昭和の報道動画など、アーカイブ映像を日本テレビが売り出した理由

国内初の民間放送局として1953年に開局した日本テレビ放送網。今回、アマナイメージズと共同で「日テレアーカイブス」というアーカイブ映像の販売を始めました。日本テレビの小倉徹さんと大路菜央さん、アマナイメージズの平山清道に、アーカイブ映像の価値について聞きました。

蓄積されてきた映像をもっと活用するために

ビジュアルシフト編集部(以下、編集部):まずは日本テレビがアーカイブ映像を販売しようと決めた経緯について教えてください。

小倉徹さん(日本テレビ/以下、小倉。敬称略):そもそも今までも問い合わせされた場合のみ販売はしていたんです。企業などから日テレに「この日時に放送されたこの番組、こんな映像をください」などと言われて、指定された映像を販売する。

あとは、番組内で懐かし映像や面白い映像などのように二次利用はされますが、膨大な蓄積の全体からするとごくごく一部しか使われていなかった。これらの映像をもっと別の形で活かせないか、というのは個人的にずっと考えていたし、社内の他部署の人間にも色々と提案していました。

大路菜央さん(日本テレビ/以下、大路。敬称略):そこで小倉さんがお話したうちの一人が、私の所属する海外事業部の社員でした。小倉さんのアーカイブ映像を外部に販売するというご提案に賛成し、それを海外も視野に入れて展開していこうということで、うちの部署が担当することになったんです。

左から、大路菜央さん、小倉徹さん、平山清道。

 

小倉:テレビ番組というのは、とてもエモーショナルなコンテンツです。でも、アーカイブ映像というのは、どちらかというとヒストリーの考え方になる。「今の東京の風景」なんて別に視聴率はとれないけど、後々になって必要になってくるのはそういう映像なんですね。

最先端の情報はどうしても鮮度が落ちてしまいますが、アーカイブ映像は時と共に価値が付随してくる。たとえば、美術館や博物館、教育機関などの説明資料や研究として利用できる。そういった方面に向けて売れるのではないか、と考えていました。

編集部:そこから具体的にどのようにプロジェクトは進んだのでしょうか。

大路:まずは、自社だけで映像販売サービスの構築から販売まですべて回していくことができないか、ということを考えました。ただ、これはテレビ局全体に言える話ですが、BtoCとしてのサービスというのを、放送以外にやっていないんですね。どういうお客様が、どういう市場にいて、どのようにリーチしていけばいいのかわからない。これはさすがに無理がある、ということで外部の方と協力してやることにしました。

何社かお話させていただいた中で、アマナイメージズさんは特に映像コンテンツのプロフェッショナルだと感じ、正式にご依頼させていただきました。アーカイブ映像を数多く扱っているし、クライアントも非常に多くお持ちになっていらっしゃる。

編集部:実際にご相談がきたとき、どう感じましたか。

平山清道(以下、平山):小倉さんたちの考えには共感しましたし、ユーザー目線でもそのサービスは価値があると思いました。

というのも、僕自身の経歴でいうと、アマナイメージズに入るまで20年以上、テレビ番組の制作をしていました。新卒で入社した日テレのグループ会社で働いていた頃は、テープの時代ですから、たくさんのアーカイブ映像が保管されているところから抜いてきて番組に入れる、という作業も実際にしていました。

その後、フリーランスのディレクターとしてテレビ以外にも広告やCM、イベントなどさまざまなメディアに携わるうちに、アーカイブ映像はテレビ以外にも需要があると常々感じていたんです。たとえば、コーヒーのCMなどで昭和の映像を使いたい、といったクリエイティブな活かし方がある。だからこそ、ぜひご一緒させていただきたい、とお返事しました。

死蔵させておくか、生かすべきか

編集部:そこからサービスのリリースまでどれくらいの時間がかかりましたか。

平山:最初にお声がけいただいたのが、2016年の8月なので、ちょうど2年くらいですね。やはり日本テレビという大きな会社で新規サービスを始めるとなると、一部署だけで完結して動かすのは難しい。社内調整や仕組み作りの点では大路さんが大変苦心されていました。

編集部:具体的にはどのような点で苦労されたのでしょうか。

大路:いざ動かしてみようとしたら、その映像を撮影した部署であったり、個別の問い合わせに対応していた部署であったり、小倉のような管理している部署であったり、本当にたくさんのプレイヤーが関わっていたんですね。そこから全員の認識をすり合わせて理解してもらわなければならない。

反対の声もありました。たとえば、販売する映像には報道映像もあったので「報道をマネタイズに利用するのはいかがなものか?」という疑問も生まれます。

編集部:その声に対してどのように理解してもらったのですか?

大路:まず、アーカイブ映像というものが、世相を反映しているもの、そして資料的価値があるという前提があります。そうすると、マネタイズとはまた別軸の考え方があると思うんです。

現在は完全に死蔵していて、たまに番組の加工映像で一部が使われるくらいしかない、という状況。だとしたら、東京五輪など過去の東京に注目が集まり、アーカイブ映像にニーズが高まっている段階でもっと使っていただいた方が、映像のもつ価値も生かされるのではないか、というお話はしましたね。

編集部:映像自体がもつ価値をもっと活かす、という意義もあると。

大路:今現在の話でいえば、どなたでも映像デバイスをもっていて撮影をすることができる時代です。テレビ局でないと撮影ができないなんてことはなかなかない。ただ、「あの頃の東京の風景」を今から撮ることはできません。そのような価値ある映像をより広く活用してもらえる機会になると思っています。

国民的ビッグイベントや当時の流行、暮らしや世相を記録した貴重な映像がそろっている。

 

アーカイブ映像を「売り物」にするためには

編集部:プロジェクトはどのように進行したんですか。

平山:まずはこちらで、社内のリサーチャーが集めた情報から、時代ごとにニーズのある映像をリストアップしてお渡ししました。たとえば50年代であれば国立競技場が完成した映像、60年代であればダッコちゃんブームの映像、というように。

小倉:そして、僕たちがそのリストの映像に合うようにアーカイブ映像を編集し直していきます。

編集部:素材をそのまま使うのではなく、改めて編集するんですか?

小倉:アーカイブ映像というのは、そのままだと売り物にはならないんです。というのも、どの番組も、その都度目的に応じて編集されたコンテンツです。アーカイブ映像にするために作っているわけではない。たとえば、「50年代の東京人口が800万人突破した」というニュース映像には、当時の担当役人のコメントや、人口流入が増えている雑感の映像、郊外の風景が入っていたりする。そこからアーカイブ素材として使えるようにするには、改めて編集し直さないといけない。

編集部:気が遠くなりそうな……。

小倉:ただ、僕はもともと部署内にアーカイブ映像を網羅的に把握できるようにした訓練部隊を作っていて。アーカイブ映像を扱っている部署なのに映像のことをわかっていないというのは、魚を知らない魚屋のようなものですから。日々「○○事件を3分でまとめてきて」という感じで練習していたんです。メンバー全員が絵をわかった上で取りかかれたので、比較的スムーズに進行できたと思います。

平山:「ただ映像を抱えているだけでは価値がない」という理解が、小倉さんを筆頭にチーム全体に浸透していた。このようなプロ目線からの編集があったからこそ仕組みが成り立ったと思っています。

映像のもつ可能性について

編集部:「そのままでは売り物にならない」というお話がありましたが、最後に「そもそも、いい映像とは何か」というところも伺いたいです。

小倉:これは映像特有のものではなく、たとえば文章などにも通じることだとは思うのですが、その一文・その一場面から、その情報以上の何かが呼び起こされるものがいいものである証かなと思っています。パッとみたときに、「ああそうですか」で終わるのではなく、情報プラスアルファで何かが想起されるもの。

大路:そういう意味でいうと、映像って他の媒体に比べて受け手が解釈する余白がない分、難しいかもしれませんね。与える情報量が多いからインパクトはあるけど、絵や文章に比べて、波及効果や余韻など、残るものが少なくなりがちな分、すごく難しいメディアだと思います。

平山:僕は映像には大きな可能性を感じています。映像というのは、一枚絵では感動できないようなものを、起承転結やストーリーに乗せて表現することができる。ですから、手順をよくわかった上で編集する必要があるのですが、伏線や演出をきちんと入れることで、ラストのカットが100ではなく200にも300にもなる可能性を秘めている。

それが今サイト「日テレアーカイブス」では表現しきれていない部分があるのですが、今後そういった部分も含めて提案できるように、サービスをより発展させていきたいと考えています。

アーカイブ映像を製作する機器の前で。

 

テキスト:園田菜々
撮影:近秀幸(parade)

 

 

プロフィール

小倉徹

日本テレビ放送網株式会社 技術統括局コンテンツ技術運用部

1994年入社。報道局のENGカメラマンを経て、現職を約20年。アーカイブ部署の統括業務を担い、社内の検索システムやファイルベースの映像アーカイブシステムの構築などを行う。また、番組制作への「映像での歴史考証」を担う「アーカイビスト」としての参加や、一貫して「アーカイブ」を専門的に扱う業務を行っている。

 

プロフィール

大路菜央

日本テレビ放送網株式会社 海外ビジネス推進室海外事業部

ゲーム会社での海外法務職を経て、2012年入社。以降、主に海外ビジネスに携わる。海外契約業務、番組販売に伴う国内調整業務などを担当。テレビ局として海外に番組を展開するにあたり必ず直面するハードルである「権利処理」の簡便化に取り組む中で、自社の財産と言える「アーカイブ」に向き合う。

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