今やAIの進化はとどまるところを知らず、ビジネスシーンはもちろん日々の暮らしにおいても必須の技術であり、今後の展開は計り知れません。一方で、どう使いこなせばいいのか、どのような課題を内包しているかなど、企業がAI導入を進める中で置き去りになっている部分に対する懸念もあります。
花王の作成センターにおいて、ブランドクリエイティブにAIをどう活用していくかは喫緊の課題でもありました。そこで、2025年11月と12月の2回に分けて、AIの活用法を学ぶワークショップを実施。生成AIの基礎から使い方、著作権に関する課題などについて学びました。ワークショップ開催時のメンバーの様子や、開催後の変化について、豊田章雄さん(花王株式会社/作成センター 商品デザイン作成部 第2ブランド・クリエイティブ部 ヘルス&ビューティケアグループ クリエイティブ・ディレクター)に聞きました。
今回のワークショップに参加したのは、花王の作成センターに所属している若手デザイナーの皆さん。商品デザインを制作する業務を担っており、日々、さまざまなアウトプットに向き合っています。そうしたクリエイティブの現場において、一定のクオリティを保ちつつもスピードと多様性が求められる一方で、担当者によってアウトプットに差があり、いわゆる「花王らしさ」の表現にバラつきがあるなど、課題を感じることがあったそうです。
「AIの使用については個人に頼り過ぎていた部分があると思います。弊社ではAdobe Fireflyを使えるようになっていますが、興味のある人は使うけど、興味のない人は触らない。使い勝手の範囲も不明で、各自が自力で対応するという属人的な状態になっていました。画像を生成するにもブランド表現の再現性が低かったり、プロンプトの設計における常識がわかっていなかったりと、『AIとどう付き合えばいいかわからない状態』でした」(豊田さん)
豊田章雄|Akio Toyoda
花王株式会社/作成センター 商品デザイン作成部 第2ブランド・クリエイティブ部 ヘルス&ビューティケアグループ クリエイティブ・ディレクター
2005年に花王へキャリア入社。2010年よりヘアケア・化粧品領域を中心に、エッセンシャル、メリット、セグレタ、アジエンス、ソフィーナなど複数ブランドのクリエイティブに携わる。2021年よりヘルス&ビューティケア領域(ヘアケア・スキンケア・パーソナルヘルス)を担当。2022年からはヘアケア事業部を兼務し、ブランド・クリエイティブ・ディレクターとしてブランド表現の設計・推進を担っている。
そんな折、アマナからのウェビナーの配信を見て、興味を抱いたという豊田さん。AIのプロに教わってみたいとアマナに問い合わせたところから、今回のワークショップの実施につながりました。
・きっかけとなったアマナのウェビナー
「AIで解決する企画提案の壁:リサーチから伝わるビジュアル表現まで」
PerplexityやChatGPT、Fireflyなどの生成AIを用いながら、リサーチやビジュアル表現など、企画プロセスの精度を高める実践的な手法を紹介したウェビナーです。
ワークショップ実施にあたり、目指したのは「花王のブランド価値を損なわずに、AIをうまく活用するための力を身につける」こと。AIはあくまでもクリエイティブ制作のためのツールの1つであり、何を作るのか、何のために作るのかというさまざまな決断は人間がすべきで、そのためにクリエイターは自分の感覚を養っていく必要があると豊田さんは考えました。
「ワークショップに参加するメンバーには、『ブランドクリエイティブとは何か』という意識を持ってもらえたらと思いました。『花王らしさ』を突き詰めること、『花王とは何か』という考えを常に持つこと。気をつけないと自分も抜け落ちてしまうことがありますが、『らしさ』を意識しつつ、生成AIを使いこなせるレベルになってほしいと思いました」(豊田さん)
AIの基本的な使い方を学びつつ、ブランド表現の一貫性を保つためにAIをどう活用すればいいかを習得するためのプログラムを、アマナと共に構築していきました。
2カ月近くの準備期間を経て、「花王 AI seminar & workshop」が2回にわたって開催されました。1回目のプログラムは、生成AIの基礎的な知識を学ぶセミナーと、AIを使いこなすためのコツを知る実践的なワークショップ。アマナの堀口高士とコンスタンス・リカが講師を務めました。
【1回目】
生成AI基礎理解セミナー、生成AIの活用術ワークショップ
セミナー:生成AIが拡げるビジュアルコミュニケーションの可能性(講師:堀口高士)
ワークショップ:クリエイティブを深化させる生成AI活用術(講師:コンスタンス・リカ)
堀口高士|Takashi Horiguchi
株式会社アマナ/プロジェクトディレクター、クリエイティブディレクター
事業構想大学院大学修士課程(Master of Project Design)修了。家電、モビリティ、食品、飲料、通信、インフラなど幅広い業界の企業が抱える、さまざまなコミュニケーション課題をクリエイティブで解決するディレクターとして活動している。
「堀口さんのセミナーでは、プロジェクトの上流であるコンセプト立案に使えることを教わったと感じました。コンスタンスさんのワークショップでは、プロンプトのサンプルがあったため文法的な構造解析がわかりやすく、AIの使い方における基本を学ぶことができました」(豊田さん)
コンスタンス・リカ|Constance Rika
株式会社アマナ/ディレクター、プロンプト・アーキテクト
国内外のBrand Visual Communicationプロジェクトに携わり、新商品・サービス開発のブランド構築や海外進出支援を担当。ダイナミックなビジュアルデザインスキルとグローバルな感性で新たな価値を創造。現在はAIを活用したクリエイティブ制作とDX推進に取り組んでいるクリエイティブ錬金術師。
2回目のプログラムは、アマナの野口貴裕とコンスタンス・リカが講師を務め、生成AIと著作権の関係について学ぶセミナーと、AIをブランド戦略に活用するワークショップを実施。1回目の内容を踏まえ、AIで花王のブランドらしさを画像生成するにはどうしたらいいか、実際に制作しました。
【2回目】ブランド文脈に沿ったプロンプト設計などの実践ワークショップ、AI権利勉強セミナー
セミナー:生成AI時代のコンテンツ制作と著作権(講師:野口貴裕)
ワークショップ:ブランドらしさと生成AIを繋ぐプロンプトクリエイティブ(講師:コンスタンス・リカ)
野⼝貴裕|Takahiro Noguchi
株式会社アマナ/リーガルマネジメント
クリエイティブに関する権利全般をサポートする組織、クリエイティブライツセクションのマネジメントを担当。クリエイティブ業務で発生する権利関連の疑問点を解決し、トラブルを抑制するとともに、社員の権利知識向上のための活動に携わる。
「弊社でも著作権に関する講義はありますが、そこで教わる範囲を超えて、セミナーでは事例も含めてリスクなどを説明してもらいました。陥りがちなことも指摘され、法律的に良い悪いという判断も大事ですが、消費者の心情としてNGと捉えられることもあるというのは重要なポイントでした」(豊田さん)
「ワークショップでは、1回目で学んだことをベースに、プロンプトは呪文的ではなく、AIに一貫性を持った画像を作らせるための手法を構造的に理解することができました。私はそもそも、人間とAIは別物で、AIは人間っぽく進化する必要はないと思っています。ですが、人間の側の意識が『人間対AI』ではなく『人間対人間』という形になりやすいので、ちゃんとした回答を求めるにはどうしたらいいのか、このワークショップでAIとの適切なコミュニケーションのコツをつかめたと感じました。
それと、事前に用意してくださったペルソナカードがおもしろかったです。弊社もそうですが、日本の企業はフォアキャスティングで事業を進めがち。それよりも創造や過程を元に『今』に落としていくみたいなやり方に注目したいです。SFプロトタイピングのようなやり方や着想の仕方は、これからの時代に大切な考え方。今回はプロンプトの使い方などをイチから学びつつ手を動かせたので、勉強したことが身になる感覚を実感できました」(豊田さん)
ワークショップではメンバーを分けてグループを作り、作業をしていただきました。それぞれがAIと向き合って集中的に会話をすることができたようで、「没入感があった」「楽しかったけど時間が足りなかった」との反応がありました。
1回目、2回目のワークショップで作成した画像。
AIに関する進化のスピードは想像以上に早く、今回のワークショップで取り上げた内容も1年後にはすっかり古くなっているかもしれません。常に新しい情報をキャッチアップしていく必要がある中、豊田さんは「メンバーの意識をどう上げていけばいいか」について考えています。
「メンバーの自由ではありますが、私自身は学んだことを生かしてAIを積極的に活用していったほうがいいと考えています。というのも、AIについてのルール作りや仕組み作りを行っている間に、どんどん時代遅れになっていきそうな懸念があるから。デザイン資料や撮影前のカンプ作りなどでは、案件ごとにスタイルやトーンをそろえて作ることができるので、最終アウトプットに至るまでのプロセスすべてにおいて活用できるでしょうね」
すでにAIを業務に取り入れている豊田さんは、その効果を実感しています。オリエンから課題解決のためのクリエイティブの戦略作り、デザイン提案を7〜8案ほど作るまでを1日で完成させてしまうこともあるそうで、通常ならメンバーと一緒に作業して3〜4週間はかかる工程がかなり短縮。効率面だけでなく、さらに注目したのは、AIを使うと精度が上がることでした。クオリティをどうジャンプさせるか、その方法すらAIと相談しながら進めています。
「作成センターというインハウスだからこそできることは何かと考えると、事業部からのオリエンをもらう前に自分たちで課題発見から携わったほうがいいですし、そのままブランドの未来像を作ることまで昇華できるはず。AIをパートナーとする使い道があるということです」
その際に重要なのは、言葉のセンス。講師を務めたコンスタンスは7カ国語を習得しており、言葉の表現や操り方が大事だと悟った豊田さんは、より多彩なポエムや哲学書などを読むようになったそうです。感覚的な文章を映像化する時にAIを活用する、そうしたAIの強みを引き出す使い方を模索しています。
「プロンプトを使う際に、英語ができるかできないかで違いを感じました。英語ができないメンバーは英語そのものに苦戦していたので、そういった言語の壁もあるんだなと感じました。
AIを使ってできた画像は、同じ雰囲気をまとっていて統一感がありました。誰が作っても一貫性のある仕上がりになるのは、ブランド作りの仕組みとしては理想的。会社が目指す方向性をきちんと表現できている、それが属人的でない状況である、というのはワークショップ前に感じていた課題を払拭する結果でした」
もし、次にワークショップの機会があれば、「マネジメント層やディレクターの人たちにも参加してもらえたら」と豊田さんは語ります。ブランドの戦略を作っていく人たちが、その役割においてAIを使いこなすことができれば、さらなる効果が見込めるかもしれません。
「AIとは良いパートナーになれると思います。重要な判断やディシジョン設定は人間が担いますし、AIを使うというのは大層なことではなくて、クリエイティブで言えば以前は手描きだったのがPhotoshopやIllustratorを使うようになった、というレベルの話だと。AIはAI、人間は人間と考えてきちんと役割分担をし、共生の関係性を作っていくのが理想的だし、それが企業のブランドクリエイティブにもポジティブな要素をもたらすのではないでしょうか」(豊田さん)
<スタッフクレジット>
クリエイティブディレクター:堀口高士
アートディレクター:コンスタンス・リカ
プロデューサー:菱田陽子、酒井眸
取材・文:大橋智子
撮影:大久保歩(アマナ)
▶ プランニング&デザイン|A³ | amana AI Architects
ブランドの「らしさ」を軸に、生成AIを活用したクリエイティブ設計・制作プロセスを構築。
ブランド戦略から表現設計、PoCまで一貫して支援します。
A³ | amana AI Architects 資料ダウンロードはこちら
▶ プランニング&デザイン|amana 著作権勉強会/amana AI権利勉強会
生成AI時代のクリエイティブ制作に欠かせない、著作権・リスク理解を実務視点で解説。
企業の広告・ブランド担当者向けに、事例を交えながらわかりやすく学べるプログラムです。
amana 著作権勉強会/amana AI権利勉強会 資料ダウンロードはこちら
ダイキン工業|デザイン×UI/UX×AIで、創造性と発想力を強化する
アサヒグループジャパン|企画段階の新商品の世界観をPoCで可視化
ブランド表現を強化する生成AI活用術:事例&実践ガイド[FREE DOWNLOAD]
AIだからこそ描ける、極端なペルソナで創る未来のブランド戦略
CGクリエイターが実践するAI活用術──AIとの融合で広がる表現の可能性
プロンプト時代の言葉と創造性 〜EVOKE書籍出版イベント ゲストセッションレポート
![]()

A³ | amana AI Architects
A³ | amana AI Architects
A³|amana AI Architectsは、「AIの進化を、美意識の進化へ」というビジョンのもと、生成AIを“ブランドに最適化する”ソリューション「AI Creative Architecture」を核に、企業のブランド表現を次世代の制作基準へアップデートするプロフェッショナル集団です。