国際的な広告賞の一つである「New York Festivals Advertising Awards(NYF広告賞)」は、毎年世界中から数千点ものエントリーが集まり、各国のトップクリエイターによる審査でその年の最も優れた広告アイデアと表現力を選出しています。単なるクリエイティブの巧拙だけでなく、社会への影響や革新性といった観点からも評価が行われており、業界における創造性のベンチマークとも位置付けられる存在です。
2025年のNYF広告賞でも、技術的な完成度の高さに加え、社会的な共感や目的意識を強く感じさせるキャンペーンが多数受賞しました。特に今年は、「社会課題への深い洞察」と「卓越したクリエイティブ表現力」の両立が目立ち、広告という枠を超えて世の中にインパクトを与える作品が揃いました。
本記事では、2025年NYF広告賞の受賞作の中から注目の5作品を取り上げ、その内容とクリエイティブのポイントを紹介します。さらに、今年のNYF広告賞全体を俯瞰し、浮かび上がった最新トレンドを分析します。
出典:@LLLLITL:Coca-Cola – Thanks for Coke-Creating
世界各地の小さな商店や食堂の壁には、その店主らが手描きしたコカ・コーラのロゴやボトルのイラストが残されています。「Thanks for Coke-Creating」は、そうした各国で“非公式”に描かれてきたコカ・コーラの壁画アートにスポットを当てたキャンペーンです。ブランドが用意したデザインではなく、各地域で自然発生的に生まれたイラストをあえて公式広告に取り入れることで、ローカルな文化とブランドのアイコン性を融合しました。
職人の素朴なタッチを活かしつつ美しく広告素材化することで、コミュニティの創造性への感謝を伝えると同時に、コカ・コーラが世界中で愛されるブランドであることを印象付けています。企業と生活者が共にブランドイメージを“共創”してきた歴史を讃えるユニークな試みと言えるでしょう。
出典:@MullenLoweTREYNA:Scoliosis #StripesFitCheck
SNS発の「フィットチェック」(今日の服装を披露する投稿)の流行を、国民の健康課題解決につなげたキャンペーンが「#StripesFitCheck」です。フィリピン保健省と脊椎専門団体が協力した本施策では、ボーダー柄のシャツに注目しました。背中や腰に歪みがあると横縞にズレが生じることから、若者に人気のファッションであるボーダーシャツを着て動画を撮り、自身の背骨のゆがみ(側弯症)のセルフチェックを促したのです。著名インフルエンサーたちがTikTokでこの方法を実演し参加を呼びかけると、大きな反響を呼び全国的なスクリーニング運動に発展しました。
誰もが持っている服と若者になじみ深いSNS文化を巧みに活用し、「早期発見」という地味になりがちな健康課題を楽しく身近なアクションへと落とし込んだ点がクリエイティブの妙と言えます。限られた予算でも発想次第で大きな社会的インパクトを生み出せる好例として評価され、同部門でゴールドを受賞しました。
出典:@RobertJoy-ey2ln:47
フランス発のカフェチェーン「Café Joyeux(カフェ・ジョワイユ)」は、ダウン症や自閉症など知的障がいのあるスタッフを積極的に雇用する社会的企業です。その理念を象徴する短編アニメーション映画として制作されたのがストップモーション作品『47』です。タイトルの「47」は、健常者の染色体が46本であるのに対し、ダウン症の当事者が47本の染色体を持つことに由来しています。
実在の従業員の体験に着想を得た物語では、ダウン症の主人公が子供の頃から様々な困難に直面しながらも旅を続け、47歳でCafé Joyeuxに出会い、居場所と役割を見出すまでが描かれます。制作プロセスにも共感へのこだわりが貫かれており、キャラクターデザインはダウン症の少女とその父親が担当し、音楽はダウン症のミュージシャンが参加するなど、当事者の才能を随所に取り入れています。
温もりある人形アニメーションの手法も相まって、観る者の心を揺さぶる感動作に仕上がっており、「包摂と希望の物語」を緻密なクラフトで表現した点が高く評価されました。Film Craft部門のグランプリに輝いたほか、音楽や美術面でも複数のゴールドを獲得しています。
出典:@omoarabia:The Art Of Stains
洗剤ブランドOMOの中東地域でのキャンペーン「The Art Of Stains」は、生理の話題が公にしにくい社会において、女性たちに役立つ知識を伝える斬新なアプローチが評価されました。生理中の洋服やシーツへの血液汚れは誰にでも起こり得るものの、多くの女性が恥じらいから正しい対処法を学べていません。そこでOMOはアラブ圏の伝統文化であるヘナ・アートに着目しました。ヘナで描かれる繊細な模様の中に、生理の染み抜き方法(冷水ですすぐ→洗剤で洗う→再度すすぐという3ステップ)をさりげなく織り込んだのです。
従来タブー視されがちなテーマを、伝統芸術と融合させることで文化的抵抗感なく浸透させている点が秀逸です。ヘナ模様をあしらった教材キットの配布やSNS展開も行い、「汚れ(ステイン)の知識もアートのように共有しよう」というメッセージで多くの女性の共感を集めました。社会課題への繊細かつ創造的な向き合い方が評価され、NYF特別部門であるCristal Village Awardのグランプリを受賞しています。
グラミー賞のパートナー企業であるMastercardが、若い音楽ファン層へのブランド訴求を狙って展開したキャンペーンです。従来、音楽業界ではレーベルやテレビ局が主導で流行を生み出してきましたが、TikTokなどSNS全盛の今、ヒット曲を生み出すのはファンコミュニティ自身へと変化しています。
そこでMastercardは、「受動的に鑑賞する観客を、能動的な主役に変える」という発想のもと、世界的ポップスターであるレディー・ガガの新曲プロモーションとファン参加型企画を融合させました。グラミー賞授賞式のテレビ中継でガガの新曲「Abracadabra」のMVを初公開すると同時に、ガガ本人と有名振付師パリス・ゲーベルと組んでダンスチャレンジをSNS上で開始。誰もが真似しやすいよう振付をアレンジし、「ガガと一緒に公式MVに出演できるチャンス!」と呼びかけました。世界中から応募動画が殺到し、選ばれた32人のファンがガガ本人とのコラボMVに実際に登場するサプライズが実現しました。
ファンにとって「憧れのスターと肩を並べる」夢のような体験がそのままコンテンツとなり、大きな話題を喚起。公開48時間でTikTok上の関連動画総再生が全ユーザーの約3分の2に達し、最終的に14億回以上の再生を記録するなど2025年を代表するバイラルキャンペーンとなりました。Mastercardの若年層におけるブランド好感度も大幅に向上し、音楽を「聴くだけでなく参加するもの」へと昇華させた取り組みとして高い評価を得ています。
2025年のNYF広告賞の受賞作全体を見渡すと、広告表現が単に商品やサービスを訴求するだけのものから、社会・文化と深く結びついたメッセージへと進化していることが読み取れます。特に顕著だったのは以下の3つの潮流です。
近年多くの広告賞で見られる傾向ですが、2025年はとりわけ社会的な課題をテーマに据えた作品が目立ちました。NYF広告賞の最高賞であるBest of Showに輝いた電通デジタルの「SATO 2531」を筆頭に、女性の権利擁護や障がい者の社会参加、気候変動や教育格差など、社会性の高いテーマに創造力でアプローチしたキャンペーンが数多く評価されています。単に問題提起するだけでなく、データ分析や商品開発、制度設計の提案など実効性のある解決策まで踏み込んでいる点が今年の特徴です。
例えば「SATO 2531」は法制度による不平等に警鐘を鳴らすだけでなく、未来予測データを示し社会を動かしました。実際に1500以上のメディア報道や官公庁・国連への働きかけを通じて法改正の機運を高め、世論と政治を動かしたのです。こうした「広告の枠を超えた社会への働きかけ」が評価される傾向は一層強まっており、広告賞が社会的意義や倫理性を重視する時代となっていることがうかがえます。
もう一つの潮流は、生活者を巻き込んだ共創型のクリエイティブです。広告主が一方的にメッセージを発信するのではなく、ターゲットとなる生活者自らが制作や発信に関与できる仕組みを取り入れたキャンペーンが目立ちました。前述の「Thanks for Coke-Creating」では各地の店舗オーナーたちが描いたアートを公式に取り込み、「From Fan to Featured」では一般のファンがグローバルキャンペーンの主役となりました。
フィリピンの「#StripesFitCheck」は国民参加の検診運動につながり、OMOの「The Art Of Stains」は地域のヘナ職人や女性たちとの対話を通じて展開されています。いずれも人々を中心に据えた発想から生まれた施策であり、「人を中心に据えることで革新的なクリエイティブと実効的な成果が生まれる」という傾向を示しています。SNSやコミュニティを活用した双方向の取り組みは生活者の熱量を高め、広告が単なる宣伝ではなく共感や体験を共有する場へと変化しているようです。
クリエイティブの役割が企業の事業そのものへ拡張している点も見逃せません。広告キャンペーンが商品の改良や新規開発、サービス設計、あるいは企業戦略と一体となって展開されるケースが増えてきました。NYF広告賞2025でも、フォード社の「SupportBelt」(乳がん手術後の方に配慮したシートベルトアクセサリーの開発)やKlick Healthの「Voice 2 Diabetes」(音声で2型糖尿病の兆候を検知するアプリ)など、プロダクトイノベーションやテクノロジー活用を伴う作品が複数入賞しています。
広告クリエイターがマーケティングの枠を超え、企業の製品開発や施策設計に深く関与することで、ブランド体験そのものを再構築しているのです。これは昨今言われる「クリエイティブによるビジネス変革」の流れとも合致します。広告が経営や社会課題と直結し、企業と生活者をつなぐ創造的な橋渡し役へと進化していることを2025年の受賞作群は示しています。
以上のように、2025年のNYF広告賞からは、社会性・参加性・実装力を兼ね備えたクリエイティブが高く評価される傾向が明確に読み取れます。それは裏を返せば、現代のブランドコミュニケーションにおいて何が求められているかを物語っているでしょう。
受賞作品が示すように、ただ斬新なアイデアで目を引くだけでなく、社会の共感を得て行動を促すようなクリエイティブが重要になっています。自社の広告・プロモーションにもこうした潮流を取り入れたいと考える担当者にとって、必要なのは受賞事例から得られるインスピレーションだけではありません。それを自社の戦略に落とし込み、的確に形にしていく専門知見と制作力が求められます。とはいえ自社内で全てを賄うのは容易ではなく、心強いパートナーの存在がカギを握ります。
アマナでは、企業のブランド課題に寄り添いながら調査・戦略設計からビジュアル開発、コンテンツ制作まで一貫して支援する「ブランディング」サービスを提供しています。複数部門とのワークショップを通じたインサイト抽出やブランドアセット開発のディレクションなど、社内外の視点を交差させながら企業ならではの価値を可視化し、戦略に基づいたクリエイティブ施策へ落とし込みます。
また、テレビCMやWeb動画、プロモーション映像等の多様なフォーマットに対応した「ムービー制作」サービスも展開。長年の経験で培った撮影・編集・CGのノウハウをワンストップで提供できる体制により、ハイクオリティかつスピーディーな映像制作を実現します。企業の伝えたい“本質”を的確に捉え、見る人の心に届く表現へと昇華させる――それがアマナのクリエイティブの強みです。
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文:小林拓美
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