話題のNFTアートコレクション「新星ギャルバース」のクリエイティブディレクター・草野絵美さん。彼女は、国内にNFTアートの概念を広める一助となった小学生NFTアーティスト・Zombie Zoo Keeperさんの母親でもあり、今春、その草野さんとアマナのコラボレーションにより、Zombie Zoo Keeperさんの作品をプリントしてフィジカルアートとして展示販売するプロジェクトが実現しました。
NFTアートをフィジカルに展開することで、可能性はどのように広がったのでしょうか。草野さんと、制作を手掛けたアマナの美術プリント工房 FLAT LABOの小須田翔に聞きました。
――まずは 「新星ギャルバース」についてですが、8888体の作品がわずか6時間で完売、取引総額が発売時レート換算で約20億円を達成するなど、すばらしい成功を収めていますね。
草野絵美さん(以下、草野):「新星ギャルバース」のプロジェクトは、実は、長男であるZombie Zoo Keeperが大きなきっかけになっているんです。
草野:私はミュージシャンとしても活動しているのですが、そのMV制作をずっと一緒にやってきていた映像作家の大平彩華と、オーストラリア人共同創業者2人の計4人で作り上げたNFTアートコレクションが「新星ギャルバース」です。
Shinsei (新星) = nova / new star
Galverse (ギャルバース) = gal x metaverse x universe
👏8,888👏 new stars shooting across the universe to bring peace to all people and cultures.
If you like our project, please share it with your friends!#Galverse #NFT #nftart #anime pic.twitter.com/1oavnaYFfI— 新星 🌠 Shinsei Galverse (@galverseNFT) March 6, 2022
草野:もともとは大平と、「80年代テイストのアニメ作品を作りたい!」と考えていました。もっとも、資金も知名度もなく、実現は難しいと踏んでいたのです。そんな中、Zombie Zoo Keeperの作品に世界的に注目いただき、ホルダーだったオーストラリア人から、「何か一緒にやらないか」と声をかけられたのが、新星ギャルバースチーム結成の始まりです。
アマナ・小須田翔(以下、小須田):アニメといえば、まさにZombie Zoo Keeperさんの作品は、今回我々がご一緒したフィジカル作品制作のほかにも、東映アニメーションでアニメ作品にもなりましたね。
草野:そうなんです。Zombie Zoo KeeperがiPadで描いたドット絵をNFTアート化しマーケットプレイスにのせてみたところ、それがまずNFT界隈のグローバルなコミュニティで話題になった。そこをきっかけにあらゆる展開が生まれ、アニメ作品にもなりましたし、ピコ太郎さんとのコラボレーションMVも出させていただきました。
📢BIG NEWS📢
I’m excited to announce the great news, Zombie Zoo is teaming up with the world biggest metaverse game @TheSandboxGame to create
Zombie Zoo Land🧟♀️🧟🧟♂️
I and amazing voxel artists have been in the works for a while!🥰
can’t wait to show🔥https://t.co/nWjvfbKVTo pic.twitter.com/IpUGDpPE7S— Zombie Zoo.eth(🧟♂️,🧟) (@ZombieZooArt) May 12, 2022
草野: つまりNFTアートとして支持されれば、作品がある種の「公共財」となって、多くの方々に新しい創作の展開を広げていただける。「新星ギャルバース」では、Zombie Zoo Keeperのような、NFTアートを起点にしたアニメーション作りからさらに一歩発展させ、ファンコミュニティを巻き込んだアニメ作りにチャレンジすることを、プロジェクトのロードマップとして掲げました。
――その結果、今年4月にNFTマーケットプレイス「OpenSea」のランキングで世界1位にまでなりました。アニメ制作の夢は実現し始めていますね。
草野:実は少しずつ企画が動き始めています。こだわっているのは、「日本のアニメスタッフで作りたい」ということ。
小須田:どういうことでしょう?
草野:NFTのマーケットでは、先行する欧米のアーティストが圧倒的に強いんですね。売れているNFTのTOP100はほとんどがアメリカ発です。それでいて、日本のアニメーションにインスパイアされた作品がとても多い。
海外の人と話していると、売れ筋のアメリカ発NFT作品を「日本人が作っていると思っていた」と言われることもあります。一方で、そういう状況に日本人の多くは「日本のカルチャーをリスペクトしてくれて、ありがとう!」と反応してしまいがちです。
けれど、実はすごく機会損失していると感じていたんです。
小須田:むしろ日本のクリエイターが、直接NFT市場に出ていくチャンスを逃しているのではないかと。
草野:そうです。日本のように、絵が上手な人が当たり前にいる国ってそうそうないですからね。もっといえば、日本のアニメっぽいアートではなく、ガンダムやNARUTOがNFTアートを出してもいい。
いずれにしても、日本の素晴らしいクリエイターが、生まれたばかりのNFTマーケットやコミュニティにつながっていないのはもったいない。私もZombie Zoo Keeperも本当に幸運で、そこにリーチできただけだという思いもあります。その市場に日本のクリエイターをつなぎ合わせることができれば、と考えているのです。
――なるほど。その意味でも、今回のZombie Zoo KeeperさんのNFTアートのフィジカル展開は、意義ある取り組みだったのではないでしょうか。
草野:そうですね。NFTアートをより多くの方に知っていただき、また公共財のように広めていくひとつの可能性が広がった気がします。
――そもそも、今回のNFTアートをフィジカルアートにして日本橋三越本店(以下、三越)で展示販売する、という企画は、どこからスタートしたのでしょうか?
草野:2021年の10月頃に、三越の担当の方から、InstagramのDMで「コラボしませんか?」とお話をいただいたのがきっかけです。
「2月22日の猫の日に三越で猫をテーマにしたイベントを開催する予定があり、そこにZombie Zoo Keeperが手掛けた猫の作品を展示販売したい」と。
こちらから「展示できるようなフィジカルの作品は手掛けていないんですよ」とお話したら、「デジタルデータから綺麗にプリントして展示作品にする技術を持っている会社があるんです」と三越の方に紹介されたのが、アマナのFLAT LABOだったんです。
小須田:そこで初めてお話したんですよね。
草野:はい。Zombie Zoo Keeperのドット絵を自宅のプリンターで印刷してみたことはあるのですが、やはり粗くなるし、デジタルデバイス特有の鮮やかな色もまったく違う色味と彩度で出てしまいました。それを美しく仕上げられるというので、とてもエキサイティングなお誘いだなと思って。
Zombie Zoo Keeper本人に相談したら「やってみたい!」というのでチャレンジすることに。彼は習いごとの発表会みたいな軽い感覚でいましたが、始めての個展が日本橋三越本店って、すごいなとも思いましたね(笑)。
――FLAT LABOとしても、このようなNFTアートをフィジカルアート化する試みはチャレンジングだったのではないでしょうか。
小須田:そうですね。ただ、ドット絵を展示作品にする作業は、これまでも何度か経験がありました。
FLAT LABOは写真家やアーティストなど、あらゆる展示用プリントを手掛けてきた知見があるので、今回のお話をいただいた際も、これはおもしろい仕上がりになるな、とむしろ楽しみでしたね。
――実際の作品は全部で10点。猫をモチーフにしたドット絵の新作シリーズ「Zombe Zoo Cats」をZombie Zoo Keeperさんが描き下ろしました。プリントを施す素材はどう検討したのでしょう?
小須田:3種用意しましたが、すべてアクリルをベースにしています。Zombie Zoo Keeperさんの作品は、普段はスマホやタブレットで鑑賞されるものなので、「液晶画面のような光沢感のある雰囲気」を出そうと考えました。
アクリルにプリントすることによって、実際の絵の前に1枚フィルターがかかったようになるのですが、むしろそれがデジタルの画がフィジカル化したリアリティをあらわすだろうと。
草野:見本を見たとき、本当に綺麗だし、ディスプレイで見てきたドット絵がリアルの空間に現れたようで感激しました。大きいほうが迫力はありますが、小さなキューブもかわいいですよね。
小須田:一番小さいサイズの「アクリルキューブ」のみ、UVプリンターを使って少し透過するように仕上げました。窓際などに置くと光が透過して、まさにモニターで見ているかのように感じられます。
草野:それにしても、ピクセルも崩れず微妙な色みまで精緻に再現されているのが、すごいですよね。
小須田:通常の処理では、勝手にピクセルをなめらかにしたり、色も調整されてしまうんですよ。そこは我々の腕の見せどころでもありました。FLAT LABOでは写真家の作品展示を手がけることも多いので、そうした細やかな調整は、我々の得意としているところでもあります。
――一番小さなアクリルキューブ以外は、ICタグのブロックチェーン証明書を発行して、フィジカルでもNFTの要素を入れたんですね。
草野:スタートバーン社の「Startrail」を活用しました。Zombie Zoo Keeperのファンの方々がNFTに馴染みのある方々なので、似た仕組みがあったほうが親しみやすいと考えたんです。
草野:そもそもコピーしやすいデジタル画像が、NFTの概念によって唯一無二の存在証明を得られるようになった。今回、またそれがフィジカルを手にすることで、リアルな唯一無二の存在になるのは、すごくロマンチックだなと感じましたね。
――日本橋三越本店での展示の反響はいかがでしたか?
草野:「iPadで見てきたZombie Zoo Keeperの絵がこんな形で見られるとは…」と感動してくださる方がけっこういらっしゃいましたね。実は以前、ディスプレイで展示する展覧会に参加したことはあったのですが、「あの時よりも、やはりマジマジと見たくなる」とおっしゃっていただいたり。
小須田:コロナ禍もあってNFTアートのようなデジタル作品の価値があがった一方で、フィジカルやリアルなものに多くの方が飢えていたということもありそうですよね。
草野:友人のNFTアーティストもこれをみたときに「自分の作品もフィジカルアートにしてみたい!」と口々に言っていたのが印象的でしたね。彼らはフィジカルアートにできるなんて考えてもいなかった上に、やはりリアルなものの質感や気配に魅かれていた。
――フィジカルアートにすることをきっかけに、NFTアートの面白さに触れた方もいそうですよね。
草野:その意味では「日本橋三越本店」が展示会場だったのも良かった気がします。
展示をご覧になったシニアの方々から、「NFTはわからなかったけれど、面白い。こういう小さいアクリルの作品なら玄関に置きたい」なんて声が聞かれたり、今まで接点のなかったような方々から三越の展示をきっかけに問い合わせをいただきました。久しく会っていなかった親戚も来場してくれて、「三越だったから来たわ」と。
――今回のプロジェクトが、デジタルやフィジカル、NFTカルチャーとトラディショナルなカルチャーが交わるきっかけのひとつになったようですね。
草野:私も長男もはじめての日本橋三越で、ワクワクした面もありました。普段一緒に行くのは近くのショッピングセンターばかりなので(笑)。
――今回のような試みが、NFTをまたポピュラーにして、公共財のような価値を生み出す契機のひとつにもなりそうです。
草野:NFTアーティストや、あるいはNFTを購入された方が、気軽にこうした形でフィジカルアートを作ったり、展覧会などを開けたらまた面白いですよね。
NFTアートは「購入後、どう扱うか」といったことが、まだまだ発展途上にあります。購入後は商標利用もできるCC0※のような流れもあって、会社のロゴやグッズに購入したNFTアートを活用する例も増えています。そうした中で、フィジカルアートというアウトプットが加わると、また可能性がぐっと広がると思っています。
※…Creative Commons Zero=著作権等を放棄し著作物を誰でも自由に利用できる状態にすること。
小須田:エディションの考え方も変わりそうですよね。NFTアートを所有する人が「新しいプリント技術が出た」「こんなプロダクトにプリントできるようになった」といったタイミングで、新しいエディションをアウトプットしていく。何か新しいアートのスタイルとバリューが生まれるような気がします。
ロマンチック――。
NFTアートをフィジカルアートにして、また新たな価値を生むことを草野さんがそう形容したのが印象的でした。それはまた、まだまだ未知の可能性を秘めたNFTアートの世界がフィジカルによって押し広げられることであり、多くのクリエイターに機会を与えることでもあるようです。
NFT×フィジカル化が生み出す、ロマンチックな世界と未来が、とても楽しみになってきました。
インタビュー・文:箱田高樹
撮影:松栄憲太(amana)
AD :中村圭佑
編集:高橋沙織(amana)