先行きが見通せない今の時代、自分の中に価値基準を設けて主体的に動いていくことが大切です。どうすれば自ら能動的に考え、行動できるようになるのか。そしてどのようにものごとをとらえれば、より豊かに生きていけるのか。2冊の本を通して考えてみましょう。
前例のない時代、何よりも必要なのは自己を持つこと。そこからすべては始まるのではないだろか——。そんなことが思い起こさせてくれるのが、インターシティやトヨタ、ブリティッシュ・エアウェイズなど多数の広告を手がけたクリエイター、ポール・アーデンの『PLAY・JOB(プレイ・ジョブ)』(著:ポール・アーデン、翻訳:sanctuarybooks/Sanctuary books)です。
よくあるビジネス書の体裁とは一線を画した装丁は、インパクトのある写真とともに、独創的な考えや奇抜なストーリーや、アーティスト・科学者・哲学者といった偉人の格言などがレイアウトされています。どのページもパンチラインのような強烈な言葉が並んでいるにも関わらず、軽やかに読み進められるのは、デザインによる力も大きいのでしょう。言葉とビジュアルの力をもって、人生や仕事において「無茶をすること」がどれだけ大切なのか、そして論理的なことよりも、理屈では説明できないことがいかに優れているのかを読者に訴えかけているように思います。
固定観念や同調圧力、既成概念といったものは、都合よく誰かがつくり上げたものですが、そうした枠組みの中だけでは、変わり続ける時代に対応することはできません。あらかじめ定められたルールは多々ありますが、何よりも大切にすべきは「自分はこうしたい」と思い、行動すること。他人が決めたルールではなく、自分のルールで生きることです。
しかし、突然「自分のルールで生きろ」と言われても難しいと感じるかもしれません。そんなときに助けとなるのが、「自分できちんと決めて行動した」という経験です。どんな些細なことでも構いません。失敗しながらでも、小さな決断と成功体験を積み重ねていくことが、自分の中に軸を持つことにつながるのではないでしょうか。
「型にはまらない考え方・生き方を実践し続けていこう」、そんな気持ちをあらためて思い起こさせてくれる1冊です。
この本を紹介した人
株式会社アマナ クリエイティブコンダクター・プランニングディレクター
企業のブランディングや、新規事業開発など、デザインやアートの思考を用いて、企業のさまざまなプロジェクトを担当。テクノロジーを軸に、イノベーションの可能性を拡張するデジタルクリエイティブラボラトリー「FIGLAB」にも所属。また社会のクリエイティブ人材を増やすことを目的とした研修プログラム「amanaCreativeCamp」を開発・担当。
私たちが生活を送るうえで欠かせない“テクノロジー”。古くは石器に始まり、今多くの人が使うコンピューターに至るまで、時代によって進化・変化・退化を遂げながら実に多様なテクノロジーが生み出されてきました。そうしたテクノロジーの本質に触れているのが、雑誌『WIRED』を設立したケヴィン・ケリーによる著書『テクニウム――テクノロジーはどこへ向かうのか?』(著:ケヴィン・ケリー、翻訳:服部桂/みすず書房)です。本著では、テクノロジーを生命における生態系と同等のものととらえ、テクノロジーの活動空間を「テクニウム」と定義。テクノロジーの“振る舞い”を読み解いていきます。
「生態系と同等のもの」とはどういうことか。たとえばトンカチ一つとっても、テクノロジーそのものだけではトンカチの生態系は成り立ちません。トンカチでガラスを割ることでガラスに変化が生まれ、トンカチ自体も機能する。自己だけで成り立っているわけではなく、他のものが作用して事象が生まれたり、新しい形へと変化したり、使われなくなったりします。テクノロジーは、まるで生命の生態系と同じように進化や退化の変遷を遂げているのです。「テクノロジー=生命」というとらえ方は面白く、新しい視点を与えてくれました。
「AIが人の仕事を奪う」と言われるように、テクノロジーを「悪」ととらえる人も少なくありません。たしかに新しいテクノロジーが生まれれば、デメリットも見えてくるでしょう。しかし、悪い面があるから使わないのではなく、どうすれば良く使うことができるか、どうすれば良い変化が起きるのかを考えるべきです。
テクノロジーと、そのテクノロジーを使う私たちの主従関係は、さまざまな場面で逆転します。たとえば、「コンピューターを使うために椅子を買い、椅子で床が傷つくからカーペットを敷く」といった具合です。コンピューターを起点に起きる事象は、より良くテクノロジーを使うことにもつながりますが、ともするとテクノロジーの奴隷となってしまう危険性もあるでしょう。テクノロジーの良し悪しは、それを扱う私たちに委ねられているのです。
テクノロジーや情報についてあらためて考えなければならないこの時代、この本は、どうすればそれらとうまく付き合いながら、より豊かに生きていけるのかを考えるきっかけとなるはずです。
この本を紹介した人
株式会社アマナ クリエイティブサイエンティスト
クリエイティブを用いて、企業のビジネス価値を高める取り組みに従事。ビジュアルやデザインを活用してビジョンの発見・発信を行うなど、クリエイティブのエッセンスをビジネスに取り入れるための取り組みを実施している。BtoB企業を中心に幅広い業種の企業を担当。
撮影:小山 和淳(amanaphotography)
AD:片柳 満(amana)
文・編集:徳山 夏生(amana)
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