「フランセ」のリブランディング成功を支えたビジュアル戦略とその裏側

ブランディングを成功させている企業に、その秘訣をうかがう本連載。前回に続き、お菓子ブランド「フランセ」のリブランディング成功事例を紹介します。今回は、ブランドのイメージを大きく変えた、ロゴやパッケージなどのビジュアル面にフォーカスします。(フランセのリブランディング・コンセプト編はこちらから)

若返りと、旧ブランドへのリスペクトを両立するようなビジュアルに

お菓子メーカー「シュクレイ」による「横濱フランセ」子会社化・吸収合併に伴い始まった「フランセ」のリブランディング。ブランドイメージを刷新するためには、ビジュアルの改革が不可欠でした。

企画開発部部長の山口浩二さん。

「横濱フランセは50〜60代の方々が中心顧客でしたが、新生・フランセを強いブランドにするためには、若い世代も取り込む必要がありました。とはいえ、弊社は東京駅や百貨店など、さまざまな世代の方が訪れる場所に出店しています。若い世代だけにターゲットを絞ったわけではないんです。幅広い世代に愛されるかわいらしさと、ほかにないようなキラリと光るデザイン、そして何よりお菓子そのもののおいしさがあれば、選ばれるブランドになると考えていました(企画開発部部長 山口浩二さん)

東郷青児氏の原画。現在は、FRANCEの社長室に飾られている。

リブランディング前の商品ビジュアル。東郷青児氏が描いた、雰囲気のある女性の絵が印象的。

同時に、旧ブランドが持っていたビジュアルイメージへのリスペクトも念頭に置いていたそう。

創業者の高井二郎が、青山学院大学時代の同窓でフランスに縁深い画家の東郷青児さんに依頼して、彼の絵を包装紙やパッケージに使っていました。フランセ=東郷青児の絵、というイメージの方も多いですし、パッケージを目当てに購入される方もいらっしゃいました。だからこの世界観は崩さずに、現代的な斬新さ・おしゃれさを加えようと考えました」(山口さん)

ブランドコンセプトを北澤平祐さんのイラストで印象的に表現

表参道店入口には、北澤平祐氏の描いたイラストがステンドグラスになっている。

そんな中、アートディレクションの担当者から推薦されたのがイラストレーターの北澤平祐さんでした。

北澤さんのイラストは、ふわっとして透明感のあるタッチなので、我々が目指すイメージに一番合うだろうと。我々もとても気に入ったので、北澤さんにパッケージをお願いすることにしました」(山口さん)

リブランディングのコンセプトとした“果実と木の実をたのしむ洋菓子ブランド”を表現したのが、現在のロゴ。パッと見て商品の味がイメージできるようにしたのだそう。

果実とフルーツ、そして向かい合う2人の女の子でミルフィユのイメージを表現しています。ロゴも、旧ブランドのロゴ形状を踏まえたものにしていただきました。ミルフィユのパッケージも、フレーバーを文字で説明するのではなく、イラストで表現することで、世界観と味をパッと見てわかるようにしています。たとえば、実際のピスタチオの木の実って、茶色っぽい色なんです。でも、一般的には、ピスタチオ=グリーン。なので、グリーンを基調にして描いていただきました」(山口さん)

そんな思いが込められた新しいフランセのマークを、紙袋全体にあしらった紙袋(トップ画像参照)は、街中でパッと目を引きます。見たことあるという人もいるのではないでしょうか? 今では、そのインパクトのある紙袋自体が、フランセの宣伝にも繋がっているのです。

ビジュアルのクオリティの高さで、改革当初の抵抗感も克服

旧来のイメージを大切にしつつ、大胆に行ったビジュアルの刷新。当初は抵抗を示す人も多かったと言います。

「まず店長を集めた会議で新しいフランセについて説明したのですが、否定的な反応が大多数でした。元とイメージが違いすぎる、どうしてこんなデザインにしたんだと、店長たちからは厳しく言われました。実際に販売を始めたときも、長年購入いただいてるお客さまからは、『前のほうがいろいろなシーンで使いやすかった』『もう二度と買わない』などとお叱りを受けたこともありました」(山口さん)

それが試食販売によって売上が上がると共に、最初は、反対の声が多かったこのビジュアルに対する評価もいい方向に上がっていったと言います。

弔辞などでも使えるようイラストの色を抜いた紙袋も作っている。

「やはり若い世代を中心とした女性たちから、『かわいい!』と反響がありました。新しい顧客層に広く知ってもらうことができたので、当初のリブランディングの目的は叶ったと言えます。ただ、幅広い層の方やシチュエーションでフランセを選んでいただきたいので、知る人ぞ知るという感じなのですが、イラストの色を抜いた紙袋も作っているんです。そんな工夫もしながら、一度離れたお客様も戻ってきていて、再びファンになっていただいています」(山口さん)

小さな変化を加えつつ、ブランドイメージを大切に守っていく

表参道の旗艦店には、FRANCEらしい可愛いアイテムが並ぶ。店員の刺繍が施された制服にも注目。

ミルフィユをはじめ、レモンケーキ、フランセビスキュイ、季節限定商品、神奈川限定シリーズなど、すべてに北澤さんのオリジナルイラストが使われています。

「表参道本店では、ステンドグラスや、テーブルクロス、スタッフの制服の刺繍など、北澤さんの絵をモチーフにしたものを随所に使っています。本店限定で、北澤さんのオリジナルスカーフや食器も販売。遠方からこのグッズを目当てにいらっしゃる方もいらっしゃいます」(山口さん)

かわいくて、おいしい。そのブランドイメージを作り上げた「フランセ」のリブランディング。今後は、横濱フランセで人気のあったブランデーケーキの復活も予定しているそう。

「ブランドの軸がゆるがないように、多商品化することは考えていませんが、“果物と木の実の追求と融合”をコンセプトに、ミルフィユの味のバリエーションを増やすことも考えています。またビジュアルについても、現在の世界観を壊さないような形で、タッチやテイストに変化をつけながら発展させていけたら。お客さまや現場スタッフの声を取り入れつつ、長く続くブランドに育てていきたいですね(山口さん)

まとめ

ブランドを表現するビジュアルを変えるのは大きなことです。フランセの場合も、賛成意見もあったとは思いますが、多くが反対をし、しかもお客様も一度は離れてしまった。でも、一方で、若い年齢層の人たちには響いていました。そのリアルな現場の反応を信じて、続けていく強さが世界観を顧客に浸透させ、顧客に認知してもらうまでに繋がっています。賛否両論を乗り越えた今、北澤平祐さんのイラスト=フランセというビジュアルブランディングになっているのではないでしょうか。

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テキスト:吉永美代
TOP画像撮影:劉怡嘉(acube)
撮影:猪飼ひより(amanaphotography)

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