自分たちがつくったサービスやプロダクトが、世の中の顧客にとって本当に価値のあるものになるか、それとも誰にも使われずに終わるか。その分かれ道は、実は最初の課題設定に帰結します。その理由について、さまざまな企業の課題を解決してきたアマナの山根尭が解説します。
優れた答えを導き出すためには正しい課題設定が重要であることは、ここ数年あらゆる場面で語られていることですが、その指摘による学びが大きなイノベーションにつながっていないのが日本の実情です。
日本の名目GDPは、1997年に記録した536兆円をピークに下降し、2010年には世界経済2位の座を中国に譲り渡すことに。それから10年以上の月日が経った2021年においては、アメリカや中国との差を大きく広げられています。また、世界知的所有権機構(WIPO)が毎年発表している「グローバルイノベーション指数」においても、日本は2018年に13位、2019年に15位と徐々に順位を下げており、2020年は131カ国中16位となっています。これはアジア圏だけに絞るとシンガポール、韓国、香港・中国に次いで4番目。
そして、この「グローバルイノベーション指数」を構成する7項目のうち、「人的資源と研究」24位、「知識と技術の生産」13位、「創造的な生産」24位となっており、人材不足や新たな価値創造が大きな壁となっていることが窺えます。
参照:「グローバル・イノベーション・インデックス(Global Innovation Index ,GII)2020年版」
こうした状況の原因は複合的であるものの、その一つには、企業において正しい課題設定ができる人材が少なく、解決したい課題からずれた結果に至っていることが挙げられるでしょう。実際、企業の方々とお会いして話を聞いていくと、物事がトップダウンで決まったり、ポジショントークに終始する人がいたり、過去の成功体験に縛られていたり。あるいは、真面目だが挑戦しない文化が脈々と流れ、新たな価値創造が難しい企業も多くあることがわかります。こうした傾向の強い企業は決められた仕事に取り組むのは得意ですが、いざ新規事業を立ち上げたり、従来の事業にあり方を見直すとなると、「何を解決すべきなのか」という課題をうまく設定できず失敗する傾向にあるのです。
では、なぜこのような問題が起きてしまうのでしょうか。
解決したい課題からずれた結果に至る原因のひとつとして考えられるのが、レイヤーによって見えている景色が異なること。本来であれば企業レベル・社会レベルの大きな流れのなかで物事をとらえなければならないはずが、実務担当レベルになると目の前のタスクから課題を考えることが多くなるため、近視眼的な思考になって目的を見失ってしまうのです。課題を自分ごと化して仕事に取り組むべきであるものの、スコープが狭くなり、自分本位になってしまうと微妙なズレが生じ、解決すべき課題から遠ざかってしまいます。
また、チームを率いて意思決定を行うミドルマネジメント層においても、メンバー同士で共通認識を形成しながらプロジェクトを進められているか、メンバーの行動がプロジェクトの主旨や目的と合致しているかを確認する必要があります。それぞれの認識が異なったままプロジェクトが進んでいってしまうと、課題の再設定が必要なこともあります。
そうした状態に陥らないために意識したいのが、マクロとミクロの視点です。担当者一人ひとりが、いま自分が取り組んでいる業務だけに注力するのではなく、どのような課題を解決するためのものなのか、そしてその課題は企業や社会の課題解決につながっているのかを何度も自問したり、チームで共有したりする必要があります。というのも、トップレイヤーから降りてくる課題は常に担当レイヤーがわかるように噛み砕かれているわけではないからです。時には大枠だけが決まっており、具体的な業務内容は検討されていないことも多々あります。
たとえば、DXを課題としている企業から「Webサイトを作りたい」と要望があり、話を聞いていくと「DXを推進しなければならない」という課題を設定していたことがありました。本来考えなければいけないのは「DX推進によって何を解決したいか」ですが、目的が抜け落ち、手段のみに目が向いている状態です。達成したいのは、社員の労働生産性の向上なのか、はたまた顧客体験の向上なのか。そうした本質的な課題を知るためには、「なぜDXが必要なのか」の解像度を高めるとともに、プロジェクトメンバー同士で腹落ちするまで認識を一致させる必要があります。
そして多くのビジネスパーソンに知ってほしいのは、たとえ小さくとも自分たちの手で成功体験を重ねていくことです。いくら外部のコンサルティングファームやクリエイティブチームが組織改革や課題設定、課題解決のサポートをしても、企業内で経験が積み上がっていかなければ、事業を維持し続けていくことは難しいでしょう。はじめは社外の協力を仰ぎつつながらであっても、ひとつでも多く自分たちの手で成功体験をつくっていきましょう。そうしていくうちに会社や社会の状況を俯瞰して見られる人材が増え、企業のイノベーション創出も自ずと増えていくはずです。
撮影:AKANE(amana)
レタッチ:叢 智子(amana)
AD:片柳 満(amana)
文:村上 広大
編集:徳山 夏生(amana)
amana BRANDING
amana BRANDING
共感や信頼を通して顧客にとっての価値を高めていく「企業ブランディング」、時代に合わせてブランドを見直していく「リブランディング」、組織力をあげるための「インナーブランディング」、ブランドの魅力をショップや展示会で演出する「空間ブランディング」、地域の魅力を引き出し継続的に成長をサポートする「地域ブランディング」など、幅広いブランディングに対応しています。