写真で世界をカラフルに! フォトグラファー・AKANE:Creators for Society⑨

AKANE, amana photographer.

アマナには100名を超えるクリエイターが在籍しています。プランナー、フォトグラファー、ビデオグラファー、エディター、CGクリエイターなどさまざまな領域を担い、日々の仕事の中で企業や社会の課題に対してそのクリエイティビティを生かし、解決の道を模索しているのです。この連載では、アマナのクリエイターが1人ずつ登場。社会課題を解決するためにどのように動き、何を発信しようとしているのか、そのプロセスと思いを紹介します。
 
第9回に登場するのは、写真を通して世界の多様性と美しさを伝えるフォトグラファー・AKANEです。ポップでカラフルな作風で、見る人を明るい気持ちにさせるビジュアル制作が得意。幼少期は中国、大学時代をアメリカで過ごしたからこそ抱く問題意識は何か、フォトグラファーとして思っていることを聞きました。

写真は世界へつながる「どこでもドア」

――AKANEさんは「食」の写真を通じてさまざまな文化背景を表現するのが得意ですが、写真との出合いを聞かせてください。
 
AKANE:元々はジャーナリズムに興味があって、雑誌『NATIONAL GEOGRAPHIC MAGAZINE(ナショナルジオグラフィック)』を手にしたのがきっかけです。そこには大自然の雄大さや生き物、各地の文化などが紹介されていて、世界中の写真家が撮影した見たことのない美しい写真が多く掲載されていました。誌面いっぱいに広がった南極の写真が目に飛び込んできた時は、まるで私もそこにいるかのような感覚になったほど。写真で疑似体験できるなんて!と、すっかり夢中になりました。

AKANE, amana photographer.
AKANE
長野県生まれ。小学校から高校までの間、香港・深圳(中国)で過ごす。大学入学を機に渡米。Columbus College of Art & Design を卒業後、食の専門スタジオ・ヒュー(現アマナ)に入社する。
自身のサードカルチャーキッドとしての経験を生かし、文化と歴史があふれる、ありとあらゆるものをミックスしたエキセントリックで夢心地な世界を得意とする。常識に問わられない、ワクワクが詰まったポップなビジュアルを常に妄想している。

――自分の知らない世界と初めて触れた、そのような感覚ですね。

AKANE:世界で起こっている環境問題について意識し始めたのもこの頃です。当時は深圳(しんせん)のインターナショナルスクールに通学していましたが、そこでは通常の学科のほかに地球温暖化による動物たちへの影響についての授業などもありました。同級生には、かつては戦争で敵同士だった国の人たちもいて、ディスカッションの際にはお互いに相手を理解する努力が必要だったことも。

そうした中で学んでいたこともあって、「もっと世の中を知りたい」という気持ちが強くなり、『ナショナルジオグラフィック』により一層ハマりました。写真は世界への窓でもあるし、いろいろな表現ができる、そこに自分の軸があるのではないかと感じました。この瞬間に、写真というものが私にとっては「どこでもドア」のような存在になったのです。
 
――アマナには、「食」の撮影を得意とするヒューに入社しました。なぜ「食」を選択したのでしょう?
 
AKANE:「食」は、世界の共通言語だと感じた経験があったからです。

高校を卒業と共に、住んでいた深圳から単身でアメリカに渡ったのですが、文化も食べ物もまったく異なる土地での暮らしは、英語を話せても想像以上にハードで、ホームシックになってしまいました。そんな時、アジア料理の情報交換をする友達ができ、そこから人間関係の輪が広がっていったのです。おいしいものを分かち合うだけで心がつながるんだということがわかり、その中心となる「食」の撮影を深めてみたくなりました。

Work photographed by AKANE

Work photographed by AKANE

Work photographed by AKANE
AKANEの作品より。

日本とアメリカでの表現の違い

――「食」に対する原体験が現在につながっているんですね。
 
AKANE:大学時代はアート写真制作にも意欲的だったので、「アメリカの糖分過剰摂取」をテーマに長期に及んで作品制作をしていました。というのも、私が過ごしていた地方都市は太っている人が多いのに、ニューヨークだと街行く人が皆、スリムな体型。どうしてこんなに差が出るのか疑問に思ったのがきっかけでした。深掘りしていくと、社会的不平等、医療アクセスの問題、経済格差と貧困の拡大などが背景にあることがわかったのです。

「食」というテーマを追いかけていたら、それは社会の課題を反映していました。これは忘れられない経験です。

AKANE, amana photographer.

――日本での「食」の写真表現は、アメリカとどのように違いますか?
 
AKANE:日本の「食」写真は、職人のこだわりが凝縮されています。おいしさの表現として用いられる「箸上げ」はアメリカではあまり広告で使いません。スプーンですくったスープの中のクルトンの向きを1mm単位で調整するという、1カットの表現を突き詰める作業は日本独特だと思います。

それと比べると、アメリカのビジュアルは日本の方には雑に感じるかもしれません。派手なアプローチや飾り付けが一般的で、レタッチし過ぎておいしく見えなかったり、テーブルの上にパンくずがこぼれたままになっていたり。それにビールの泡は、日本では「なめらか」「きめ細かい」といろいろなこだわりがありますが、アメリカやヨーロッパは瓶ビールが主流で、グラスに注ぐことも一般的ではなく、泡の美しさ・おいしさはそれほど重視されない印象。

ほかにもアメリカの場合は雰囲気を伝える写真が多くて、ストーリーを感じさせるものが主流になっていると思います。多少、テーブルの上に何かこぼれていても、それが雰囲気の表現になるならOK。それって、多様な民族が住んでいるから、言葉がなくても通じることを優先させるという、コミュニケーションの質が違うのかもしれませんね。

日本の場合は、シンプルで形式的なスタイルを好みます。清潔感があるのはもちろんのこと、「箸上げ」や泡シズルのように料理の細部や質感を重視するのが日本流。この違いに気づいたことで、文化や視覚的好みの違いを学ぶことができたのは大きかったですし、自分が「おいしい」と思うポイントを見つけてこだわりを出す技術を習得できたと思います。

Differences between Japanese and American sizzle photography.

(左)AKANEが撮影した、日本バージョンのシズル。食べかけの餃子、ビールの泡、スープに浮いたネギや油、チャーハンの具材の向きなど、細部と質感にこだわっています。
(右)こちらはアメリカバージョン。AKANEが担当した、Taste of AMERICA 2024のキービジュアルです。「アメリカ食文化と出会う 風味豊かな冒険」をテーマに、アメリカの食材に囲まれた森の中を女性が歩いているシーンをビジュアル化。食材でアメリカの風景を演出し、食文化への理解を深めるアウトプットにしました。

世界をカラフルにしたい!

――「食」の撮影に留まらず、静物やファッション系まで幅広く手がけていますが、撮影を通してどんなことをしたいと思っているのでしょうか。

AKANE:私が目指しているのは「世界をカラフルにすること」。つまり多様性や個性を尊重し、それぞれの違いを受け入れられるようになるといいなと考えています。

世界には本当にさまざまな文化や考え方があって、分かち合えない時ももちろんありますが、相手の一つを知ることでだけでも、多様性を尊重し合うことにつながると思うんです。この気持ちをクライアントワークでも表現したいと思っていて、企業の個性をいろいろな色で表して、世界をたくさんの色彩で満たせたら素敵じゃないですか。無知であることほど、恐ろしいことはないと思います。
 
伝統を重んじることによってブランディングが成り立っている企業もありますが、もっとビジュアルクリエイティブ思考になってもいいのではないかと考えていて。新たなものと融合することでブランド価値の向上に繋がるかもしれないし、クリエイターの考えが企業にも浸透していくと、よりよい社会になるのでは。そういう時の自分流の表現が「カラフル」なんです。

AKANE, amana photographer.


 ――最近では、ビジュアルディレクションにも挑戦されていますね。

AKANE:フォトグラファーはビジュアル制作の過程では最後に担当するイメージですが、それよりも前の段階から携わりたかったし、きっと自分のスキルが生きるだろうなと思っていました。

企業から「こんなことを伝えたい」と言われたことを受け、広く情報収集をして写真というビジュアルに落とし込むことができるのは、理論的に考えられるタイプでないとできません。社内でディレクションを担当する部署へ自主異動したことで、自分にそれができるんだと発見できたし、絵作りも楽しかったです。これからもちゃんと課題に向き合えるように、企業との付き合いを長くしてブランドに関わっていきたいですね。

Work photographed by AKANE
ビジュアルディレクションに初挑戦だった、TILESのキービジュアル制作。

Work photographed by AKANE
こちらもディレクションを担当した、国際ガールズ・デー2021のキービジュアル「THINK FOR GIRLS」。

カラフルなAKANEワールドを目指して

――今後はどのようなジャンルで活躍していきたいと考えていますか。
 
AKANE:私はキュートでワクワクする絵を作っていきたいので、そういった方向で展開している店舗のSNSマーケティングのサポートとなるビジュアル制作をしたり、展示をしたりと、もっと幅を広げたりできればと思います。
 
私の強みは何と言ってもサードカルチャーで育ってきたアイデンティティ。海外で過ごした経験があるから、日本の物事に対して客観的な目線を持って考えることができると思います。以前だったら、たとえば「男の子は青、女の子はピンク」のような固定観念みたいなものがあって、でもそんな境界線は引かないで誰が何色を身に着けてもいい、だって世界はカラフルなんだから!という気持ちを持ち続けたいです。

AKANE, amana photographer.

――いろいろな色があるAKANEワールド、楽しみですね。

AKANE:私自身は他の人と常識がずれていると感じていて、意味のわからない組み合わせをあえて作ったり、わざと「良し」とされないのを表現したり、とにかく今までの概念を壊したいという気持ちが働きます。色を使う時も今までにない組み合わせにしるので、本能的に常識と言われるものを壊したいといつも思っていたかもしれません。作品はそうやって作ってきたし、これからも「常識的なこだわり」みたいなものを崩していけたらと思います。

そのうえで、ファッションとか食とかジャンルを問わず、まるっとAKANEで担当して、自分のありのままを反映できる表現を追求していきたいです。

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取材・文:濱田まり子
編集:大橋智子
撮影:瀬沼苑子(アマナ)
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