顧客とのコミュニケーションにおいて、しっかり機能するクリエイティブを作るために事業会社に求められるのは、広告代理店等クリエイティブパートナーへのオリエンで要件を的確に伝え、かたちになったクリエイティブの善し悪しに明確な判断軸を持つこと。
では、その“オリエン力”はどのように高められるのか? 日本たばこ産業株式会社(以下JT)の取り組みについて、たばこ事業本部 マーケティンググループ 商品企画部 コミュニケーション推進チームの平山智也さん、近藤良樹さんに伺いました。
平山さん、近藤さんの所属部署では、たばこブランドの企画から商品開発、コミュニケーション全般を行っており、お二人が所属する「コミュニケーション推進チーム」は、店頭で展開されるSPツールやPOP、ブランドサイトや会員向けメールマガジンといったオンラインコンテンツまでのコミュニケーション施策全般を、複数のチームと連携しながら作り上げていくことをミッションとしています。
2021年1月、新たなメンバーが加わり現在のチーム体制になったものの、コロナ禍の在宅勤務により、メンバーが一堂に会する機会が持てずにいました。また、他部署からの異動者もおり、業務に必要なデザインに関する知識やスキルに個人差があるという課題も。特に具体的な課題として挙がったのが、オリエン※の質と精度でした。
※…オリエンテーション。広告・クリエイティブ業界では、事業会社が広告代理店などクリエイティブパートナーに企画や制作などを依頼する際、基本方針、商品についての内容説明や注意点、予算やスケジュールなどを提示することを指す。
「定期的にメンバーの入れ替えがあり、オリエンの仕方は個人の経験や自己研鑽に任されていて、チームに知見が共有されていない状態でした。コロナ前はそれでも、周りを見ながら仕事を覚えていくということができていたので大きな問題はなかったのですが、コロナ禍でメンバー同士顔を合わせる機会が大きく減るなど仕事の進め方が変わったことによって難しくなっていきました。
短期間でチーム全体のスキルを底上げし、安定して良質なアウトプットを出すためには、クリエイティブに対する理解を深め、オリエンシートのテンプレートを作ってスキルの標準化をはかる必要があると思っていました」(平山さん)
オリエンシートは、事業会社がオリエンを行う際に提示する提案依頼書。広告代理店や制作会社はそれをもとにクリエイティブ制作を行うため、オリエンシートの精度は最終的なアウトプットに大きく影響を及ぼします。
チーム内では、オリエンシートに関する良否の判断基準がないことも、たびたび課題として挙がっていました。
「概念的なことだけ伝えればいいのか、それとも具体的なイメージまでこちらで作り込んで伝えるほうがいいのか、チーム内でもよく議論していました。細部まで指定してしまうとデザイナーの発想の幅を狭めかねないですし、概念だけでは求めるイメージが伝わらず、出してもらったクリエイティブが『思っていたのと違う』となりがち。そのジレンマは大きかったです」(平山さん)
「クリエイティブディレクションの型にはどういったものがあるのか。どんな伝え方をすればデザイナーに我々の意図が伝わるのか。知見がなかったため、ある程度の正解を知りたいと思っていました」(近藤さん)
そんな課題感を抱えていた最中、平山さんと近藤さんは、2021年3月に実施されたアマナのウェビナーでDesign Campの存在を知ります。Design Campは、個々人のクリエイティブスキルやマインドを育成することで、企業の競争力を上げていくための教育プログラム「amana Creative Camp」 のひとつ。
今回は、JTの課題に合わせて、Design Campプログラムをアレンジ。デザインに関する知識を集中的にインプットしてメンバーの意識やスキルを標準化し、オリエンシートのテンプレートをメンバーで検討・完成させることをプログラムのゴールとしました。
JTのDesign Campは、2日間にわたって実施し、コミュニケーション推進チーム10名全員が参加。
「特に印象深かったのは、児玉さんのレクチャーにあった『シンプル』な発信の大切さですね。なぜシンプルに伝えるべきなのかを、人間の認知の仕組みから紐解いてお話いただいたことで、『シンプル』の本質がスッと腹落ちしたんです。情報を整理し、要望を明確に言語化する助けになりました」(平山さん)
「私は、片柳さんの『気づかせ、訴求するための2つのポイントと3つの武器』の話を、研修後のオリエンで早速活用しました。我々がよく扱う、たばこの店頭什器を例にお話しいただいたのですが、店頭什器を作る際は、どうしてもあれもこれもと情報要素を詰め込みがちです。 “伝わる”ためのポイントを具体的に教えていただき、引き算の意識は重要なのだと改めて実感しました」(近藤さん)
また、先述の通り、コロナ禍によってこれまで一度もチーム全員が一堂に会して何かをするということがなかったため、Design Campのプログラムに全員で参加すること自体が、大きな価値になったといいます。
「初日の冒頭で、ビジュアルカードを使って自分の好き/嫌いを言語化するという、自己紹介も兼ねたワークがありました。テレカンを通じて話はしていても、この時初めて直接対面するメンバーもいたので、それぞれの感性や趣味嗜好を垣間見られたのは面白かったですし、チーム内の相互理解が進んだ印象があります」(近藤さん)
今回のDesign Campプログラムを通じて作成した、メンバーオリジナルのオリエンシートテンプレートは、現在すでに運用が始まっています。
「戦略フレームをテンプレートに盛り込んでいるので、順番に記入していくだけで目的が整理され、ターゲットと伝えたい内容が明快なオリエンシートを作れるようになりました。思考フローが明確で、与件がきちんと整理してあるからか、実際のオリエンの場でも代理店営業担当者やデザイナーから具体的な質問が出るようになり、話が早い印象があります」(近藤さん)
また、Design Campで得た、考えを整理して優先順位をつける思考訓練は、施策立案以外の普段の業務にも役立っているとのこと。そのスキルは、オリエンだけでなく、社内プレゼンや他チームとのコミュニケーションにも活かされています。
「施策の社内調整で、上司や関係部署に説明をする際の了承スピードが早くなったように思います。また、他チームが作ったキービジュアルに対して意見を伝える際も、その理由を含めて明確に伝えられるようになりました。考えや要望を的確に伝えられるスキルは、他チームとのコミュニケーションを頻繁に行う我々のチームにおいて、大きな武器になると思います」(近藤さん)
「例えば、『体験戦略』や『コミュニケーション戦略』と言った時に、それは何のことを指すのか。Design Campを通じてチーム内で共通言語ができたことの価値は高いと思います。在宅勤務により膝詰めで話す機会も少なく、顔を合わせたことのない他部署メンバーともスピーディに仕事を進めていかなければならない中、チームで共通言語を持って認識を合わせることはより一層重要になってくると思います」(平山さん)
もうひとつDesign Campによってお二人が強く実感したのが、チームミーティングの重要さでした。実際に集まり、ワークを通してメンバーの感性や考え方を知ることができたことも、チームビルディングの面では効果的だったと言います。
「テレカンだと、どうしても用件のみの会話で終わってしまいがちです。気軽に相談し合える機会が減っていたところ、集まって全員で直接コミュニケーションがとれたのは非常によかったですね。Design Camp終了後は、リモートワーク環境下においても雑談の時間を作るようになり、相談しやすい、報告しやすい環境を作ることの重要性を実感できたことも重要な成果です。Design Campはチームビルディングにも役立つと感じました」(平山さん)
今回のDesign Campの相談を受けた際に、クライアントである事業会社の方々が、オリエンをはじめとするクリエイティブディレクションに課題を抱えていると知ったのは、我々アマナにとっても意外な気づきでした。
良いクリエイティブを導くには、関わるメンバーがお互いの意図や思いを理解し合い、しっかりコミュニケーションをとれていることが大前提。オリエンシートを単なる発注書ではなく、意図を伝えるクリエイティブの設計図として捉え、デザイナーの能力を最大限引き出すオリエンの在り方を考えてみることが、アウトプットのレベルを上げる近道になるでしょう。
※この記事は、2021年8月18日にVISUAL SHIFTに掲載された記事を再掲載したものです。
撮影[top]:Kelly Liu(amana)
レタッチ[top]:カワノミオ(amana)
AD[top]:片柳 満(amana)
撮影[workshop]:ATSUSHI KAWASHIMA(amana)
文:内藤 貴志
編集:高橋 沙織(amana)
CreativeCamp
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複雑で先行きの見えない世界においては、 人本来の持つ創造性を解き放ち、主体性を持ち躍動できる人材が求められます。amana Creative Campでは、 再現性を持ったクリエイティブナレッジを提供することで、個の創造性を高めると共に、企業の競争力を高める文化創りへと導きます。