“らしさ”の可視化で加速する、Canon Marketing JapanのCX改革

スマートフォンに搭載されたカメラの高性能化が進んでいることも起因して、デジタルカメラ市場は2010年をピークに縮小の一途を辿っています。そうした状況を打開すべく、顧客体験(以下、CX)の改革に乗り出したキヤノンマーケティングジャパン。CX改革にあたり行ったビジョンの具現化について、コンスーマ事業戦略本部の横山武尚さん、カメラ統括本部の小川奈峰さんに伺いました。

【プロジェクトのポイント】

抱えていた課題
カメラが売れない時代、どのような価値を顧客に提供できるのか?

取り組みのポイント
“キヤノンらしさ”の言語化・CXのビジュアル化によるイメージの共有

成果
CX改革にあたり、世界観の礎を築くことができた

コロナ禍で考える、モノが売れない時代のCX

一般社団法人カメラ映像機器工業会(CIPA)が発表した2020年のデジタルカメラ総出荷は888.6万台。これは前年比、4割減の数字です。一時期は好調だったミラーレス(レンズ一体型)カメラも徐々に売上を落としつつあり、カメラメーカー各社は打開策を打ち出していかなければならない状況にありました。それはプロ・アマチュア問わず世界中に多くの顧客を抱えるキヤノンマーケティングジャパンも同じ。「カメラの購入」を軸にするだけでは成り立ちません

加えて、2020年から続く新型コロナウイルスの感染拡大により、従来顧客とのダイレクトな接点の場として設計されていたギャラリーやショールームなどのあり方も含めて、CXについて考え直さなければならないタイミングでした。

「そこで、私たちはCXサイクルの再構築を図ろうと組織を再編し、カメラの専門組織であるカメラ統括本部を2020年7月に新設。一気通貫してCXを設計しようと考えました」(横山さん)

部署立ち上げのタイミングでアマナと共に実施したのが、現在の課題をふまえ、れからのCXを考えるためのワークショップ。カメラ統括本部に所属するメンバーから異なる役割を担っているタスクメンバーを選出し、課題の棚卸しをしたうえでCXを考えるセッションです。通常業務の傍ら、3ヶ月にわたって実施したセッションで見えてきたのは、これまで明確に言語化・可視化されてこなかった“キヤノンらしさ”でした。

メンバーで見出した“キヤノンらしさ”の正体

ワークショップは、全部で5つのセッションで構成。まずは、タスクメンバーへのインタビューを通して、市場の変化や現状の課題を抽出し、次にこの状況下で行うべき顧客体験について整理します。そのうえで、“キヤノンらしさ”や強み、顧客にとっての価値とは何なのかをふまえて、キヤノンが大切にすべき世界観を整理。その世界観をもとに、どのような顧客体験を提供すべきかをあらためて整理し、具体的な施策を検討するというステップです。

最初のインタビューでは、メンバーごとに担当業務をふまえたさまざまな課題が共有されました。たとえば、セールス担当者からは「商品・サービスの連携ができていない」「静止画は強いが、動画の知識が不足している」という声。カスタマーサポート担当者からは「サポート拠点の少なさ」「サポートのWebページがわかりづらい」という声も挙がりました。

「私はギャラリーを担当していますが、他にもBtoBのショールームのリニューアルも検討しており、ちょうど顧客接点を見直すタイミング。コロナ禍によってお客様とリアルで会えない状況で、ギャラリーやショールームの価値を見直したいと考えていました」(小川さん)

インタビュー時の小川さん。

各タスクメンバーから課題が挙げられました。

インタビューを通して各メンバーが漠然と考えていたことが明文化され、職種を超えて課題を共有する場となりました。インタビューの様子はグラフィックレコーディング(※)を用いて可視化し、参加者全員の認識を合わせることも意識しました。

※グラフィックや文字を用いてリアルタイムで記録する手法。
参照:議事録は“グラフィック”で行うと効果的!
「議論の可視化」が導きだすのは、会議の結論だけではない 井口奈保×清水淳子 対談

ヒアリングと同時にグラフィックレコーディングを実施。

ヒアリング内容が可視化されることで、議論も進みました。

次に、インタビュー内容をふまえ、どのような顧客体験が必要かを案出ししました。顧客体験サイクルを「興味」「検討」「購入」「写真を撮る」の4つの段階にわけ、オンラインとリアル双方の施策について、複数のチームに分かれて検討します。このとき、新しい視点を加えることを目的に、各チームにアマナのクリエイターが1名ずつ参加しました。

顧客体験サイクルについて議論したうえで、スコープを広げ、キヤノンが行うべき世界観づくりについて検討。“キヤノンらしい”とは何か、“キヤノンらしくない”とは何かをあらためて言語化しました。出てくるキーワードにばらつきはあるものの、“キヤノンらしい”とされるのは「伝統」「普遍」「王道」「安定感」「まじめ」といった言葉の数々。“キヤノンらしくない”とされたのは、「高級感」「先進性」「スタイリッシュさ」「おしゃれさ」といった言葉でした

「自社社員だけでは、想起できなかった“キヤノンらしい”や”キヤノンらしくない”について、アマナさんのメンバーから客観的なコメントもあり、活発な議論ができたことで当社メンバーも刺激を受け、新たな知見を得たようです」(横山さん)

また、キヤノンが提供する「顧客・社会にとっての価値」とは何か、キヤノンの「存在意義・使命」とは何か、についてもキーワードを出し合い、キヤノンだからこそ生み出せる価値についても深掘りしていきました。

ワークショップを通じて見出した「イメージングファースト」という価値

インタビューとワークショップを経て、キヤノンのこれからのビジョンを策定。ポイントとなったのは「カメラファースト」から「イメージングファースト」への意識変化でした。

キヤノンが行っていくべきなのは、カメラを売ることだけではなく、カメラという機材を通じて、写真を撮る喜びや編集する面白さ、飾る楽しさも一緒に提供し、お客様ともっと近くで向き合うこと

その使命を反映した顧客体験とはどうあるべきかも検討し、ショールームやギャラリー、Webサイト、ビジョンの社内浸透施策がどうあるべきかを具現化。キヤノンのメンバーから出てきたアイデアを、アマナがビジュアル化しました。このビジュアルは、今後の施策を想像するうえで役に立ったといいます。

ショールームの顧客体験イメージより抜粋。

「イメージしていたものと齟齬なくビジュアルにしていただけたことは、今後の顧客体験を考えるうえで、とても役に立ちました。ぼんやりと思っていることはあっても、他の人と共有しづらいもの。こうして具体的なイメージがあると、具体的な企画の議論を行うことができます」(横山さん)

インタビューとワークショップを実施したのが2020年。その後、実際に施策の具現化に向けて動き、2021年には東京と大阪にあるパーソナル向けショールームを、“見せる場”から“魅せる場”へとリニューアルしました。

「『ショールーム』をリニューアルし、『フォトハウス』へ生まれ変わりました。これまではカメラやレンズに興味のある顧客をターゲットにしていましたが、写真を中心に据え、編集や印刷といったワークフローも体験できるようにすることで、顧客とのタッチポイントを増やしました常駐スタッフによるコンサルティングも提供したことで、表現したいイメージを具現化するための場所としてご好評をいただいております」(横山さん)

「また、このフォトハウスでは、セミナーやイベントをオンラインで配信する試みもスタートしています。たとえば、皆既月食のオンライン生中継や、著名な写真家を招いてのウェビナーを開催。これまで来館できなかった遠方のユーザーや顧客との新たな接点を創出できるようになりました」(小川さん)

CX改革と共に進める社内改革

具体的な施策が進む一方、改善しなければならない課題も見えてきました。その一つが社内浸透施策です。

イメージングに対する興味関心や知識に偏りが生まれてしまうので、同じレベル感でイメージングについて語り合える人が限られます。この状況を打破し、どうにかして改革を推進できる社員を増やしていかなければいけません。

そこで現在は、オフィスに写真を展示する場所を増やしたり、社員を対象としたフォトコンテストを開催したりなど、イメージングを通じた社内への価値提供を強化しています」(小川さん)

何より大切なのは、継続的に今回のようなワークショップを社内で実施して、改革が一過性の施策にならないようにすること。組織はどうしても過去の成功体験に頼ってしまいそうになるものなので、自分たちで新たな施策を打ち出したとしても、立ち止まって考える場がないと、すぐに元の状況に戻ってしまいます。今回のワークショップを機に、さらに改革を継続していきたいと考えています」(横山さん)

社内改革と社外向けの施策を同時に走らせるキヤノンマーケティングジャパン。世界最高峰の技術力を武器にしながらも、今後ますます単に製品を提供するだけではなく、顧客視点での体験価値を上げていく。その機運がお二人のお話から伺うことができました。

文:村上 広大
撮影[top]:Kelly Liu(amana)
レタッチ[top]:カワノミオ(amana)
AD[top]:片柳 満(amana)
編集:徳山 夏生(amana)

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