機能するオウンドメディア【前編】なぜ、企業にとってオウンドメディアが必要なのか?

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EUGENE MYMRIN/GETTY IMAGES

オウンドメディアは、大手メディアを介さない情報発信の場として、多くの企業が注目している施策。BtoBBtoCを問わず、企業からの「オウンドメディアを作りたい」という相談が増えています。アマナにおいてエディトリアルを担当する、編集者/コンテンツディレクターのタジリケイスケに話を聞きました。

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タジリケイスケ

株式会社アマナの編集者・コンテンツディレクター。多摩美術大学卒業後、クリエイティブエージェンシーを経て、編集の視点で企業ブランディングからコンテンツ戦略まで手掛けるクリエイティブ集団、株式会社TOILを設立。2017年より、株式会社アマナにてメディアディレクション、イベント企画・ファシリテーションを行う。また、多数のオウンドメディアの編集長/コンテンツディレクターとしても活動している。

撮影:ソンジン(アマナ)

コロナ禍で再注目されたオウンドメディア

――アマナではいつ頃からオウンドメディアのサポートを始めたのですか?

タジリケイスケ(以下、タジリ):最初に制作依頼の話があったのは5~6年前でしょうか。SNSをはじめ情報発信ツールが増える中、BtoCの企業を中心にいわゆる企業のメディア化が進んで、私たちの元にも制作や運用のサポートをしてほしいという依頼がくるようになりました。

――最近になって、制作依頼が急増しているというのは本当ですか?

タジリ:はい。昨年、社内で新たにエディトリアルの部署を立ち上げたのは、それに対応するためです。

――なぜ、オウンドメディアが再び注目されるようになったのでしょうか。

タジリ:1つはコロナ禍の影響です。リアルなコミュニケーションが制限される中で、きちんと自分たちの言葉をオンラインでも伝えられる場として、オウンドメディアが再注目されているように感じています。またメディアが多様化したことで、SNSや動画コンテンツなど、いわゆるWebマガジンの形態にとらわれず、メディアミックスでの運用が一般的になってきました。さらにここ1~2年は、BtoBの企業からのコンサルティング/クリエイティブの依頼が増えていますね。

――それにはどんな理由があるのでしょうか?

タジリ:BtoBの企業は、これまで自分たちが主導で情報発信することに対して割と無頓着というか、コーポレートサイトで企業情報を発信しておけば大丈夫という認識が少なからずありました。それが最近、企業活動において社会的意義が問われるようになり、そうした社会の課題に対する取り組みをBtoB企業としても発信せざるを得なくなってきた背景があります。

――確かに、製品やサービスの紹介だけならともかく、近年、企業に求められているSDGsやダイバーシティといった社会的価値を生み出す取り組みについてまで、コーポレイトサイトで紹介するのはかなり難しそうです。「当社はこんなに立派な会社です」「こんなによい取り組みをしています」と言われても、あまり興味は持てない気がします。

タジリ:そこが大きな課題で、顧客不在のコミュニケーションになっているわけです。特にBtoBのコーポレートサイトは企業理念や事業紹介など、静的な情報しかしてこなかったので、読み手がほしいコンテンツがわからない。つまり、これまでは自分たちの言いたいことだけ発信して、それが読み手にとってほしい情報であるかは考えてこなかったのです。

コーポレートサイトに限らず、オウンドメディアであっても外部の制作会社に丸投げして発注する従来のスタイルでは、同じことが起こりやすいです。これからのトレンドは、ただ企画や運営に関しても自分たちで責任を持ったり、自走できるような体制を構築することが挙げられるでしょう。アマナがサポートしているのも後者のオウンドメディアのスタイルで、メディア戦略からコンテンツの企画・制作までパートナーとして伴走することがほとんどです。

HowToMakeOwendMedia

 

オウンドメディアは「発信」だけでなく「受信」が重要

――企業がオウンドメディアを持つメリットを教えてください。

タジリ:まず前提として、企業がオウンドメディアを作る目的は三者三様です。認知度を上げたり、優秀な学生に自社の取り組みを知ってもらいたいリクルート目的の企業もあるので、「こんなメリットがあります」と一概に答えることはできません。ただどんな目的があるにせよ、自分たちを客観的に見る第一歩にはなるはずです。

――それはどういうことでしょうか?

タジリ:メディアを「情報の発信」として捉えている方がほとんどです。つまり自分たちのことを、広くあまねく人たちに届けるための装置として考えているわけです。ですが、メディアの本質的な機能は「受信」です。つまり、自分たちが何者であるのか、価値を指し示すためは他者を知らなければなりません。オウンドメディアは自社から見ると社会の潮流をインプットできる装置でもあるので、結果的に自社事業にフィードバックできたり、インナーブランディングとして還元することができるのです。また、メディアの社外の人をインタビューしたコンテンツを制作すれば、自社を客観的な視点で見るチャンスが得られます。

――なるほど。Key Opinion LeaderKOL)に協力してもらえたら、よりインパクトのある気づきが得られそうです。

タジリ:そうですね。しかも、KOLにも自社のことを深く知ってもらうことができます。普通ならアプローチしづらい異分野の人たちとのネットワークも築けるわけで、元々、メディアにはそういう便利さが備わっているんです。あと、これもあまり意識されていない企業が多いですが、オウンドメディアは社外に向けた情報発信だけでなく、インターナルコミュニケーションにも効果的です。「自社でそんなプロジェクトが推進されていたのか」「そんなメンバーがいたのか」と、社内の知らなかったことを知る機会を創出できますから。縦割り組織に頭を悩ませている企業などは、ぜひ試してみるといいでしょう。きっと風通しがよくなるはずです。

アマナがエディトリアル思考をレクチャー

――オウンドメディアに関心を持つ企業が他に知っておいたほうがいいことはありますか?

タジリ:オウンドメディアは継続性が大事ですが、企業の担当者からは「ウチはそんなにネタがないし、人材もいない」という答えが返ってくることがあります。でも、編集者の視点で言うと、取り上げるネタがなかったり、切り口が見つからないということはありません。自社では「当たり前」としていたプロダクトやサービスでも、ひとたび視点を変えると読者には大きく興味を抱かせることができます。これは言い換えると、オウンドメディアを作ってコンテンツ制作に取り組めば、自社のリソースや課題、資産を掘り起こすノウハウまで手に入れられるということです。

――オウンドメディアは、それを作るプロセスにもたくさんの価値が詰まっているというわけですね。ですが、普通の企業に編集者の視点を持っている人はなかなかいないように思います。

タジリ:アマナでは現在、オウンドメディアを機能させるのに欠かせない、メディアストラテジーから編集体制、コンテンツ制作、運用、そして分析に至るまでを、エディトリアル及び専門とする部署と連携に所属する編集者が一緒になって考える「エディトリアルアドバイザリー」というプログラムを提供しています。他にも、「Editorial Camp」という、エディトリアル思考を身につけるためのワークショップを含めたクリエイティブサービスがあります。エディトリアル思考や、読者の興味や関心に触れられるコンテンツの切り口を考えたりといった、実践的なスキルを学ぶことができるはずです。

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amana Creative Campにおける「Editorial Camp」。

――編集者の視点というのは、どういうことでしょうか。

タジリ:常に読者を意識した視点というわけです。自分たちの言いたいことだけを言うのがオウンドメディアではないので、これを理解していただくのがなかなか大変で。ただ、発信者としては経験がなくても、情報の受け手になったことがない人はいないでしょう。そう考えれば大抵の人は、自分だったらどういうものを読みたいか、どういう企業だったら信用できると思うのかについて、実は冷静に考えることができるはずです。それが、読者を意識した視点。オウンドメディアで最も大切なポイントだと思います。

 

文:石川遍

AD:中村圭佑

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