新型コロナウイルスの影響によって、リモートによる営業が増えている今、相手の心を動かし行動へとつなげる“きちんと伝わる”プレゼン資料の重要度が増しています。営業力・ブランド力を上げるためにプレゼン資料のデザイン統一に取り組んだ、NTTコミュニケーションズの瀧澤奨さんに施策の内容を伺いました。
かつて営業部に所属していた瀧澤さんは、担当者ごとに資料のトンマナが整えられていないことがずっと気がかりでした。しかし、それは個人の好みの問題だと当時は飲み込んでいたそうです。ところが広報部に異動したことで、自身が感じていた違和感が確信につながりました。
「広報担当になったことで、顧客やパートナーに向けて事業やサービスを周知するカンファレンスに参加する機会が増え、そこで他社のプレゼン資料を見て愕然としました。他社(特にスタートアップ企業)はデザインのトンマナが揃っているし、ブランディングに対する意識も高い。一方で、弊社の資料はページごとにデザインやカラーリングバラバラで聴講者からすると訴求点が不明確であったり、弊社のブランディングが表現しきれていないものになっていました。カンファレンスに参加するにも高い費用が発生しているわけですし、これでは費用対効果としてもマイナスだと感じました」(瀧澤さん)
そうした危機感に拍車をかけたのが新型コロナウイルスの影響でした。対面でやりとりしていた時期なら、資料だけで伝えきれなかった部分を担当者のコミュニケーション力や熱意で補足できることもあったと思いますが、画面越しでは伝わりにくい。以前と比べて、格段にプレゼン資料の重要性が増したわけです。
「オンライン商談において、最も印象に残るものは資料のインパクトだと思います。しかも、顧客側が商談後に見返したときにひと目でNTTコミュニケーションズのものだとわかる必要もある。しかし、個人に依存したプレゼン資料を作っているという状況ではそれが難しく、最悪の場合アフターコロナの世界で取り残されてしまう可能性もあると感じました。そこで社員に対してブランディングの意識を浸透させたいと考えたんです」(瀧澤さん)
そこで瀧澤さんは、アマナのクリエイティブチームとともに改革に乗り出します。
最初に取り組んだのが、プレゼン資料のマスターテンプレートの作成でした。まずはNTTコミュニケーションズらしさとは何か?をワークショップで議論し、デザインのアウトラインを決定しました。その後、フォントの種類やサイズ、コーポレートカラーを反映したカラーパレット、アイコン、グラフィック、写真など資料作成に必要な要素を洗い出し、それぞれの使い方のガイドラインを策定。表紙や中扉、中ページそれぞれで背景が白の場合、色を敷いた場合、グラフィックを使った場合など、複数のバリエーションでページのデザインテンプレートを用意しました。
グラフィックとテキストのレイアウトや、表・グラフの表現に至るまで細かくガイドラインを作成し、このガイドラインを使えばNTTコミュニケーションズらしい資料が作成できるようにしたのです。
こうしたガイドラインが一式まとめられている「ドキュメントデザインマニュアル」は、ページ111枚。読むにも大変そうですが、なぜこれほどの分量にしたのでしょうか。
「実は過去にも資料のテンプレートを作ったことがあるのですが、そのときは今回のように厳密にルールを設けませんでした。すると、独自の解釈で使用する人が現れ、結局ブランディングの向上にはつながりづらかった。そこで今回は、“テンプレートを見れば誰もが同じトンマナで資料を作れる”ことを目指しました。極端な話、マスターテンプレートをコピペすれば、最低ラインの資料を作ることができます」(瀧澤さん)
また、NTT Comの資料に多用されるアイコンはアマナのアートディレクター・長澤豪とともに整理し、1種類につき4パターンずつ制作。総数は370種1400パターンを超えます。
「NTT ComはICT企業ということもあり、ネットワークの仕組みを説明するときにこれでもかというくらいアイコンを活用します。“使える”ガイドラインにしたかったので、実際に現場で使用するアイコンを整理し、制作していきました。また、ガイドラインというと一度作ったら変更しない場合も多いと思いますが、それでは変化の早い今の時代ではすぐに陳腐化してしまう可能性が高い。そのため、常に社内外の情報をキャッチアップしながら適宜ガイドラインも修正し、“生きたガイドライン”として機能するようにしたいと考えています」(瀧澤さん)
次に取り組んだのが、マスターテンプレートを活用したプレゼンテーションの作成方法を身につけるための社内浸透施策でした。導入したのは、アマナが提供するクリエイティブスキルやクリエイティブマインドを育成するための人材教育プログラム「amana Creative Camp」です。このプログラムに社内のキーパーソンたちを招聘。2日にわたってプレゼン資料デザインのワークショップを開催しました。
「NTT Comには約1万人の社員が在籍しています。それだけに社内浸透にはそれなりの時間がかかることはあらかじめ理解していました。そこでワープショップには、デザイン感度の高い人たちや社内での影響力が強い人を中心に声をかけることにしたんです。彼らが社内浸透に向けたエヴァンジェリストになることで、スピード感をもった浸透が実現できるかなと。
参加者として声をかけたのは、デザインに対して理解のある社員だけでなく、ガイドラインの使用に懐疑的な社員です。意見を募って対話しながら進めることを意識しました。お互いに理解できないままで進めてしまうと軋轢を生んでしまいますし、ポジティブな意見だけだと正しいブラッシュアップができない危険もあります」(瀧澤さん)
プログラム1日目は、アマナのクリエイティブエヴァンジェリスト・児玉秀明を講師に「ビジネスに機能するデザイン」をテーマにしたレクチャーと、長澤豪によるマスターテンプレートの使用方法に関する説明を実施。次回に向けて、マスターテンプレートを使って各々が実際に資料を制作する課題が出されました。
「弊社は、引き算でプレゼン資料を作るのが苦手な人が多く、どうしても1枚にいろんな要素を詰め込む傾向があるため、児玉さんの『いかにシンプルにまとめるか』というレクチャーは響いたと思います。また、長澤さんからの説明も『こうしてください』と押し付けるのではなく、丁寧に仕様を解説してくださったので納得感を持って課題に取り組むことができたのではないでしょうか」(瀧澤さん)
2週間後に開かれた2回目のワークショップでは、参加者が実際に制作してきたプレゼン資料を長澤が添削。ビフォア・アフターを示すことで、どうすればより伝わる資料になるのかを伝えました。
「自分が想定していた以上に『使いやすかった』という声が多かったのがうれしかったです。ただ、テンプレートを使ってプレゼン資料を作成することを企業文化として浸透させていくためにはまだまだ時間がかかります。だからこそ、着実にこうした成功体験を積み重ねていきたいと思います」(瀧澤さん)
今後は、デザインを通じた社内のコミュニケーションを活性化させたいと瀧澤さん。「amana Creative Camp」のようなワークショップも定期的に開催したいと意気込みます。
「社長の丸岡が『守破離』という言葉をよく口にするんですね。最初は師の教えを守って型を身につけ、そこから少しずつ型を破り、最後に型から離れて、自分で新しい型を作っていく。それに倣うと、デザインテンプレートの活用は、型を身につける段階です。ベースとなる型があるからこそ上達していきますし、そこから離れたアレンジもできるようになります。
ガイドラインの作成だけでなくワークショップを実施できたことは、正しく型を学ぶという意味でも役立ちました。特に社会人になると学びの場が圧倒的に少ないので、今回のようなワークショップは知識のインプットには最適だと思います」(瀧澤さん)
実際、制作したマスターテンプレートの使用頻度は徐々に高まっているといいます。また、使用手順を紹介した動画も制作し、全社に向けた発信も始まりました。
「デザインって仕事を楽にするための手段だと思います。文章だけよりも、ビジュアルを伴ったコミュニケーションの方が相手に伝わりやすく、スピードも圧倒的に速い。社内にはまだまだデザインを学ぶことに懐疑的な人もいると思いますが、今回作ったガイドラインを通じて、デザインの重要性を社内にもっと浸透させていきたいですね」(瀧澤さん)
文:村上 広大
撮影[top]:Kelly Liu(amana)
レタッチ[top]:カワノミオ(amana)
AD[top]:片柳 満(amana)
編集:徳山 夏生(amana)
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複雑で先行きの見えない世界においては、 人本来の持つ創造性を解き放ち、主体性を持ち躍動できる人材が求められます。amana Creative Campでは、 再現性を持ったクリエイティブナレッジを提供することで、個の創造性を高めると共に、企業の競争力を高める文化創りへと導きます。