草野絵美×アマナ NFTアートをフィジカルに展開することで広がった、クリエイティブの可能性

草野絵美×アマナ NFTアートをフィジカルに展開することで広がった、クリエイティブの可能性

話題のNFTアートコレクション「新星ギャルバース」のクリエイティブディレクター・草野絵美さん。彼女は、国内にNFTアートの概念を広める一助となった小学生NFTアーティスト・Zombie Zoo Keeperさんの母親でもあり、今春、その草野さんとアマナのコラボレーションにより、Zombie Zoo Keeperさんの作品をプリントしてフィジカルアートとして展示販売するプロジェクトが実現しました。

NFTアートをフィジカルに展開することで、可能性はどのように広がったのでしょうか。草野さんと、制作を手掛けたアマナの美術プリント工房 FLAT LABOの小須田翔に聞きました。

8888体が6時間で売り切れた、本当の意義

――まずは 「新星ギャルバース」についてですが、8888体の作品がわずか6時間で完売、取引総額が発売時レート換算で約20億円を達成するなど、すばらしい成功を収めていますね。

草野絵美さん(以下、草野):「新星ギャルバース」のプロジェクトは、実は、長男であるZombie Zoo Keeperが大きなきっかけになっているんです。

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草野絵美 | Emi Kusano
株式会社 Fictionera代表。日本を代表するNFTコレクション「Zombie Zoo」において、日本初のNFTアニメ化、ピコ太郎とのコラボMV、Web3ゲーム世界的大手Sandboxとの協業などを実現。クリエイティブディレクションを手がける「新星ギャルバース」では世界最大のNFTマーケットプレイスOpenseaの24時間売上ランキングで世界1位を記録した。東京藝術大学非常勤講師、歌謡エレクトロユニット「Satellite Young」、執筆家など、多彩な顔を持つ。

草野:私はミュージシャンとしても活動しているのですが、そのMV制作をずっと一緒にやってきていた映像作家の大平彩華と、オーストラリア人共同創業者2人の計4人で作り上げたNFTアートコレクションが「新星ギャルバース」です。


「新星ギャルバース」は、80年代アニメの世界観を表現したジェネレ―ティブNFT(プログラムで自動生成された作品)。髪型や目の色、アクセサリーなどは8888体すべて異なり、それぞれ1点もののキャラクターになっている。

草野:もともとは大平と、「80年代テイストのアニメ作品を作りたい!」と考えていました。もっとも、資金も知名度もなく、実現は難しいと踏んでいたのです。そんな中、Zombie Zoo Keeperの作品に世界的に注目いただき、ホルダーだったオーストラリア人から、「何か一緒にやらないか」と声をかけられたのが、新星ギャルバースチーム結成の始まりです。

アマナ・小須田翔(以下、小須田):アニメといえば、まさにZombie Zoo Keeperさんの作品は、今回我々がご一緒したフィジカル作品制作のほかにも、東映アニメーションでアニメ作品にもなりましたね。

草野:そうなんです。Zombie Zoo KeeperがiPadで描いたドット絵をNFTアート化しマーケットプレイスにのせてみたところ、それがまずNFT界隈のグローバルなコミュニティで話題になった。そこをきっかけにあらゆる展開が生まれ、アニメ作品にもなりましたし、ピコ太郎さんとのコラボレーションMVも出させていただきました。


今年5月には、ゲームメイキングプラットフォーム「The Sandbox」上に「Zombie Zoo Land」が開発されることも発表された。

草野: つまりNFTアートとして支持されれば、作品がある種の「公共財」となって、多くの方々に新しい創作の展開を広げていただける。「新星ギャルバース」では、Zombie Zoo Keeperのような、NFTアートを起点にしたアニメーション作りからさらに一歩発展させ、ファンコミュニティを巻き込んだアニメ作りにチャレンジすることを、プロジェクトのロードマップとして掲げました。

――その結果、今年4月にNFTマーケットプレイス「OpenSea」のランキングで世界1位にまでなりました。アニメ制作の夢は実現し始めていますね。

草野:実は少しずつ企画が動き始めています。こだわっているのは、「日本のアニメスタッフで作りたい」ということ。

小須田:どういうことでしょう?

草野:NFTのマーケットでは、先行する欧米のアーティストが圧倒的に強いんですね。売れているNFTのTOP100はほとんどがアメリカ発です。それでいて、日本のアニメーションにインスパイアされた作品がとても多い。

海外の人と話していると、売れ筋のアメリカ発NFT作品を「日本人が作っていると思っていた」と言われることもあります。一方で、そういう状況に日本人の多くは「日本のカルチャーをリスペクトしてくれて、ありがとう!」と反応してしまいがちです。

けれど、実はすごく機会損失していると感じていたんです。

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小須田:むしろ日本のクリエイターが、直接NFT市場に出ていくチャンスを逃しているのではないかと。

草野:そうです。日本のように、絵が上手な人が当たり前にいる国ってそうそうないですからね。もっといえば、日本のアニメっぽいアートではなく、ガンダムやNARUTOがNFTアートを出してもいい。

いずれにしても、日本の素晴らしいクリエイターが、生まれたばかりのNFTマーケットやコミュニティにつながっていないのはもったいない。私もZombie Zoo Keeperも本当に幸運で、そこにリーチできただけだという思いもあります。その市場に日本のクリエイターをつなぎ合わせることができれば、と考えているのです。

――なるほど。その意味でも、今回のZombie Zoo KeeperさんのNFTアートのフィジカル展開は、意義ある取り組みだったのではないでしょうか。

草野:そうですね。NFTアートをより多くの方に知っていただき、また公共財のように広めていくひとつの可能性が広がった気がします。

データをプリントしただけでは生まれない色、雰囲気

――そもそも、今回のNFTアートをフィジカルアートにして日本橋三越本店(以下、三越)で展示販売する、という企画は、どこからスタートしたのでしょうか?

草野:2021年の10月頃に、三越の担当の方から、InstagramのDMで「コラボしませんか?」とお話をいただいたのがきっかけです。

「2月22日の猫の日に三越で猫をテーマにしたイベントを開催する予定があり、そこにZombie Zoo Keeperが手掛けた猫の作品を展示販売したい」と。

こちらから「展示できるようなフィジカルの作品は手掛けていないんですよ」とお話したら、「デジタルデータから綺麗にプリントして展示作品にする技術を持っている会社があるんです」と三越の方に紹介されたのが、アマナのFLAT LABOだったんです。

小須田:そこで初めてお話したんですよね。

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小須田翔 | Sho Kosuda
株式会社アマナ FLAT LABO プリンティングディレクター。写真やイラストのプリントから額装、展示監修まで幅広く手がけるFLAT LABOで、作品表現の可能性を広げ、価値を最大限に高めるプリントや展示方法を提案している。

草野:はい。Zombie Zoo Keeperのドット絵を自宅のプリンターで印刷してみたことはあるのですが、やはり粗くなるし、デジタルデバイス特有の鮮やかな色もまったく違う色味と彩度で出てしまいました。それを美しく仕上げられるというので、とてもエキサイティングなお誘いだなと思って。

Zombie Zoo Keeper本人に相談したら「やってみたい!」というのでチャレンジすることに。彼は習いごとの発表会みたいな軽い感覚でいましたが、始めての個展が日本橋三越本店って、すごいなとも思いましたね(笑)。

――FLAT LABOとしても、このようなNFTアートをフィジカルアート化する試みはチャレンジングだったのではないでしょうか。

小須田:そうですね。ただ、ドット絵を展示作品にする作業は、これまでも何度か経験がありました。

FLAT LABOは写真家やアーティストなど、あらゆる展示用プリントを手掛けてきた知見があるので、今回のお話をいただいた際も、これはおもしろい仕上がりになるな、とむしろ楽しみでしたね。

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――実際の作品は全部で10点。猫をモチーフにしたドット絵の新作シリーズ「Zombe Zoo Cats」をZombie Zoo Keeperさんが描き下ろしました。プリントを施す素材はどう検討したのでしょう?

小須田:3種用意しましたが、すべてアクリルをベースにしています。Zombie Zoo Keeperさんの作品は、普段はスマホやタブレットで鑑賞されるものなので、「液晶画面のような光沢感のある雰囲気」を出そうと考えました。

アクリルにプリントすることによって、実際の絵の前に1枚フィルターがかかったようになるのですが、むしろそれがデジタルの画がフィジカル化したリアリティをあらわすだろうと。

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シリーズ10作品をそれぞれ3種でプリント。オリジナルの大きなネオンカラーのアクリルフレームで額装した「ギャラクシーフレーム」(右 / 価格:13万2000円)、それより小ぶりでフレームなしの「アクリルマウント」(左 / 価格:8万8000円)、そして小さなアクリルブロックに透過性を持たせてプリントした「アクリルキューブ」(中央 / 価格:1万3200円)の3種で仕上げた。

草野:見本を見たとき、本当に綺麗だし、ディスプレイで見てきたドット絵がリアルの空間に現れたようで感激しました。大きいほうが迫力はありますが、小さなキューブもかわいいですよね。

小須田:一番小さいサイズの「アクリルキューブ」のみ、UVプリンターを使って少し透過するように仕上げました。窓際などに置くと光が透過して、まさにモニターで見ているかのように感じられます。

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草野:それにしても、ピクセルも崩れず微妙な色みまで精緻に再現されているのが、すごいですよね。

小須田:通常の処理では、勝手にピクセルをなめらかにしたり、色も調整されてしまうんですよ。そこは我々の腕の見せどころでもありました。FLAT LABOでは写真家の作品展示を手がけることも多いので、そうした細やかな調整は、我々の得意としているところでもあります。

――一番小さなアクリルキューブ以外は、ICタグのブロックチェーン証明書を発行して、フィジカルでもNFTの要素を入れたんですね。

草野:スタートバーン社の「Startrail」を活用しました。Zombie Zoo Keeperのファンの方々がNFTに馴染みのある方々なので、似た仕組みがあったほうが親しみやすいと考えたんです。

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「Startrail」とは、スタートバーンが構築する、アート作品の信頼性と真正性の担保、ひいては価値継承を支える持続可能なブロックチェーンインフラ。今回の取り組みでは、「Startrail」に接続するサービスとして同社が提供する「Startbahn Cert.」を活用し、ブロックチェーン証明書をZombie Zoo Keeperさんが発行。アート作品の所有者は、作品に貼付されたICタグをスマートフォン等で読み込むことにより、証明書の情報を閲覧することができる。

草野:そもそもコピーしやすいデジタル画像が、NFTの概念によって唯一無二の存在証明を得られるようになった。今回、またそれがフィジカルを手にすることで、リアルな唯一無二の存在になるのは、すごくロマンチックだなと感じましたね。

NFT×フィジカル化で、エディションの意味が変わる

――日本橋三越本店での展示の反響はいかがでしたか?

草野:「iPadで見てきたZombie Zoo Keeperの絵がこんな形で見られるとは…」と感動してくださる方がけっこういらっしゃいましたね。実は以前、ディスプレイで展示する展覧会に参加したことはあったのですが、「あの時よりも、やはりマジマジと見たくなる」とおっしゃっていただいたり。

小須田:コロナ禍もあってNFTアートのようなデジタル作品の価値があがった一方で、フィジカルやリアルなものに多くの方が飢えていたということもありそうですよね。

草野:友人のNFTアーティストもこれをみたときに「自分の作品もフィジカルアートにしてみたい!」と口々に言っていたのが印象的でしたね。彼らはフィジカルアートにできるなんて考えてもいなかった上に、やはりリアルなものの質感や気配に魅かれていた。

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――フィジカルアートにすることをきっかけに、NFTアートの面白さに触れた方もいそうですよね。

草野:その意味では「日本橋三越本店」が展示会場だったのも良かった気がします。

展示をご覧になったシニアの方々から、「NFTはわからなかったけれど、面白い。こういう小さいアクリルの作品なら玄関に置きたい」なんて声が聞かれたり、今まで接点のなかったような方々から三越の展示をきっかけに問い合わせをいただきました。久しく会っていなかった親戚も来場してくれて、「三越だったから来たわ」と。

――今回のプロジェクトが、デジタルやフィジカル、NFTカルチャーとトラディショナルなカルチャーが交わるきっかけのひとつになったようですね。

草野:私も長男もはじめての日本橋三越で、ワクワクした面もありました。普段一緒に行くのは近くのショッピングセンターばかりなので(笑)。

――今回のような試みが、NFTをまたポピュラーにして、公共財のような価値を生み出す契機のひとつにもなりそうです。

草野:NFTアーティストや、あるいはNFTを購入された方が、気軽にこうした形でフィジカルアートを作ったり、展覧会などを開けたらまた面白いですよね。

NFTアートは「購入後、どう扱うか」といったことが、まだまだ発展途上にあります。購入後は商標利用もできるCC0のような流れもあって、会社のロゴやグッズに購入したNFTアートを活用する例も増えています。そうした中で、フィジカルアートというアウトプットが加わると、また可能性がぐっと広がると思っています。

※…Creative Commons Zero=著作権等を放棄し著作物を誰でも自由に利用できる状態にすること。

小須田:エディションの考え方も変わりそうですよね。NFTアートを所有する人が「新しいプリント技術が出た」「こんなプロダクトにプリントできるようになった」といったタイミングで、新しいエディションをアウトプットしていく。何か新しいアートのスタイルとバリューが生まれるような気がします。


ロマンチック――。

NFTアートをフィジカルアートにして、また新たな価値を生むことを草野さんがそう形容したのが印象的でした。それはまた、まだまだ未知の可能性を秘めたNFTアートの世界がフィジカルによって押し広げられることであり、多くのクリエイターに機会を与えることでもあるようです。 

NFT×フィジカル化が生み出す、ロマンチックな世界と未来が、とても楽しみになってきました。

インタビュー・文:箱田高樹
撮影:松栄憲太(amana)
AD :中村圭佑
編集:高橋沙織(amana)

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