SDGs教育の取り組みから考える、これから企業が求められること

SDGsの導入について検討する企業が増えています。今回は、SDGs教育を行っている学校デザイナー・山藤旅聞さんに、SDGsをどのように授業に組み込み、生徒たちに何を伝えているのか。そこから今企業に求められることを伺いました。

今の日本の教育現場ではどのような人材を育てようとしているのか?

──なぜ学校教育にSDGsを取り入れようと考えたのでしょうか?

<PROFILE>山藤旅聞|2019年に新渡戸文化小中学校・高等学校の統括校長補佐として着任。『未来教育デザインConfeito』共同設立者、一般社団法人『Think the Earth』SDGs for Schoolアドバイザー。SDGsを活用して教育と社会をつなぎ、社会課題の解決に向けてさまざまなプロジェクトを展開。

山藤旅聞さん(以下、山藤。敬称略):10年ほど前、途上国への国際協力を行うJICA(独立行政法人国際協力機構)の研修で、ブータンを訪れたのがきっかけでした。ブータンの子供たちは、日本ほど教育環境が整っているわけではないのに、英語力は中高生にもなると全員が、授業を全教科英語で受けることができるほど高いレベル。しかも、自分たちが勉強している目的は、「for people」「for the earth」と話してくれたんです。自分のためではなく、周りの人や地球のためにイキイキと学んでいる姿に、その当時は衝撃を受けましたね。

一方10年前の日本は、ブータンよりもずっと教育環境はいいのに、「誰かのため」に勉強するのではなく「自分の将来のため」に勉強している生徒が多かったです。

今後の日本を考えたときに、「教育=受験のツール」ではなく、地球・人類のために課題を見つけ、解決していく知識・手段が学べる教育でなければいけないと感じ、少しずつ模索しながら、社会課題を「自分ゴト化」する教育デザインを作ってきました。

そんな中、2015年に国連でSDGsが採択され「まさに僕が考えていることに近く、これを取り入れよう」と考え、SDGs視点の授業を実践するようになったんです。

──SDGsの採択を受けて、学校教育において何か影響はありましたか?

山藤:2017年を皮切りに、文部科学省の学習指導要領にも大きな変化がありました。

山藤:小・中・高の教育に、持続可能な社会の創り手”の育成が求められ、社会との接続を持つ教育を行うよう意識するようになりました。さらに、高等学校では必修授業に“総合的な探究の時間”が加えられました。探究って何だろうと思う人もいるかもしれませんが、変化の早い現代に対応できるように自分で考え、課題を見つけ解決に向けて行動できる人材を育む授業です。学んだ教科の知識を使って何ができるのか、学んだことを〝手段″として使えるようにしていくのです。

──2017年3月公示の新学習指導要領によって教育現場が変わってきて、生徒たちの意識にも変化はありますか?

山藤:そうですね。昔は自分の将来のために学ぶ生徒が多かったですが、僕が10年前にブータンで出会った時の子どもたちのように、今の日本の生徒は少なからず地球のため、未来のためというSDGs視点を持つ生徒が増えてきていると思います。

というのも、今の生徒たちはリアルに気候変動や環境破壊、今回の新型コロナウイルスといった感染症の危機も目の当たりにしていて、それらの情報をSNSで世界中から得られる環境にいます。大人たちが言うことを鵜呑みにせず、これからの未来のために、今、学校で教わっていることは本当に必要なのか、今まで通りでいいのだろうかと、“疑う余地”を持って、自分ゴトとして捉えている生徒が多いですね。

実際にSDGsをどのように授業に取り入れているのか?

──環境問題などを自分ゴトとして捉える生徒が増えているということですが、どのようにSDGsを授業に取り入れていますか?

SDGsの17の目標。

山藤:そうですね、SDGsを授業に取り入れるからといって、SDGsの17の目標を最初に見せることはありません。SDGsは机上のものではなく、地球規模で解決すべき課題だということが伝わるように話を進めていきます。

──たとえばどのようにして生徒たちに関心を持たせるのでしょうか?

山藤:SNSやニュース で取り上げられる地球温暖化、環境破壊など“時流”と関連づけて話をします。自分ゴトにするには、自分たちの置かれている現状を理解してもらい、今後10年、20年後の地球をイメージするために、“未来を覗く窓”というフィルターとしてSDGsを授業で提示します。

山藤:その時にまず生徒に伝えるのが、「SDGsは今の大人たちが作ったもの。みんなはこの17の目標を活用しながら未来を考えた時、興味のある目標はあるのか、または追加した方がいい目標はないのかを考えて欲しい」と。17の目標は、結構僕が教えている理科・生物の視点が活用できるんです。その知識を活用してSDGsを考え、地球や人類の未来にどうしたらいいのかを考えてもらうきっかけにしています。

──具体的にはどんなことをやるんですか?

山藤:世の中を通してSDGsを捉えて欲しいので、新聞や雑誌を読んで、SDGsと関連しそうな記事に17の目標のどれに当てはまるのかを付箋に書いて貼ってもらいます。すると、自分の興味とSDGsが結びつき、自分ゴトとして感じてもらえるんです。そういったところから各教科とSDGsを結びつけていきます。

授業では、雑誌や新聞記事に付箋を貼るほかに、レゴを使ったワークショップ的なことも行う。レゴを使って自分の強みや関心事を表現し、一人ひとり個性があるという多様性の寛容を学びながら、ひとつの目標である〝持続可能な社会″を目指すことを確認していく。

山藤:2019年度は、僕が担当している理科と英語が続く時間割を組んで、教科を横断して社会課題をみる授業を実践してみました。同じ教科で2人以上の先生でチームティーチングする授業はよくあるのですが、僕らは教科を超えてチームティーチングする授業を展開。生徒の個性と先生の個性を掛け算させて、一緒に未来をみながら、各教科の視点で物事を考えていく授業をしたのです。

──教科を超えたチームティーチングをなぜやろうと思ったのでしょうか?

山藤1人の先生からのアプローチより、複数で、しかも他教科の先生と一緒に授業する方が、物事の捉え方の多様性が上がります。生徒の「やってみたい」「もっと知りたい」を引き出す手段として、より良い授業スタイルなのではないかと考えたのです。教科を横断することで、単独教科では実現できなかった多様性溢れる授業になりました。

また、続けることで次第に理科と英語の垣根もあまり感じなくなり、理科が好きな大人と、英語が好きな大人、そして様々な興味を持つ生徒たちが対等に、共に未来を見つけ、自分たちにできることを探し、創り出す授業になっていったんです。

2020年度からは、国語・数学・英語・理科・社会の5教科に、美術や音楽、保健体育などを加え、様々な教科の先生たちでチームティーチングする授業を展開していきます。

──そのような授業を行うと、生徒たちは今学んでいることは、世の中に出ても役に立つ知識なんだと実感してもらえそうですね。

山藤:そうですね。学んでいることは受験のためでも自分の未来のためだけでもなく、世の中の役に立つ知識だと認識できると、より創造性に富んだ人材になっていくはずですし、そのような人材は社会からも企業からも求められていくと思います。

授業を飛び出して、さらなるSDGsの取り組みも

──SDGsに関する活動は授業に限って行っているんですか?

(写真左)1ヶ月に一回、生徒たちは檜原村を訪れ、じゃがいも畑の手入れをする。 (写真右)生徒たちが収穫したじゃがいもで“じゃがあん”を開発。生徒たちが手作りしたじゃがあんは、檜原村の夏祭りで販売し、好評だった。

山藤:実は、前任校からやっている東京都檜原村でのプロジェクトが2つあり、今の学校の生徒たちも希望者だけですが参加しています。

一つ目は、檜原村の高齢化による耕作放棄地を使った檜原村の名産・じゃがいも作りです。育てるだけでなく、じゃがいもを使った商品を生徒たちが開発し、“じゃがあん”というおやきが生まれました。最初は生徒たちが手作りしていましたが、名物として供給するためには、味の安定や量産化が必須。そこで協力してもらえる食品製造会社を探していて、商品化に向けて取り組んでいます。

二つ目は、自分たちで育てたオーガニックコットンを使い、生徒たちが身に着ける制服のリボンやネクタイ、タオルを企業の協力を得て商品化できないかと考えています。

──プロジェクトとして本格化すれば、檜原村の町おこしにつながりますね。

山藤:まだまだ途中ではありますが、このような試みは、SDGsの12番目の目標「つくる責任、つかう責任」、15番目の「陸の豊かさも守ろう」にも繋がりますし、何より地域と繋がり、企業と繋がり、その土地を活性化するきっかけになる可能性を秘めています。生徒たちのアイデアが商品化され、檜原村の魅力が国内外に伝わって、訪れる人、移住する人が増えたらいいですよね。

──このプロジェクトでは企業の協力を求めていますが、SDGsを学び、プロジェクトに参加している生徒たちがいる中で、今後企業はどのようなことが求められるのでしょうか?

山藤生徒たちは僕ら大人が思いつかないような柔軟なアイデアを沢山持っているけれど、社会経験や経済力はありません。一方、企業には経済力と実行力があり、新しい閃きを求めている部分もあると思いますですから、生徒たちが何か行動をしようとした時には、企業が生徒たちと対等にコミュニケーションをとり、手を差し伸べてくれるといいですよね。

また、教育現場も今までとは違う方針を打ち出し、その教育を受けている今の生徒たちは、SDGsはもちろんグローバルな視点も持っていて、自分で課題を見つけて解決のために動ける人材へと成長していくはずです。
そんな彼らが、自分でモノを買うようになったり、就職先を考える際、SDGsに対する意識が低い企業には魅力を感じない場合も。そのため、未来を担う生徒たちに振り向いてもらえるよう、SDGsやサスティナブル、グローバルといった意識のある活動が企業に求められるのではないでしょうか。

まとめ

SDGsへの取り組みに積極的な企業がある一方で、まだまだ根付いていない企業もあるのが現実です。今の教育現場では、SDGsを活用した授業がスタートしています。地球の未来を担う生徒たちが憧れる企業になるためにも、一度SDGs視点で企業活動を考えてみてはいかがでしょう。

インタービュー・文/木林奈緒子
撮影/猪飼ひより(amanaphotography)
デザイン:下出聖子(amana)

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