コンピューターによって作られた仮想的な世界を、あたかも現実世界のように体感できる技術、VR(バーチャルリアリティー)。「PlayStation VR」の発売も近づくなか、マスメディアでVRが取り上げられる機会も増え、手軽にVRを楽しむ環境が広がりつつあります。
そんな中、3Dビジネスソリューションに長けたamanacgiのリサーチチームの皆さんと一緒に>お邪魔したのは、FUJITSU Digital Transformation Center。デジタル革新に向けた「共創ワークショップ空間」として、富士通が開設した施設です。ここでは企業のさまざまな課題を解決するための、最新のテクノロジーやデザインを実際に体験することができます。
※体験はお問い合わせの上、ご予約ください。
今回こちらの施設で富士通が誇る最先端テクノロジーを見せていただいたのですが、中でも印象に残ったのが、VRディスプレイ「zSpace」(ズィースペース)。実はこちらの最新機器、ヘッドマウントディスプレイ(以下HMD)を使わずに、VRを体験することができるんです!
富士通による最新のVRディスプレイ「zSpace」は、デスクトップPCのモニターとほぼ同サイズの23.6インチのディスプレイと、専用メガネがセットになっています。
メガネをかけると、ディスプレイに付いているカメラと赤外線センサーがメガネを追尾し、ディスプレイの映像を立体的に表示します。もちろん、覗き込んで見ることも可能。実際メガネをかけてみると、映像が「画面から飛び出す」というよりは、「自然に目の前に現れる」といった印象を受けました。
ディスプレイ上部にあるトラッキングカメラの追尾と赤外線の照射により、メガネの位置を認識
銀色の部分で赤外線を受信。これが立体視をより自然に実現できる秘密です。
「zSpace」は、スタイラスペンを使ってディスプレイに表示された対象物を動かせるのも特徴です。有線で本体と繋がれているスタイラスペンにはジャイロセンサーが搭載されており、手の角度も検知するので、直感的に操作することができます。VR映像を見るだけでなく、実際に自分の手で動かせる「zSpace」の機能は、教育・医療などさまざまな分野で活用が見込まれているようです。
例えば、私たちの生活に欠かせないライフライン。ガス器具や電気設備の取り付け・検査・点検といった作業の研修では、操作方法が分厚いマニュアルにまとめられ、平面に描かれたパーツを頭の中で立体イメージに変換しながらトレーニングを重ねます。必要不可欠なプロセスとはいえ、かなり大変な作業ですよね。
そんな研修の効率を上げてくれるのが「zSpace」。使う工具を選択し、スタイラスペンで設置する場所をなぞりながら、ボタン操作で作業をシミュレーションすることができます。実際に扱う機器のリアルな3Dデータが入っているので、構造や操作手順も理解しやすいそうです。また、間違えた場合はアラートが出るので、正しい手順で確実に作業を進めていくことができます。
さらにVRならではのメリットとして挙げられるのが、何度でも失敗できるところ。事故やケガのリスクを気にせずトレーニングできるので作業のみに集中することができ、何をしていいのか、何はしてはいけないのか、より本質的なポイントを理解するのに効果的です。
また、通常こういった研修では場所・時間が限られていて、グループ研修では一人ひとりの習熟度が見えにくいとも言われています。「zSpace」を使えば場所・時間を問わず、会社側も受講者側も習熟度を見える化することができますね。
ネットショップで注文した商品が届いて、「思っていたモノと全然違う‥」と後悔したことはありませんか? そんなイメージと実物とのギャップも「zSpace」が埋めてくれるかもしれません。
今回のデモで見せていただいたのは腕時計。文字盤・フレーム・材質・ベルトなど、数種類のパターンを組み合わせて、「zSpace」で商品を360°確認することができるんです。全体のバランスを立体的に確認できるのはもちろん、回転させたり、細かい部分を拡大したりすることも可能。文字盤の裏に記されている細かい文字なども、購入する前にしっかりチェックできます。
腕時計の文字盤・フレーム・バンドなどを、好みの色や材質に換えることができます。
分かりにくいかもしれませんが、メガネ越しだと画面から腕時計が飛び出て見えます。ディスプレイの前に腕をかざせば擬似試着できるので、肌の色や腕の太さと合わなかった‥ということもなくなります。
このように360°回転させたり、拡大することが可能。実物でも、こんなに拡大して部品を見ることはない…?
VRに対応したブラウザも登場し始めているので、今私たちが日常的に利用しているネットショップでこういった体験ができるようになる日も近いのかもしれません。
HMDを装着する必要があるVR映像は、第三者にリアルタイムで同じ映像を見せることができず、「共有」するのが難しいという課題がありました。
それに対して、ディスプレイとメガネで構成された「zSpace」は、カメラ(下写真左)でディスプレイに表示された映像を捉え、プロジェクターなどを使用してスクリーンに立体的に投影することできます。
映像を動かしたり、視点を変更したりできるのは「zSpace」を操作している1人だけですが、「zSpace」1台だけで、学校の授業やオフィスのミーティングでも全員に同じ画面を見せながら、説明・情報共有を行うことができます。人数分のHMDを用意する必要もありません。
このカメラで画面を捉え、スクリーンなどに立体視投影します。
このように、会議や授業などで同じ映像を確認することが可能です。
また、HMDの問題として、長い時間装着していると画面に酔ってしまうという点があります。その点、「zSpace」は視界が完全に覆われないため酔いにくく、完全に視界を覆わないため、VR映像を再生しながら違和感なく周囲と顔を見合せながら会話することもできます。また、メガネはHDMに比べて軽いので、重さの面でも長時間着用に適しているといえます。
教育やトレーニング分野だけでなく、ネットショッピングなど身近な生活をも変える可能性を秘めた「zSpace」。特にヘッドマウントディスプレイという形から脱却したことによって、VR体験をリアルタイムで「共有」することができるのは非常に大きなメリットです。5年後、10年後、私たちの仕事の仕方もこういったテクノロジーによって変化していくのかもしれませんね。
(この記事は、アマナイメージズのWEBメディア「portfolio」の記事 を再編集しています。)