経営レベルでデザインを取り入れることへの関心が高まる一方、その大きな考えに則ってプロダクトやサービスのUI、プレゼン資料に至るまで、細部へデザイン思考を浸透させていく必要があります。
ビジネスパーソンにとって最も身近な表現手段の一つ、プレゼン資料を例に、アマナのアートディレクター・片柳満が“「伝わるデザイン」を考えるための基本”を解説します。
“デザインとは、橋の形を考えることではなく、向こう岸への渡りかたを考えることだ”
世界的なデザイナー、ディーター・ラムス(※)の言葉にあるように、デザインの本質的な目的は、他者に伝わることであり、色や形といった目に見える造形をどう表現するかは、そのための手段でしかありません。単におしゃれなデザイン、かっこいいデザインであればいいというわけではなく、何を伝えたいのか、何を成し遂げたいのかという目的に即したデザインを考える必要があります。
※…ドイツのインダストリアルデザイナー。電気機器メーカー・ブラウンでのプロダクトデザインが有名。アップルの元CDO(最高デザイン責任者)で iMacやiPhoneなど主要製品を手掛けたジョナサン・アイブに影響を与えたと言われている。
デザインを「広義のデザイン」と「狭義のデザイン」の2つに分けるとします。「広義のデザイン」は目的を達成するための思考の枠組みやコンセプトの設計、また実際の形に落とし込んで表現するまでのすべての工程を指し、「狭義のデザイン」は「広義のデザイン」で設計したことに基づいて、実際にモノに形を与えることだと定義すると、ビジネスにデザインを取り入れるには、どちらも両立させなければなりません。
この2つを両立させ、成功している企業の一つがAppleです。まるで息をするように、当たり前にデザインを使いこなす思考(=広義のデザイン)があるからこそ、iPhoneをはじめとする洗練されたプロダクトやユーザーインターフェイス(=狭義のデザイン)が生まれ、プロダクトやUIによって、ユーザーはAppleの思想や美意識を直感的に理解することができます。崇高な思想や美意識を持っていたとしても、プロダクトが洗練されていなかったり、UIの統一感がなかったとしたら、時価総額150兆を超える今のAppleはなかったでしょう。「広義のデザイン」と「狭義のデザイン」は相関関係にあり、どちらが欠けてもデザインの効果を最大限に活かすことはできません。
ビジネスパーソンにとって、最も身近な表現手段の一つがプレゼン資料です。社内へのプレゼンテーションや社外への営業など様々な場面で登場し、「狭義のデザイン」の中でも、経営層から一般社員に至るまで日常的に触れる機会が多いものでしょう。
アマナでは、プレゼン資料を題材として「伝わるデザイン」についてレクチャーするワークショップ「Design Camp(※)」を企業に提供しています。アートディレクターが参加者のプレゼン資料を講評しながら、「伝わるデザイン」について実践的に考えるというものです。
※…アマナが提供する、“クリエイティブ思考”で競争力向上を目指すための企業向けワークショップ。
伝えるべきメッセージや表現すべき世界観をデザインすることで、「伝えたいこと」が伝わるようになるもの。単に綺麗な見た目に仕上げるのではなく、どのように見せたいかがポイントです。「高品質に見せたい」、「ポップに見せたい」、「スタイリッシュなイメージを想起させたい」、「おいしそうに見せたい」など、まずはどのようなイメージを伝えたいかを考える必要があります。このイメージに沿ってデザインを使えば、メッセージを直感的に伝え、モノの本質や世界観を表現することができるのです。デザインは人を動かす大きな力を持っています。
プレゼン資料のデザインにおいて、基本となる3つの要素があります。
1.カラー
2.書体
3.レイアウト
1つ目の「カラー」を構成する基本的な項目は、色相・明度・彩度の3つです。
カラーで重要なのは、色がイメージや意味を持っていることを理解し、伝えたいイメージに沿って選択すること。たとえば、紫は「高貴な、大人っぽい、お洒落、上品な」といったイメージを、オレンジは「暖かい、陽気、楽しい」などのイメージを持っています。色の持つ意味をふまえ、目的に合わせてカラーをセレクトすると、見る人に直感的にメッセージを伝えることができます。
「HAPPY」という言葉に色をつけて、より「HAPPY」らしさを演出したいとき、次の4色のうち、より多くの人に伝わるのはどれだと思いますか?
人によって感じ方はそれぞれですが、多くの人へ向けて発信するときは、「楽しさ」や「喜び」を表す黄色の「HAPPY」を使うと効果的です。
また、カラーが持つイメージはブランドを伝えるうえでも重要で、多くのブランドでは、発信したいイメージや世界観に基づいてカラーが選択されています。暖色系は大衆的でポップなイメージを持つブランドに多く見られ、冷静なイメージを与えるブルーは金融関係の企業やIT系企業、平和なイメージを想起させるグリーンはナチュラル思考のブランドに、洗練されたイメージのグレーはスタイリッシュな印象のブランドに多く使われています。
プレゼン資料に使うカラーの原則は、意味のない色は使わないこと。ベースはモノトーンで揃え、伝えたいイメージに沿って1〜2色カラーを入れていきます。必要最小限の色数で構成することで、情緒的なイメージとともに伝えたい情報をぶれることなく伝えられます。
書体はスタンダードなものを選ぶことが原則です。スタンダードな書体の例は、和文書体であればゴシック体の「游ゴシック」や明朝体の「游明朝体」、欧文書体であればサンセリフ体の「Helvetica Neue」やローマン体の「Garamond」などがあります。
一方、スタンダードではない書体は以下のようなもの。書体自体がデザインされているため、メッセージと合致したものでなければ、伝えたいことが伝わりづらくなってしまいます。
最初はスタンダードな書体とそうでないものの見分けがつかないかもしれませんが、日常的に書体を見る意識を持つと、次第に判断する力がついてくるでしょう。
レイアウトで重要な要素の一つがマージンです。資料に記載される情報の外側に余白を確保し、1つ1つの情報の間のマージンも確保します。
▼Before:マージンや文字サイズを意識していない資料
▼情報の外側・情報と情報の間のマージンを確保。
次に意識したいのが、文字サイズです。タイトル・見出し・内容など、優先度が高い順に大中小に分けて整理することで、見え方が変わり、伝わり方が変わります。
▼情報の優先度によって文字サイズを整理。
▼After:情報の外側・情報と情報の間のマージン、文字サイズを意識した資料
カラー、書体、レイアウトと、一つひとつの要素にフォーカスすると、最初は細かな差だと感じるかもしれません。ですが、デザインはこうした細かな差によって構築されています。伝えたいことに則して、カラー・書体をセレクトすることが、ビジネスにデザインを取り入れる一歩となります。
プレゼン資料は、ビジネスパーソンにとって最も身近な表現手段の一つ。ビジネスにおけるデザインの効果を高めるため、まずは手元の資料から見直してみませんか?
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撮影[top]:広光(UN)
ドローイング[top]:鈴木 彩加
レタッチ[top]:カワノミオ(amana digital imaging)
AD[top]:片柳 満(amana DESIGN)
文・編集:徳山 夏生(amana)
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