「ロボット」と聞くと、どのような姿をイメージしますか?
産業用ロボットの設計・開発を行うデンソーウェーブで、今世界から注目されているのが、人協働ロボットCOBOTTA(コボッタ)です。その魅力や見せ方のこだわりについてインタビュー。
開発者の澤田洋祐さん、デザインとプロモーションを統括する杉山真二さん、COBOTTAのプロモーション施策を担当するアマナのプロデューサー加藤真にお話を聞きました。
――COBOTTAは、人の隣で、あるいは人と対面で一緒に作業することを想定されて開発されたと伺いました。2015年に初めてお披露目されていますが、当時からこの形だったのでしょうか?
澤田洋祐さん(デンソーウェーブ/以下、澤田。敬称略):デンソーウェーブでは省人化を目的とする産業用ロボットの開発・製造をしてきましたが、2010年に産業用ロボットと同じ開発環境で使えるアカデミックロボット*を制作しました。当初は教育用途以外で使われることは想定していませんでしたが、このロボットを自動車、電機、食品、ラボラトリ等の産業用途で使いたいとの声が上がったんです。
*アプリケーション開発担当者がプログラミングなどを学ぶための教育用ロボット。
本体とコンピューターが一体化し、小型で持ち運べて、専門的な知識がなくても使える。これは従来の産業用ロボットにはなかった点で、新たなロボットカテゴリーの潜在ニーズに気づきました。人との協働性に特化したロボットを作ってはどうだろうと思ったのがCOBOTTA開発のスタートです。当初はまだ今のような形でもなかったんですよ。
杉山真二さん(デンソーウェーブ/以下、杉山。敬称略):これまでに同じカテゴリーの製品がないということは、リサーチする市場がないということ。開発からプロモーションまで、とにかく苦労することが多かったです。工場での部品の仕分けや、医薬品研究現場での正確な繰り返し作業、学校でのプログラミングなど、考えるほどさまざまな用途が想像できるので、無限の可能性をひたすら模索する状態でした。まずは、いかにしてニーズが見込める分野にCOBOTTAを知ってもらうかということが課題でしたね。
――COBOTTAが開発された2015年の「国際ロボット展」では、展示コンテンツをアマナで制作しました。これまでにないカテゴリーのロボットをどのように見せていきましたか?
澤田: 当時はプロモーションも私が担当していましたが、とにかく人手が足りず、展示の内容まで細かく考えるということが難しい状態でした。そんなときにコンテンツの企画制作をお願いしたのがアマナの皆さんです。
加藤真(アマナ/以下、加藤):アマナのプロトタイピングラボラトリーFIGLABと共に動物の絵を描いて色を塗るというデモンストレーションを企画し、展示することになりました。
澤田:そもそも、依頼の決め手はFIGLABの三井所高成さんが制作していた、ロボットアームが新体操のリボン演技を行う「Rhythmic gymnastics」の映像を見たことでした。
澤田:実際の新体操選手の動きを再現した映像を見て、すごいプログラマーがいると確信し、COBOTTAの魅力を引き出す見せ方を考えてくれるのではないかと思いました。開発側のイメージでプログラミングをすると、どうしても私たちのフィルターがかかってしまうので、純粋にいいものを作ってほしいという期待も大きかったですね。
杉山:当時はまだプロトタイプでの展示会だったため、未開発部分を隠さなくてはならないという要素もありましたが、それをも補えるデモを考えていただけました。その後もドイツ・ハノーバーの「CEBIT」をはじめ海外でもデモンストレーションを行い、世界で注目を集めました。
澤田:「CEBIT」では、動物の絵ではなく来場者の顔をカメラで撮影し、その似顔絵を描くという内容に進化しました。会場内のブースが好立地でないにも関わらず、たくさん人が体験の列に並んでくれました。撮影データをもとに抽象的に変換して座標を出すので、短時間で描き上げることができ、参加型のデモだった点もよかったです。
――プロトタイプを経て、現在COBOTTAは実用の段階にありますが、改良していく中でデザインについてはどのような工夫がありましたか?
澤田:一般的な産業用ロボットアームに比べて、小ぶりで丸みを帯びたデザインですが、これは人のそばで作業するため、突起物を排除したことで生まれたものです。
杉山:関節部に指を挟まないアーム構造と、接触時の圧力を低減する丸みを帯びた外観で、本質的な安全性を担保しています。人に威圧感を与えないよう配慮し、滑らかな面で意匠を構成すると、自然と今のデザインに落ち着きました。
加藤:必然的にこのデザインになったんですね。私は初めてCOBOTTAに出会ったとき、他のロボットと違って、機械特有の圧迫感や恐怖感を覚えることなく、むしろ親近感と愛嬌があり、まるで友達のような感覚を覚えるキャラクター性を感じました。
その特徴を活かし、人間らしいとっつきやすさを前面に出すことで、COBOTTAの持つ安全性、操作の簡易性をアピールしようと制作したのが、COBOTTAと子供が交互にブロックを積み上げて遊ぶ映像でしたね。ブロックはユーザーの使い方次第でいろんな形になること、COBOTTAが無限の可能性を秘めていることを表現しています。
杉山:人との協働が軸にあるので、それを表現するためにどのような動きをさせたらいいかを考えましたね。その結果、COBOTTAの動きの特徴が分かりやすく、人と一緒にできる作業として、ブロックを交互に積むことにしました。
――クリエイティブ面でこだわった部分はありますか?
加藤:ロボットの無機質な硬さを感じさせないよう、柔らかさや動きのスムーズさを優しい雰囲気で伝えるための光の演出を工夫しています。また、ベーストーンをデンソーロボットのイメージカラーである白で統一し、商品イメージを崩さないことにも注意しました。アクセントとして企業のロゴカラーでもある赤色の積み木を使うことで、映像全体を通してデンソーロボットのブランドの世界観を表現しています。
――流通業界向けの情報システム展示会「リテールテックJAPAN2018」では、COBOTTAが来場者の顔を撮影し、表情を分析して最適な香りのバスソルトをプレゼントするライブパフォーマンスコンテンツも制作しています。
杉山:来場者の方は普段ロボットを使っていないので、単にロボットによる作業の自動化を謳っても伝わりづらいかもしれません。どのような見せ方がもっとも響くかを考えたところ、店舗でお客様をおもてなすような、デモンストレーション要素が必要だと考えました。
加藤:来場者が実際に体験することでCOBOTTAを身近に感じてもらうこと、使い心地を知ってもらうことがベースにあり、集客のためにギフトを渡すこともリクエストしていただきました。
杉山:そのときの表情から、喜びや悲しみなど7つの感情パラメータを分析し、そのときの気持ちに合った香りのバスソルトをプレゼントしました。予想外だったのは、体験したほとんどのお客様が「幸せ」の表情だったことCOBOTTAに触れるとうれしい気持ちになる人が多いということもわかりました。
――COBOTTAは制御用APIを公開し、クリエイターが自由な開発環境でオリジナルのアプリケーションを開発できることも、大きな特徴の1つですね。
澤田:開発時からクリエイターとのコラボレーションが念頭にありました。COBOTTAのシステムは、導入する企業はもちろん、クリエイターに好まれる開発環境でもあると思います。また、COBOTTAは手で直接動作を教えることができるので、たとえプログラミング言語の知識がなくとも思い通りの動きを作ることが可能です。従来よりも幅広い表現者とのコラボレーションに適していると思っています。
杉山:プログラマーであれば物理空間へのアウトップットとして作品を創ったり、身体表現でアート活動をしている方であれば機械特有の動きを取り入れたパフォーマンスを行うなど、クリエイターとのコラボレーションはCOBOTTAの可能性をさらに広げられると考えています。さまざまな企業やクリエイターのみなさまと、どんどんコラボレーションをしていきたいですね。
「グッドデザイン賞ベスト100」を受賞したことで、東京ミッドタウンや神戸ファッション美術館での展示会へ出展することができ、従来のロボットユーザーではない層にタッチする場も増えました。今後も、さまざまな層へとアプローチを重ねていきたいと思います。
加藤:これまでCOBOTTAの展示施策を開発してきたFIGLABの三井所も、COBOTTAに直接触ったり、動かしたり、ダイレクトなコミュニケーションを取れることに、開発者として魅力を感じていたようです。さらに、COBOTTAがもつキャラクター性や動きからインスピレーションを受けて、コンテンツ制作に取り組めることも大きな魅力ですね。クリエイターの創造性を刺激するロボットアームだと感じています。
今後、これまでとは異業種の展示会であっても、アプリケーション開発によって、COBOTTAが活躍できる場を広げていきたいと考えています。私が担当している他のクライアントにもCOBOTTAを知っていただき、コラボレーションの可能性を広げるお手伝いをしていきたいです。
テキスト:森下右子
撮影:上村可織(UN)