5G導入が見えてきた今、日々進化をとげている動画の世界。最近では、スマホで動画を見る機会も増え、動画がより身近なものになってきました。需要が増え続ける動画マーケットは、これからどのように変化していくのでしょうか? ONE MEDIA(ワンメディア)の代表で動画界の風雲児、明石ガクトさんに、動画マーケットの今とこれからについてお話を聞いてきました。
――まず、動画マーケットの今について教えてください
明石ガクト(以下、明石):従来の動画メディアというとテレビが主流でしたが、今はYouTubeやSVODなど、テレビ以外のサービスが増えてきています。また、動画を見るツールがタブレットやスマホになったり、タクシーの中でもタブレットで動画CMが流れるようになったりと、日常で動画に触れる機会もここ数年で格段に多くなっています。
このように新しい動画マーケットが生まれた今、動画に求められる要素も従来のものとは大きく変わってきました。大きくわけると、“音”、“インフォメーション・パー・タイム”(※1)、“ビジュアルストーリーテリング”(※2)の3つ。私たちが動画を見る際、大きい画面で離れてみるよりも、小さい画面で近くで見た方が、情報の処理能力が上がります。つまり、スマホで動画を見るようになり、テレビよりも圧倒的に理解度がアップしているんです。
これらを踏まえて、ONE MEDIAで作るコンテンツでは、音なしでも楽しめる、テンポよく多くの情報を入れる、ひとつの動画の中でグラフィックやテキストなどを組み合わせるなど、この3つの要素を意識した動画作りを行ってきました。
この3つは、“今”の動画マーケットで視聴者に受け入れてもらうために、必要不可欠なポイントだと思っています。
――動画の内容も、従来のものとは需要が変わっているのでしょうか
明石:「TVは広く浅く。新しい動画は狭く深く」ですね。
従来の動画のニーズは“万人ウケするもの”でしたが、新しい動画ニーズは、より“ニッチな情報”です。
つまり、自分がSNS上でフォローしている“@(アット)”や“#(ハッシュタグ)”というように、ピンポイントの趣味や興味関心のある動画が受け入れられていく時代です。なので、作る側としては、特定の層に深く刺さる動画をいかに多く作っていけるかが勝負になります。
また、コンテンツの内容はもちろんですが、出演する人も同じ。世間的な知名度よりも、ターゲットとなる視聴者層に知られている人や、そのジャンルで影響力がある人をキャスティングすることが大切です。
※1.時間軸あたりの情報量を増やしていくという考え方。画面との距離が近い分、情報の摂取スピードも上がるとされている。
※2.情報をビジュアル化して伝える技術のこと。
――動画のあり方が変わった今、ONE MEDIAとしての考え方や活動にも変化はあったのでしょうか?
明石:動画メディアの流れが変わっていくのを見て、特定の層に刺さるものを作るためには、これからはクリエイターをネットワークしていく場所が必要なのではと感じました。
そこで新しい試みとして今年7月からスタートさせたのが、ONE BY ONEというプロジェクト。簡単に言うと、ONE BY ONEというプラットホームを介して、クリエイターと作品を発信する場所としてつなげていく新しい試みです。
ONE BY ONEの取り組みの1つとして、「VISION」というLINEアプリのニュースタブ内で3番組が現在配信されています。映画監督や映像監督(クリエイター)と出演者(キャスト)がコラボレーションして作った縦型動画が見られるんです。
たとえば、本業で映画を撮っているクリエイターと、普段は自撮りして単体で動画を発信しているキャストがタッグを組み、動画を作ってもらう。そうすると、キャストひとりではできなかったことができたり、プロ目線が入ることでキャストの新たな魅力が引き出されることがあるんです。またクリエイター側も、映画を撮るときとは違う縦型のカメラで撮影をすることで、普段の映像とはひと味違った作品を生み出すことができます。
このように、いつもとは違う“軸”で作品作りに挑戦をしてもらうことで、想像できないような化学反応が起きるんです。視聴者には、その未知の世界感を楽しんでもらいたいと思っています。ちなみに、“動画は15秒以内が1番見てもらえる”と言われることも多いですが、おもしろい映像は尺に関係なく見てもらえるもの。動画の長さは、クリエイターが決めるべきだと思っています。
――「ONE BY ONE」の直近の目標や展望を教えてください。
明石:まずは、クリエイターの登録者数1000人を目指しています。
今までONE MEDIAでは、動画の撮影や編集はすべて社内のクリエイターが行っていました。でもこれからは、外部のクリエイターをどんどん発掘していきたいと思っています。
現状、応募者の中でも力の差はあります。ですが、いきなり自分の名前で仕事ができないとしても、チームの一員として経験を積んでいける。そんな仕組みを取り入れていきたいと考えています。それを通して、最終的に自分の名前で仕事ができるクリエイターを、世の中にいっぱい出していきたいですね。
――普段仕事をするうえで、大切にしていることを教えてください。
明石:最初に話したように、音、インフォメーション・パー・タイム、ビジュアルストーリーテリングの3つは、セオリーとして今も大切にしています。
ほかに大切にしているのは、表現のフレッシュさ。人の気持ちは刻一刻と変わるもの。動画も同じように、誰が被写体になるべきか、どういう演出で切り取るかというものは、時代と共に変わっているんです。
なので、そのときのいい表現というのは、常に更新し続けていかなければならない。
「あのときのあの演出がよかったから、あんな雰囲気で撮ろうよ」って言ってるようでは、その動画からは新たな感動も発見も生まれません。
あと、今の僕が作った動画を見てみたいという声もいただくんですが、もし作っても公開しないというのも決めています。というのも、僕とクリエイターが師弟関係になることを、僕は望んでいないんです。師弟関係って美しく素晴らしいものですが、僕はクリエイター1人1人が独自の路線を進んでほしいと思っています。会社を代表する僕が作品を作ると、それが正解になりかねない。だから僕は動画を作らないんです。
――最後に、今後の動画界は、どのようになっていくと思いますか?
明石:この数年間、自撮りの動画でファンを集めるというように、自己プロデュースで人気を得る人が多かったですよね。
でも令和時代は、演者ではなく、誰かを主役にするクリエイターにスポットが当たる時代になると僕は思っています。
なのでONE MEDIAでは、外部のクリエイターを巻き込んだり、社内のクリエイターもキャラを立てるなど、クリエイターの個性を前面に打ち出していこうと計画しています。それぞれのクリエイターの長所を見つけ活躍の場を作ってあげることが、僕たちの役目です。
最近、企業でも動画でのプロモーションを行ったり、導入を考えているということも多いと思います。ただ動画を作るのではなく、コンテンツとしてどのようにユーザーに届けるのか、そのコンテンツは誰が発信しているのかが、今後の動画施策のカギになりそうです。
テキスト:石部千晶(六識) 撮影:大竹ひかる(amana)