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生成AIが話題の中、マーケターは不確かな動向に巻き込まれがちです。将来の見通しは明るいように見えますが、まず現状に目を向けることは誰にとってもメリットがあります。
マーケティングの本質を読み解きましょう。studioIDの戦略グループがお届けする定期コラム「The Deep End」をお見逃しなく。
今年初め、OpenAI社のCEOであるSam Altmanが、マーケター、代理店、クリエイターが現在行っている仕事の95%はAIにまもなく置き換わるだろうという大胆な発言をし、大きな話題を呼びました。Altmanの主張の多くが大胆であるものの、特にAIがマーケティングにおける人間の専門知識に完全に取って代わるという考えには、私は慎重な姿勢を取っています。
AIの可能性をめぐる美辞麗句と、その実用性を結び付けようとするたび、私は懐疑的な見方を強めています。この記事では、この革新的なテクノロジーをより現実的に評価し、マーケターがどのように対応できるかを提案したいと思います。組織によるAI活用という点では、完全な自動化はまだ程遠いことが分かるでしょう。
導入に関して言うと、出遅れた人にとっての朗報は、あなたはまだ取り残されてはいないということです。私AIを用いた派手な取り組みもありますが、AIのマーケティング現場への統合はせいぜい断片的なものに留まっています。多くのマーケターはAIの導入にプレッシャーを感じていますが、効果的な実装には課題が多く、この分野を先導する人間の専門知識が依然として必要であることが浮き彫りになっています。
studioIDの独自調査によると、マーケターは今年、AIや自動化ツールやトレーニングへの支出を46%増やす予定だといいます。しかし、こうした投資とは裏腹に、組織はAIの実践的な導入に苦戦しています。
HubSpotによると、2022年から2023年の間で企業におけるAI導入率は2倍以上になっているといいます(2017年当初の導入率から250%増という驚異的な伸び)。しかし膨大な導入数とは裏腹に、深刻なスキルギャップが生じています。
Salesforceの調査では、マーケターの39%が生成AIを安全かつ効果的に利用するノウハウが不足しており、43%はその価値を最大限引き出すのに苦労しています。
さらにさまざまな調査を詳しく見ることで、共通の見解が見えてきます。
・BCGによれば、経営幹部の66%がAIや生成AIの進展に対して懐疑的あるいは不満を抱いている。
・同様に、2024年のAccentureの調査でも、Cスイート(「最高〜責任者」とつく役職者)のうち組織が生成AIを拡充する準備ができていると回答しているのは、27%にすぎないことが示された。
・Wavestoneの2024年データ「AIリーダーシップ調査」によると、生成AIを本格的に実装している幹部はわずか5%である。また、生成AIの導入ができる人材がいると答えたのは半数しかいない。
2024年3月、AIを大々的に宣伝してきた巨大テック企業が静かに後退し始めていると、The Informationが報じたのも不思議ではありません。AIの可能性に対する信念と、実際のマーケティング現場での活用との間にはギャップが広がっています。
AIは効率性と革新性をもたらしますが、実際には不十分なことが多く、ほとんどがありきたりで無機質なコンテンツとなってしまいます。
質の高さに関して、生成AIが底上げするのは天井ではなく床であるということを私たちは忘れてはなりません。
この背景には、AIのアルゴリズムの学習データにより、効率性と一貫性の達成に注力するテック企業の思惑があります。多様なコンテンツで訓練されたAIは、高品質のニュアンスを再現するのに苦戦しているかもしれません。画一性を重視するあまり、習熟度は高いものの創造性に欠けるコンテンツができあがる可能性があります。そのため、AIは品質を底上げし、均等な足場を与えてくれるかもしれませんが、卓越した創造性と洞察力の天井には届かないことがよくあります。
そもそも、なぜ人間のプロフェッショナルはこれほどにも価値があるのかを思い出すところから始めましょう。
・人間のプロフェッショナルは、自分の専門分野について完全にオリジナルで明確な視点を持ち、柔軟に対応できる。それは、彼ら自身のユニークな個性によってダイナミックに色付けされたものである。
・彼らが提供する情報は、長年の現場経験やニュアンスに基づいている。
生成AIがこれと同じレベルの賢さや表現力を獲得しようと競っている今、私たちはどこが的外れなのかを検証しなければなりません。
Boston Consulting Groupの調査によれば、GPT-4のひとつの大きな懸念は「クリエティビティ・トラップ」と呼ばれるものだといいます。調査では以下が明らかになっています。
GPT-4を使う個人はパフォーマンスの向上を経験するかもしれませんが、集団としては創造性やアイディアの多様性を失うことになります。
この問題は、GPT-4が同じタイプの質問に対して似たような回答をする能力に長けていることに起因しています。
実際、新製品のアイディアのブレインストーミングにGPT-4を活用した際、活用しなかった場合に比べて多様なアイディアが41%減少したという研究結果があります。
さらにFoundation社の調査では、回答者の大多数は、人間が作成したコンテンツに比べ、AIが記述したコンテンツにそれほど好印象を抱いていないことが示唆されています。
AIが記述したコンテンツの方が、人間が作成したコンテンツよりも優れていると考えているのはごく少数で、全体の約11%です。
見分けがつかない、検索用に作られたコンテンツの問題はすでにGoogleが対策を講じるほどに検索エンジンを詰まらせています。最近のリリースでGoogleは、AIが生成したスパムコンテンツを排除し、ペナルティを課すと発表しました。これでは、初期のSEO対策におけるキーワード詰め込み時代の繰り返しです。夏にリリースされるとアメリカで噂されているChatGPT-5ではこうした問題のいくつかに取り組むかもしれませんが、すべて解決されるかどうかは疑わしいです。
🔍 関連コンテンツ(英語):How Google’s AI Search Will Change Marketing Strategy
AIがアシストしたコンテンツを非難する記事がある一方で、AIが生成したコンテンツは人間が生成したものと同じくらい優れていると語る記事もあります。しかし、知ってのとおり、「良いもの」というのは主観的であり、良いものを評価するために不可欠なスキルを誰もが持っているわけではありません。
ダニング=クルーガー効果に従えば、知識の乏しい人はコンテンツの質を過大評価する可能性があります。反対に知識の豊富な人は真の価値を認識することに長けているが、造詣が深いゆえに、より批判的になる可能性もあります。
これはすべて、AIによる作業であることを見抜くことができる前提の話です。PC Magに引用されたTooltesterの最近の調査によると、回答者の半数以上(53.1%)がChatGPT-3.5で作られたテキストは人間が書いたもののようだと考えていました。GPT-4では、その数が63.5%にまで上昇しています(下図)。このことから、有料版のChatGPTで使用されているGPT-4は、旧バージョンのGPT-3.5と比較して、少なくとも10.4%はリアルに見えるコンテンツを作るのが得意であることがわかります。
出典:PCMag
前述したTooltesterの調査では、読者の大多数(71.3%)が、ChatGPTやAIが生成したコンテンツをユーザーに知らせずに使用した場合、ブランドに対する信頼を失うと回答しました。
この点については今後も検証が必要ですが、さらなる懸念は、生成AIによるコンテンツが「信頼できるものなのか」という点です。
AIが生成したコンテンツが世に送り出される前にそのチェックを怠ると、おかしなコンテンツが生まれてしまうというFuturismの記事から、課題が浮かび上がってきました。
さらに不安なのは、ChatGPTの「幻覚」(AI用語で「捏造」の意)が常態化している点です。ChatGPTのようなAIは人を喜ばせたがり、事実でないことを捏造したがることが多いのです。
画像訳:
「4番目の単語が “y “で始まるような文章を作ることはできますか?」
「はい、4番目の単語が “y “で始まる文を作ることはできます。例えば、”Yesterday I went to the store and bought some yellow flowers.”(昨日私は店に行き、黄色い花を買った)。この文の4番目の単語は “went “で、”y “で始まります。」
もし人間のプロフェッショナルが誤った情報を強く主張したとしたら、どうでしょうか。このような失態は笑い話になることも多いでしょう。つまりこれは、誤った情報を急速に広めてしまうAIの恐るべきポテンシャルを物語っています。こうした状況は、AIが生成したコンテンツの信頼性を保証する本物のプロフェッショナルの必要性を際立たせるばかりです。
AIは文脈やニュアンスを本当の意味で理解すること(これは人間特有の能力である)ができないため、AIの時代に突入すればするほど、ハードルは高くなっていくでしょう。さらに、ひどい偏見、倫理的配慮、透明性の欠如の問題も根強く残っています。信頼性や、信憑性そして知的財産(IP)は、Sports Illustrated誌のゴーストライターや、ディズニーと感謝祭のAI画像の論争、CNETのコンテンツ自動化実験の失敗といった最近の論争に見られるように、ますます注目されるトピックです。
生成AIがもたらす最大のメリットは、時間の節約です。人間のプロフェッショナルならおそらく1週間かかる記事の下書きは、AIならほんの数秒で完成してしまう…なんて話もあります。しかし、マーケティングにおける生成AIは、何かを入力すれば、すぐに世に送り出せるものができるというような使い方はできません。むしろ、手間のかかる一進一退の共同作業と、それを導くプロフェッショナルを必要とします。
現時点では、以下の状況にあります。
・第一に、始めたばかりの人たちは初歩的なプロンプト(詳細な指示やガイドラインなしでAIに基本的な質問を与えること)を使用しており、その結果としてごく一般的なコンテンツを生成AIから得ている。
・第二に、プロンプトエンジニアリングに長けた人たちがいる。彼らすでに、インプットとアウトプットが二律背反の関係にあること、そして相応しいものを生み出すために生成AIをガイドするスキルが必要なことに気づき始めている。
以下は、よくある課題かもしれません:
・特定のオーディエンス、アセット、目標のために完璧なプロンプトを作ろうと時間を費やす。
・そのプロンプトをChatGPTに送り、イマイチな結果を得て編集を加える。ChatGPTに何度かフォローアッププロンプトを送り、精度を上げる。
・中途半端なものを手に入れ、アウトプットの事実確認と校正に時間を費やす。
そうして出来上がったのは、面白みに欠けた、いかにもロボットが送ったようなお粗末なコンテンツ。ひょっとしたら、自分で書いた方が時間を節約でき、より良い仕上がりだったかもしれません。多くのマーケターやクリエイターがこうしたAI特有の問題に直面しているようです。
このやり方には大きな矛盾があります。コンテンツを素早く生み出すスキルは、高性能なスポーツカーのエンジンを手にするようなものですが、現実にはこのようなコンテンツの多くは、内容や質、正確さに欠けています。制作スピードが速いにもかかわらず、ユーザーの興味を引けなかったり、強烈なインパクトを残せなかったりします。
これは重要な問題で、ブランドやマーケターとしての信用を脅かすものです。ユーザーは大量のコンテンツを受け取りますが、それらをふるいにかけ、本当に価値あるものを探し出すことがますます困難になっています。これは生成AIが登場する以前からの問題だったので、OpenAIにすべての責任を負わせることはできません。とはいえ、OpenAIはこの問題を10倍に増幅させているのです。
時間的余裕がなく、窮地に追い込まれたマーケティングチームは、ROIのプレッシャーや短期的な成果から抜け出す方法として、生成AIツールに目を向けていますが…
生成AIは生産性や効率性を向上させ、さらに多くのコンテンツを大量生産できると錯覚させていますが、実際は質の低い結果を生み出しています。
プロンプトエンジニアリングに精通していない人にとっては、従来の制作方法よりも時間がかかり、フラストレーションがたまることも少なくありません。
🤖 関連コンテンツ(英語):Editing ChatGPT Outputs: 4 Essential Tips and Prompt Approaches
New York Timesの記事にあるように、AIのプロフェッショナルの例は存在しますが、AIの不正確さが圧倒的に上回っています。学術界では、研究をAIに頼った生徒が窮地に立たされることがありました。AIが提供した情報源はまったくのでっち上げだったのです。
専門知識とは、幅広い経験、継続的な学習、あらゆる状況への対応を通じて培われた特定領域における深い知識と理解を指すものです。
人間のプロフェッショナルは個々の説明責任を通して自身を際立たせていますが、これは生成AIツールに不足している特性です。生成AIに相談した結果が間違いだった場合、あなたは誰を責めますか?
信頼できるコンテンツはユーザーを満足させるだけでなく、確固たる評価を築きます。Googleの新しい生成AIによる検索体験(SGE)は、検索結果を高品質なものにすることで、Googleが市場シェアを守ろうと継続的に力を入れていることを示唆しています。人間のプロフェッショナルが今でも評価されていることは心強いことであり、そして、AIは適切に活用すれば味方になってくれるのです。私たちはテストと学習の段階を受け入れ、生成AIの多くの限界を理解したうえで、いつ、どこで生成AIを頼りにするのかを見極め始める必要があります。
MIT Sloanの研究では、AI時代のコンテンツを「AIによるアシストなし」から「AIのみ」まで分類したフレームワークを提示しています(下図参照)。この研究では、人々はAIによって生み出されたコンテンツを概ね受け入れていますが、そのプロセスにおける人間の関与を重視していることが明らかになりました。これはコンテンツ制作において、AIの自動化と人間によるインプットの間で取るべきバランスがあることを示唆しています。
博士研究員(ポストドクター)のYunhao Zhangが記事の中で述べているように、「人間がどこかで関与していること、つまり彼らの痕跡が存在していると知ることには大きなメリットがあります。企業は完全に自動化しようとするべきではありません」。
出典:MIT Management Sloan School
AIの領域において、マーケターは圧倒的に優位な立場にあります。生まれ持った経験とスキルセットによってAIを効果的に活用することができます。ブランドのクリエイティブブリーフを練る際の複雑なプロセスを考えてみてください。この作業には、業界のニュアンスやオーディエンスの心理、企業のブランドアイデンティティに対する深い理解が求められます。AIを効果的に活用する上で極めて重要なプロンプトエンジニアリングが必要不可欠なのです。
AI活用の徹底的な見直しを提唱しているわけではありませんが、マーケターとして、このテクノロジーと関わらないことは非現実的だと考えます。むしろ、懐疑心と警戒心を持ち続け、実践的な応用を進めながら、AIの発展とインパクトに対して常に慎重な姿勢でアンテナを張っておくことをおすすめします。
ここで、生成AIと協働するための私たちのチームの指針を紹介します。
それでは、AIを活用しようとするコンテンツ制作チームが次にやるべきことは何でしょうか。私たちのチームで見えてきたのは、生成AIは次の5つの方法でマーケターをサポートできるということです。
・創造性を加速させる
・スケーリング分析
・効率的な編集
・面倒なタスクの自動化
・配信の効率化
私のアドバイスとしては、研究室の科学者のように実験をし続けることです。常に広い視野を持ち、エビデンスに基づいて自分の見解を調整することを心がけましょう。
生成AIの良し悪しは、プロンプトの裏にいる人間によって決まることを忘れないでください。
AIのコンテンツ作成ツールは進化し続けており、より厳しい著作権法の施行が予想されます。イタリアの一時的なChatGPT禁止や、EUで最近施行されたAI法(この種の法律では初)のように、AI規制に対する世界的な状況は依然としてばらつきがあり、標準化されたガイドライン、ガバナンス、法的保護の必要性が浮き彫りになっています。
データの妥当性やプライバシー、その他の倫理的問題に対する懸念が今年の大きなテーマとなります。
さらに、企業がAIの倫理的配慮にますます取り組むようになるにつれ、公開GPTからデータを保護するのか、あるいは独自のソリューションを開発するのかにかかわらず、著作権、プライバシー、偏見といった問題への関心が高まるでしょう。
コンテンツマーケティングの領域では、AIツールはコンテンツ制作、最適化、配信において極めて重要な役割を果たすと考えられており、スピードと実用性の向上が見込まれています。しかし、AIがより低品質のコンテンツを生成する可能性があるため、情報源に対する信頼の重要性が強調されています。
では、ここまでの話から得られるものは何でしょうか。AIのポテンシャルはさておき、AIは人間の洞察力と創造性には及びません。AIがパターンを識別できる一方、人間のスキルは制作物を優れたものへと昇華することができます。実用的な意図を持ってAIを活用することが鍵となります。私たちがまだまだ「発展途上」であることを理解することで、ほどよくガス抜きをし、心を失うことなくテクノロジーの探求に臨めるでしょう。
この記事は、SpringboardのLieu Phamが執筆し、Industry DiveがDiveMarketplaceを通じてライセンスを取得したものです。ライセンスに関するお問い合わせはlegal@industrydive.comまでお願いいたします。
元記事「Is Gen AI Marketing Delivering on Expectations? 」は2024年4月23日にstudioID’s insights blog – springboardに掲載されました。
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