CADからCGへ、ポイントは情報とデータの整理整頓。CGクリエイター・鵜飼美生:Creators for Society⑥

Interviews with CG creators.

アマナには200人を超えるクリエイターが在籍しています。プランナー、フォトグラファー、ビデオグラファー、エディター、CGクリエイターなどさまざまな領域を担い、日々の仕事の中で企業や社会の課題に対してそのクリエイティビティを生かし、解決の道を模索しているのです。この連載では、アマナのクリエイターが1人ずつ登場。社会課題を解決するためにどのように動き、何を発信しようとしているのか、そのプロセスと思いを紹介します。

第6回に登場するのは、アマナのCGIアセットセクションでCGクリエイターとして活躍中の鵜飼美生(以下、鵜飼/うがい)です。CADデータを活用した3DCGの制作プロジェクトに携わりながらも、鵜飼の主業務は、アウトプットとなる3DCG制作の現場とは少し異なるところにあります。ひと言で表せば、それは「整理整頓」。プロジェクトにおける彼女の整理整頓の重要性や意義について聞きました。

Interviews with CG creators.
鵜飼美生|Mio Ugai
株式会社アマナ/CAD-CGIディレクター。自動車メーカーの子会社にて、DTPで車のカタログなどの制作を担当。 CADと3DCGを勉強した後、2006年にアマナに入社。 自動車の3DCG制作を担当し、3D-CADデータから3DCGデータを制作する技術の開発に携わる。 2010年よりさまざまなプロダクトのCGIマネジメント(情報整理や品質管理、進行管理)を経て、 現在は3D-CADデータを3DCG制作用のデータにコンバートするCGI Asset Sec.マネジャー。

自分の特性が、整理整頓の部分にあると知る

——3DCGやCADに関わることになった経緯を教えてください

鵜飼:自動車メーカーのインハウスのスタジオで、カタログやパンフレットを作るDTPを担当していたのですが、立体をやりたいという思いがあり、それが身近なところでできるのが3D-CADだったのです。身内が建築関係の仕事に就いていた影響で、図面や設計を見るのが好きだったこともあり、CADの勉強にはまったく抵抗はありませんでした。ある時、デザイン関係の方からCGのお話を聞く機会があり、CADからCGへという方向がぼんやり見えたことで、東京に出てきてCGも勉強して……というのが経緯です。
写真と見間違えるくらいのレベル、いわゆるフォトクオリティのCGをやってみたいという希望でアマナに入社したのですが、ちょうどCADからCGを作るというまだプロジェクト段階のチームに入ることになり、どうやったらCADから軽くてきれいなCGデータが作れるのか、というようなことを模索していました。

——チームではどのようなことを担当されていたのですか?

鵜飼:フォトクオリティのアウトプットを作ることを目指していましたが、そのためにはCADデータからCGを生成するためのセットアップがすごく重要だということに気がつきました。たとえば、質感や色という、CADデータの周辺情報がなければ、製品を正しく表現するCGはできません。クライアント企業から、そういった必要な情報を不足なく集めたり、指示してもらったりというのはなかなか大変でした。
ただ、私はそういう情報を整理するのが意外と得意だったということもあって、だんだん情報収集と整理を担うようになりました。つまり、CGを作るのにこういう情報が必要ですという話をしながら、企業の方が苦労しないように、セットアップを効率良く行うという「準備」にあたる部分の担当ですね。また同時に、その整理した情報を使用して、制作したCGビジュアルの品質管理、進行管理も担当しています。

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眠っているデータを宝の山に変えられる役割が面白い

——「意外と得意」というのは、どんなところで感じたのでしょうか。

鵜飼:前職のDTPでは自分のデザインに対して自信がないというか、デザインについて根拠のある主張をすることがなかなかできませんでした。一方で、デザインに入る前の、情報を集める、整理するという工程が苦ではなかったし、まわりに手順を教えてくれる人がいなかったため、自分でやり方を工夫する必要があったのです。
アマナでも、ビジュアル制作を担当する周りの人々が活躍できるように、前段階の整理整頓を自分が行う、それでプロジェクトを効率良くスタートできるという部分が面白かったんですね。企業と直接やり取りをする立場でもあり、すごく密な会話をするポジションなのですが、そういうことも楽しい。企業側にも製品を作っている方、企画している方がいて、その方々の製品にかける思いを直接伺ったうえで、CG制作にその思いを取り込むことを意識できるので、やりがいも感じています。裏方ではありますが、とても重要な役割だと考えています。

——「整理整頓」という重要な仕事を進める中では、どこに課題があると感じていますか。

鵜飼:企業側の担当者はマーケティング部門の方が多いのですが、私たちが必要とする情報は設計やデザインの部門の方が持っていることが多い。ですから、部門間での共有が不十分だと、担当者は「情報を集める」ことで苦労することになります。データのバージョン管理が不十分で、集めたはずのデータであっても後から最新版に差し替えるようなことも起こりやすいですし、担当者が異動して新しい担当者に最初から説明し直して……ということも起こります。
こういった課題をクリアして収集した情報が整理できるシステムがあると、お互いすごく幸せになるのではないかな、と考えています。

——そのようなシステムはあるんですか?

鵜飼:製品製造という観点では商品情報管理「PIM(Production Information Management)」という考え方があって、ツールも存在しています。CGI制作・利用に特化したPIMという考え方で、私たちは「CGI PIM」と呼んでいます。ただ、マーケティング部門がCADから3DCGを生成して、3DCGをさまざまに活用するという観点で「CGI PIM」を構築するようになるには、まだこれからになるのではないでしょうか。
CADを使ったCGのデータは、製造のプロセスで生まれたデータや情報を流用しながら作る必要があるものです。プロセスの中で何を集めればよいのかがわかれば、こういった情報収集もスムーズになります。必要な情報を、マーケティング部門の担当の方が「CGI PIM」に入力する、さらに設計・デザイン部門の方も「CGI PIM」へアクセスして、効率的にバージョン管理、入力を行う。これをDAM(デジタルアセットマネジメント)と組み合わせれば、制作物である3DCGについても、必要なシーンごとに必要なアウトプットを取りだして活用できるというような世界が実現します。

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「まだ実在しないもの」を表現するCGの強みとは

——実際に、CGが役に立つのはどのようなシーンでしょうか。

鵜飼:私の場合は「CADからCGへ」という部分を担当しているので、基本的には「製品のCG活用」をしているのですが、販促物を作る段階ではまだ製品そのものが実在していないということがよくあります。「まだ実在しないもの」を表現できるのは、CGの大きなポイントではないでしょうか。
また、CADデータ、CGデータが一度できていれば、ちょっとした仕様違いやマイナーチェンジはCGの一部を直すだけでアウトプットが作れるというのも利点ですよね。さらに、製品が大きすぎて撮影現場に搬送できないとか、逆に小さすぎて撮影で捉え切れないものは、CGだから可視化できるというメリットがあります。さらには、AR、VRなどの拡張現実や、リアルタイムCG、デジタルツインやメタバースといった分野では、そもそもCG化されていないと実現すらできません。

one-source multi-use

——なるほど、CGには使い勝手の良さがたくさんありますね。

鵜飼:実際の製品ではなくCGにしておくことで、その製品が存在する未来をたぐり寄せて描くことができたり、製品を外からだけでなく内側から見たりという視点の転換や距離の調節も自在になります。さらにシミュレーションなども含めて再利用性が高くなるし、デジタルツインやメタバースへの展開も可能になるなど、CG化のメリットはさまざまです。
加えて、製品だけではなく製品の置かれている空間もCG化することで、建て込みが不要になり廃材が出なくなる、つまり地球への優しさというサステナブルな面も大きなメリットになり得ます。

——製品が置かれた空間まで、イメージを広げることができると。

鵜飼:もちろん、まだまだアナログというか、CADデータがなくて図面はあるけど立体化のための図面ではない、というような企業や業界もあります。そういった分野のCG化はなかなか難しいですし、フォトクオリティという意味ではCGは、現時点では柔らかいものや自然物、人物や食べ物などが苦手という特性もあるので、それらのCG化というのはこれからの課題だと考えています。

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——近年のデジタル化は、CG制作にどのような影響がありましたか?

鵜飼:外出自粛によってデジタル化が加速したことを実感しています。まずデジタル化していないと何もできない、例えばバーチャル展示会のような形式が急に必要になったというのが最初の波で、アセット作りの相談が増えましたね。今はリアルイベントが復活したので少し落ち着いてきましたが、それでも製品のデジタルデータ化は加速し続けていると思います。
あとは、企業内でCG制作の内製化が進んでいるとも感じています。内製化によって「CADデータはあるけど、これをどうやってCGにすればいいのか」とか「制作前段階の整理整頓が必要だ」ということが顕在化しているようですが、アマナはさまざまな業界、さまざまな製品で「CADから3DCG」というプロジェクトを多数積み重ねてきている分、まさにそういった「整理整頓」の知見を持っているという意味で、企業の内製化への伴走もできると考えています。

取材・文:秋山龍(合同会社ありおり)
編集:大橋智子(アマナ)
撮影:広光(アン)
AD:中村圭佑
撮影協力:海岸スタジオ

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