生成AIの近未来とビジネスへのインパクト:成功への道筋とは?

Ryo Komura, Deputy Secretary General of the Generative AI Utilization Promotion Association

ChatGPTをはじめ、さまざまな生成AIツールやアプリが続々と登場しています。アップデートにより精度があがり、業務に採り入れる企業が増えてきました。社会とビジネスにおいて大きな変革が期待される一方で、セキュリティ対策やリスク管理に関する課題もつきまといます。生成AIの浸透により社会そしてビジネスはどのような方向に進むのか、生成AIをどう扱えばいいのか悩む企業も多いことでしょう。

今回は、一般社団法人生成AI活用普及協会の事務局次長である小村亮(こむら・りょう)さんに、生成AIの現在地・課題・将来像についてうかがいました。

生成AIの現在地:生成AI活用普及協会とは?

—生成AIに関するニュースを目にしない日がないくらい、社会に浸透していると感じます。一方で、その将来が見えにくく、どう判断していいか分かりにくい状況でもあるとも感じます。このような状況下で設立された「一般社団法人生成AI活用普及協会」の成り立ちや目的について教えてください。

Ryo Komura, Deputy Secretary General of the Generative AI Utilization Promotion Association

一般社団法人生成AI活用普及協会事務局次長の小村亮さん

小村亮さん(以下、小村。敬称略):生成AI活用普及協会(Association to Generalize Utilization of Generative AI)は略して「GUGA(グーガ)」と呼んでいただくことが多いのですが、2023年5月10日に設立した一般社団法人になります。設立当時を振り返ると「ChatGPT」をはじめ生成AIと呼ばれるサービス、ツールが「誰でも使えるらしい」「便利そうだ」というイメージから個人ユーザーを中心に広がっていった状況でした。

一方、生成AIというテクノロジーを日本社会の力に変えていく、産業の再構築を目指すという側面においては、企業における導入がポイントになるだろうと考えていました。とはいえ、なかなか実装が進まないのではないか、何から着手すればいいかわからないのではないか、という懸念もありました。そこで、一定の人材育成が必要だという考えのもと、生成AIに関する客観的な判断基準となる「資格試験」を切り口に一歩目を踏み出すために、一般社団法人を設立したのです。

Generative AI Utilization Promotion Association website

一般社団法人生成AI活用普及協会webサイトhttps://guga.or.jp/

資格試験「生成AIパスポート」の意図

―設立3ヶ月後の8月には資格試験である「生成AIパスポート」の公式テキストの販売をスタートされていますね。当初から準備されていたと思いますが、企業向けを意識されているのでしょうか。

小村:資格試験という特性上、資格は個人に対して発行するものです。しかし、本試験の内容はビジネスシーンにおいて生成AIを正しく、効果的に活用するために知っておかなければならないこと、つまりAIリテラシーに特化しています。例えば権利侵害や個人情報漏洩などがそれに当たりますね。そのような利便性の裏側にあるリスクに関わる部分の習得を促すことは、企業の生成AI活用において重要なアクションであり、欠かせない人材育成の観点だと考えています。

―生成AIパスポートはどのような人が取得することを意識しているのでしょう。

小村:これからの生成AIとの関わり方を考えると「つくる」より「使う」側面で関わる人のボリュームが大きくなるだろうと。そう捉えると、ビジネスパーソン全体を見れば大部分が生成AIに取り組み始めた段階、いわゆるAI初心者と定義できるでしょう。資格として一定の信頼性あるいは難易度の担保は必要ですが、取り組み始めた人たちが迷うことなく一歩目を踏み出せることを考え、ハードルを高くしすぎないことに留意しています。

―生成AIパスポートの取得を推進することで、誰もが生成AIを違和感なく使える未来を想定しているのでしょうか。スマートフォンを使うことが当たり前になったように。

小村:その通りです。生成AIがアシスタントとして人と共存していく社会となり、その中で使う頻度や用途は人によって様々になっていくと考えています。そして、企業の視点としては、産業の再構築が進む未来を描いています。特定のIT業界あるいはAI業界に閉じたものではなく、生成AIはすべての業界においてインパクトを与えうる存在だと考えています。あらゆる業務のオペレーションが一新されたり、新たなビジネスモデルや価値が創出されていくことを見据えて、我々は取り組んでいます。

A sample question from the AI ​​Passport Test (left) and a sample certificate (right). Both current as of August 2024.

生成AIパスポート試験の問題サンプル(左)と合格証書のサンプル(右)。ともに2024年8月現在。

社会人には生成AIを「学び直す」機会が必要

―生成AIパスポートの問題例には、使うこと以外の知識、例えばAIの歴史や専門用語に関する問題も見受けられるのはなぜでしょうか。

小村:歴史や専門用語を知っている人と知らない人の間では、コミュニケーションにかかる労力が大きくなり、スピードも遅くなります。知っている人と知らない人とでは、情報収集の精度や理解度、応用力も異なるでしょう。繰り返しになりますが、現在の社会人の多くはAI初心者であり、これまで生成AIについて学ぶ機会がありませんでした。今後、おそらく小中学生、高校生は授業の中で生成AIに触れる機会が増えていくでしょう。これから大人になる世代は流れるように学ぶ機会が与えられ、自然に生成AIを使うようになるわけです。

しかし、社会人になると、目の前の仕事に全力を尽くすがゆえに、今まで必要としてこなかった新しい分野は、意図的に「学び直す」機会がないと習得することができません。AIリテラシーはすべてのビジネスパーソンに求められる時代に突入しているので、ぜひ自発的に学んでいただきたいと考えています。

―生成AIに関する新しいサービスやツールは続々と登場し、変化していくと思います。資格試験の内容や資格の基準はどのようにアップデートされるのでしょうか。また、どのような課題が発生するとお考えでしょうか。

小村:GUGA設立当初からアップデートは想定していました。資格試験の合格者の方々にどのようにアプローチし、アップデートを図っていくかは、まさに検討している段階です。1年、2年後に社会の常識が変化し、学ぶべき内容も変わっている可能性は否めません。

例えばプロンプトエンジニアという職種が生まれましたが、将来はプロンプト自体をAIが生成することもあり得ます。現時点でプロンプトエンジニアは重要な存在ですが、その意味合いや必要とされる能力は変化していくでしょう。

しかし、スキルに比べてAIリテラシーについては、多少の変動性はありつつも、一定の普遍性を担保できる部分も多くあります。変化することが前提の社会では、「変わるかもしれない」ということを理由に足を止めている時間が、大きなビハインドにつながるように思います。

求められるのは「学び続けている人材」

―社会や企業における生成AIの活用促進について、今後の展望があれば教えてください。

小村:資格についてはオープンバッジ化を進めており、資格を誰が、いつ、どの段階で取得したのかという情報を、ブロックチェーン技術で改ざんできない環境に記録する準備を進めています。そして、その先に描いているのは、生成AI人材の可視化です。生成AIパスポートはAIリテラシーに特化し、必要な知識や心構えを習得しているかを可視化する役割を担っています。

さらにAIリテラシーに加え、スキルを可視化することも考えています。この2つを可視化することで、生成AI人材という存在をより解像度高く可視化できるのではないか、と。

―生成AI人材とは、どのような人材を指すのでしょうか。

小村:我々は「生成AI人材」=「生成AIを学び続けている人材」と暫定的に定義しています。プロンプトエンジニア、AIコンサルタントなど様々な職種の呼称がありますが、それらを包括する上位概念として生成AI人材を据え置くなら、それが「生成AIを学び続けている人材」になると捉えています。

将来的にはAIリテラシーやスキルに関する講座を整え、それを修了しAIリテラシーやスキルを身に付けたことを証明するオープンバッジを発行し、取得したバッジを一覧で表示する仕組みを考えています。生成AIに関する継続的な学びを、信頼性を担保して可視化することで、人材育成や評価につなげたいと思っています。学歴ではなく学習歴が重要になる時代を見据えての取り組みです。

Ryo Komura, Deputy Secretary General of the Generative AI Utilization Promotion Association

生成AIの浸透が加速することはあっても、後戻りはない

―生成AIの重要性は認識しているものの、なかなか踏み出せない企業もあると思います。その場合はどのようにアプローチされるのでしょう?

小村:まず国の動きから説明することが多いのですが、2023年4月に岸田内閣総理大臣の指示のもとAI戦略チームが組成され、動き始めました。5月に1回目のAI戦略会議が行われたのですが、約2週間後には2回目の会議が実施され、暫定的な論点整理が行われています。

これは異例とも言えるスピード感で、通常なら半年から1年間かけて行うことをわずか約2週間で進めたことになります。つまり、国は生成AIが社会や産業に与えるインパクトの大きさを認識しており、社会や産業が抱える課題を解決する有効な手段のひとつになると考えているのです。

―デジタルの分野では日本は欧米諸国に遅れをとっていると言われますが、生成AIで同じことは繰り返さないという意思の現れですね。

小村:生成AIの浸透が加速することはあっても、後戻りはないでしょう。国は今がゲームチェンジのときだと捉えていて、支援することで産業の活性化を促す考えです。このチャンスを掴むのか、逃すのか、企業がどう捉えるかではないでしょうか。

例えばこの先、AIアシスタント同士がコミュニケーションを行うシステムを取引先が採用していた場合、自社が対応できないとなれば、日常業務においても、新たな顧客獲得においても大きな損失になりかねません。さらに人材育成、確保の上でも遅れをとることになります。いかに早く次の一歩が踏み出せるか、それが企業、そして日本の将来を大きく左右するかもしれません。

Generative AI guidelines used at Amana Inc.

amanaの制作現場で使われている生成AIガイドライン

予測が難しく変化が著しい「VUCAの時代」と言われる現代ですが、生成AIがそれに拍車をかけることは間違いないでしょう。ますます予測が難しい時代だからこそ、「学び続けている人材」が求められると言えるでしょう。

アマナでも生成AIの実用化を進めており、クリエイティブ制作をサポートする役割として活用しています。2024年からは生成AIパスポートの取得が推奨され、すでに86名が資格を取得しました(2024年8月現在)。来る生成AI時代に向けて、さらに人材育成を進める予定です。

生成AIがビジネスに不可欠になる未来は、間違いなく近づいています。そこでは、人材育成がビジネスの成功を左右するキーになることは間違いないでしょう。

生成AI技術の活用を推進するためのアマナの取り組みや、社員の資格取得に関する最新情報については、こちらのプレスリリースで詳しくご紹介しています。全社員の17%が認定を取得し、AIを活用したクリエイティブな業務改善に向けた取り組みが進んでいます。

関連プレスリリース:株式会社アマナ、86名が「生成AI活用普及協会(GUGA)生成AIパスポート試験」に合格

取材・文:桑原勲
取材撮影:カクユウシ(アマナ)

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