2023年上半期、ベストコンテンツマーケティングキャンペーン4選

Andriy Onufriyenko

2023年も折り返し地点。今年はどんなコンテンツマーケティングキャンペーンが話題になっているのでしょうか?studioID(アメリカのBtoBニュースソース企業INDUSTRY DIVEのグローバルコンテンツスタジオ部門)の、Anastasia Dyakovskayaによる解説記事をお届けします。

2023年上半期、ベストコンテンツマーケティングキャンペーン4選

・ChatGPTの可能性を示した「Mint Mobile」
・(偽の)ファーストパーティデータで人々の心を掴んだ「Bumble」
・縦型ショート動画で際立つ「Nike」
・『The Last of Us』のインタラクティブコンテンツで魅了した「HBO」

 
2023年のコンテンツマーケティングの動向を探るには、実際のキャンペーンを詳しく見てみるのが一番です。今年のトップブランドは、AIとオーディエンスデータを活用し、ターゲットユーザーの関心を惹きつけるだけでなく、実際に心に響く映像やインタラクティブコンテンツを作成しています。2023年上半期のベストコンテンツマーケティングキャンペーンを振り返って、素晴らしいアイデアとインスピレーションを得ていきましょう。

ChatGPTの可能性を示したMint Mobile

今やAIはあらゆるシーンで活躍していますが、まだ世界を支配しているとまでは言えません。そんな中、アメリカのMVNO(仮想移動体通信事業者)であるMint Mobileは、AIの力を示す素晴らしいマーケティングキャンペーンを展開しました。

注目すべきは、成果を出すためにはプロンプトがいかに詳細でなければならないのか、という点です。ChatGPTを活用したMint Mobileのキャンペーンでは、例えば、「俳優のライアン・レイノルズを起用した、Mint MobileのCMを作成してください。ジョークと汚いセリフを盛り込み、他の大手通信会社がクリスマスのホリデープロモーションを終えた後も、Mintだけはプロモーションを続けていることを人々に知らせてください」といったように、具体的なプロンプトで指示が与えられました。

コンテンツマーケティングに関する啓蒙活動を行っているContent Marketing Instituteによると、ChatGPTの回答を元に作られた上記CMでも証明されたように、実際に仕事やクリエイティブな活動、マーケティング活動に役立つChatGPTコンテンツを生成するには、適切なプロンプトが鍵となります。そして、プロンプトがより具体的になればなるほど、ChatGPTからの回答も、テーマに沿った人間のアイデアに近いものとなるのです。

Mint Mobileは、こうしてAIによって作られた1分間のスポットCMの効果を持続させるべく、それと関連した話題を、創業者や著名俳優らがソーシャルメディアに投稿していくことによって話題を広げるという活動を展開しました。それは例えば、「もしこのMint Mobileの広告がうまくいけば、私は#ChatGPTに子育てを任せるつもりだ」とか、「子どもたちが家事をしてくれない場合に、AIがどのような罰を考え出すかを考えると、ちょっと怖いな」といったような、オーディエンスの興味を引く投稿でした。

Mint MobileのCMでは、AIが生成したコピーが活用されているものの、それに命を吹き込んでいるのは、ユーモアと巧みな演技力を併せ持つ著名俳優の魅力。それが、ストレートに親しみやすいスタイルで提供されたことによって、成功したと言えるでしょう。最近の他のChatGPT主導型キャンペーンとは違って、効果的な要素が適切にブレンドされたことで、正統派のCMに感じられるのです。以上により、この事例は2023年上半期のべストコンテンツマーケティングキャンペーンの一つに輝きました。

選外佳作: ChatGPTが考えたキャラクターが活躍するStoriedのCM

Storiedは、家族や親戚で共同作成できるインタラクティブな家系図サービスを提供しています。このサービスでは最近、ChatGPTを活用して製作プロセスを効率化させました。具体的には、最新キャンペーン「Glory to Your Story(あなたの物語に栄光を)」で、「スポットCMに登場する架空の家族のキャラクターそれぞれのバックストーリーを、話題の機械学習ツール(=ChatGPT)を使って作成した」と広告業界誌のAdweekが報じています。さらに、「人間のコピーライターのブレストによって生まれたCMスクリプトのドラフトをAIに与え、ストーリー展開をふくらませたことで、クリエイティブチームは本来かかるはずの費用よりもはるかに少ない予算で、洗練されたキャンペーンをまとめ上げることができた」ということです。

「(ChatGPTによって)スクリプトを書く時間の短縮になるだけでなく、多くのクリエイティブな決定にかかる時間までも大幅に短縮できました。」(Storied CMO Brandon Camp)

(偽の)ファーストパーティデータで人々の心を掴んだBumble

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オンラインデートアプリの「Bumble」は、今年のエイプリルフールに、ユーザーの気分を盛り上げるための仕掛けを用意しました。その名も「Ex-Box」(元カレ/元カノボックス)。Bumbleの最近の(偽の)調査によれば、回答者の98%が「元パートナーの持ち物を捨てる場所が欲しい」と思っており、99%が「元パートナーの持ち物がまだ手元にあるせいで、自分が前に進めない」と答えています。これが、偽のファーストパーティデータです。

これに対する唯一の合理的な解決策は何でしょうか? Bumbleは、ニューヨークとオースティン、そしてロサンゼルス5,000平方フィートの「Ex-Box」(元カレ/元カノボックス)を設けました(残念ながら、これもフェイクです)。そこには、「元カレ/元カノ自体をここに捨てないように」との注意書きも。

「『Ex-Box』は、私たちの顧客コミュニティに対し、新たな出会いとデートを始めるきっかけを、物理的なシンボルとして体現したものなのです」とBumbleの担当者は話します。

という冗談のようなキャンペーンはさておき、昨年行われた同社の実際の調査によると、全世界のユーザーの70%が「今年のロマンスに期待しており、2023年に新たなスタートを迎えられることを楽しみにしている」と回答しています。つまり、この皮肉に満ちたコンテンツマーケティングキャンペーンは、根本のところでBumbleの顧客コミュニティの欲求とマッチしていたわけで、それがまさに大きな反響へとつながったのでした。

ここで学ぶべきは、オーディエンスについて知って理解するほど、彼らに本当に響く体験を作り出し、心をつかむコンテンツマーケティングを展開することができる、ということ。たとえば音楽配信サービスのSpotifyは、過去何年にもわたって、最高クラスのデータ駆動型コンテンツマーケティングをリードしてきました。そこまでのビッグデータを持ち合わせていなくとも、ターゲットユーザーのことをよりよく理解するのは、実際は思ったよりも簡単なのかもしれません。世界的なコンテンツスタジオであるstudioIDが提供するレポート「Audience Snapshots 2023」では、貴社のターゲットオーディエンスが、今、関心を持っている課題やトレンドについて、業界ごとのインサイトを提供しています。

「私たちにとってデータとは、リスナーである誰かの心の奥底で、何が起こっているのかを知るための素晴らしいインサイトを与えてくれる存在です…それに耳を傾ける必要があります」。(Spotify CMO Seth Farbman)

縦型ショート動画で際立つNike

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YouTubeの縦型ショート動画サービス「YouTubeショート」は、月間アクティブユーザー数15億人、1日あたりの再生回数500億回以上という数字が出ており、価値あるストーリーコンテンツに投資する意欲のある広告主やマーケターにとって、このプラットフォームは大きなチャンスを提供しています。そして、この大きな波に乗ったのがNikeでした。

NikeのYouTubeショートに対する取り組みの基本は、そのテーマがハイファッションであれ、スケートボードであれ、あるいは、ファンのための製品製造の裏舞台であれ、フィットネスのインスピレーションやインタビューであれ、実験的な作品作りを恐れないということです。

このような動きは、Nikeに限りません。インバウンドマーケティング関連のソフトウェアを開発・販売するHubSpotによれば、需要の高まりを受け、「マーケターの90%が、2023年のショート動画への投資を増やすか維持すると回答した」と報告しています。その結果、「多くのクリエイターが、こうした視聴者ニーズを満たすために、より短い形式の”つまみ食いできる”コンテンツで革新を試みている」とDyana Najdiは述べています。彼女は、Googleのヨーロッパ、中東、アフリカにおける動画とディスプレイ広告のマネージングディレクターであり、Nikeと同様に「彼らも大きな成功を収めている」と話します。

「わずか10秒~60秒の広告枠では、前振りも、ストーリーを彩る文脈も要りません…ショートビデオは、いきなりアクションから始めればよいのです。」(Dyana Najdi)

それがまさにスポーツウェアの巨人たるNikeが行っていることで、彼らはある話題から別の話題へとジャンプしながら、世界中のファンを15秒で楽しませ、インスピレーションと学びを与えるべく努力しています。かといって、この分野で成功しているのは、Nikeのような大手ブランドだけではありません。国際的なフィットネスブランドのLes Millsも、会員を増やすための施策として、YouTubeショートで同様の成功を収めています。

その成功を掴むために、Les Millsのクリエイティブチームは縦型ショート動画に賭けたわけですが、実はそれらは、既存のSNS向けコンテンツを巧みに再利用して制作されたものでした。デジタルマーケティングトレンドなどを掲載しているThink With Googleによれば、結果的に「コストを抑えつつCTR(クリック率)が52%も増加し、キャンペーンは期待を超えたものとなった」とのこと。そして、「CPA(顧客獲得単価)は10%減少し、CPM(インプレッション単価)も16%減少した」と報告されています。

「縦型動画を取り入れたことで、多様な視聴スタイルに対応し、より多くの視聴者にリーチできるようになりました。結果として、私たちと一緒にワークアウトをする人を増やすことにつながったのです。」(Les Mills Marketing Manager Michael Fitzpatrick)

「The Last of Us」のインタラクティブコンテンツで魅せるHBO

 
 
 
 
 
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アメリカのケーブルテレビ局・HBOの今年の大ヒットドラマシリーズ「The Last of Us」が、突如として生まれたように思えたなら、あなたはゲーマーではないでしょう。

このシリーズの初回エピソードを盛り上げるため、番組のマーケティング担当者たちは全力を尽くして取り組みました。公開までの数週間、HBOは、このドラマに命を吹き込んで新たな視聴者を獲得するために、チケットが完売するような人気イベントや先行上映会、その他の没入型体験イベントを多数開催しました。

しかし、この作品の最初のティザー映像が公開されたのは、実は遡ること2年前のことでした。

HBOのマーケティングVPであるEmily Giannusaは、「キャンペーンを開始するにあたって、まずゲームのファンコミュニティからの信頼を得る必要がありました」と明かしています。彼らは、このドラマシリーズの元になったサバイバルアクションゲーム「The Last of Us」の開発者と提携し、2021年に関係者向けのプレビューを公開。その後、このドラマシリーズが「The Last of Us」から派生したものであるとゲーマーたちが認識できるような、ファーストシーズンのクリップや静止画などのティーザーコンテンツを追加公開していきました。

「私たちはそれを『パンくず的コンテンツ』と呼んでいました。つまり、原作に忠実でありながら、HBOの質を保ったドラマシリーズであるとファンに認識してもらうための手がかりを提供していく、ということです。常に、データとオーディエンスとインサイトに耳を傾けるべきです」とGiannusaは話します。

HBOが出した結果を見る限り、マーケティングチームは消費者コミュニティを慎重に扱うという点において、正しいアプローチで臨んだと言えるでしょう。最初に公開された予告編は、公開72時間で5700万回以上のオーガニックな視聴回数を記録し、HBOの歴史上最も視聴されたプロモーションビデオにもなりました。Giunnusaは、この成果はデータ分析の功績だとしています。「私たちが1年前から助走を始めて、ドラマに関連するコンテンツや体験を特定のオーディエンスに届けることができ、それらがファンに語りかけるという流れを作り出せたことは、本当に幸運でした。」

この事例から学ぶべきは、ドラマの元になったゲームのファンコミュニティと良好な関係を築いたことで、ファンがドラマの人気を支える役割を果たしたということです。具体的には、ドラマ関連のオンラインコンテンツやバーチャルイベントにファンを誘導し、そこで再現されているゲームの最も象徴的なシーンや、ゲームに登場するマッシュルームゾンビを写真に収めて、直接あるいはSNSを介してシェアできるようにしました。そして、SnapchatのAR写真やTikTokでのシェアも積極的に促してドラマの認知度を高め、ターゲット層の好奇心を刺激することに成功したのです。



元記事「The Story So Far: 4 of the Best Content Marketing Campaigns of 2023」は2023年5月17日にspringboardに掲載されました。

この記事は、IndustryDiveのパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。  

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