アート×サイエンスの視点: ダ・ヴィンチに倣うブランド事例

JanakaMaharageDharmasena

2012年、ロンドンでレオナルド・ダ・ヴィンチの展覧会が2回開催されました。ひとつは、バッキンガム宮殿のロイヤル・コレクションで開催した彼の優れた科学的精神を讃えるもの、もうひとつは、ナショナル・ギャラリーで開催された、芸術家としての業績に敬意を払うものでした。

The Guardianは、「ダ・ヴィンチは科学者なのか?それとも芸術家なのか?」という議論を投げかけました

ダ・ヴィンチのスケッチを見ると、彼が美的感覚と工学、芸術と科学を組み合わせるセンスに長けていたことがわかります。彼は、数学者、エンジニア、発明家、建築家であり、画家、彫刻家、音楽家、作家でもあったのです。

マーケティングについて、私たちはダ・ヴィンチの議論のように芸術と科学を二元論で捉えがちです。つまり、クリエイティブ(アイデアやストーリーに関連したもの)とサイエンス(データやパフォーマンスマーケティングに関連したもの)を別々の力で、そして時には対立する力として扱うことは少なくないはずです。もし、今の時代にダ・ヴィンチが生きていたら、彼はどちらか一方を選ぶ考え方自体を一笑に付し、(おそらくTED Talkのステージで)もっと統合的な物の見方を私たちに促すでしょう。結局のところ、現代のマーケティング担当者として成功するためには、人々の共感を呼ぶ創造的な作品を制作し、結果を測定し、最適化する必要があるのです。

ダ・ヴィンチは職業の選択を誤ったのでしょうか? おそらくそうではありません。しかし、彼はきっと素晴らしいマーケティング担当者になったはずです。この記事では、このルネサンスの偉大な人物に敬意を表して、コンテンツマーケティングのアートとサイエンスを上手く組み合わせ、ダ・ヴィンチも誇りに思うであろう3つのブランド事例をまとめました。

 

コンピュータが生み出したINGのレンブラント

最近、意外な業界が、データとクリエイティブを野心的な形で組み合わせました。それは銀行業です。ING(オランダの総合金融機関)は、イノベーションを追求する姿勢を示すために、データ分析とデータ処理にMicrosoftのAzureプラットフォームを使用して、レンブラントの作風をコンピュータで現代の世に再現するプロジェクトに着手しました。

このプロジェクト「The Next Rembrandt」は、クリエイター、データサイエンティスト、開発者、エンジニア、美術史家など、さまざまな分野のスペシャリストが素晴らしいコラボレーションを行いました。彼らは、「コンピュータが、普通のアーティストだけでなく、最高峰の画家の作風を真似できるとしたらどうなるか」という問いに答えるために集まったのです。

 

 

レンブラントプロジェクトは、INGがデータマイニングの可能性を披露する一方で、未来のオートメーション化に対する人々の不安(ロボットに仕事を取られてしまうのではないか?というような)にも触れる賢い方法でした。「The Next Rembrandt」は、コンピュータが傑作を生み出すスキルを持っていることを証明しましたが、実際に実現したのは人間の努力の結集です。

このプロジェクトには、1億人以上の人々が反応しました。「The Next Rembrandt」は、1,400以上の記事に取り上げられ、18億以上のメディアインプレッションを獲得しています。「The Next Rembrandt」の仕掛人J. Walter Thompson Amsterdamによると、このプロジェクトはアーンドメディアでは1,250万ユーロに相当するそうです。また、「The Next Rembrandt」プロジェクトが立ち上げられた日には、INGとMicrosoftの株価がともに上昇しました

GEの#BalancetheEquationキャンペーン

心理学者兼作家のDaniel Kahneman氏は、著書「Thinking Fast and Slow(邦題: ファスト&スロー)」で情報処理に使える便利なフレームワークを紹介しています。Kahneman氏によると、私たちの脳には決定を下すためのシステムが2つあるそうです。「システム1」は、速くて直感的かつ感情的です。「システム2」は、遅くて慎重かつ非常に論理的です。そして、タスクに応じて一方のシステムが他方のシステムよりも優先して作動します。

多くのマーケティング担当者は、消費者の意思決定における「システム1」の役割を過小評価しています。意思決定は論理的で調査に裏付けられたものだと思うかもしれませんが、非常に大きな影響力を持っているのは「直感」です。ブランドとして、あなたはオーディエンスに「フック(引っかかり)」を与えなくてはなりません。

Kahneman氏の著書は、コンテンツの作成にオーディエンスのマインドセットを考慮すべきだと気付かせてくれます。つまり、脳のどの部分でバイヤージャーニー全体に訴求すべきかを考えるということです。

脳の感情的な部分と合理的な部分の両方に訴求しているブランドはGEです。GE は、2020年までに#balancetheequation(化学反応式の均衡)キャンペーンを行い、20,000人の女性をSTEM(科学・技術・工学・数学)職に就かせると誓約し、「最高のSTEM人材を採用し、ブランドのダイバーシティとCSRを向上させる」という事業目標によって人々の心を捉えました。

GEは、「全脳」戦略を使用し、「もし科学者がロックスターだったとしたら?」というキャンペーンアイデアを複数のチャネルで紹介しました。ブランドのビッグロック動画、「女性科学者のMillie Dresselhaus氏がセレブのように扱われたらどうなるか?」は、「システム1」に訴求するコンテンツの一例です。動画を補足したのは、男女平等に向けた社会経済的事例を説明したホワイトペーパーでした。これは、「システム2」に訴求するコンテンツの事例です。

 

Spotifyのクリエイティブデータアプリケーション

私たちは、ソーシャルフィードが人々の偏見を裏付け、プログラムがインターネット上でついて回り、パーソナライズされたユーザーエクスペリエンスの向上を絶え間なく追求しているNetflixやAmazonへの期待が刻々と高まっている時代に生きています。

コンテンツ作成者は、現在のオーディエンスが多くの優れたコンテンツオプションを持っていることを忘れてはいけません。ありふれたコンテンツ、低品質なコンテンツ、またはブランドについて語っているだけのコンテンツは、一人も感動させることができないでしょう。自分たちの強みを生かし、オーディエンスに情報やインスピレーションを与え、彼らを楽しませたり、感動させたりしてください。

ブランドは、競合他社より勝るコンテンツを作成しなければなりません。これは、先ほど紹介したGEの事例のような意欲的なコンテンツか、自社のデータを使い、競合他社には真似できないコンテンツを意味します。

Spotifyによるファーストパーティデータの使用はその代表的な事例です。Spotifyのプラットフォームは、ユーザーの履歴と行動を利用して、各個人の好みに合わせた様々なプレイリストから好みの音楽を提案しています。Spotifyは、2016年と2017年の終わりに、データマイニングのスキルを活用して、ジョーク交じりの広告キャンペーンを打ちました。そして2017年9月には、ユーザーが10代の頃に聴いたはずの曲を集め、青春時代の懐かしい気持ちを呼び起こすプレイリスト「Your Time Capsule」をリリースしています。2018年のSpotifyは、間違いなく、より革新的な形でデータを活用していくでしょう。

 

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現代のブランドはバランスを取りながら邁進していかなくてはなりません。個性的で不快にさせないものを生み出し、ターゲットを絞りながら市場シェアを獲得し、オーディエンス中心でありながらも製品を販売し、データを使用しながらもクリエイティブでなければなりません。

バランスを取ることは簡単ではありませんが、成功すれば大きな利益を生むことができるでしょう。

ING、GE、Spotifyの事例が示すように、コンテンツに総合的なアプローチを採用することで、クリエイティブとパフォーマンスの両面で並外れた成果を上げ、「芸術か?科学か?」という議論は蛇足になります。

ただ、ダ・ヴィンチはこのことを何世紀も前から知っていました。私たちは、ようやく彼の考えに追いついただけなのです。

 

LieuPhamはNewsCredのコンテンツマーケティングアドバイザリーサービスチームのディレクターです。

 

元記事「The Art and Science of Marketing: Lessons from ING, GE, and Spotify」は2018年1月9日にInsights.newscred.comに掲載されました。

 

この記事はNewsCred BlogのLieu Phamが執筆し、NewsCredパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@newscred.comまでお願いいたします。

 

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