コンテンツマーケティングの元素周期表 [デジタル・エンゲージメント vol.1]

コンテンツマーケティングにおいて核となるのは、消費者と企業・ブランド間のエンゲージメントです。そこで本コラム「デジタル・エンゲージメント」では、テクノロジーライターの大谷和利さんが、国内外の先進的なマーケターたちが創造性を駆使して編み出したエンゲージメントを高めるための工夫を連載形式で紹介。読者の皆さんに新たな視点や気づき、アイディアを提供していきます。vol.1では、次回以降の記事の理解を深めるための予備知識として、コンテンツマーケティングに欠かせない18の要素にフォーカスします。

 

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主要な企業や組織のほとんどが自らのWebサイトやソーシャルアカウントを持ち、発達したメディア技術を駆使して情報発信を行っている現在。フィナンシャルタイムズのジャーナリストだったトム・フォレムスキーは、この状況を「すべての企業はメディア企業である」という言葉で表現した。そして、ビジネスの成功のためには、メディア企業としての心構えを持ち、コミュニケーションチャネルごとに最適なコンテンツ発信を行っていく必要があると説いた。

筆者も、まさにその通りだと考えており、その実現のためには先進的なコンテンツマーケティングの事例を知り、参考になる部分を自社のビジネスに合わせてアレンジしながら応用していくことが重要だ。

このコラムでは、そうした事例を紹介していくが、まず初回は、2回目以降の記事の理解を深めるための予備知識的な要素を簡単にまとめておくことにした。

 

コンテンツマーケティングを18要素に集約

コンテンツマーケティングに欠かせない各要素を説明するために、筆者が注目しているのは、アンディ・クレストディナというマーケティングのエキスパートが考案した「コンテンツの周期表」である。

彼が著した“Content Chemistry: The Illustrated Handbook for Content Marketing”(以下「コンテンツ・ケミストリー」)という書籍内で紹介されているこの表は、コンテンツマーケティングを化学に見立て、元素に相当する18の要素を巧みに周期表の形式にまとめたものだ。

しかし、元の図は周期表らしさを優先した簡潔な体裁なので、筆者のほうで説明的な要素を加えてアレンジしてみた。これを元に「コンテンツ・ケミストリー」の考え方をわかりやすく解説してみよう。

全体は、マーケティング・ファネルのように4つの層からなり、上から「認知」、「興味」、「検討」、「決定」の各段階を示す。

また、左に行くと、より情報配信に近いアウトバウンド的な従来型のマーケティングに近くなり、右のほうに、コンテンツマーケティングの核としてオウンドメディア上で展開されるインバウンド系の要素が並んでいる。

そして、上にある要素ほど制作にかかる労力は少なく準備しやすいが、その分、情報の賞味期間(クレストディナは、化学用語を使って「半減期」と呼ぶ)も短くなる。反対に、下にある要素ほど制作するのは大変だが賞味期間が長く、消費者からの信頼感も高くなるという性質を持っている。

各要素の右肩の数字は、文字量や長さを示すが、前者は元の英語のワード数を元に日本語の文字数として調整したものであり、あくまでも目安だが、極端に増減してしまうと、途中で飽きられたり、物足りなく感じられる恐れが生じるため、注意が必要となる。

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各元素(コンテンツ要素)と互いの相性

では、各要素について解説を加え、併せて相性にも触れておこう。なお、それぞれの略称はクレストディナが元素記号風に付けたものであり、このような業界標準的表記があるわけではないが、遊び心に富んでいる。

 

ソーシャルポスト(略称:Sp)

SNSへの投稿を指し、賞味期限は数時間程度と短いかもしれないが、バズれば波及効果は大きなものとなる。ソーシャルポストでフォロワーに質問を行い、寄せられた答えとともにアレンジしてブログポストに掲載することで、オウンドメディアにプルすることなども可能。

ブログポスト(略称:Bp)

ソーシャルポストとの相性が良く、導入部や概要をそちらに投げておき、相乗効果を狙うことができる。また、アクセスの多いブログポストをホワイトペーパーやeBook化してダウンロード可能なコンテンツ化すれば、メールアドレスの収集などにも利用可能。ビジュアル重視で有名人や知識人とのコラボレーションのあるポストがバズる傾向にある。

ニュースレター(略称:Ne)

最低でも数日間は鮮度が保てるコンテンツであり、電子メールなどを介して配信される。核心部分や結論はブログポストや他のオウンドメディアの記事などで読めるようにして、そこへのリンクを必ず埋め込み、相乗効果を狙う。

ポッドキャスト(略称:Pc)

欧米に比べて日本ではニュース系、教養系が目立ち、マーケティングでの活用事例が少ないものの、制作にかかる労力も効果も、テキストとビデオの中間に位置するコンテンツといえる。ブログポストの記事を読み上げて、それについてディスカッションするような内容であれば比較的楽に用意できる割に効果が得られる。逆に、ポッドキャストへのリンクを簡単な説明やビジュアルと共にまとめて、ブログポストにすることもできる。

プレゼンテーション(略称:Pt)

強い印象を残せるライブプレゼンテーションと記録的価値の高いスライドショーの2通りがあるが、どちらも効果を最大化するためには、写真やチャートなどのビジュアル要素を積極的に使うと良い。「コンテンツの周期表」上で示された540字程度という文字数は少なく感じられるかもしれないが、一般に、日本企業によるプレゼンテーションは文字が多過ぎる傾向にあり、かえって言いたいことが伝わらないという弊害をもたらしている。スライド内にブログポストや自社Webページへのリンクを埋め込み、ライブプレゼンテーションの場合にはソーシャルポストを利用して告知を行うことで、相乗効果を高められる。

ラウンドアップ(略称:Ro)

ラウンドアップとは「まとめ」や「総括」の意味で、トピックについての専門家のコメントなども交えて構成された、コラボレーションによるコンテンツである。コメントを寄せた関係者のフォロワーなども利用してSNSでの波及効果を期待することができ、多数の専門家とのつながりを確立できれば、ラウンドアップをリサーチへと昇華させていくことも可能となる。

インフォグラフィック(略称:Inf)

ブログポスト内に埋め込むなどして、利用されることの多いコンテンツである。逆に、アクセスの多いブログポストにインフォグラフィックを追加して内容を強化し、改めてポストしてもよい。優れたインフォグラフィックは、影響力のあるブロガーによる引用を誘発し、その際にオリジナルページにリンクバックしてくれることが多いため、アクセスの流入や信頼度の向上も期待できる。

ランディングページ(略称:Lp)

ソーシャルポストや広告、電子メールによるキャンペーンなどからのアクセス流入の受け皿となるページを指し、コンバージョンのための最重要ポイントとなる。しかし、ここでは直接的な製品やサービスのプロモーションは行わず、ビジターの興味を維持しつつ、ブランドへのエンゲージメントを深めるような内容でまとめることが重要である。リンク元で利用したキャッチフレーズや概要説明と同じものが最初に目に入るようにすれば、ビジターに安心感を与えられる。ここからウェビナーにつなげるのもエンゲージメントの醸成に有効だが、必ず申し込み期日を明記し、即決してもらえるようにする。

Webページ(略称:Wp)

ブログポストほか、関連するオウンドメディアからリンクを貼るべきページであり、「コンテンツの周期表」の要素の中で、唯一、製品やサービスの直接的な売り込みを行なう場所となる。逆に、ビジターの興味を削がないために、Webページからのリンクは、ケーススタディやホワイトペーパーなどに限定する。アクセスの多いページに動画を埋め込むとコンバージョン率が上がるが、Webページ自体がシェアされることは少ないため、内容をソーシャルポストやニューズレターなどへ転用することは避けるべきである。

プレスリリース(略称:Pr)

外部メディアに対して配信したり、自社サイトのプレスセクションに掲載する、おなじみのコンテンツである。これ自体で消費者の注意を喚起することはなかなか難しい反面、再利用・再加工が容易な点を活かして、ブログポスト向けにリライトしたり、特定のブロガーや編集者に対して個人ルートでプッシュし、個別のインタビュー対応などに結びつけると効果を上げやすい。

ビデオ(略称:Vi)

ライブプレゼンテーションを除いて、エンゲージメントとコンバージョン率を高める最も強力なコンテンツである。ただし、ビデオそのものの内容は(現時点では、まだ)サーチエンジンで解析できないため、SEO対策としては適切な説明やキーワードを付随させる必要がある。エンゲージメントのためにはブログポスト、コンバージョンのためにはWebページにビデオを埋め込み、ニュースレターからのクリックスルーを誘発する上ではプレイボタンのイメージを付けたビデオのサムネールを含めておくとよい。

ウェビナー(略称:Wb)

自前の配信システムがなければ専用の有料アプリなどが必要になるが、時間や場所の制約なくセミナーを受講できることから見込み客にとっては気軽に参加しやすく、メールアドレスの収集などに適したコンテンツといえる。また、ウェビナー中にリアルタイムでハッシュタグ付きのソーシャルポストを行ったり、ウェビナー後は収録したビデオをブログポストやダウンロードコンテンツに利用することで、価値を何倍にも高めることができる。

インタビュー(略称:Int)

専門家を対象に、ブログポストの内容と関連する質問を投げかけ、回答と共にまとめてポストする。その際に、ソーシャルメディアでも知られた専門家を選ぶと、より幅広い層とのエンゲージメントが可能となる。インタビューコンテンツには、必ず元のブログポストからリンクを貼り、できれば人物紹介や触りの部分だけでもビデオを埋め込むことが望ましい。

リサーチ(略称:Re)

クレストディナ自身が、「コンテンツマーケティングにおいて最もパワフルな情報提供の形式」と考えているものである。自社を特定分野のエキスパートとして位置付け、消費者が最新の情報を得る際に最初に訪れる場所を作り出すことにより、ブランドロイヤリティを高める役割を果たす。信頼に足るリサーチコンテンツの制作には時間と労力がかかる一方、しっかりしたものが作れれば見返りは大きい。新たなリサーチトピックに取り組むたびに、その意義などを伝えるプレスリリースを打ち、外部メディアを通じた情報の伝播による相乗効果を狙う。

ホワイトペーパー(略称:Wt)

メリットやアドバンテージがわかりにくい複雑な製品やサービスを扱うB2B企業で、多く用いられるコンテンツ形式である。専門家による深掘りの内容が中心なので、そのままでは一般消費者向けではないが、分割してリライトの上でブログポストに流用したり、ビジュアルを充実させてeBook化するなどの応用も考えられる。

ケーススタディ(略称:Cs)

自社の製品やサービス利用者の成功事例の紹介・分析記事である。製品寿命の長いアイテムに向いており、通常、「問題発生→解決方法→結果」のようなストーリー展開を採る。ブログポストからリンクを行い、Web上のセールスページにつなげ、さらに統計データなども示すことができるとコンバージョン率を高められる。

ブック(略称:Bk)

コスト面でも労力の面でも容易には制作できないが、依然として消費者が寄せる信頼度の点ではトップクラスに位置するコンテンツといえる。あらかじめブック化することを念頭に継続的なブログポストを行い、十分に充実したところで編集プロダクションに依頼するなどしてまとめ、出版してもよい。逆に、書き下ろしのブックを部分的にブログポストで断続的に紹介し、購入につなげるやり方もある。

eBook(略称:Eb)

ホワイトペーパーよりもカジュアルでブックよりも短い、資料的なコンテンツである。プレゼンテーションのテキストを充実させ、印象的なカバーイメージを追加して、eBook化することもできる。ブログポストやランディングページから、登録したユーザーにのみダウンロードさせるやり方も、よく利用されている。

 

まとめ

このように、アンディ・クレストディナがその専門性を活かして整理した「コンテンツの周期表」を参考に自社のコンテンツマーケティングのあり方を見直してみると、改めて、強化すべき点や修正すべき部分が浮かび上がってくるのではないだろうか。

また、いかにデジタルコンテンツが再利用しやすいからといって、うかつにWebページと同じ内容をプレスリリースで流すようなことをすると、それがそのまま複数のメディアで掲載された場合に、重複コンテンツと見なされてグーグルのブラックリストに載る可能性もある。くれぐれも各要素の特性を踏まえて、内容の書き分けや使い分けをしっかり行っていくことが大切だ。

次回からは、この「コンテンツの周期表」も利用しながら、コンテンツマーケティングの先端事例を紹介していくことにする。

 

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大谷 和利(おおたに・かずとし)

テクノロジーライター、AssistOn取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツ、スティーブ・ウォズニアックのインタビュー記事をはじめ、コンピュータ、カメラ、写真、デザイン、自転車分野の文筆活動を行うかたわら、製品開発のアドバイスなども行う。主な著書・監修書に『成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか』(講談社)、『ICTことば辞典:250の重要キーワード』(共著。三省堂)、『ビジュアルシフト』(監修。宣伝会議)、『インテル中興の祖 アンディ・グローブの世界』(同文館出版)。主な訳書に『Apple Design日本語版』(AXIS)、『スティーブ・ジョブズの再臨』(毎日コミュニケーションズ)。

 

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