スポーツにもVR活用!ホノルルマラソンの魅力はVRで伝わるか?

ハワイの風光明媚な景色の中を駆け抜けることができるランナーには憧れの舞台「JALホノルルマラソン」。しかし、ハワイを知らない人にとっては、その魅力は伝わりづらいもの。そこで、その魅力や臨場感を届けるためにVRを採用した3人に話しを聞きました。

ハワイ・ホノルルで毎年12月に開催される「JALホノルルマラソン(※)」。ワイキキビーチやダイヤモンドヘッドといったハワイの景色の中を駆け抜けることができるとあって、ランナーにとっては憧れの舞台です。

このホノルルマラソンを撮影したVRが、アサツー ディ・ケイ(以下、ADK)とアマナのコラボレーションにより制作されました。ハワイの強い日差しが降り注ぐ中、青々とした海やパームツリーの道のりを背景に走るランナー達の姿は、手を伸ばせばつかめるかのような臨場感にあふれています。意外とゆったりとした速度感に、マラソン未経験者でも「このペースなら自分も走れるかな?」などと感じるリアルさがあります。

今回は、このホノルルマラソンVR制作に携わったADK コミュニケーション・アーキテクト本部 コミュニケーション・プランナー・貞賀健志朗(さだか けんしろう)さん、アマナのプロデューサーの鈴木悠也(すずき ゆうや)、撮影を担当したアマナフォトグラフィの宮内和義(みやうち かずよし)に話を聞きました。

※ホノルルマラソンとは、2017年で45回記念大会を迎える市民マラソン大会。ホノルルで開催され、参加者3万人のうち約半数が日本人。完走までの時間制限を設けておらず、参加資格も満7歳以上のため、初心者ランナーの参加も多い。ADKではかねてから「JALホノルルマラソン」日本事務局の運営に携わっており、日本人エントリー及び現場の進行管理などを担当。

VRで、マラソンのよさをリアルに伝えられる

左から、アマナ プロデューサー 鈴木悠也、ADKコミュニケーション・プランナー 貞賀健志朗さん、アマナフォトグラフィ宮内和義

ビジュアルシフト編集部(以下、編集部):ホノルルマラソンは知名度が抜群で、参加者もかなりの規模です。ですが今回、VR撮影を敢行したのは、プロモーションにおいて何か課題があったのでしょうか。

貞賀健志朗さん(以下、貞賀。敬称略):ホノルルでマラソンを走るということがどれだけ素晴らしいことなのか、現地に行った人ならばよくわかっています。風光明媚なコースですし、子供を含めた家族みんなで参加する人も多くて、アットホーム。ただ、そうしたホノルルマラソン独特のよさを、集客プロモーションで一歩踏み込んで伝えるのは実は難しいことなんです。ハワイに行ったことのない人にとって、ハワイはなんだかよさそうなところという認識はありますが、よくわからないようです。ホノルルマラソンの魅力を伝えるのに参加者の口コミに頼る部分が多く、プロモーションではハワイの既存のイメージに乗った広告を打つ形を基本としていました。

編集部:昨年はそれを打破しようとしたわけですね。手段としてVRを選んだのはなぜですか。

貞賀:VRという仮想空間でハワイやマラソンの空気を少しでも感じてもらえば、口コミでしか伝わらない素晴らしさが伝えられるのではないか。そんな議論を経て、VR撮影が決まりました。折しも2016年は、VR元年と呼ばれた年。しかしながら、本格的に活用するとなるとどうすればいいのかが運営側には見えていなかったこともあり、今回はトライアルという形でホノルルマラソンをVR撮影してみることにしたんです。

編集部:そこで、アマナに声がかかったというわけですね。アマナではVRの技術を先行して高めてきたということですが。

宮内和義(以下、宮内):私はアマナの中で新しいスタイルの撮影を生み出す部署に所属しており、たとえばドローンでの撮影手法なども模索してきました。VRに関しては2013年頃から実験を繰り返して、一定のノウハウは先駆けて蓄積してきました。

鈴木悠也(以下、鈴木):今回のホノルルマラソンの件に関しては、本格的に始動したのは2016年10月のこと。大会は12月開催ですので、本番まであまり時間はありませんでしたが、それでも「絶対にやってみたい」と考えました。

編集部:「絶対に」とまで思ったのはなぜでしょうか。

鈴木:本格的なスポーツイベントを撮影するのは、アマナにとってほぼ初めての経験。ホノルルという美しい景色に恵まれた場所で、さらにマラソンというスポーツシーンの中で、どのようなものができあがるのかという期待感に駆り立てられました。

現地で試行錯誤を繰り返しながら、VR撮影を進める

編集部:ホノルルマラソンはスポーツイベントですよね。VRの撮影となると、かなり難しい面があったのではないでしょうか。

鈴木:現地の撮影条件などをチェックしてはいましたが、手探りの部分は多々ありました。

宮内:そうですね、撮影する人間としては最後まで絵がイメージできないままで。ほぼ現地での勝負!ですね。

鈴木:ロケハンをしたのは開催2日前に現地入りしてから。大会の事前イベントなどの撮影もあったので、合間を縫ってコースを見に行ったり。

貞賀:過去の大会で撮影してきた眺めのいいポイントを案内したのですが、VR特有の問題がありました。360°撮影されるため、一方向から見たら絶景なのに、振り向くと余計なものが写り込んでしまって、必ずしもベストとはいえないんです。違う角度から確認してベストな場所を探して、を繰り返すことに……。

編集部:当日はどのような体制で撮影したのですか?

宮内:固定カメラチームと、ランナーと一緒に走る走行チームに分かれました。私はランナー側に。当初、安全のためにランナーとは距離をおいて撮影しようと考えていましたが、「その場で走っているかのような臨場感」が必要だとなり、おのずと接近して撮影することになりました。

編集部:ランナーに紛れて撮影したということですね。VRでもそんなことができるんですね。

宮内:先端にカメラを付けた棒を持ったまま、特定の区間を何往復かして撮影することにしました。私が撮るつもりでしたが、身長が高すぎてランナー目線にならないことがわかり、急遽、別の方に頼みまして。機材を持って走る以上、勢いよく走るわけにもいかず、横から見ると“忍者走り”のような不思議なステップになりましたね。

鈴木:ランナーに接近する必要があるとはいえ、あくまでも安全が第一。結果としてペースがゆっくりのランナーにフォーカスすることになりました。VRの臨場感という意味では、もう少し速いランナーの目線になってもよかったのかなという点が反省点ですね。

貞賀:比較的ゆっくり走るランナーを撮影したことで、初心者でも楽しめるホノルルマラソンらしさを発信できた面はあるかもしれませんが。

スポーツ×ファンイベントである市民マラソン大会は、VRへの親和性が高い

編集部:今回撮影したVR動画は、その後どのように活用したのでしょうか?

貞賀:2017年3月に二子玉川の蔦屋家電にて開催された日本航空主催のイベントで、VR体験を開催しました。300人以上に体験していただきましたが、「ホノルルに行ってみたくなった!」といった声が集まり、大きな手応えを得ることができました。その反響を受けて、7月に梅田阪急や渋谷ヒカリエなどで開催されたハワイイベントで同様のVR体験を開催したんです。トライアル段階ですので本格的なプロモーションに活用するのはこれからとなりますが、運営母体とデータを共有しながら、VRコンテンツの道筋を探っています。

蔦屋家電でのVR体験の様子

編集部:制作側にとってもさまざまな手応えがあったようですね。

宮内:通常、アスリートをVRで撮影する場合、公式な試合での撮影は難しいので、カメラの前でデモンストレーションをしてもらうことになります。マラソン大会の場合もトップ選手に交じって撮るのは難しいですが、一般参加者ならばそのままの姿をリアルにVRで捉えることができます。それはおそらく、市民マラソン大会はスポーツイベントであると同時にファンイベントでもあるからでしょう。私自身、マラソンって本当に気持ちいいものだと感じましたし、スポーツを通してVRの可能性も広がるのではないかとの手応えを得ました。

貞賀:広告的な観点からいえば、従来はあまり親和性が図れていなかったIT系企業のスポンサーも、可能性を探っています。実際、ホノルルマラソンでは旅行・ランニング関連の企業が中心ですので、ここにスポーツとテクノロジーが融合したIT企業なども参加してもらえれば、イベントにぐっと厚みが生まれるかもしれません。

編集部:スポーツイベントといえば、東京オリンピックに向けても何かできそうですね。

鈴木:スポーツは、VRにしても伝わりやすいということがわかりましたね。VRの可能性を開拓するうえでも、ホノルルマラソンのVRはスポーツ系の参考事例として、多くの人に共有してもらいたいです。東京オリンピックまでの2年半でいろいろと動いていくことができればうれしいです。

宮内: VR撮影となると、今の段階ではスポーツの実戦を撮るわけではなくデモンストレーションを撮影することになるので、まだプロモーション活動用ではあると思います。ただし、マラソンのような参加型イベントならば、実戦も撮影できるしその点では活用の場が広がっていくかもしれません。

鈴木:マラソンと同じようなロードレースで何かできるかもしれませんね。自転車レースなどもVRで撮影したら、参加者の息遣いが聞こえてくるようなリアルなVRが作れるかもしれません。

宮内:今回の案件でロケのノウハウが蓄積されたのも収穫でしたね。

スポーツとVRのコラボを強化したい

編集部:今後、VRはどのような可能性が広がっていくとお考えですか?

貞賀:既存のコンテンツを単にVR化するだけではなく、VRらしい方向性を探っていかねばならないでしょうね。

宮内:複数人でVRを共有したり、温度や湿度、香りなども含めた表現などもなされていくのではないでしょうか。VRはヘッドマウントディスプレイをつけて、CGで作ったゲームを楽しむだけのものではないということ。今回のスポーツイベントのように、実写コンテンツでも十分に可能性が広がると思っています。そのためにはおそらくVRの共有という技術が必要かもしれません。


鈴木:部屋の上下左右を持ち運び可能なディスプレイで覆うような技術が確立すれば、共有できるVRを広く普及させていくことができるようになるかもしれませんね。

宮内:VRの技術刷新は目まぐるしくて、次回のホノルルマラソンでは全く違った機材で撮影に臨むことになりそうです。どんな形の技術になっても対応できる体制を整えていきたいですね。

貞賀:テクノロジーの進化を追いかける一方で、スマートフォンなど手軽な形で楽しめるVRも意味のあることなのだと思います。VRを普及させるためには体験量を増やすこと、インタラクションのコストを下げることが必要です。テレビのリモコンをつけるような感覚でVRが楽しめるようになれば、さらなる変化が訪れるかもしれません。それが楽しみですね。

Profile

プロフィール

貞賀 健志朗

株式会社 アサツーディ・ケイ/コミュニケーション・アーキテクト本部 コミュニケーション・プランナー

楽天ビッグデータ部エンジニアを経て、2013年より現職。デジタル・テクノロジーの専門性を活かしたコミュニケーションづくりを得意とする。
Input/Output発想による広告キャンペーン企画・制作や仕組みづくりなど、幅広い業務に従事。

Profile

プロフィール

宮内 和義

株式会社アマナフォトグラフィ JUIDA認定ドローン講師

特殊撮影の専門部署TSCに所属し、360°VR動画を制作する一方、ドローンオペレータとして空撮動画なども手掛けている。

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