テクノロジーライターの大谷和利さんが注目した、世界の先進的なビジュアルユースのトピックを取り上げる連載「VISUAL INSIGHT」。第5弾のテーマは、写真を絵画風のイラストにするアプリです。
前回は写真や動画を引き立てるBGMの自動生成にスポットを当てたが、今回はストックフォトや自分で撮影した写真を見事な絵画風イラストへと変換し、Webページやプレゼンテーション、ドキュメントにいつもと異なる演出を簡単に加えられるアプリの個人的なBest 3を紹介する。
この種のアプリは、今もiOSデバイス(特にiPad)向けにリリースされることが多く、画面はiPad Proのものだが、水彩画風のイメージを作り出すWaterlogueにはWindows 10版も用意されている。
本稿は、それぞれのアプリの使い方解説ではなく、どのような画像に変換できるかを見せることに重点を置くものだ。しかし、どれもユーザーインターフェースはシンプルで、気軽にいろいろな効果を試してみることを推奨する作りとなっているため、迷うことはないだろう。
なお、Best 3となっているが、それぞれ方向性が異なるので、実際の順位はつけ難い。そこで、手法として身近に感じられそうな順番にしてみた。それぞれのApp Storeのダウンロードリンクは、以下の通りである。
iOS版:600円
https://itunes.apple.com/jp/app/waterlogue/id764925064?mt=8
Windows 10版:300円
https://www.microsoft.com/ja-jp/store/p/waterlogue-by-tinrocket/9nblggh69lcl
無料(一部フィルタはアプリ内課金)
https://itunes.apple.com/jp/app/artomaton-お絵描き人工知能-動画も絵になる手描き風写真加工アプリ/id718222634?mt=8
120円(追加テクスチャーはアプリ内課金)
https://itunes.apple.com/jp/app/distressed-fx/id585702631?mt=8
それでは、筆者がインド取材の折に撮影した港の風景写真を使って、個々のアプリの実力を見ていこう。
まずWaterlogueは、写真を表示してフィルターの種類を選ぶだけという簡単操作で、雰囲気のある水彩画風のイラストが得られるツールである。筆のタッチを重視した変換のため、ディテールの描写は大まかになるものの、色の重なりやにじみ具合がリアルな結果が得られる。
コントラストが弱めの淡い感じの写真だと、変換結果も平板になりがちなので、そこそこコントラストのある風景写真やポートレートに用いるとよいだろう。
Artomatonは、日本のあるサラリーマンが独学でプログラミングを学び、5カ月ほどかけて作り上げたアプリなのだが、世界中で高い評価を受けている。
油絵や鉛筆、マーカー、木炭などの画材を選択すると、それを使った描画が始まり、十数秒で完成するという流れだが、同じ写真に同じ画材を使っても、毎回、微妙に異なる結果が得られるランダム性がポイントになっている。
無料で使える基本の画材だけでも結構楽しめるので、使ってみて他の画材も試したくなったら購入を考えるようにすれば無駄がない。
また、最近のアップデートで、こうした画材による効果を動画にも適用できるようになり、応用範囲が広がった。かつて一世を風靡し、ある年代以上の人には懐かしいノルウェーの3人組バンド、a-haの「テイク・オン・ミー」のミュージックビデオ<https://www.youtube.com/watch?v=djV11Xbc914>で用いられた鉛筆画によるアニメーション(このときには、実写をベースに本当の手描きによって制作された)を彷彿とさせるような作品を簡単に作れるようになったのである。
最後のDistressed FXはテクスチャーデザイナーが作っただけあり、他の2つのアプリとはまた異なる世界観を持っている。Distressedというアプリ名自体、「苦しみや苦痛を与えられた」という意味であり、できあがる絵柄も、ややダークでミステリアスな雰囲気になる。
だが、同時に味わい深いことも事実であり、重厚さが求められる高級品のビジュアルなどに応用するとぴったり当てはまるかもしれない。
鳥のシルエットを飛ばすことができるのも、他にないユニークな機能といえ、これもイラストに心象風景的なタッチを加える上で有効だ。
このように、改変が許されている写真や動画であれば、これらのアプリを使うことで風情や雰囲気を大きく変えることができ、ストックメディアの使い方も大きく広がる。まずは、自分で撮った身近な写真を無料アプリでイラスト化してみてはいかがだろうか? きっと、その変身ぶりに驚き、いろいろな利用のアイデアが浮かんでくるはずだ。