本記事は企業の広告・ブランド担当者に役立つ本から、気になる一節を数回に分けてご紹介する連載です。読みながら、その本の“考え方”に少しずつ触れていただけます。
AIがあらゆる判断を代替する時代に、人間にしか担えない役割とは何でしょうか。ここではAIにはできない行為である「選択」に注目し、それがなぜ人間の価値を決定づける重要な能力なのかを考えていきます。
~本コンテンツは、書籍『AIで覚醒する脳』(茂木健一郎著・実務教育出版刊)にて、脳科学者の茂木健一郎氏が語るAI時代における人間の脳や感性、創造性が果たす役割から一部抜粋・編集したものです(この記事は第3回/全3回)。
No.1:AI時代に仕事を奪われる人、価値を生み出す人の決定的な違い
No.2:なぜ世界のトップランナーは「謙虚」であり続けるのか
「AIによって、むしろ人間の能力が開花する時代」
実は、AIを理解している人ほどこうした考え方が主流になっています。
AI時代の本質として、人間にしかできないことは何かということを見極める必要性が高まっているわけですが、AIには不可能で人間が得意とする能力として真っ先に挙げられるのが「選択力」「コミュニケーション力」「創造性」の3つです。
まずは、「選択力」から考えていきましょう。
ケンブリッジ大学のバーバラ・サハキアン教授の研究によると、私たちは1日におよそ3万5000回、何かしらを選択し、決断していると考えられています。
言語、食事、交通といった事柄だけでも1日で平均2万回以上も選択をしており、これに歩く、座るといった身体的動作についての選択、さらに仕事中や家に帰宅してから行なっている選択まで含めると、およそ3万5000回に及ぶそうです。
実はこうした選択という行為はAIにはできません。
「何が自分にとって幸せなのか」という選択に迫られたとき、私たち人間だけが持っている価値観が大きく左右します。いくらAIに相談したところで、自分にとって何が幸せなのかを見極めることはできません。
もっと極端なことを言えば、地域の再開発を進めるかどうかの選択を迫られたとき、それで経済発展するのがいいのか、それとも自然を残すのがいいのかというのも、結局のところ人間にしか選択できないことなのです。
もっと身近な小さいことで考えてみましょう。
「今読んでいる本を読み終わったら、次はどんな本を読もうか」
「今日の晩御飯は何を食べようか」
これらの選択は自分自身の価値観に基づいています。
前述したように現代における選択は多岐にわたり、いわば選択過多になっています。これは、アメリカの未来学者であるアルビン・トフラーが予言した「選択過剰(choice overload)」の概念そのものであり、自らの価値基準によって未来を選択することはAIにはできないことなのです。
ここまで述べた通り、「何を選ぶか」というのがこれからの人間らしさ、もっと言えば脳を覚醒するための大事な指標になっていくと私は考えています。なぜなら、私たちは既存の社会制度によって日常で無意識に選択してしまう機会が増えてきているからです。
YouTube(ユーチューブ)やTikTok(ティックトック)のアルゴリズムの中身というのは、ほとんどの人にとっては「ブラックボックス化」していますよね。つまり、私たちは常にただのユーザーです。ユーザー側にいるとあらゆる選択がAIのアルゴリズムによって自動化されていることになかなか気づけません。でも、その自動化した世界の中で自分は何を選ぶかという感性が今、問われているのです。
このような話をするとき、私はよく「学力観の変遷」という話をします。
日本では、ペーパーテストや偏差値という、私に言わせれば化石のような価値観によって、自分の将来を決めるような大切な選択を自動化してしまっている人がたくさんいます。
でも、すでに教育先進国では、そうしたペーパーテストや偏差値といったモノサシで大切な将来の学力を判断していないのをご存知でしょうか。
ニューラルネットワークの研究を行っており、AI研究の第一人者とみなされているジェフリー・ヒントン(2024年、ノーベル物理学賞)という人物がいます。
彼は現在、トロント大学の名誉教授を務めていますが、彼を生んだトロント大学をはじめ、カナダでは大学共通入試テストというものが一切ないことで知られていますし、アメリカでも大学入試のための「SAT」という学力テストがありましたが、近年ではこうした学力テストのスコア提出は必須ではなくなりました。
これが今、世界最先端の学力観であり、教育先進国は時代にマッチした真の学力を得るための教育を選択し、追い求めているのです。
日本では明らかに教育の選択が自動化されてしまっていますが、もはやこのAI時代にペーパーテストを解く能力などあまり意味がないことに気づいていない。
そうした学力観の変遷に日本社会がようやく気づいたときに、関連する教育産業は崩壊すると私は予測しているのです。
(この記事は第3回/全3回)
No.1:AI時代に仕事を奪われる人、価値を生み出す人の決定的な違い
No.2:なぜ世界のトップランナーは「謙虚」であり続けるのか
▼書籍紹介
生成AIの急速な普及により、マーケティングやコミュニケーションの現場でも「人間にしかできない価値」があらためて問われています。本書は脳科学者・茂木健一郎氏が、AI時代において人間の脳や感性、創造性が果たす役割を解き明かす一冊です。
論理や効率ではAIが優位に立つ一方で、共感を生み出す発想力や直感、物語を紡ぐ力は人間ならではの強み。広告・ブランディング・コンテンツ開発において、これから何を磨き、どう価値を生み出すべきか。AIと競うのではなく、AIを活用しながら“人間らしさ”を武器にするための視座を与えてくれます。
▼書籍情報
書名:AIで覚醒する脳 AIには絶対できないこと 人間だけができること
著者:茂木健一郎
出版社:実務教育出版
発売日:2025年9月29日
リンク:https://amzn.asia/d/116iGtF
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