デジタルマーケティングが広がる現代、顧客との新たなコミュニケーション方法を探している企業の方も多いのではないでしょうか。
そんななか、「コミュニティ」を作ることで、良質なプロダクトやサービスを広げていく「コミュニティマーケティング」に注目が集まっています。
今回は、「コミュニティ」という軸で、様々な分野で人と人とをつなぐ取り組みをされているゲストをお招きし、それぞれの事例をもとに、マーケティング施策のヒントとなるようなテーマでお話しいただきました。
後藤健市 氏
株式会社スノーピーク地方創生コンサルティング 代表取締役会長兼社長。1958年、北海道帯広市生まれ。大学卒業後、セールスプロモーション関連会社を経て、1986年、祖父が創設した社会福祉法人ほくてんに入職。視覚障害者情報提供の IT 化に携わるほか、福祉の心を育てることを目的とする教育事業を全国に展開。同時に、地域内外でのまちづくり活動に積極的に参画し、地方創生の新たなアイディアを実現するための会社や団体の設立、場所の価値を生かした企画と実践、講演活動や人材育成、仕組みづくりに広く尽力している。現在は、これまでの経験とネットワークを活かし、株式会社スノーピークのグローカル地方創生担当として、地域にある自然資源や景観、環境、食などを「野遊び」で楽しみながら地方創生する事業と、“Noasobi”のグローバル展開に取り組んでいる。
「地方」をマイナスではなく「個性」と捉える
スノーピークは「人生に、野遊びを。」というコーポレートメッセージのもと、“地方に野遊びを”をスローガンに掲げています。
「野遊び」は人間としての根源的な創造の行為であり、現代の文明社会のさまざまなストレスから解放するものでもあります。スノーピークはそんな「野遊び」に可能性を見出し、キャンプなどのアウトドアギアやプログラム提供を通して、各地域の自然を楽しむ仕掛けづくりに取り組んできました。
今回は、そんな「野遊び」と「地方創生」について、お話していきます。
僕はこの33年間、「場所と人をつなぐ」動きをしてきましたが、その背景には全盲だった祖父母の影響があります。祖父は、同じように目が見えない人のために、点字図書館を北海道帯広に創設しました。
祖父は「見えないことは私の個性」といつも言っており、座右の銘は「愛盲」でした。見えないことは、ハンディキャップやマイナスもあるけれどこれは「個性」なのだと。
僕もそれを受けて、「地方」をマイナスに捉えるのではなくて「個性」だと考え、「地域の当たり前(日常)に新たな価値を見出し、それをデザインし、人々に楽しさと感動を提供する」ことを大切にしています。
マイナスな部分ばかり見て、不平不満を言っていても何も生まれません。でも、「もったいない」資源を見つけ、志を持った市民の小さな挑戦の積み重ねがあれば地域を変えることができます。
今、地方の個性が失われてきています。何故かというと、それは市民が大都市にコンプレックスを抱き、それを真似ているからなんです。
地域の個性を活かすには、空間と時間をデザインすること、地域住民が地域の個性を再認識すること、そして地域プライドの創出が重要になってきています。
コンプレックスを「個性」として活かすためには、地域住民がその「違い」を素直に受け止めることが重要です。ユングによれば、コンプレックスとの対峙こそが自我を拡大する、つまり「コンプレックス」との対峙こそが地域の成長に繋がります。
だから、手遅れになる前に真似を辞め、自分の地域ならではの「場所文化」や「場所の旬」を見つめて欲しいんです。
「場所文化」とは地域住民の生活のなかに存在し、その地域の固有価値を形成しているものです。場所は私たちが暮らしている都市や自然、そして文化は暮らしている人そのものであり、人が持つ知恵です。それらの言葉、景観、料理、建物などの資源は、使わなくなると消滅してしまいます。
そして、「場所の旬」とは、花見や紅葉狩り、月見などです。日本には、古来より「場所の旬」を楽しむ文化がありました。その季節ならではのことを、高度なレベルで楽しむ、というのをずっとやってきているんです。そこに我々がちゃんと気づいたうえで、「ハレの場づくり」を積極的にやっていくんです。
よく、地方には「何もない」と言われます。たとえば、十勝も冬は「雪しかない」「何の魅力もない」と思われています。しかし、本当にそうなのでしょうか。
大切なのは、「仕掛け」です。
僕は一見何もないと思われる場所に、『スノーフィールドカフェ』というビニールハウスを作り、真っ白な雪景色を眺めながらフランス料理のコース料理を食べられる仕掛けを作りました。
人が着替えるように、場所を着替えさせたんです。今、豊かさは「物」から「時間」へとシフトしています。どれだけ質の良い「時間」を提供できるか、が地方創生の鍵となっています。
現地の人には「こんなに寒いところにわざわざ来るなんて」と呆れられるような行為でも、他の場所から参加した人たちにとっては「今でも忘れられない」経験になりました。
これこそがローカルの価値なんです。何でもないように見えるところでも、きちんと設えれば、「こんなに素敵なところで素敵な食事を頂ける」S級の場所になる。
この、豊かな自然を楽しむための「仕掛け」を作るのが「野遊び」の世界なんです。
地域の宝物は特別なものでも、新たに作るものでもなく、自分たちの身近なところにあります。そこで暮らしている人にとっては当たり前でも、遊びや美食など素晴らしい資源が詰まっている宝庫であり、まちづくりに必要なストーリーは「地域の人の生き様」です。
地方には「何もない」のではなく、地方には「余計なものは何もない」。
グローバル時代の地方創生のキーワードはグローバルバリューとグローバルエッジです。
地域のこだわりのものと歴史、そして人を組み合わせるとグローバルバリューが広がっていきます。「グローバル トップリゾート ジャパン」となるために、世界に誇る地方の魅力をぜひ見つけていってほしいなと思います。