞)※日本初

ヘラルボニー

出典: HERALBONY公式サイト

アートで解き放つ多様性の価値

HERALBONYは、知的障害のあるアーティストの作品を社会実装する取り組みで、日本企業として初めてGlass部門のゴールドを受賞しました。同社はアートのライセンス事業を通じて、プロダクト開発や空間演出などさまざまなビジネス領域で“違い”を価値として昇華。単なる社会貢献や福祉ではなく、ビジネスとしてインクルーシブな社会を創る姿勢が高く評価されました。表現と社会との関係性に新たな地平を開いた事例として、国際的にも注目されています。

2025年カンヌライオンズに見るクリエイティブの潮流

2025年のカンヌライオンズ受賞作からは、単なる広告表現にとどまらない、ブランドと社会、そしてビジネスとの関係性の変化が色濃く浮かび上がってきました。中でも象徴的だったのは、以下の3つの潮流です。

1. 体験としてのブランド──顧客接点の再構築

今年特に目立ったのは、「広告」という枠組みを越えたブランド体験の設計です。商品の利点やメッセージを一方的に伝えるのではなく、生活者が実際に「体感」し「共感」できる接点を設計しようとするアプローチが広がりました。

その多くは、物理的・デジタルの両面を活用しながら、パーソナライズ、没入感、リアルな反応を引き出す仕掛けを含んでいます。体験設計はもはや空間や店舗に限定されず、SNS上の参加型施策や、日常生活に入り込むようなシンプルかつ強いアイデアとして昇華されつつあります。

企業にとっては、顧客接点の見直しとともに、ブランドの「感じられ方」そのものをデザインする時代が本格化していることを示しています。

2. 社会課題への創造的アプローチ

2025年もまた、広告が社会問題にクリエイティブの力でアプローチする姿勢が顕著でした。従来であればCSRの一環として扱われがちだった領域が、今ではブランドの中核戦略と密接に結びつくようになっています。

特徴的なのは、「共感」や「啓発」だけではなく、具体的な制度設計・商品仕様の変更・インフラ構築といった、実行性を伴う提案が増えている点です。つまり、社会的なテーマを“広告で表現する”のではなく、“ビジネスとして実装する”という次元への進化が進んでいます。

この潮流は、特定の業種に限定されず、保険、医療、流通、小売、交通などあらゆる業界に広がりを見せており、広告の役割が「社会と向き合う企業の意思表明の場」として再定義されていることが読み取れます。

3. ビジネスを変えるクリエイティビティ

近年強まっている「クリエイティブ・ビジネス・トランスフォーメーション」の視点も、2025年はさらに踏み込んだ形で展開されました。広告はもはや“何を伝えるか”にとどまらず、“どのような事業を展開するか”“どう社会に貢献するか”を決定づける要素へと変化しています。

今年の受賞作には、企業の根幹をなすプロダクト戦略や組織運営そのものに変化をもたらすようなキャンペーンも複数見られました。従来の「広告部門の仕事」を超えて、経営判断や商品開発といった事業構造そのものにクリエイティブが関与している事例が増えています。

この傾向は、ブランドが生活者に向けて一貫した価値提供を行ううえで、もはや「広告」が独立した存在ではなく、「経営と生活者をつなぐ創造的な橋渡し役」であることを浮き彫りにしています。

創造性をブランド価値に変えるには──アマナが支援する戦略と表現

2025年のカンヌライオンズが示したのは、広告表現の巧拙を競うだけの場ではなく、ブランドが社会や文化、そしてビジネスの未来にどのように関わっていくかを問う場であるということでした。受賞作品に共通していたのは、「問いの深さ」と「表現の実装力」。その両輪が揃って初めて、人の心に届くクリエイティブが成立する時代に突入しています。

こうした流れを自社でも取り入れたいと考える担当者にとって、求められるのはインスピレーションだけでなく、それを戦略に落とし込み、的確に形にしていく専門的な知見と制作力です。

アマナでは、企業のブランド課題に寄り添いながら、調査・戦略設計からビジュアル開発、アウトプット制作までを一貫して支援する「ブランディング」サービスを提供しています。複数の部門と連携したワークショップ設計や、ブランドアセット開発のディレクションなど、内外の視点を交差させながら、企業独自の価値を可視化します。

また、TVCMやWeb動画、プロモーション映像など、目的に応じた多様なフォーマットでの「ムービー制作」も展開。撮影から編集・CG制作までワンストップで対応できる体制により、表現の幅とスピードの両立を実現します。ブランドの“本質”を、見る人の心にまっすぐ届く表現で伝える。それが、私たちアマナのクリエイティブの原点です。

変化の大きい今だからこそ、戦略と表現の両面から“伝える力”を再設計してみませんか。

アマナのサービス:
プランニング&デザイン|ブランディング
VISUAL|TVCM/ムービー撮影

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文:小林拓美 


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