料理写真のおいしさを引き立たせるシズルを演出するためには、撮影時の工夫だけでなく、撮影後のレタッチが重要。そのテクニックの基本を、実際の料理写真をサンプルにして紹介します。
ご存じの通り料理の撮影は、料理などをコーディネイトするフードスタイリストや撮影するカメラマンなどによって行われます。そして撮影は完了しますが、多くの場合はこれで「おいしい写真」の完成というワケにはいきません。撮影された画像にレタッチと呼ばれる画像修正を施すことで、より「おいしい写真」ができあがります。ケースによっては、レタッチを担当するレタッチャーが撮影時に立ち会う場合もあります。
レタッチについてもう少し詳しく説明すると、レタッチとは撮影した画像を調整・修正することで、色彩を変化させたり、不必要な部分を消したりします。場合によっては、ほかの画像と合成することもあります。
レタッチを行う理由はさまざまですが、特に料理写真では色味の問題があります。一般的に人は、物の色を思い浮かべる際に、実際より明るく鮮やかな色味をイメージすると言われています。これは「記憶色」と呼ばれているもので、見たままの色よりも追い浮かべた色のほうが、彩度も明度も強調されていることが多いそうです。
そのため、撮影したそのままの写真を見ると、「ちょっとくすんでいる」「はっきり色が出ていない」といったふうに感じることがあります。そこで撮影後に画像をレタッチして、写真をより記憶にあるイメージに近づけるんですね。理想的なイメージに近づけることで、より「おいしい写真」に仕上がるワケです。
さて、料理写真でのレタッチには、大きく分けて2つの目的があると思います。
まずその1つめが「よりおいしそうに見せる/おいしいポイントとなるところをさらに引き出す」ため。実際にレタッチすることでどんなふうに変わるのか、前後の写真を比較しながら見てみましょう。
例えば、このグツグツ煮ている鍋の写真です。
レタッチ済みの写真
詳気が立ちのぼり汁も泡立っていて、鍋の温かさを感じますよね。食材も活き活きとしていて、特にエビのプリッとした感じがおいしそうで目を引きます。
そして、この写真にレタッチを施す前の写真が下のものです。
レタッチ前の写真
全体的に少しくすんだような印象を受けるのではないでしょうか。肝心のエビもイマイチな感じですよね。
でも、実際の食べ頃の鍋の状態って、こちらの写真のほうが近いと思いませんか?
レタッチでは、エビのプリプリ感を出すために色を明るくし、鍋のグツグツ感をアップさせるために泡を増やし湯気を加えています。わかりにくいかもしれませんが、時間経過でどうしても火が通りすぎてしまう白菜などは、煮え切ってしまう前の画像に差し替え合成しています。さらに、全体の色味を調整して鍋全体の温かさを演出しています。
この写真の中のエビのように、料理写真では、いちばん見せたいポイントにちゃんと目がいくようにすることが大切です。そのおいしさを感じるポイントを見極めたうえで、レタッチでしっかり魅力を引き出せるかが、腕の見せどころになります。
料理写真でのレタッチの目的2つめは、「撮影だけでは困難な写真を作り出す」こと。1回の撮影だけでは表現できないシーンを、レタッチのテクニックを用いて複数枚の写真から仕上げるものです。
例えば、こちらの写真をみてください。
注がれる液体で水しぶきがあがっており、全体に動きもあっておいしそうに感じますよね!
実は、これを1回で撮影するのはほぼ不可能。複数枚の写真をレタッチで合成することでできあがっているんです。では、どんな写真を合成したのかお見せしたいと思います。
レタッチのベースになっている写真がこちらです。(写真1)
写真1 レタッチのベースとなる写真
この写真には、注がれる液体も水しぶきもありませんね。さきほどのようなシズル写真に仕上げるためにどんなレタッチをしているのか、ご説明します。
まずはベースの写真に、”クラウン”と呼ばれる水しぶきを加えます。(写真2)
写真2 ベースの写真に”クラウン”を加えた画像
次に、上から注がれる液体を合成します。(写真3)
写真3 注がれる液体を合成した写真
さらに、まわりに飛んでいるしぶきを足していきます。(写真4)
写真4 しぶきを合成した写真
そして最後に、写真全体の色味を調整して完成です。
完成した写真
簡単にできあがったと思うかもしれませんが、特にクラウンやしぶき用の写真を撮るのはたいへんな作業です。何百回と水面に液体を落として撮影した写真の中から、最も理想的なベストの状態のものを選んで合成しています。
レタッチを施して完成した写真を見比べてみると、ずいぶん違いますよね。
左 ベースとなる写真 / 右 レタッチ後の写真
こうした料理写真の場合には、レタッチのプロセスも含め最終的な仕上がりをイメージしながら、どんなパーツの写真が必要かを事前にしっかり把握しておく必要があるんです。
このように一度の撮影だけではかたちにすることのできない時も、レタッチで理想的な瞬間を捉えた「おいしい写真」に仕上げることができます。皆さんが街やお店で見かけて「おいしそう!」と感じた写真にも、きっとレタッチの“魔法”が施されているはずです。「おいしい写真」が必要な時には、ぜひこのレタッチのテクニックをお役立てください。
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